第27.5話 勇者サイドストーリー その3
勇者サイドはクラスメイトの話です。今回から丸々1話書くことにしました。
勇者編の1つめは第3話、2つめは第19話に掲載されております。
※11/19誤字脱字と一部の修正をしました。
俺の名前は伊藤 秀馬。そして俺がいるのはとある学校の屋上で、今の時間は授業中なので当然そこには俺以外の姿は見えない。
「はぁ…」
俺は屋上の柵によりかかりながら空を仰いでため息をつく。空は今の俺の心情とは裏腹に気持ちの良いほど快晴だった。
耳を澄ませると微かに何かの爆発音のようなものが頻繁に聞こえる。
「ああ…Bクラスだったっけ?今日、戦闘実習があるって言ってたの…」
そうここは日本ではない。どこかはわからないが日本とは別の異世界だ。ラノベやアニメで見る剣と魔法のファンタジーな世界、現代科学に突出した地球というものとはすごくかけ離れた世界だ。そんな世界に俺達は転移させられ、すでに半年以上の時間が経過した。
確認できていない約1名を除いたクラス全員が転移させられた…理由は魔王を倒すためだ。急に今までの日常が消え去るという…とても王道的な展開だろ?俺も当然そう思ったさ。だが、この世界は俺達に理不尽なんてものとは程遠いとても優しい世界だった。
元の世界に帰還することを望むものは帰ることができたのだ。嘘だと思ったさ…でも実際、希望者は全員元の世界に帰ることができた。実はある約束をしていて無事に帰ることができたかを証明するために3ヶ月後に帰還したクラスメイトの1人を再度召喚する手筈になっていたのだ。
そうして3ヶ月後に再び召喚を行い、無事にクラスメイトの1人…だけじゃなかったのだが此方の世界に来ることができ、他の帰還者が無事であることを証明できたのだ。ちなみにその時わかったことがある…どうやらこの世界の時間の流れは地球の約5分の1らしいのだ。地球の世界で1日経過したとしたら此方の世界では5日経過するということがわかった。
話が少し逸れてしまったが…俺が此方の世界にいる理由は先程少し話した確認できていないクラスメイトの1人のためだ。俺達が召喚された時クラスメイトが1人足りなかった。けど俺達のことを召喚した奴が言うには数が1人足りないというのだ。確認できていないため分からないが…普通に考えて残りのクラスメイトだろう。
そのクラスメイトとというのが俺と小さい頃からずっと付き合いのある、言わば親友と言った関係にある存在なのだ。ならば俺が探さずに誰が探すというのだろうか?まぁ、実際は俺が探さずともアイツのことを探すと言った奴は何人もいるんだけどな…
アイツのことを探すのが嫌ってわけじゃない。むしろアイツのことを探さなければと率先して残ると決めたくらいだ。それにアイツといるとおもしろい、こんな
夢にまで見た異世界でアイツらと冒険するなんて楽しい予感しかしてこない。だから俺としてはとっとと見つけたいところなんだが…
「センヤ…お前一体どこに行けば見つけられたんだよ…」
俺が今いるのはこの世界最大最高の学校と言われるジョーダー学園、その屋上だ。俺は2週間くらい前からこの学園に入学することになった。
なぜ入学することになったのかというと…俺達を召喚した彼等にセンヤの捜索を協力してもらうこと、その協力を受けながら捜索に行くこと。期限は半年間でその半年の間に見つからなかった場合はこの学園に入学することを約束したからだ。理由はこの世界の知識、魔王の情報、戦闘の基本、その他もろもろを学ぶためだ。
そして結果は見ての通りセンヤを見つけることができずに入学することになった。
そんなことを考えていると屋上のドアが開き人が現れる。
「やっぱりサボってた…」
「白波…」
現れたのは同じクラスメイトの1人である白波だ。白波はそう言うと俺の隣にきて俺の様に柵によりかかる。
「サボった理由はこの学園に慣れないから…じゃないよね。ガチャのことでしょ?まだ悔やんでいるの…?」
白波はそう言いながら俺の方を見る。ガチャと言うのはセンヤのアダ名なので白波の予想は当たっているということになる。そのため俺は思わず苦笑してしまう。
「よくわかったな…」
「見てたらなんかね。アンタ、他の人達と会話する時とか何かやってる時…たまにチラッと横を見てる。まるで本来ならそこにいる人物を見るように、その人物がいることを望むようにね…それってガチャしかいないじゃない?だからね…あ、これ渡すの忘れてた
