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春狂

作者: 西宮尚

春の風には狂気が含まれている。


春になると、変な人が出てくる。

これは、気温が上がって、寒い間に縮こまった身体が、暖かくなって開放されたため起こる現象と思われている。

この、春が来ると変になる現象を、知っている人は多いと思うが、実感している人はあまりいないと思う。

それを実感している私は、その、春が来る時に起こる現象について記そうと思う。


寒い季節から、ちょっとだけ気温が温む。

何故だろう。

会社にある白く長い廊下を歩くと、いつもとは違う別の感覚が湧き上がる。

この廊下を、寝転んで、グルグルと転がり廻りながら端まで行ってみたい気分になる。

この妄想は、どんどんと大きくなっていく。

大きく拡がって自分を浸食して蝕んでいくようだ。

自分の机に戻り、仕事を始めても、思うのはあの廊下。

白い冷たい床に顔を着けてみたい。

長く長く、グルグルグルグルと廻ってみたい。

廻り終わった後に立ち上がってクラクラする感覚を味わいたい。

あの白い廊下を転げ廻ったら、どんなに爽快な気分になるだろう!


違う時。

何故だろう。

仕事をしていると、突然コサックダンスが踊りたくなる。

あのしゃがんだ姿勢から、リズムに乗せて足を思いっきり振り上げたい。

このコサックダンスは極寒の地の人々が、春の喜びを示すために作られたものに違いない。

だから、春の気配を感じるだけで、こんなにも踊りたくなるものなのだ。

春を感じたらコサックダンスを踊る。

春はコサックダンスを踊る。

春になったら、コサックダンスを踊らないといけないのだ!


でも、これらのことをやってしまったら終わりだ。

会社では白い目で見られることになる。

そして、心の病院に行くことになるだろう。

これらを行いたい気持ちを、理性で押さえつける。

春先は、何もしていないのにクタクタになる。


春先に、変な人のニュースを聞くと他人事とは思えなかった。


でも、この数年、そんな危ない感覚には襲われていない。

それは何故か。

私が花粉症になったからだ。

不思議なことに、花粉症の薬を飲むと、氷が融けるかのように、私の中にある変な事をしたい感覚が、スーッと跡形も無く融けていく。

今年も、コサックダンスを踊りたい気分になったので、すぐに薬を服用した。

すると、薬が効くのに比例して、踊りへの思いが落ち着いてくる。

一時間もすると、何事もなかったように仕事に集中している。今までにはありえないぐらいのまともな状態だ。

春先に湧き上がる変な事をしたい感覚は、花粉によるアレルギー反応の症状の一部。もしくは、変な事をしたくなる感覚を抑える成分が花粉症の薬に入っているのだと思う。

この治療法は、春に出てくる変な人全員に効くとは思えないが、自分には効果があることは確かだ。


春は狂気の季節。

でも、友人達に話を聞いても、そんな感覚に陥ることは全然無いようだ。

ただ、そのような稀有な感覚になる人もいることを知っていて欲しいと思う。


-(n.n)-


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