王都の森の地下墓所3
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
炊飯係と、死霊〈浄化〉現場にて。
406王都の森の地下墓所3
「イシュカ。エア、いい子にしてる?」
「ああ、良く寝ているみたいだ」
イシュカがスリングで背負っているエアネストは、木竜グリューネヴァルトに乗る前から熟睡体勢に入っていた。〈浄化〉の魔法を使ったからか、寝ながらじわじわとイシュカから魔力を吸収している。恐らく無意識で。
「演習場が見えて来たぞ」
エンデュミオンの声が聞こえ、森の中にぽっかりと空いた広場が見える。かなり大きな広場は、上から見るとうっすらと巨大な魔法陣が見えた。
「おお、中々いい魔法陣だな。フォンゼルとイージドールの仕事か」
イージドールは結界張りが上手だ。〈Langue de chat〉にもルッツの為の聖魔法の結界が張られているが、今でも安定している。
「よし、少し強化してやろう」
エンデュミオンは二つ三つ魔法文字を描き足して目下の巨大な魔法陣に投げつけた。ゴッと一瞬巨大な魔法陣から銀色の光が立ち昇る。
「何を足したんだ?」
「あれは魔法陣の強化と、瘴気に当てられた人が判別出来るようになるやつなの」
イシュカの呟きにヴァルブルガが教えてくれた。
野営演習場には天幕が幾つか張られていて、大きな天幕の中から白い服を着た人が数人出て来て上を見上げている。白い服なので聖騎士だ。流石にエンデュミオンの魔法に気が付いたようだ。
「よし、降りよう」
グリューネヴァルトは発着場に移動し、地上の従騎士の指示に従って降下する。
地面につくと、イシュカ達は従騎士に礼を言って隣接する野営訓練場へと移動した。
「うー」
イシュカの背中でエアネストがもぞもぞと動いた。
「起きちゃったかな?」
「イシュカ、魔力回復飴を食べた方がいいよ。エアに魔力取られてない?」
「取られている」
孝宏はポーチから魔力回復飴の小瓶を取り出して、笑うイシュカの口に一粒入れてくれた。エアネストにも棒付きの魔力回復飴を口に入れてやる。
「んま」
エアネストが嬉しそうに飴の棒を握って舐め始めた。
「さっき魔法陣頑張ったからな」
「お」
ぐりぐりとエアネストがイシュカの背中に額を押し付けるのが解った。可愛い魔熊である。
ぼんやりと周囲が銀色に光っている野営訓練場に入ったイシュカ達に、白い騎士服を着たイージドールが駆け寄ってきた。左肩から垂らしている蜜蝋色の長い髪は、いつもよりしっかりと編まれていた。
「あい!」
イージドールの外套の頭巾から真っ黒いシュヴァルツシルトが顔を出して、前肢を振った。
「無事に着いたんですね。テオフィルたちは実働班ですか?」
「ああ、もうすぐ来るんじゃないか? ほら」
孝宏にハーネスでくっついたままのエンデュミオンが前肢を空に伸ばす。イシュカと孝宏がつられて空を見上げると、王城のある方向から竜達が飛んで来るのが見えた。
大きな青紫色の雷竜はレーニシュだ。レーニシュは野営演習場の上を越え、北の森へと向かい、死霊を見付けたのか空中で停まった。
「は!?」
「何!?」
イシュカと孝宏は同時に声を上げてしまった。
レーニシュの左右から振り分けるように、テオとプラネルトが上体を倒して落下するのが見えたのだ。落下した二人と恐らくテオにくっついているルッツは、そのまま高い梢の影に消える。
「司祭イージドール! あれ、あれ大丈夫なんですか!?」
思わず孝宏がイージドールの袖を掴んで問い質す。イージドールは微笑んだ。
「あれは地表近くで風の精霊に受け止めて貰うんですよ」
「あんなやり方を今でもやっているのは〈暁の砂漠〉くらいだろう。他の領地は今はやっていないと思うぞ。昔のもっと竜騎士が多い時代のやり方だからな」
