ハインリヒと毛玉
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置いていかれたハインリヒのターン。
380ハインリヒと毛玉
ハインリヒは項垂れていた。
「ハインリヒの忠誠心は疑わないんだがな、時々賑やか過ぎるから置いて行ったんだ」と、レオンハルトと真っ白なケットシーのアレクシスを連れて王の執務室に戻って来たエンデュミオンに、執務室に呼ばれるなりそう言われてしまったからだ。
確かに我ながらそそっかしい所があって、レオンハルトの専属侍女ティアナにも「落ち着きなさい」とお盆で叩かれたりしているが、だからと言ってレオンハルトのケットシーを捜しに行く現場に立ち会えないなんて。
しかもアレクシスは執務室に来た時点で、レオンハルトに抱かれたまま眠り込んでいた。
「疲れているから寝かせてやってくれ」とエンデュミオンが頼み、マクシミリアン王はツヴァイクにレオンハルトとアレクシスを部屋に送って行かせた。
「ハインリヒ、座ってくれ」
ぽんぽんとエンデュミオンがソファーを叩く。向かいにはマクシミリアンが座っているのに。
「いえ、私は……」
「座るといい、ハインリヒ」
「……はい」
マクシミリアンに命じられてしまえば、否やは言えない。ハインリヒはエンデュミオンの隣に腰を下ろした。
「ハインリヒを連れて行かなかったのは、他人の意見に誘導されない為でもあるんだ。選ぶのはケットシーの方だが、どんなケットシーが選んでくれるか解らないからな」
「そうですか……」
「ハインリヒはレオンハルトの騎士だから、やっぱりレオンハルトを守れるようなケットシーが良かったと思うかもしれない。でも、ケットシーは大抵、主に必要な素質を持っているものが来る気がする」
「眠ってしまっていたから先程は聞かなかったが、アレクシスは何かスキルがあるのかい?」
マクシミリアンの問いに、エンデュミオンは前肢で頭を掻いた。
「アレクシスは〈星見〉だ。だがまだ子供だから〈星見〉としては、もう少し大きくなってからじゃないと占えないかな」
エンデュミオンにハインリヒは疑問をぶつける。
「どうしてですか? ケットシーは叡智がありますよね?」
「叡智はあるが、子供だと語彙も少ないし、夜はさっさと寝るんだよ。通常のケットシーは夜行性じゃないんだ。里には角灯なんて幾つもないしな」
夜は暗いんだぞ、と衝撃な事を言う。
「ええ!?」
「ケットシーやコボルトの子供は、人族の子供と変わらないんだぞ? 非力だし、良く寝る。アレクシスはルッツと同じ位の年齢かな?」
「ルッツと言うと」
以前ハインリヒは頭突きをかまされた覚えがある。エンデュミオンはハインリヒの頭の中を覗いたかのように言った。
「ルッツはまた一寸特殊だけどなあ。あれはテオが育てたから運動能力が高い個体だぞ。もともとのスキルもそうだし。アレクシスは〈星見〉だから、どちらかというと賢者系のケットシーだ。知識欲が強くなると思うから、レオンハルトが武術訓練している時間などは、王立図書館のフーベルトゥスにでも預けるといい」
フーベルトゥスは森林族の右筆係である。前世のエンデュミオンと既知だったらしい。
マクシミリアンが膝の上で手を組む。
「その他に気を付ける事はあるか? エンデュミオン」
「アレクシスはまだ子供だから、レオンハルトと出来るだけ一緒に過ごさせてやってくれ。寝る時も食事も、勉強する時も一緒でいいかな。臆病な所があるから、レオンハルトと関わり合いのある人物には面通しさせておく方が良いだろう。不必要に大きな声を出したりするのは止めた方が良い、嫌われるから」
そこでハインリヒをちらりと見上げないで欲しい。気を付けろと言う事だろう。
「それから皮膚炎になっているから、毎晩薬湯風呂に入れてやってくれ」
「皮膚炎?」
「アレクシスの毛は絡みやすいんだ。毛玉が酷くて、さっき取って来たばかりでな。レオンハルトが使っても問題ない薬湯だから、アレクシスが嫌がったらレオンハルトと一緒に浸からせてやれば大人しく入るだろう。処方箋はレオンハルトが持っているから、薬草師に作ってもらうといい」
「ハインリヒ、ティアナに伝えておいてくれるか」
「承知しました、陛下」
