初めての依頼
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
召喚師には料理スキルが必要です。学院召喚師科では必修科目になっています。
64初めての依頼
黒森之國の北東にあるリグハーヴスの朝は、夏でもひんやりとした気温だ。寝る時にはきちんと薄い夏掛けを掛けて寝ないと、風邪を引きそうだと、南西ヴァイツェア生まれのスヴェンは思った程だ。
「んー」
目を覚ましベッドの上で両手を上に伸びをする。傍らではすぴょすぴょと鼻を鳴らしながら、双頭妖精犬のリヒトとナハトが仰向けで眠っていた。ふかふかの毛が生えた白いお腹が丸見えだ。
じっと見ているとリヒトが目を覚ました。起き上がろうと短い四肢をばたつかせるが、ナハトがまだ熟睡しているので、体勢を変えられないのかリヒトは「うー」と唸った。
驚いてしまったのだが、リヒトとナハトはどちらも身体を動かせるのだと言う。普段はどちらか片方が担当しているらしいのだが、それでも寝ている状態から起き上がるなどと言う動作は、二人が協力しないと出来ないらしい。
「リヒト。ナハトがまだ寝ているから無理しないで。居間には連れて行ってあげるから」
「あい」
リヒトとナハトは自力でスヴェンのベッドには上がれないし、降りられない。昨夜は<Langue de chat>で借りて来た本を読んでいて、そのまま一緒に寝たのだ。リヒトとナハトの昼寝用のクッションは居間に置いてある。
双頭妖精犬を抱き上げ、スヴェンは居間まで連れて行き、俯せにクッションに降ろしてやった。それでもまだナハトは眠っている。ナハトの方が寝坊助なのだ。それでも朝御飯までには目を覚ます。
スヴェンはバスルームに行ってシャワーを浴び、寝室で着替えてから、居間と続きの台所へ入った。
昨日買って置いた黒パンを切って、胡椒が縁にまぶされたピリッと辛いチーズとオイルサーディンのサンドイッチを作り、半分に切る。付け合わせはラディッシュとクレソンだ。
「グエン」
スヴェンの声に合わせ、テーブルの端に置いてあった<召喚書>が銀色に光る。
「ふむ。朝御飯かのう」
サンドイッチが載ったテーブルの前に置いてあった三本脚の椅子の上に、スヴェンの膝までしか身長が無い、地下小人の老人が立っていた。真っ白い長いひげを蓄えている。
地下小人は地の精霊と同じ地属性の妖精だ。オリーブグリーンのとんがり帽子を被っているグエンは、スヴェンの契約妖精だ。<水晶窟>防犯の為、契約したのだ。グエンには<水晶窟>の警備をして貰っている。
精霊からしか力を借りられない魔法使いと違い、召喚師は精霊も妖精も召喚出来る。しかし、契約するのは専ら妖精と契約する。なぜなら、限られた場所で魔法を使おうとした場合、魔法使いと精霊の取り合いになるからだ。そんな時は、精霊は魔法使いが優先して使用するので、召喚師は初めから妖精と契約しておくのだ。若しくはあらかじめ契約した精霊しか使わない。魔法使いと共闘する場合、自由精霊は魔法使いの配分になると考えてまず間違いないのである。
精霊から力を借りても、特に見返りは求められないが、妖精の力を借りると見返りを求められる。妖精によって要求は異なるが、大概は食べ物だ。と、教科書には書いてあった。
リヒトとナハトは常にスヴェンの傍に居るので、普通に食事を共にしているが、グエンの場合は仕事の報告を兼ねて、朝食と酒を要求した。酒は白ワインの炭酸割りか、林檎酒が好みだと言う。
「今日は林檎酒だよ」