エンデュミオンが半ば呆れた声を出した。
「内戦時代のやり方ですからね」
「身体能力が高い人狼や〈暁の旅団〉が得意としていたやつだな」
あんな度胸がいりそうな落下方法は、精霊魔法をしっかりと使える者でないと恐ろしくて出来ないだろう。
「他の人はどうするの?」
「あちこちに小さい野営地があるから、そこに下りるんだ」
孝宏にエンデュミオンが答えた。確かに空を見上げていると、竜があちこちに下りていくのが見える。つまり、テオとイージドール、ルッツは規格外なのだ。
「いいんですか? 司祭イージドール。テオの実力を見せてしまっても」
イシュカだってテオの特殊な立ち位置には気が付いている。次期族長とほぼ確定しているのにリグハーヴスを拠点にしているし、今では雷竜レーニシュに選ばれているプラネルトまでリグハーヴスに来ている。おまけにプラネルトに憑いているエアネストは、聖魔法を使えるところを公開してしまった。
「今の〈暁の砂漠〉はリグハーヴスとヴァイツェアと同盟を結んでいますし、テオフィルは〈Langue de chat〉に居る。それに僕は聖人ベネディクトを見付けましたからね。おいそれと僕達に手を出すのはかえって命取りですよ」
古王家と血統も人種も違う〈暁の旅団〉は政には口を出さない。それでいて、聖人を守護出来る権利がある者は、〈暁の旅団〉から月の女神シルヴァーナの託宣によって選ばれる。
昔から〈暁の旅団〉に反感を持つ者はいるが、今現在王家は〈暁の旅団〉に何の悪印象も持っていない。今回も王家直轄地の一大事に次期族長が参加するのは、〈暁の旅団〉と王家の友好関係を示す材料になる。
「さあ、実働班も動き出しましたから、僕達も準備をしましょう。調理用の天幕はあちらですよ」
イージドールが各天幕を案内しながら、調理用の天幕に連れて行ってくれる。
「司祭イージドール、ヴァルブルガは診療用の天幕に居た方がいいですか?」
「〈転移〉で呼んだ時に来ていただければ助かります」
「解りました」
ヴァルブルガは人見知りをするので、知らない人が多い場所居るのが苦手なのだ。
調理用天幕には中心に竈が並び、それを囲むように作業台があり、一角にはテーブルと椅子が数客ずつ置いてある。あそこで騎士達が食事をするのだろう。中には数人の従騎士がいて運び込まれた物を整理していた。
エンデュミオンが前肢をくるりと回すと、天幕の中の空気の流れが変わった。換気を良くしたのだろう。孝宏が従騎士達に声を掛ける。
「おはようございます。炊飯係です」
「は……!? お、おはようございます」
従騎士達は一瞬目を剥いてから、孝宏に挨拶した。孝宏は自分の騎士服の色を自覚していない。王族と同じ色なのだ。
「孝宏は王族じゃないから、そんなに畏まるな。エンデュミオンの主だ」
その言い方でも駄目な気がする。しかしイシュカも濃緑色の騎士服だ。
「俺達はこちらを手伝うように、ダーニエル隊長に指示されたのでお気遣いなく」
「おあ!」
イシュカの背中でエアネストも声を上げる。
調理をするので、イシュカと孝宏はハーネスから妖精達を下ろした。エンデュミオンが〈時空鞄〉から柵付きのベッドを取り出し、天幕の端に置く。そこにイシュカはエアネストを下ろした。イージドールもシュヴァルツシルトをベッドに乗せる。エンデュミオンとヴァルブルガが入っても余裕のある大きさだ。
エンデュミオンは〈時空鞄〉からお茶の入った水筒とおやつの籠、蜂蜜色の絵本を取り出した。どうみても、エアネストとシュヴァルツシルト用だ。ヴァルブルガは自分の〈時空鞄〉から毛糸の入った籠を取り出し、編み物を始めた。エンデュミオン自身は孝宏から目を離さない。
「では私は猊下の所に戻ります」
イージドールは診療用の天幕に戻って行った。今回のイージドールの仕事は聖魔法と司教フォンゼルの護衛だろう。
