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404/447

王都の森の地下墓所1

ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。

 王都竜騎士団へ向かいます。


404王都の森の地下墓所カタコンベ


 エンデュミオンが一人で〈Langueラング de() chat(シャ)〉に戻って来た時、孝宏たかひろはテオやプラネルト達とエアネストの為の蜂蜜ホーニック色の絵本を選んでいた。

「あれ? エンディ、フォンゼル司教ビショフとリットは?」

「王都から連絡が来るかもしれないから、先に地下神殿を視察してしまうと言うから、女神教会に届けて来たんだ」

「急用?」

「うん。竜騎士に応援要請が来るかもしれない。それとテオとルッツにも」

「俺達も!?」

 本棚を向いていたテオとルッツが振り返った。

セント属性が使いこなせて戦闘能力がある、領主格の子息だからな」

「騎士と領主格の子息、というくくりという事は、外部に漏れると拙い何かが起きた?」

 プラネルトが蜂蜜色の本をエアネストに持たせながら、しゃがんでいた身体を起こし立ち上がる。

「王都の野営訓練場の北の森にある地下墓所カタコンベから、死霊アンデットが溢れている恐れがある」

「はあ!?」

 エンデュミオンと意味が解っていないエアネストを覗く、その場の全員が声を上げた。エアネストは四本の腕で蜂蜜色の本を抱えて、無邪気な顔で皆を見上げていた。

「俺の記憶だと、地下墓所なんて定期的に浄化するものじゃなかったっけ?」

 テオがこめかみを指先で叩きながら唸った。

「百年弱で教会キアヒェが浄化の祭祀を行っていたんだが、マヌエルの前の司教が引き継ぎをする前に亡くなったらしくて、北の森の地下墓所の存在が忘れられていた」

「つまり、死霊が出ていたら浄化をしに竜騎士に出場要請が掛かると?」

「竜騎士は移動が速いし、上空からも確認が出来る。それに位階が高い家の出身者が多いから、箝口令が敷きやすい。王都の森は王家の直轄地だからな」

 エンデュミオンが溜め息を吐きながら言った。

「でもいくら竜騎士でもヒロは魔法を使えないよな? 大丈夫なのか?」

「俺は魔法陣マギラッドが描かれた小石の投擲と、魔石を介した初級魔法しか使えないよ」

 テオに孝宏は苦笑した。エンデュミオンが肉球で髭を撫でる。

「孝宏は内包魔力がそれなりにあるから、安全地帯に居て魔法陣を支えてもらう」

「じゃあ、俺も行こうか?」

 ひょいと廊下への戸口から顔を覗かせたのはイシュカだった。足元にヴァルブルガも居る。

「イシュカ」

「イシュカは戦闘出来ないだろう?」

「それは孝宏も同じだろう。俺は教会孤児院に居た頃に、棒術は習ったんだ。教会だから剣術は教えに来て貰えなかったから」

 イシュカはカウンターの内側から、両端に金具の付いた棒を二本取り出した。棍と棒の両方を兼ねているのだろう。イシュカは二本の棒の金具を合わせて捻り、身長に近い長さの棒に仕上げた。素朴な棒は良く磨かれたように飴色に輝いているので、子供の頃から鍛錬を繰り返していたようだ。生真面目なイシュカらしい。

「イシュカ、俺そこに棒があるなんて知らなかったんだけど」

「防御だけなら眠り羊の膝掛けでいいからな。これはいざという時の為の武器だから」

「これはヴァイツェア流の棒だな。金具の意匠で間違いないだろう。お、魔石が嵌め込めるやつだ」

 棒の金具を見ていたエンデュミオンが、ニヤリと笑った。

「魔改造してもいいか?」

「いいけど、何をするんだ?」

「この金具のところに浄化の魔法陣を刻んだ聖属性の魔石を入れるんだ。そうすると攻撃時に聖魔法が発動される。浄化だから人に当たっても害はない」

「解った」

 イシュカは棒を二つに分け、エンデュミオンに預けた。

「ヴァルブルガ、〈ナーデル紡糸(スピン)〉に行ってイシュカの騎乗用騎士服を作ってくれ。ヴァイツェア公爵の位階一位の濃緑でズボンは共通の黒だ。胸章にヴァイツェア公爵領の紋章を入れてくれ」