ハインリヒはマクシミリアンに頭を下げる。そんな彼に、エンデュミオンはポンと肉球を叩いた。
「ああ、最後にハインリヒは多分アレクシスに登られるから、覚悟しておくといい。ケットシーの子供は、高い場所に登りたがるから」
「……はい」
そんな申し送りは欲しくなかった。
基本的な生活はレオンハルトに合せても良いが昼寝の時間は必要で、食事は三食におやつがあればいい。身体に合わなくて食べられない物以外ならなんでも食べるが、子供なのでスプーンとフォークで食べられる大きさに食材を調節する事など、ケットシーの子供に対する注意をエンデュミオンに教えられ、紙に記入したハインリヒは漸く王の執務室からレオンハルトの部屋に戻って来られた。
元々はレオンハルトの部屋も兄のローデリヒの部屋も、それぞれの母親の宮にあったのだが、正式に王太子が決定したのを機に王の居住する宮へと移された。建前はそれぞれの教育の為だが、実際はローデリヒの母親の一族がローデリヒを担ぎ上げるような動きを陰で見せ始めた為の対抗策だ。第三王子はまだ幼いので、王の宮に移されてはいない。
ローデリヒ本人は臣籍降下して、王になるレオンハルトの補佐をする立場になるのに不満はないようで、木竜ラプンツェルを得て竜騎士にも籍を置く予定である。婚約者の令嬢との仲も良好で、成人になる年に公爵名を得て結婚する予定だ。
レオンハルトとローデリヒの兄弟仲も悪くない。ローデリヒは弟妹達を可愛がっているし、レオンハルトも優しい兄を慕っている。
そもそもマクシミリアン王の寵愛ははっきりしている。常に傍に置いているのはツヴァイク。毎朝挨拶に顔を出し、一緒に朝食を摂るのは王妃の宮。側妃達の宮には子供の顔を身に行くついで、といった感じだ。ローデリヒの母親以外の側妃達には姫しかいないので、姫二人内のどちらか一人は聖女へ養女にいく事が決まっている。聖女は政治には絡めない聖約があるので、側妃の一族は戦々恐々だろう。なにしろ、それぞれの妃に子供が出来たので、マクシミリアンはこれ以上子を作る気もその義務もないのだから。
レオンハルトの部屋の扉の前に居る護衛騎士に会釈をし、ハインリヒは扉を軽くノックした。
「ハインリヒです」
「どうぞ」
中から答えたのは専属侍女のティアナだ。扉を開け、ハインリヒは部屋の中に入った。
入ってすぐは応接室を兼ねた居間になっている。そこにはティアナしか居なかった。
「殿下は勉強部屋で宿題をされていますよ」
実は勉強時間にマクシミリアンに呼び出されたので、教師は今日の課題を宿題にしていったのだ。
「アレクシスは?」
「籠で即席の寝床を作って、勉強部屋で寝かせました。ちゃんとした可動式の子供用寝台と、子供用の椅子が要りますね」
ハインリヒは先程エンデュミオンから聞いた注意書きを、ティアナに差し出した。
「これを。ケットシーの子供についてエンデュミオンに聞いたものだ。他の侍女や厨房にも知らせておいて欲しい」
その辺りの采配は、侍女や侍従の仕事になる。
「有難うございます。お食事をどうしようかと思っていたところです。薬湯についても医局に相談して来ます」
「頼む」
早速手配をしに、ティアナが部屋から出て行く。ハインリヒはそのまま扉の内側に待機する。
暫くして勉強部屋からレオンハルトが顔を出した。ハインリヒに手招きする。
「どうなさいました? 殿下」
「宿題で解らない所があって、棚の本を取ろうとしたけど手が届かないんだ。椅子に登って取ったら駄目だろうか?」
「……椅子に登るのはご遠慮ください。本は私がお取りします」
ハインリヒはレオンハルトについて勉強部屋に入った。子供の勉強机にしては重厚な、袖に引き出しの付いたトレント材の机には、宿題が広げられている。ちらりと見るに、どうやら黒森之國の地理を勉強していたらしい。
地理についての本は、レオンハルトがぎりぎり手を伸ばしても届かない棚にあった。
「こちらですね」
ハインリヒは本を取り、レオンハルトに渡す。
「有難う」
ほっとした顔で、レオンハルトが机に戻る。そのレオンハルトが腰掛けた椅子の隣に、大きな籠があった。籠の中の柔らかな赤い毛布に埋もれるようにして、真っ白なケットシーが眠っている。小さな寝息が聞こえ、毛布が緩く上下に動いていた。
ハインリヒがアレクシスを見ているのに気付いたレオンハルトが囁く。