…はい」
そう言いながら白波が渡してきたのは缶コーヒーだった。俺達のいた日本では有名なエメラルドでマウンテンなコーヒーだ。もちろんここは異世界だ、普通は手に入れることができないものだが…クラスメイトの1人である中井の固有スキルがそれを可能にしている。
固有スキルとは通常のスキルとは異なり個人のみが習得しているスキルだ。職業限定で覚えられるスキルとも違い特別なもので所持している者も少ない。
だが、異世界転移の恩恵なのか俺達転移者は全員固有スキルを習得している。その性能はバラバラで戦闘向きのスキルから中井のようなサポート系?のスキルまである。
「ありがとよ…つーか中井にもバレてんのか…」
俺はタブを開け口へと運ぶ。苦味のある味が口の中へと広がる。
「それは多分気づいてない…私が2本頂戴って言ったら普通にくれたし」
白波もそう言うとコーヒーを口へと運ぶ。
つまり、ここにきたのは完全に白波の独断ってことか…
「中井も本当は戦闘向きのスキルが欲しかったみたいだけどな…」
「魔王討伐のために残ってたから…それでも割り切って現状を認めて自分の能力を活用するためそれでも残った…中井は良いやつ…それよりまだ答えを聞いてない…」
白波は俺を見る。話題を逸らすことはどうやらできないみたいだな…
俺は白波の意志の強さに苦笑しながら口を開く。
「やっぱ諦めろって方が無理なんだよ…」
俺がそう言うと白波は満足したのか俺から視線を外す。
「でも、直ぐに探しに行けないだけ…時間が経てばまた探しに行ける…それに…」
「わかってる…」
白波が言葉を続けようとするがその前に口を開く。白波の言いたいことがわかるからだ。
「俺がそれを望んだことも、望んだ結果今ここにいるのもわかってる。周りの人達が気を使って可能性を口にしないでくれていることも…わかってはいるんだ…」
俺がそう言うと白波は表情を暗くさせる。仕方のないことだと思う。何せ半年以上時間を費やしたんだ…その可能性を予想したって不思議じゃない。誰もが頭に浮かぶだろう…俺だって何度も頭を過ぎった。
誰もその言葉を口にしないのは希望に縋っているからか?今の関係が崩れることを恐れているからか?日に日に表情を暗くさせるやつがいる。委員長だからと皆を引っ張っていこうするやつが空元気で頑張っていることも知っている。そしてここに…現状に満足できず目を逸らしている馬鹿を…心配するためにわざわざ時間を浪費しているやつがいる…
「もう充分だ…」
俺はそうポツリと呟く。俺の呟きに白波は「?」と疑問を浮かべる。
俺達のこの関係はいつまで続くだろうか?正直に言って俺は甘い考えを抱いていた。
強制的な転移じゃなかった…自身の意志が尊重され望む者は帰ることができた。
3ヶ月後には転移ができた…入れ替わる形で特殊なものだったが、この世界と地球とがとても近いものに感じた。
ステータスが高かった…勇者が天職であり、それぞれ固有スキルを所持していてパラメーターの数値も一般の人より高く魔物が弱く思えた。
そしてなにより仲間がいた…これだけの人数がいるならと簡単に見つけることができると思っていた。
俺達は現状を見なければならない…現実を認めなければならない…その可能性を…考えなくてはならない…
だからこそ俺は口にする。
「センヤは…死んだのかもな…」
俺の言葉に普段あまり感情の変化を感じさせない表情をしている白波も驚愕だとわかるほどの表情をしていた。
その表情を見て俺はまた苦笑してしまう。
「その可能性も考えないといけない。それを認めないでいたら…今の関係はいずれなくなる…」
白波は顔を伏せる。何も言わない、言えないのは…それを理解しているからだろう。ただ、それでも何かを話さなければと小さく口を開くが最適な言葉を見つけられず閉じられる。
その表情はいつもと違い明らかにわかるほど苦渋な表情をしており、最適な言葉を模索している。
そんな白波を見て俺はコーヒーを口に入れる。
コーヒーの味は美味しく感じられなく、ただ苦味だけが口の中へと広がるだけだった…
今日中に本編の方も投稿できると思います。多分ですが、いずれ魔王サイドとかもやります。つーか書きたいです。




