第23話 やっぱこの世界は物騒だな
すいません、思ったより長くなってしまい最後にダンジョンへと向かう形になってしまいました…
「なんだ?随分と楽しそうじゃねぇか」
そう言いながらワーニルは俺の斜め向かいアロエの隣に腰を降ろす。俺達の利用しているテーブルは6人用のテーブルなので満席の形になる。
それよりなんだコイツは?俺達に金を支払わないといけない身にしては…随分と強気な態度だな。先ほどまでは俺のことを殺そうとしていたはずだが…この少ない時間で金の目処でもついたのか?
「聞きもしないで勝手にテーブルに座るなよ」
「あ?別にお前専用の物じゃねぇだろうが。俺がどこに座ろうと勝手だろ」
どうしたんだコイツ。元からこういう性格だったのか?だとしたら…どうせ殺す相手だからと強気な態度を取っているのだろうか?
「そうだな…お前がどこに座ろうとお前の勝手だ。レオナ、アロエこっちのテーブルに来い」
俺の後ろにも同じように6人用のテーブルがあるため、そちらの方のテーブルにワーニル側に座っていたアロエとレオナを座らせようと指示し、2人ともそこの席へと移動する。すると明らかにワーニルは不満そうな顔を露わにする。
「ちっ…何でお前みたいな変態野郎の周りに美少女ばっかいんだよ」
「人のパーティの女の胸を触るような奴には言われたくねぇな…それより、こんなところにいていいのか?俺は期限は伸ばしたりしないぞ」
「心配いらねぇよ、ちゃんと用意したからよ」
ワーニルはそう言うとテーブルの上に白金貨を5枚投げる。それらを集めて確認するがちゃんとした硬貨だった。
コイツ…何のつもりだ?金はあるのに俺を殺そうとしたのか?
「ほら、メルちゃんも確認したよな?」
「ええ確かに…これでワーニルさんの支払いはなくなりました」
「てことだ…それより飲まねぇのか?温くなるとうまくねぇだろ」
『…ウニ、スネーク。これ毒とか入ってないか?』
『詳しいことはわかりませんが…周りの方々が飲んでるエールと違うようです』
『少佐…これは、カルアの実が入ってるようだ…』
カルアの実とは男性が食べれば数十分後に熱が出たようなダルさが出る毒であり、逆に女性が食べると数十分後くらいを目処に徐々に効果が現れる媚薬になるという異世界ならではといった不思議な実らしい。
スネークが言うには男性の場合は毒にしかならないのでスキルで毒耐性というのを習得すればいいらしい…なので俺は早速確認してみると10Pで習得できるようなので習得する。
よし、一気飲みして帰ろう。
「そうだな」
俺は短く返事を返すと一気にエールを飲み干す。そして空になったグラスをドン!とテーブルに置く。
「それじゃあな」
そう告げて席を立ちギルドの出入口へと向かう。ルア達にもカルアの実のことは伝えているので俺に続いていく。あっ、ちゃんとメルトには金貨1枚渡したからな?
