第24話 対価の法則
誰がこの展開を予想していただろうか…
父さん、母さん、友人達、知り合いの方々…皆様お元気でしょうか?ある日突然異世界へとやってきた私ですが…この世界では皆様のことがわかりませんので心配です。え?私ですか?私のことなら安心してください…私はこちらの世界で元気に過ごさせていただいております。
さて、この世界にきてから半年以上過ぎたわけですが…今だに帰る方法や連絡の手段見つかっておりません…その為さすがに心配なさってる方もいるかなぁと思いこんなことを考えております。ええ、意味のないことだとはわかっています…それでも、そう思ってしまうほどに時間が過ぎてしまいました。でも安心してください…必ず元の世界へと帰ってみせます。
なぜなら…
「PCの見られたくないフォルダの処理とかしてないからなぁ…」
思春期の男子には隠すべき秘密というのがあるものだ。
「センヤ…急にどうしたのよ?」
「何て言ってるのかわからないよー」
「センヤさん…嬉しさのあまり壊れたんじゃ…?」
「確かに…やっとボーシュリクスへと帰れますからね…」
ん?何か心配されてるな俺。
「安心しろ、別にどこも壊れてねぇよ」
ウニ達に何か変な誤解をされそうだったのでキチンと答える。つーか壊れるって何だよ…壊れるんだったらとっくに壊れてるわ。
「でも実際の話、半年もダンジョンに潜るハメになると思わなかったよ。まぁ、それだけのスキルをセンヤが身につけたという事なんだけどね」
「少佐のスキルは強大だ…この世界で最強になれる力を持っている…」
「まぁ、あれはさすがに俺も想像してなかったからなぁ…」
ハハッと笑いながら話すジークことジークフリートといつものように淡々と話すスネークに俺は答える。
「クックック、よく成し遂げたと褒めてやろう」
「くそっ…元凶のくせに…」
いけしゃあしゃあとそう言うのは半年もの間ダンジョン内へと潜らせた元凶であるアビスだ。
「いくら睨んだところで時間は戻らぬ、いずれ支払うべきだった対価だと考えるがよい」
「…じゃあ、対価は支払ったんだしお前はこれから1人で生きていけよ?」
腕を組みながら自信満々に話す姿に若干イラっときたので俺はアビスにそう言うが…俺の言葉を聞いたとたんアビスは慌てて表情を変える。
「な…ま、待て!それはもう貴様の料理やスイーツが食べられないということか!?それは困る、それでは私は生きていけないぞ!!」
アビスは焦ったように俺に言ってくる。そう、ダンジョン内で一緒に過ごす中でコイツは俺の料理、特にスイーツ類のものにすっかりハマってしまったのだ。今でも毎日のようにプリンなどを要求してくるほどである。だからだろう、こんなにも焦ったような顔をしてるのは…
「お、お願いだぁ!我を!我を見捨てないでおくれぇぇ!!我の言い方が悪かったぁ!だからお願いだぁ!我を捨てないでおくれぇぇ!!」
アビスは少し泣きながら俺の体にしがみついて懇願してくる。
「ああもう泣くなよ、わかった捨てない!捨てないからさ!」
「ぐす…本当か?」
アビスは潤ませた瞳でこちら見る。美少女であるアビスに上目遣いのように見られ思わずドキっとしてしまう。
「あ、ああ本当だ」
「本当か?本当の本心に本気か??」
「ああ、本当に本心から本気で思ってるよ」
もう一度不安げに聞いてくるアビスの頭を優しく撫でながら答えてやる。俺の言葉を聞いて安心したのかアビスはとたんに笑顔になる。またも年相応の美少女の急な笑顔にドキっとするが、俺は平静を装い対処する。
「まるで…子供をあやしてるみたいです…」
「まぁ、あのアビスには私もちょっとイラっとしたわ…」
「私も頭を撫でられたいです…」
「私もー、センヤー!後で私も撫でてねー?」
「ああ、後でな…」
レオナのお願いは後で叶えるとして…俺は改めてこの眼前にいるアビスを見る。
暗い紫色の髪、腰まで伸びた2つの髪先、中二病の性格に拍車をかけるような漆黒のドレス。そしてこの、1番の特徴と言ってもよい左右で違うオッドアイの瞳だ。その瞳は今、真っ直ぐに俺のことをジーっと見つめている。正確には俺の…頭上?