淡い緑色のガラス瓶のコルクを開け、スヴェンは透明なガラスのゴブレットに金色の林檎酒を注いだ。ゴブレットの中でぱちぱちと気泡が弾ける。グエンはスヴェンが差し出したおしぼりで手を拭いた。
「今日も美味そうじゃのう。ちなみに昨夜も異常無しじゃ」
「ご苦労様」
グエンのサンドイッチは、酒のつまみになるフィリングなのだ。両手を擦り合わせたグエンは、「今日の恵みに」と食前の祈りを唱えてから、サンドイッチを手に取った。一口齧り、林檎酒を口に含む。
「うん、美味いのじゃ」
グエンはかなり高齢の地下小人だった。恐らく地下小人の中でも高位の妖精だと思うのだが、「警備の仕事だ」と説明したにも関わらず、二つ返事で契約をしてくれた変わり者だ。勿論、他に地下小人が出来る依頼が来たら、手伝って貰うのだが。地下小人にしてみれば、<水晶窟>程度の大きさの建物の警備をするのは大した労力は使わないらしい。ザシャの召喚した地下小人にも警備を頼んでいるので、二人で遣り繰りしているのかもしれない。
満足そうにサンドイッチを食べて林檎酒を飲むグエンの傍ら、スヴェンはリヒトとナハトのサラダボウルを作った。レタスやクレソン、四つ割りにしたミニトマト、カリカリに焼いたベーコン、刻んだ茹で卵などを、賽子に切った黒パンとドレッシングでざっくりと和えるのだ。
ケットシーと違ってカトラリーを前肢で持てないので、食べやすいようにしてやるのだ。別の物を作るのは面倒なので、朝食のサラダボウルはスヴェンも同じ物を食べる。
ドレッシングは食べる直前に和えるので、大き目の陶器のボウルに野菜を投入しておく。ドレッシングを和えた後で、リヒトとナハトの器に取り分ければ良い。ドレッシングの酢は軽めなのが、スヴェンの好みだ。
「ゆで卵、要る?」
「貰おうかね」
ゆで卵を半分にナイフで切り、グエンの皿に載せる。残りのゆで卵はもう一つ殻を剥いた物と一緒に大まかに刻んでボウルに投入だ。
材料を全てボウルに入れ、ドレッシングも混ぜ合わせた頃に、焜炉の上に載せていた薬缶のお湯が沸いた。ティーポットと茶葉を用意して紅茶を淹れる。
「眠るのなら、ソファーの上の膝掛使って良いからね」
「ふむ」
用が済んだらすぐに帰還させる召喚師も多いのだが、リヒトとナハトにしろグエンにしろ、継続的に召喚している妖精だ。スヴェンは部屋の中を自由に使わせていた。時々グエンはソファーの上で居眠りしている事もある。実体のある妖精は風邪を引くので、夏でも涼しいリグハーヴスでは用心した方が良いだろう。
「スヴェーン」
「おきたよー」
居間からリヒトとナハトがスヴェンを呼ぶ声がした。
「坊主達が起きた様じゃの」
グエンは髭の中で笑って、ゴブレットの林檎酒を飲み干す。
これがリグハーヴスに来てから一週間の、スヴェンの朝の風景だった。
朝食を食べ終えた後、スヴェンは留守をグエンに任せて、隣の<青水晶>の部屋に居るザシャと魔法使いギルドに向かった。リグハーヴスには召喚師ギルドが無いので、魔法使いギルドが代行してくれているのだ。
いつもの様にザシャの肩の上には水魚のラーレが居る。スヴェンは<針と紡糸>で作って貰ったスリングの中に、リヒトとナハトを入れていた。パッと見、赤ん坊が入っている様に見えるが、両手を使いたい時に使えないと困るのでこの形なのだ。スリングに居る時は、二人共大人しくしてくれている。顔だけ出してやれば、外が見られるからだろう。
冒険者ギルドの別棟にある魔法使いギルドには、当然の事ながら黒いローブの魔法使いが多い。勿論、依頼人も来ているのでそればかりでは無いのだが。