「エアネストは見ているから、こっちは気にしなくて良いぞ」
「うん、じゃあやろうか」
本当に気にしないのは孝宏だけだろう。騎士服の外套を脱いでベッドの柵に掛けて、騎士服の袖をまくる。イシュカもそれに倣う。勿論〈魔法鞄〉のポーチとナイフや棒の付いたベルトは腰に戻す。
孝宏は従騎士達に、休憩に戻ってきた竜騎士達に出す食事を聞き出している。
「サンドウィッチとスープか。じゃあ俺はお粥作っておこうかな。油条と」
「どうしてお粥なんだ? 孝宏」
「幾ら騎士でも死霊が苦手な人はいるだろ? 緊張して胃に負担掛かる人が居ると思うから。あとお米って死霊系に受けた瘴気に効くって何かで見た事があるんだよね」
「へえ」
従騎士に米のある場所を教えてもらい、孝宏がボウルを持って移動する。イシュカは竈の上に大きな鍋を乗せ、まだ火の付いていなかった焚口にしゃがんで、枯れ葉や松ぼっくり、小枝を組んで〈発火〉の魔石を〈魔法鞄〉から取り出した。
「〈発火〉」と呟くとパチッと魔石から火花が散って、枯れ葉と松ぼっくりに火が付いた。じわじわと焚き口の中に火が回るのを待ち、イシュカは「ミヒェル」と火蜥蜴の名前を呼んだ。
「はーい」と可愛らしい声がして、小さな火蜥蜴が現れる。〈Langue de chat〉は休業中なので、ミヒェルを呼んでも大丈夫なのだ。ミヒェルは孝宏と契約しているので、孝宏がいる所に来てくれる。
「イシュカ、お水をこの辺まで入れてくれる?」
「解った」
イシュカは聖水の水差しを取り出して鍋に注いだ。水は水だ。
米を研いで戻って来た孝宏は、水の中に葱や生姜、鶏をぽいぽいと入れていく。ミヒェルに粥の為の鶏のスープを作ってもらっている間に、生地を捏ね別の竈で油条を揚げる。天幕の中にお菓子のような香りが立つ。
「お、お」
真っ先にエアネストが反応した。朝御飯は早かっただろうから、お腹が空いているのだろう。孝宏は掌大に短く揚げた油条を皿に乗せ、〈魔法鞄〉から取り出した練乳を細く掛けて、妖精達の居るベッドに運んだ。
「はい、味見ね」
「おー」
「あいー」
さっそくエアネストとシュヴァルツシルトが掴んで齧る。一寸したおやつだ。
「うん、美味い」
「美味しいの」
エンデュミオンとヴァルブルガからも合格が出たので、孝宏が次々と細長い油条を上げていく。イシュカはその間、鶏のスープが作られている鍋の番だ。途中で一度鶏を取り出し、骨から身を外して細かく解す。出汁用の葱や生姜も取り出し、米を入れてざっと一度混ぜてからことこと炊いていく。
油条を揚げ終えた孝宏は、葱や生姜を刻み始めた。粥が出来上がれば鶏の身を戻し、葱と生姜を入れる。その頃には従騎士達の作る腸詰肉と馬鈴薯と玉葱のスープと、ハムとチーズを挟んだ黒パンのサンドイッチも出来上がっていた。
陸路で来た従騎士達も到着し、各天幕に応援に来た。王城側の森にはまだ死霊はいないようで、無事に来られたらしい。
「わう! フリューゲルもきたよ!」
フリューゲルが従騎士のトーマとヒルデベルトに連れられてやって来た。
「フォルクハルトはもう北の森に入ったのか? フリューゲル」
「わう、もういった」
フォルクハルトは竜騎士ではないので、ヴァイツェアの竜騎士と共に行動しているのだろう。フリューゲルを妖精達の居るベッド上に乗せ、おやつの油条を渡す。
孝宏達はこれから配膳作業が待っているので、従騎士達と一緒に先に昼食を摂る。
「エア、あーん」
「あー」
ここに居る妖精の内、エアネストは赤ん坊である。前肢には黒パンのサンドイッチを持たせ、イシュカは程よく冷めた粥を食べさせてやった。魔熊の子供はよく食べる。そしてエアネストは好き嫌いがなかった。
「時間差で実働班は森に入りますので、第一陣をそろそろ呼び戻します」
「はい」
