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とびら

とびら


「ん……」


 物事には、二種類あると思う。

 それが内的なものか、外的なものか。

 ただ、どちらにも明確に存在するものは「扉」だと、私は考える。

 扉が開いていれば外的なもので、閉じていれば内的なものだ。

 扉が開いていれば、それは人に見せても良い。

 扉が閉まっていれば、それは人に見られたくない。


 物事には二種類ある。内的と外的。その二種類は、時と場合に依って変わるものだと私は思う。

 自分の中で話を組み立てるまでが内的で、人に話せば外的。

 誰かから話を聞いているときは外的で、それを自分の中にそっとしまえばその瞬間からは内的。


 今、時刻は朝だ。私は眠っている。というか半分起きていて、起きるのが億劫という感じ。これは内的な部分かな。人には見られたくない、だらけたところだ。

 髪の毛に触れられる感覚。

 そっと、私の頬が撫でられた。


「んっ……」

「そろそろ朝だよ?」

「……ん」


 瞳を開ければ、私と共にある人の顔。

 猫のようなふわふわした髪の毛は、寝癖ではなくて癖毛。

 瞳は淡いパープルの入った黒。猫の目のようにくりくりで、好奇心旺盛なところをよく現していると思う。

 本人は「ふつうだよ」なんて言う目鼻立ちは私から見るととても整っている……ううん。違うか。はっきり言って、「好み」だ。

 特にそうやって、私より先に起きていて笑いかけてくる顔が、すごく、すごく愛らしい。

 柔らかそうな唇が、ぼうっとしている私の名前を何度も呼ぶ。その度に、気持ちが増していく気がする。離れられなくなって、それが心地好いと感じてしまう。

 このまま無視してわざと眠ったら、この人はあと何回私の名前を呼んで、触れてくれるのだろう。きっと起きるまでしてくれる。ああ、良いわね、それ。すごく良い。


「……? どう、したの?」

「なんでもない」


 猫の目を不思議そうに丸めてこちらを覗き込んでくる相手に、誤魔化すように返事をした。

 我ながら、寝起きだからっていろいろと恥ずかしいことを考えていたと思う。これは内的なことにしよう。私はそっと、心の中の扉を閉めた。


「ねぇ」

「ん?」

「寝顔、すごく可愛かったよ」

「――――」


 ――参った。

 閉じられた扉を、全力でこじ開けられた。

 自分に対しての呆れるような気持ちと一緒に閉めた扉が、一気に開いて戻らなくなった。

 私の「内的」は一瞬で「外的」に切り替わる。しゅう、と血が沸騰するような音がするんじゃないかというくらいに、全身が熱を持った。


「あ、ぅ」


 きっと、私の顔は酔っぱらったように真っ赤になっているのだろう。

 口はパクパクと明け締めを繰り返し、言葉じゃないものがほろほろとこぼれるだけ。


 ああもう。ほんとうに、何もかもが、外的だ。

 この人にかかったら、私の扉の鍵は全部無いも同然だ。

 おまけに向こうは扉を全開で開けている。開けられたこちらは異種返しも出来ず、ただされるがまま。

 ずるい。ずるい、ずるい。


「ふふ、かわいい」

「う、うるさい!」


 もはや誰が見ても虚勢を張っているだけだと解るだろう、私の言葉。

 相手の指先が、また私の頬に触れる。それだけじゃない。今度はしっかりと触れて、引いてくる。


 ……この人相手に、扉は作れないわね。


 近付いてくる愛しい人の顔。私は何もかもを諦めて、瞳を閉じる。

 きっとこんな小さな抵抗もすぐに抉じ開けられてしまうのだと、そう感じながらも、扉を閉じる。

 私のすべてを開く鍵を持っている人に、扉を開いてもらうために。


「愛してる」


 やって来た言葉は、私の何もかもを開けられる、たった五文字の魔法の鍵。

 その言葉で、私は自分の扉を押さえるのを止めた。

ツイッタの物書きサークル的なところで主催者さんがちょいちょいお題くれるのですが、それで書いたものですね。

お題は「扉」。ただなにもふつうにある扉ではなくて、比喩的なものでも良いのではないかと思い、「心の扉」、「内と外を繋ぐもの」という言葉を思いました。

あとは書きながら考えたので、所要時間は30分。色々手直ししたい部分はありますが、お題で作った品を手直しして公開はちょっとズルだと思うので、そのまま公開。誤字などあればお許しください。


久しぶりにただの恋愛書いた気がします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的に、とても胸を衝く内容でした。 恋愛ものは、ふたりの出会いから衝突を経て成就まで、のみが書かれたものが多いですが、こういう成就してすぐの時間が一番読みたかったのです。 その、甘酸っぱ…
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