「もう帰るのか?料理とかまだ残ってるじゃねぇか」
「こっちにも予定がある。食いたきゃ食っていいぞ」
そう言うワーニルの顔はどこか嬉しそうだ。俺がカルアの実入りエールを飲んだのが嬉しいのだろう。ここから宿屋まで歩いて30分ほどかかるから十分効果が現れるはずだ…俺が毒耐性のスキルを取っていなかったらな。
現在、俺達はギルドを出てしばらく歩いてのだが…先ほど宿屋の周りにいた奴らがギルドの外にいて、俺達と一定の距離を保ちながら跡をつけてくる。その中には当然ワーニルもいて、おそらく俺に症状が出るタイミングを見計らっているのだろう。
さて…そろそろいいか。
「っ!…」
俺は唐突によろけ、地面に手をつく振りをする。その瞬間、俺の元に火球が迫ってくる。俺はその火球の直撃をくらった振りをして盛大にぶっ飛ぶ。そしてピクリとも動かないようにする。
「「「センヤ(様・さん)!!」」」
ルア達が俺の名を叫び、俺の元へと駆けつけようとするが…その前に怪しい黒フードを被った男達が行く手を阻む。
「なによアンタ達…そこをどきなさい」
「そんな必要ねぇよ、コイツは死んだ。何せ俺の魔法を直撃でくらったんだからな」
そう言いながら黒フードから顔を出したのはワーニルだった。え?フード取る意味なくない?何のために顔を隠していたのか分かんねぇじゃん。
「どうして?金を支払ったんだから殺す必要なんてないじゃない…」
「あの金はある人から借りたものだからなぁ。くれてやる訳にはいかねぇんだわ」
「えーと、私達をどうするつもりなのかなー?殺すのかな?」
「ハハッ!美少女を殺すなんて勿体ねぇ!ウニちゃんは俺の!それ以外は俺に金を貸してくれた人の元で性奴隷になるんだよ!!」
わかっていたけど下衆いな…うん、これもう仕方ないな。俺なんて殺されかけてるし…
「…てことらしいわよセンヤ」
「なんつーか…屑の塊みたいな奴だなコイツ」
「なっ…何で生きてやがる!?」
俺が死んだふりをやめ立ち上がりながら言うとワーニル達がバッと後ろを振り返る。つーかそんなに驚くなよ…そういや死んだかどうかの確認もしてこなかったし、コイツどんだけ自分の力に自信を持ってるんだよ…
そう、本当は死んだかどうか確認してきたところを奇襲しようと思ったのだが、コイツらが一向に確認しにこないで死んだと断定するもんだから…こんな感じになってしまったよ。
「何でもなにも、てめーの力不足だろ」
「なんだと!」
「事実だろ?ほら、後ろのお仲間さんはすでにやられてるぜ?」
「!?…い、いつの間に!」
ワーニル達がバッ振り返るがそこにはルア達の後ろにいた男達が倒れている。まぁ、この間にウチの優秀な蛇に倒したもらっただけなんだが…
これで先程とは逆にルア達を挟み込む形ではなく、俺とウニ達がワーニルを挟み込む形になったわけだ。
「てことで…消えろ」
俺はそう言うとともに草鞭の剣を出現させワーニルを斬る。ワーニルは突然のことのせいか抵抗することなく斬られ地面に伏せ動かない。斬った場所や感触、血の量を見る限り間違いなく死んでいるだろう。
ワーニルの仲間の残り2人もすでに倒してくれている。できれば殺さずにとあらかじめ伝えておいたので何人かは生きているようだ。
さらに何故かプレゼントが届いたと通知がきた。以前、確認した時にプレゼントが沢山溜まっていたが…どうやらこのプレゼントは様々な実績を解除すると届くらしいのだ。例えば…
・初めての戦闘:初めて魔物と戦う。
・初めての討伐:初めて魔物を倒す。
などだ。最初の方はスライムと出会ったとき、下の方は初めてゴブリンを倒した時に実績が解除されプレゼントの報酬を貰った。なので今回も実績が解除されたのだろうが…人殺しの報酬なんて獅子竜石1個とかだろう。
と、この時の俺は何の期待もしなく確認してみたのだが…あれ?何だこれ?手紙マーク…?
そう。プレゼントの報酬は報酬によってアイコンが変わるのだが獅子竜のアイコンやコイン、ピースのアイコンではなく手紙のアイコンだったのだ。
「なんかプレゼントの報酬が新しいアイコンなんだが…」
俺は皆に見えるように機能を切り替える。敵はすでに纏めてロープで縛り顔に袋を被せて放置しているので見えないし聞かれることもない。そもそも気絶してるしな。
「それはメッセージ付きの報酬ですね」
どうやら、これはウニも知っていたらしい。ん?
