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本野夢詩 短編集1

芋蔓姫

作者: 本野夢詩

むかしむかしある小さな村に、芋を作って生活する娘がいました。娘は芋しか食べていないのに健康でした。そんな娘を人々は恐れ、娘の芋畑を燃やし村から追い出しました。


「これからどうしようかしら」

娘は途方に暮れていました。行く当ても伝手も無く、今や娘の財産と呼べる物は一本の芋蔓だけでした。

「そこの娘、表を上げて話を詳しく聞かせろ」

娘は声がした方を向くと、そこには馬に乗った武士がいました。娘は言われた通りに、今までの事を話しました。

「では、私の村でその芋を育てないか」

娘は喜んでその武士について行くことにしました。その武士は、飢えに苦しむ領民を助ける方法を探すために旅をしていた大名でした。


娘は大名が用意した畑に、芋蔓を植えました。一晩経って大名が畑を見に行くと、そこには食べきれないほどの野菜が群生し、割れた地面からは、米俵ほどの大きな根菜が顔を覗かせていました。

「不作続きのこの土地で、豊作になるとは……」

大名は開いた口が塞がりません。すると

「私の事が恐ろしくなったのではありませんか?」

いきなり娘の声がしたので、ますます吃驚した大名でしたが

「むしろお主に借りができてしまった」と、あくまでも冷静に答えました。

その言葉を聞いた娘は

「お役に立てて光栄です」と、嬉しそうに答えました。


 娘が来てから村人達は、新鮮な野菜をいつでも食べられるようになったので、病気に罹りにくくなりました。枯れ木が目立った村の里山も、あの芋蔓を一本植えると、次の朝には果物や木の実を大量に実らせた木が生い茂りました。村人は娘に感謝しました。大名も、娘には何かしらの褒美をやらねばと考え

「何かほしい物はないか」と、娘に聞きました。

「私はこの村で、死ぬまで暮らせれば十分です」と、娘は答えました。

「そうか。しかし、村を救ってくれたお主に何もしないわけにはいかない。だから、お主には何らかの褒美をやるつもりだ」と、大名は言いました。

「有難き幸せに御座います」と、娘は言いました。


 娘と城で話してから数日後、大名は、いつの間にか娘がいないことに気付きました。家来に今までの娘との経緯を話し、探させましたが見つかりませんでした。

「いったい何処に居るのだろうか」

大名は娘が行く所が思いつきません。

「誰か、娘について知っている者はいないか」

すると、家来の中で最も賢い者が

「畑や里山に植えられた芋蔓が娘の正体ではないでしょうか」と、言いました。

「どうしてそう思うのだ」と、大名が尋ねると、その家来は

「娘の話を聞く限り、人間らしい欲や願望が無いかほとんど薄いのです。ゆえにそう思うのです」と、答えました。


 以来この村では、この芋蔓を持ち込んだ娘に感謝する祭が行われるようになりました。


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