「解ったの」

 ぱっとヴァルブルガが〈転移〉で姿を消す。プラネルトがちらりとテオに視線を送る。

「テオフィル、お前達の騎乗用騎士服は持って来ているのか?」

「〈魔法鞄〉の中にある。二人乗り用の鞍も、ルッツのハーネスも用意している」

 はあ、と息を吐くテオに、孝宏は目を丸くした。もしかしなくても、テオは竜に乗る訓練を受けているのだ。

「エンディ、なんで俺が位階一位の騎士服なんだろうか」

「騎士じゃない者が着る騎士服には決まりがあって、領主とその継承者は領主の位階に合わせた色を着用するんだ。領の代表者だからな。イシュカは第二位継承者だが、ヴァイツェア公爵の長子だから、着る権利がある。テオもそうだろう?」

「うん、そうだよ。〈暁の砂漠〉は濃赤だ。ヴァイツェア公爵領は濃緑だよね」

「そうなのか? 知らなかった」

 孝宏も知らなかった。孝宏は〈異界渡り〉なので問答無用で黒なのだ。

「イシュカが来るとヴァルブルガも来るから、魔女ウィッチが居ると助かる。そうでないと何かあった時に、エンデュミオンが治癒魔法を使わないといけないからな。専属でニコとリクが居るとは言え」

 エンデュミオンは魔女資格がないので、よく薬草などを適用外の使い方をして、魔女ギルドに事後報告する羽目になっているのだ。失った器官を再生出来るエンデュミオン自体が、魔女ギルドにしてみれば適用外の存在なのだ。

「ニコとリクも行くのかな?」

 現在リクとニコはリグハーヴスに研修で来ている。今日も〈薬草ハーブ飴玉(ボンボン)〉のラルスの所へ、シュネーバルと一緒に勉強に行っていた。

「王都竜騎士隊所属の魔女と薬草師だからな。一時的に呼び戻されるかもな」

「そうだよね。エンディ、何か用意するものってあるかな」

「聖水だな。騎士達に飲ませて、武器を聖水に浸してから聖属性の魔法陣を入れるんだ」

 地底湖と繋いだ水差しがあればいいだろう。あとは──安全地帯に固定となれば、孝宏とイシュカは補給係になるだろう。作り置きしている携帯食料や、スープの素や乾燥野菜や干し肉を用意しなければ。ちゃんと王家で用意してくれるだろうが、料理人は出してくれないだろう。備えあれば憂いなしだ。

 竜騎士訓練のあとの報告書を書いた時に、美味しい携帯食料について書いておいたのだが、ちゃんと読まれているだろうか。携帯食料のレシピは商業ギルドに登録してあるのだが。


 フォンゼルの連絡により、王都の騎士隊が野営訓練場の北の森を調査した。そして死霊が現れたので出動を要請するとの精霊便が〈Langue de chat〉に届いたのは三日後の事だった。

 イシュカの騎乗用騎士服は既に届けられており、グリューネヴァルトに孝宏と二人乗りする練習もした。〈魔法鞄〉に荷物を詰め終え、いつでも王都竜騎士隊に行ける。

「イシュカ、フォルクハルトに王都に行くって連絡した?」

 騎乗用騎士服の上着を着ながら、孝宏は隣で同じように上着に袖を通しているイシュカの顔を見上げた。イシュカがすいっと視線を泳がせる。

「……言っていない」

「なんで?」

「止められる気がするから」

「あとでばれても怒られる気がするんだけど。多分領主には参加者名簿行くんじゃない? ヴァイツェア公爵領の竜騎士もいるかもしれないし。騎士服の色でばれるよね?」

「まあその時はその時で。フォルクハルトは竜騎士じゃないから鉢合わせない筈だ」

 ここに竜騎士じゃないのに出場しようとしている人が居るよね? と孝宏は思ったが黙っておいた。

 冬なので騎士服の上に外套を着て、その上からポーチ型の〈魔法鞄〉が付いたベルトを締めて、ナイフを付ける。イシュカはベルトの背中側の部分に二つに分けた棒を差し込んだ。