「メッセージって…誰からだ?」
「センヤ様にスキルを授けてくれた方ですね。詳しい存在は…すみません私にもわかりません」
「いやいや、落ち込む必要なんてないぞ?知らないことはしょうがないんだから。読んでみれば何かわかるかもしれないし」
俺は落ち込むウニにそう言い、手紙アイコンをタッチして開く。
件名:初めまして、我は使いの者だ。
本文:クックック、我が名はアビス。その名の通り深淵を彷徨い生きる者だ。此度の貴様の所業、誠に心を踊らされたぞ。その所業に免じて深淵の底より手紙を送らせてもらった。さて、死というものの瞬間を垣間見た今の気分はどうだ?高揚しているか?それとも落胆しているか?我が存在し深淵の一端を覗き見ることはできたか?貴様の所業はそれほどのことを意味するのだ。だが悲観することではない、この世界において死とは常に隣り合わせの存在だ。貴様の行いを咎める者など誰もいない。むしろ我は貴様の行いを褒め称えてやろう、弱肉強食のこの世界で異世界から来たにも関わらず早くも対応した貴様をな。そう…この世界は強き者が生き残る世界、弱者が生き残るには厳しい世界だ。この世界で生きていくには強き存在でなければならない。故に貴様には新たな力を授けよう…弱者を退け糧にして、その得た力で強者を退け糧にする、その名も…
【弱肉強食】
貴様のこれからの行動に期待しているぞ。
と書かれていたわけだが…あれ?これもうあれじゃね?
「コイツ、中二病じゃね?」
「中二…病?」
「なにそれー?」
「えーと、コイツみたいにカッコつけたような存在のことかな?普通に手紙書けばいいのに、あえてこういう言い回しで手紙を書いてるんだよ」
「どうして…そんな面倒なことを…?」
「それわな…レオナ、この手紙を見てどう思った?」
「うーん…なんか強くて凄そうかなー?」
俺はレオナに聞いてみる。レオナに聞いたのは単純に思ったことを口にしてくれるタイプだからだ。案の定、俺の予想通りの返答をしてくれる。
「そうだろ?そう思わせることに意味があるんだよ」
「じゃあ…本当は弱いってことかしら?」
「いや、それはわからないが…おそらく強いと思うぞ?俺のスキルについて関わってるような存在だからな」
「それでは…どうしてなのでしょう?」
「そういう存在になりきり演じることで自分の欲情を満たしているんだよ。酔っていると言ってもいいかもしれない」
「小さな子ども達が…英雄のマネごとをするような…ことってことですか…?」
おお!アロエには理解してもらえたようだ。
「そういうことだ」
「えーと…この手紙の主はこういう方がカッコいいと思って、こういう存在を演じているってことー?」
「確かに…そう言われれば病気かもしれないわね」
「可哀想な方ですね…」
ウニの言葉を最後に皆静かになり、俺達の間に微妙な空気が流れる。それを搔き消すかのように俺の脳内にプレゼントの通知が届く。
確認してみると、また手紙アイコンである。
件名:馬鹿にしておるのか?
本文:クックック、中二病など何か戯言を抜かしておるようだが…我は決してその中二病などという者ではない。我の機嫌を損なうような行いをしない方がよい、これ以上余計な詮索をすると貴様の身が滅びるかもしれぬぞ?
「本人も仰ってますし…中二病というのではないのでは…?」
「何か根拠でもあるのー?」
レオナに聞かれ、ならばと俺は中二病だと思った根拠を述べる。
「その…中二病でもないと『クックック』なんて笑う文章書かないだろ普通?」
「「「あー…」」」
少しの間の後に俺の述べた根拠に皆納得する。そう、手紙を書くとき笑う描写なんて書かないのだ。普通は面白いとか笑ったとかそういう風に文章で表現を書くだろう…なのにコイツはわざわざ書いており、俺はそう思ったわけだ。
「確かに書かないです…」
「そうですね…そう言われると違和感を感じます」
「そうだろ?」
と話していると…やっぱりというか案の定プレゼントが届いたので中身を確認する。また手紙だと思っていたのだが、魔法陣のような知らないアイコンが描かれている。なのでまたウニに聞こうとするが…
『少佐…兵士がやってきたようだ…』
とスネークから連絡がきたのでそれは叶わなかった。まだ俺達がやったのだとバレたくはないので離れる必要があるからだ。なのでそのことを皆に伝え俺達は宿屋へ向かう。
宿屋へ着くとさすがに疲れがあり明日のためにも俺達は早々に眠りにつくことにした。この時の俺の頭の中には魔法陣アイコンのことはすっかり忘れていた。
また、スネークに確認してもらったところ俺達を襲った連中はちゃんと兵士により確保されたらしい。
そうして朝を迎えた俺達はダンジョンへと出発する。
次回ダンジョンの話となります。どちらのダンジョンに行くかは…秘密です。