青いローブのスヴェンとザシャは人目を引きつつ、依頼掲示板に向かった。掲示板には、ギルドが受けた依頼が依頼ごとに紙に書いて貼ってあるのだ。依頼を受ける場合は、貼ってある依頼書を取って、カウンターに持って行って手続する。
召喚師がリグハーヴスに来た事により、掲示板はもう一つ増やされていた。召喚師用の掲示板が出来たのだ。
「んーと、何があるかな」
魔法使い用の掲示板から移されたと思われる依頼書が何枚か貼ってある。
「井戸掘りか。水脈の探索と掘削ね」
「ラーレとギヨームで出来るんじゃない?」
「うん」
ギヨームはザシャの地下小人だ。
召喚師の仕事は地味だ。工事現場の作業が実は多かったりするのだ。人の手で行うには時間が掛かったり、危険な仕事を請け負うのが召喚師だ。
「こっちは家屋建設現場の地盤固めの杭打ちの為の穴掘りだ。グエンで出来るかな」
グエンとギヨームのどちらかは<水晶窟>の警備をして貰うので、同じ日には出来ないが。
「最初は二人で現場に行った方が良いと思うぞ。何かあった時の保険で」
「そうだね。ええと、まずは井戸掘り行く?あれ?でもこっちと同じ人が依頼人だ」
依頼主はこれから家を建てる家主だった。街中は水源から各家のタンクに水が送られているが、囲壁の外までは水道は無い。つまり、この依頼主は囲壁の外に家を建てる事になる。
「すみません、この依頼なんですけれど」
「はい、どうなさいました?」
カウンターの職員に話を聞いたところ、農家の分家を建てるらしい。依頼主はスヴェン達がリグハーヴスに来る前に依頼を出したので、魔法使いが受けやすいように、依頼を分けたのだそうだ。
「では、井戸掘りと杭打ち穴の両方を受けます」
「召喚師ヘア・スヴェンと召喚師ヘア・ザシャですね。ギルドカードをお出し下さい」
スヴェンとザシャは首から下げている魔銀の鎖を引っ張り出した。鎖には召喚師ギルドと魔法使いギルドの両方のギルドカードが付いている。
ギルド職員は<翼と杖>の紋章が刻印されている方のギルドカードを、板状の魔石に乗せた。依頼を受けた記録をギルドカードに入力し、返してくれる。
「まずは大工通りのバルドゥル親方の所に行って下さい。これから行くと精霊で知らせておきますから」
「解りました」
スヴェンとザシャは魔法使いギルドを出て、右区の奥にある大工通りに向かった。大工の工房が並んでいるので、そう呼ばれるのだ。
壁にバルドゥルの名前が書いてある工房を見付けたので、近くに居た徒弟に声を掛けて、バルドゥルを呼んで貰う。
「何だね?」
出て来たのは採掘族の男だった。家を作る大工らしく、頑健そうな身体つきをしている。徒弟がどんな説明をしたのか、訝し気な顔だったので、自己紹介の後要件を伝えた。
「魔法使いギルドに依頼を出されていた、井戸掘りと杭打ち穴の件で来ました」
バルドゥルの顔が一転明るくなる。
「そうかい、そりゃあ助かる。今の現場は硬い岩盤の上でな。手古摺っているんだ。これから現場に行くんだが、一緒に行けるかい?」
「ええ。行けます」
「荷馬車だがね。荷台に乗ってくれ」
シャベルやツルハシ、桶などの荷物と一緒に、数人の徒弟共々荷馬車の荷台に乗る。バルドゥルは御者台に座り、手綱を握った。ぴしりと手綱を鳴らし、馬が動かす。
整備された石畳みは囲壁の内側だけで、門を出てしまうとがたごとと馬車の揺れが大きくなる。リヒトとナハトは飽きて来たのか、くうくうと鼻を鳴らした。水魚のラーレは大人しくザシャの肩の上に居るのだが。
「その子達も妖精なのか?」
「そうですよ」
「リヒトだよー」
「ナハトだよー」