従騎士からの連絡に、ミヒェルに小さく千切った油条の入った粥の器を出していた孝宏が返事をする。テオやフォルクハルトは第一陣で北の森に入ったに違いない。
「エンデュミオン、出てくるのは骸骨の死霊だけなのか?」
「おそらく鬼火も出ているだろう。あとは……死者の王が出て来るかどうかだなあ」
エンデュミオンが鼻の頭に皺を寄せた。
「死者の王?」
名前からして、よろしくない代物のような気がする。
「死霊の親玉だな。こんな風に死霊が溢れる時には大抵、死者の王も復活している。地下墓所に封じられている者達は……黒森之國を沈め掛けたから月の女神シルヴァーナに呪われているんだ。〈浄化〉されても、何度でも復活しては再び〈浄化〉される。死霊にとってみれば聖属性魔法は劇物だ。魂にかなりの苦痛を受けるだろう」
「それって、強いんだよな?」
イシュカの問いに、エンデュミオンが頷いた。
「強いぞ。負の存在の塊だからな。触れると瘴気に侵される。ただ瘴気に中っただけなら〈浄化〉で回復出来るがな。ヴァルブルガもエンデュミオンもいるから、大抵の怪我はなんとかなるぞ」
「うん」
「何か気になるのか? イシュカ」
エンデュミオンの黄緑色の瞳がキラリと光る。
「いや、何となく」
胸騒ぎがする。粥を食べ終えたエアネストの口元を拭いてやっているヴァルブルガを見ながら、イシュカは着慣れない騎士服の胸元を擦った。
王領の森とは言えど、演習場周辺以外の森の中は、それほど手入れがされていないようだなと、テオは内心舌打ちした。
手入れのされていない森は暗く、見通しが悪い。
「テオフィル、ルッツ、前方右斜め前に居るぞ」
風の精霊を伝って、少し離れた場所に居るプラネルトの声が聞こえた。
「ルッツ」
テオは先行して枝の上を移動しているルッツに指示を出す。ルッツは隠密行動に長けたスキルを持つケットシーだ。本気で隠れられればテオにも見付けるのは難しい。ふっとテオの目の端に青黒毛と濃赤の影が掠めた。
オオオオ……。
背筋がぞくりとする声ともつかない音を発しながら木の陰から現れた死霊の頭蓋骨に、トトトッと小さな穴が連続して開いた後、ざらりとその姿が崩れる。ルッツが聖水の水滴を、水の精霊と風の精霊の力を借りて撃ち出したのだ。可愛らしいケットシーがするには、驚異的な攻撃力だ。
ルッツは近くにあった木の枝を蹴り、くるりと宙で回転してからテオの腕の中に戻ってきた。
「にゃんっ」
「ご苦労様」
「あいっ」
テオは大きな耳のあるルッツの頭を撫でた。元々のスキルが隠密系の上、テオが育てたので戦闘系ケットシーになってしまった感があるが、日常生活では全くそんな素振りを見せない。孝宏やイシュカはルッツがここまで戦えるとは知らないだろう。
「テオフィル、この辺りはこんなものか?」
両手に持つ大振りのナイフで死霊を切り払ったプラネルトが歩きながら、榛色から緑色に変わった鋭い視線で森の中を一瞥する。
「そうだね。瘴気は感じなくなったな。向こうの方が瘴気を濃く感じるから、あちらに地下墓所があるんだろうな」
じわじわと滲むように嫌な気配がする方向を、握ったナイフの先でテオは示した。
「あっちに行った竜騎士は大丈夫かな?」
─あっちに一寸面倒なのがいるよ~。
上空から幼竜化したレーニシュが下りて来て、プラネルトの肩に乗った。
「面倒なの?」
─死者の王が出たかも。
「はあ!?」
「待って、それ俺達でやれるのか?」
─瘴気対策をしてたらね~。触られたら護符が一回で無効化されちゃうかなあ。聖属性で追加防御して貰いながらやらないと危険かなあ。
「それ、イーズかエンデュミオンが居ないと駄目だろ……」
聖魔法を専用で使ってくれる聖騎士がいないと無理だ。もしくは聖魔法の魔法陣を連続で繰り出せる上級魔法使いか。