「どうかしたのか?」
俺は疑問に思いアビスへと尋ねる。するとアビスはムムーっと表情を険しくさせ俺に少し顔を近づけると口を開く。
「ふむ…もしかして貴様、また背が伸びたか?」
アビスは告げる。背?身長かぁ…確かにそう言われれば高くなった気もするなぁ。
「確かに伸びていますね。現在184.6cmですので前回測った時よりも1.5cm伸びています」
「え、本当にまた伸びたのね…」
ウニが教えてくれる。彼女の固有スキルの1つには目視の正確な距離がわかるものがあるのでこの数字に不備はないだろう。
それにしても…俺この世界に来てから10cmくらい伸びてることになるんだが…いや、確かにこの世界は背の高い者達が多い。それこそ大きい人に至っては2.5mくらいの奴もいる。おそらく食べ物や環境のせいなのだろう…
それにしても伸びすぎてる気がするがな…あ、あのダンジョンのせいの可能性もあるにはあるか?他に比較できるやつがいるから調べようがないが…
少し話が脱線してしまったがダンジョンの話に戻そう。なぜ俺達が半年もダンジョン内へといる必要があったかというと…まぁ、俺にも原因があるんだが直接的な原因はこのアビスにあるのだ。
俺達は半年前に湖ではなく森の方のダンジョンに向かった。理由は人の少ないこと、仮に強い敵が出て来ても俺達なら何とかなると思ったこと、レベル上げがしやすいこと、すでに攻略を進めているジークがいたことなどだ。
迷宮攻略を進めつつレベルアップをして魔物の素材を集めた。やはりというか強い敵もたまに現れるので星が高い素材も少しずつ集めることができた。つまり何事もなく順調に過ごすことができていたのだ。だが、5日ほど迷宮攻略を進めていた時にふと俺はプレゼントに届いた魔法陣アイコンの存在を思い出す。この5日もの間アイコンの存在に気づかなかったのにも理由がある。
迷宮内では何があるかわからなかったため集中力を切らさないためにもプレゼントの通知を切っていたのだ。そして迷宮への慣れや仕組みにも対応できるようになり余裕が生まれるようになったためプレゼントを確認した時に存在を思い出したわけだ。
だが、魔法陣アイコンの存在はウニも分からなかったらしく…そうなると必然的に確認することになりアイコンをタッチしたのだが、それがどうなったのかというと…
「貴様…随分と我を待たせたが覚悟はできておるのだろう?ならばその期待に応えてやろう」
急に誰か出現したと思ったら、早々にそんなことを言うこのアビスが現れたのだ。さらにアビスはこちらの言葉を聞く時間も与えずに…
「我の権限を持ってここに!【対価の法則】を発動する!!」
そう言ったのだ。すると途端に俺達の足元に魔法陣のようなものが出現し、あっという間に魔法陣が光出しかと思うとその光は大きくなり俺達を包みこんだ。眩しさや咄嗟のことで目を瞑ることしかできなかった俺達は当然どうなった知ることもできず、目を開けると先程とは違うダンジョンへと転移させられていることに気づいた。
「クックック、我に対する罪をその身で償うがよい…ん?なぜ我の目の前に貴様達が…こ、ここは!なぜ我も一緒に転移しているのだ!!?」
明らかな焦りを見せるアビス。俺達がアイコンの確認をしたのはダンジョン内の安全な場所…大きな魔物の進入を許さないように選んだ場所は狭い空洞だった。
そして俺は目を瞑る前に見逃さなかった。そんな狭い空間で俺達の足元に広がる魔法陣がアビスの足元にも伸びていたことを…
「まずい…これはまずいぞ。このままでは我の命が危ない…」
アビスはorzの体勢になり落ち込んでいる。それよりコイツ今、命が危ないとか言わなかったか?いやもうダンジョンの雰囲気とかでヤバいんだろうなぁとは思ってたけどさ…
「ほら、とりあえずコレでも食って元気だせ」
このままでは一向に時間だけが過ぎてゆくので、俺は手作りプリンをアビスに渡す。初めは ? と顔を傾けていたアビスだったが、器の形状とスプーンを渡すことで理解し口へと運ぶ。
「!?…こ、これはウマイ!とてもウマイぞ!!」
アビスはよほど気に入ったのか手を止めることなく食べ続けあっという間に食べ終わる。
「気に入ってくれて良かったよ…それより俺達をここへ飛ばした理由は何だ?対価の法則とか言ってたな…そのことについても教えろ」
「うむ、我に供物を捧げた褒美に教えてやろう」
アビスは満足げな顔をしながら説明を始める。その後のアビスの説明をまとめると…まず【対価の法則】というのは特殊なスキルのようなものらしく、その効果は強制的に何かを得るには何か対価を支払うというものだ。
アビスはこの【対価の法則】を俺を対象に発動した。つまり俺が得た固有スキルの対価を支払うことになったのだ。本来なら俺の固有スキルは【対価の法則】を使わずに少しずつ対価を支払う予定だったらしいのだがアビスが怒りのあまり発動してしまったのだ。そう【対価の法則】の厄介な点は得たものに相当する対価を短い時間で支払わなければならないということ。その為このダンジョンをクリアすることが対価の代償となり、転移させられることになったのだ。
アビスが起こった原因なのだが…どうやらプレゼントに届いた魔法陣アイコンはアビスを召喚させるものだったらしく、要はずっと召喚されない状態でスタンバってたらしいのだ…5日間ずっと。これには確かに俺にも悪いところがある気もするので仕方ないと割り切りダンジョンクリアするために奮闘することになったのだ。
そして半年の月日が経ち元のダンジョンに戻ってくることができたというわけだ…
まぁ、そのおかげで格段に強くなることができたし誰1人欠けることなく生き残ることもできた。アビスの言う通り、後々払うべきだった代償もなくなり結果で言えばプラスしかない。
だからだろうか…今の俺の脳中にはこれからの行動について無数の選択肢があり、先程からそのことを考えているのが…悔しいが楽しいと思ってしまっている。
「…アビス。ボーシュリクスに着いたら新しいスイーツを作ってやるよ…」
「なに!それは本当だな!約束だぞ!!」
だから、この元凶にスイーツを作ってやることは…この感情を抱かせてくれたことの対価であるはずだ…
というわけで半年の月日が流れることとなりました。最近のバトルものの主人公が気づいたら時間とともに強くなるってやつです。この間な出来事はおいおい回想などで出てくることがあるかもしれません。過去編みたいのをやってもいいかも…