荷馬車に乗っていた採掘族の徒弟に聞かれ、スリングから顔を出していたリヒトとナハトが答える。鍛えられた厚い掌で頭を撫でて貰って、大きな耳をぱたぱたと動かす。
黙っていると犬にしか見えないので、仕立屋のマリアンが外出用の首輪を作ってくれていた。柔らかい布で出来た青い首輪には、リヒトには稲妻、ナハトには雪の結晶の刺繍が入れてある。黒森之國では首輪のある動物を誘拐すると罪になるのだ。
実家で犬を飼っているという徒弟にリヒトとナハトを構って貰いながら、農家が何件か集まっている集落へと到着した。
家を建てる土地は綺麗に整地してあった。製材した木材も積み上げられている。
馬車の音を聞いたのか、近くの家から初老の男が出て来た。
「マイスター・バルドゥル。井戸を掘れる目途が立ったのかい?」
「ああ。召喚師を連れて来た」
どうやら施主の父親の様だ。
「この辺りは硬い岩盤があってね。こっちの家を建てた時は、ぎりぎり岩盤が切れていたから井戸が掘れたんだが」
「リグハーヴスでは家の中に井戸があるんですね」
雪の殆ど降らない南では、庭に井戸がある事も多いのだ。リグハーヴスで外に井戸があるのは、冬は相当厳しいだろう。
「まずは水脈の方向を調べますね。ラーレ、お願い」
ザシャに頼まれたラーレは肩からひらひらと尾鰭を揺らめかせて移動し、整地された地面すれすれを泳ぎ始めた。整地されている土地の端から塗りつぶして行く様に行ったり来たりを繰り返す。
「……ここね」
数分してラーレは空中で留まった。ザシャが地面に杖の石突で×印を付ける。
「この場所に井戸を掘れるみたいです。どうしますか?」
井戸が掘れる場所と、計画していた間取りと齟齬があった場合、別の場所を探さねばならない。
バルドゥルが初老の男性と話し合い、そのまま井戸を掘ると決めた。ザシャはバルドゥルに井戸の大きさを地面に描いて貰い、それを元に魔法陣を描いた。<召喚書>を取り出して地下小人を呼び出す。
「ギヨーム」
「呼んだかい?」
地面の魔法陣の横に、比較的若い地下小人が現れた。オレンジ色のとんがり帽子を被っている。
「ここに井戸を掘りたいんだ。岩盤が下にある筈なんだけど、やれるかな」
「うん、やれるよ」
ギヨームの姿が消え、次の瞬間魔法陣のあった場所がすこんと抜け落ちた。水が噴き上がり、辺りを濡らしたが直ぐに治まった。
「掘ったよ」
再びギヨームが現れ、胸を張る。ザシャがバルドゥルから縄を付けた桶を借り、水を汲み上げる。妖精に井戸を掘って貰って良いのは、最初から水が澄んでいる事だろう。
ラーレが桶の水に近付き、水浴びする。気持ち良さそうだ。
「ラーレ、飲んで平気な水かな?」
「ええ、大丈夫よ」
身体の水を振るい、ラーレはザシャの肩の上に戻った。
ザシャは呆気に取られているバルドゥル達に微笑んだ。
「井戸はこれで出来ました。回りの積み石やポンプの取り付けをお願いします」
穴が開いたままでは危ないからだ。
「お、おう解った。お前達材料を用意しろ!いやはやそれにしても何て速さだ。俺達が掘っていたらまだまだ掛かるぞ」
「岩盤を掘るのは危険ですから。ここも、岩盤の下に水が流れている様ですし」
下手をしたら、岩盤を砕くと同時に落下するだろう。地下小人はその辺の補強もしてくれるので、崩落の危険は無い。
「杭の位置も解れば、杭の太さと長さに会わせて穴を掘りますよ」
「おう。じゃあ、測量をしちまうから待っていてくれるかい」
「ええ」
一般の人でも精霊と親和性が高い者が多い黒森之國だが、それでも生活魔法止まりなのだ。きちんと学院で学ばなければ、魔法使いや召喚師として大きな術は使えない。