「テオフィル、向こうに居る騎士を撤退させた方が良くないか? 気が付いていなければ危ない」
「そうか、俺が言わないとならないのか」
向こうに誰が行っているのか解らないが、濃赤の騎士服を着ているテオが伝えた方が、角が立たない。テオは風の精霊に「死者の王が出ている可能性があるので、一旦撤退した方がいい」と伝言を頼んで瘴気が多い方向に向かって飛ばした。
それと入れ替わるように、安全地帯のある野外演習場の方から別の風の精霊が飛んで来て、若い男の声で伝言を残す。
「〈暁の砂漠〉組は安全地帯に帰還してください」
「了解。〈暁の砂漠〉組戻ります」
風の精霊に返答を預ける。「あい」とルッツがオレンジのドライフルーツの半分にチョコレートを掛けたものを渡すと、大喜びで風の精霊は飛んでいった。
ぐう、とルッツのお腹が鳴る。
「ルッツ、おなかすいた」
「昼か。プラネルト、戻ろう」
「ああ」
テオとプラネルトはナイフをベルトに付けている鞘に戻し、軽く跳躍して大木の幹を蹴り、宙高く舞い上がる。
「にゃっはー!」
テオの腕の中にいるルッツが歓声を上げた。
─よいしょ~。
一瞬で成龍化したレーニシュの背中に拾ってもらい鞍に跨る。〈暁の旅団〉の身体能力を持ってして出来る離脱方法だ。
発着場に戻って来たのは当然テオ達が一番速かったようで、従騎士の二人を見る目が変わった気がした。少しの畏怖を含んだ気がする。それもルッツが口を開くまでだったが。
「テオ、おひるごはんなにかなー」
「ヒロが美味しいものを作ってくれているよ」
「ルッツ、たのしみだなあ」
テオの後頭部に肩車で張り付いたルッツが尻尾を振っているのが解る。
─レーニシュも楽しみだなあ~。
すっかり孝宏の料理を気に入ったレーニシュも、幼竜化してプラネルトの頭の上に乗って尻尾を揺らしている。
野外演習場では診療所のある大きな天幕の前で、イージドールと司教フォンゼル、その足元に猟師コボルトのリットが待っていた。
「流石にお前達は瘴気に触れていないね」
そう言いながらも、イージドールが素早く魔法陣を描いてテオ達に飛ばして来た。一瞬身体を清々しい風が吹き抜けていく感覚に晒される。〈浄化〉してくれたのだろう。
「有難うイーズ。フォンゼル司教、森の中で強い瘴気を感じました。死者の王が出たかもしれません」
「死者の王ですか。そちらにどなたか行っていますか?」
「恐らく。撤退した方がいいと知らせてから戻って来たんですが、誰が行っているのかまでは解りません」
「猊下!」
診療所の隣にある天幕から、白い騎士服を着た若い聖騎士が一人走り出て来た。彼の周りに風の精霊がいるので、通信係に違いない。テオは彼の声に聞き覚えがあった。先程帰還指令を送ってきたのは彼だろう。
「ヴァイツェア組が死者の王と遭遇しました!」
「状況は?」
「護符の効果で死者の王が怯んだところを離脱、安全地帯に帰還中です」
「解りました。リット、エンデュミオン達を呼んでください」
「たうっ。あおーん!」
返事をしたリットは空に向かって遠吠えをした。コボルトは日常生活で頻繁に遠吠えをする事はない。つまり緊急事態の知らせだ。
「ヴァイツェア……?」
ヴァイツェアならフォルクハルトが出場している筈だ。テオは思わずプラネルトと顔を見合わせた。
炊飯係孝宏は相変わらずです。
死霊浄化作戦中のテオ達。サバイバル能力の高い〈暁の旅団〉なので、他の組よりサクサクとお仕事をしています。
可愛らしいルッツですが、バリバリ戦闘系です。元々の素質に加え、テオが育てたために……。
プラネルトが育てるエアネストがどんなふうに育つのか心配になって来ますが、スキル的に後方支援系なので、ココシュカに近いのかも。
ココシュカとクラウスは、魔剣ココシュカを持つクラウスが前衛で、ココシュカ(剣の中身)は後方支援です。