 イシュカの棒術は、テオとプラネルトの前で型を披露したところ及第点を貰えたらしい。但し、前線には出せないという条件付きで。命を張るような戦闘訓練をしていないのだから当然だろう。

 着替え終えた孝宏とイシュカは、階下へと下りた。一階の居間では先に着替えていたエンデュミオン達が待っていた。肩に雷竜レーニシュを乗せたプラネルトとエアネストも居て、エアネストもちゃんと騎士服を着ていた。

 継承権を有するプラネルトも濃赤の騎士服を着る権利があるのだが、儀礼の場以外は一般騎士と同じ青い騎士服を着ているのだそうだ。

「もうニコとリクは王都竜騎士隊に着いたかな?」

「エンデュミオンが魔法使いの塔に送ったから、今頃は準備をしているんじゃないか?」

 ニコとリクはやはり王都竜騎士隊から呼び戻されて、一足先にエンデュミオンが王都に送っていた。

「よし、行くか」

 頭に木竜グリューネヴァルトを乗せたエンデュミオンが、ポンと肉球を打ち合わせた。一度囲壁の外に出てから、竜に騎乗して王都へ向かうのだ。

「カチヤ、ヨナタン、シュネーバル、留守番頼むな」

 イシュカがそれぞれの頭を掌で撫でて笑った。

親方マイスター達も気を付けて下さいね」

「……いってらっしゃい」

「う!」

 王都の件が片付くまで、〈Langue de chat〉は臨時休業だ。カチヤはその間領主館のコボルト達や、ケットシーの里のケットシー達と過ごす予定だ。〈Langue de chat〉にはフィリップとモーリッツも居るし、隠者の庵にはマヌエルとシュトラールも居る。

 エンデュミオンの転移陣で、一気にリグハーヴスの囲壁の外の平原へ移動する。

「大きくなって良いぞ」

「きゅっ」

─はーい。

 二人乗り用の騎乗鞍をつけたグリューネヴァルトとレーニシュが、幼竜から成龍へと身体を大きく変化させた。

「きゅっきゅー」

─乗って良いよ~。

 それぞれ妖精フェアリー達をハーネスで身体に付けて、竜に登る。グリューネヴァルトには孝宏の後ろにイシュカが、レーニシュにはプラネルトの後ろにテオが乗った。

「ベルトよし。グリューネヴァルト上昇」

「ベルトよし。レーニシュ上昇」

 ふわりと二頭の竜が地面から浮かび上がる。そして一定の高度まで上がった時点で一度停止した。

「目的地は王都竜騎士隊。行こう!」

 エンデュミオンが前肢で「進め」と合図する。

「きゅっ」

─はーい。

 グリューネヴァルトとレーニシュは、王都へとまっしぐらに向かった。


お久し振りの竜騎士派遣です。

エンデュミオンと孝宏は二人共が準竜騎士なので、二人で正竜騎士です。

イシュカは領主の息子なので、領の代表としてこう言う場に出場しても違和感はありません。

イシュカの棒術は鍛錬を継続している『人並み』というところ。

テオは竜騎士ではないので、プラネルトと一緒に行動する事になりますが、今回は領主の息子と言う立場はイシュカと同じです。

エアネストはマヌエルやエンデュミオン、クヌートとクーデルカに聖魔法を教わっているので、少し使えるようになっています。但し燃費は悪いかも。おやつや魔力回復飴は必要です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます~ イシュカの思い掛けないスキルにびっくりーヽ(。◕o◕。)ノ. しかも出動要請が出てる現場に連れて行けるレベルとはっ 前線じゃなくても暁の砂漠視点でOKが出るって…
[一言] イシュカしゃんーーー!!!ヽ(=´▽`=)ノ エンデュミオン無双が見れそうでワクワクしております
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