炎天下で待っているのも辛いので、スヴェンとザシャは農家の建物の影で待たせて貰う事にした。日陰に入れば、大分涼しい。
地面にリヒトとナハトを下ろしてやったら、ギヨームと追いかけっこを始めた。日陰の中を歩き回るギヨームの後を、よちよち付いて回っているだけだが。
バルドゥルと徒弟達が井戸の囲いを作ったり、杭の場所の測量を終えて、休憩になった。
涼しいとはいえ炎天下で動き回り、汗だくの大工達を見て、ナハトがスヴェンのローブの裾を噛んで引いた。
「何?ナハト」
「こおり、だす?」
「そうだね、僕の腰位の氷柱で良いかな」
リヒトとナハトは大工達が集まっている場所によちよち歩いて行った。何となく場所を開けた大工達の真ん中で、ナハトが地面を前肢で叩き、「あい」と声を出す。銀色の魔法陣が浮かび上がり、氷柱が出現した。大工達がどよめく。
「すずしいねー」
「つめたいねー」
リヒトとナハトは氷柱を舐めてから、スヴェンの元に戻って来た。
「良く出来たね」
二人の頭を撫でてやる。尻尾がぶんぶんだ。妖精は仕事をした後、褒められるのが好きなのだ。
大工達は氷を水に浮かべて涼を取っていた。スヴェンとザシャも水を飲み、一息吐く。何しろ、掘ったばかりの井戸がそこにある。
休憩終わりで、ザシャとギヨームで杭の穴を開けて行った。空いた穴には大工達が杭を埋めて行く。青い空に杭を打ち込む槌の音が響く。昼までに杭の穴は全て開け終わっていた。
「後は杭を埋めるだけだな。良し、お前さん達を街まで送らせよう」
「まだ、お仕事の途中でしょう?」
「気にせんで良い、俺達の昼食を取りに行かせるんだ。一緒に乗って行け」
夏場は置きっぱなしには出来ないので、昼時に弁当を取りに戻るのだそうだ。犬好きの徒弟が荷馬車を操り、それに乗って街に戻る事になった。
「今日は本当に助かったよ。依頼料はギルド振込みになるからな」
バルドゥルはスヴェン達がギルドに提出する書類に、依頼終了のサインを家主から貰ってくれた。
「またお手伝い出来る仕事があったら、依頼を出して下さい」
「ああ。頼みにするよ」
大工達に手を振り、荷馬車に揺られて街に戻る。ギヨームは帰還してしまったので、スリングの中でリヒトとナハトは眠ってしまった。
大工通りで荷馬車から下ろして貰い、スヴェンとザシャは魔法使いギルドに寄って実施報告書を出す。報酬は折半で口座に振り込まれる。
今回はザシャの妖精しか仕事をしていないが、何かあった時の為に二人で出掛けたので、暫くはこの形で良いだろう、としたのだ。
正式な召喚師とはいえ、まだまだ卵の殻が付いている様な状態なのだ。お互い補い合って、仕事をしていった方が良さそうだ。
「お昼かー。ザシャ、買い物して行く?」
「そうだな」
大工通りから<水晶窟>に戻る途中に、右区の商店通りがある。
「あそこの肉屋の腸詰肉美味しかったんだよね」
「凶暴牛と哀愁豚の合挽きだもん。ギヨームに買って行こうかな」
仕事の報酬だろう。
「パン屋にも寄って行こう」
「美味しいよね、<麦と剣>」
リグハーヴスには美味しい物が多いのだ。妖精に食べさせる為にも、召喚師は美味しい物を探してしまう。
「ごはん?」
「ごはん?」
もぞもぞとスリングの中でリヒトとナハトが目を覚ます。
「これから買い物だよ」
「あい」
「あい」
スリングの上から二人を撫で、スヴェンはザシャと賑やかな商店通りへと歩いて行った。
契約妖精に美味しい物を食べさせるのも召喚師の仕事です。
あんまり不味いと契約破棄されます。