「アレク、毛玉取られてお風呂に入ったから疲れたんじゃないかな」
「エンデュミオンはルッツ位の年齢だろうと申しておりました」
「私より子供だね。アレクが起きたら、ハインリヒとティアナに挨拶してもらうね」
「はい。何かありましたらお呼び下さい」
ハインリヒはレオンハルトの気が散らないように、そっと元居た扉の前に戻った。
ハインリヒの体感にして二十分程して、ティアナが後ろに子供用の椅子やベッドを運ぶメイドを連れて戻ってきた。てきぱきと椅子と寝台を置き、メイド達が戻って行く。
その頃になって、レオンハルトが居る勉強部屋から、ぼそぼそと話し声が聞こえて来た。
「……」
「……」
ハインリヒはティアナと視線を合わせ、そっと二人で勉強部屋を覗き込む。
既に宿題は終わったのか、きちんと片付けられた机の前で、レオンハルトは籠の前に座り込み、起き上がっているが眠そうなアレクシスの頭を撫でていた。
「アレク、まだ眠いの?」
「あい……」
「もうすぐ夕ご飯だよ?」
「ごあん……」
くうーと小さな腹の虫が鳴くのが聞こえた。
「殿下、何か軽い物をご用意しましょうか?」
侍女としてティアナが訊いたのは自然な流れだったのだが、アレクシスはふわふわした毛で覆われた尻尾をぼふりと膨らませるなり「やん」と毛布に潜ってしまった。
「き、嫌われた!?」
ハインリヒの脳裏に部署異動という文字が駆け抜ける。レオンハルトのアレクシスに嫌われたら、異動するしかないだろう。だがハインリヒの血の気が完全に引く前に、レオンハルトが毛布の上からアレクシスを撫でた。
「アレク、恥ずかしいの? 私たちがお世話になるティアナとハインリヒだよ?」
「おせわ……」
もぞもぞとアレクシスが毛布から出て来た。水色と金色で左右色の違う瞳でティアナとハインリヒを見上げる。アレクシスは淡いピンク色の肉球の付いた前肢を片方上げて挨拶した。
「アレクシシュ」
白いケットシーから出て来たのは、幼い子供の舌足らずな声だった。アレクシス、ときちんと発音出来なかったようだ。少し惜しい。
「言い難かったら、愛称のアレクでいいんだよ?」
「あい」
レオンハルトに頭を撫でてもらって目を細めるアレクシスは、ティアナとハインリヒを拒絶しなかった。異動は回避出来たようで、ハインリヒは内心大きく息を吐いた。
実はエンデュミオンの許可がある時点で善人判定を通過していたのだが、個体ごとに判定が必要なのかと思っていたハインリヒである。
「アレク、暖かいミルクを飲みますか?」
「ミルク、ほしい!」
今度はアレクシスに直接ティアナが問えば、ぱあっと目を輝かせた。
「すぐにご用意しますね」
ティアナが微笑んで部屋を出て行く。
「アレク、隣の部屋に行こうか」
「あい」
立ち上がったレオンハルトに、籠から出たアレクシスがぽてぽて付いていく。が、途中でハインリヒの方に寄り道を開始する。ハインリヒの足元まで来て、目をキラキラさせながら見上げてきた。
「……登るかい?」
思わず訊いてしまったハインリヒだが、アレクシスは残念そうに首を振った。
「アレク、のぼれないの。おちちゃうの」
まさかの木登りが出来ないケットシーだった。エンデュミオンはルッツも特殊だと言っていたが、アレクシスは知識に極振りされているようだ。
「どれ」
ハインリヒはアレクシスを抱き上げて、肩に乗せてやった。
「ぴゃあー」
「おっと」
驚いたアレクシスに頭に抱き着かれて、危うくふわふわな腕に目を塞がれるところだった。
「たかーい」
「このまま移動するぞ」
ハインリヒはアレクシスを肩に乗せたまま、居間に連れて行ってやった。しがみ付かれた部分が、もふもふして中々素敵な感触だ。
「下ろすぞ」
「あい」
テーブルの前に置かれた、子供用の椅子にアレクシスを座らせてやる。
レオンハルトは懐かしそうに、子供用の椅子の背を撫でた。
「これ私が使っていた奴かな?」
「そうだと思います。私も覚えがありますから」
王族が使用する物なので、子供用の椅子とは言え部分的に美しい彫刻が施されている。そして使われなくなった後も、しっかりと管理されていたようだ。埃一つなく磨き込まれている。
「お待たせいたしました」
ティーワゴンにカップと片口の蓋付き小鍋、蜂蜜玉の入った壺を乗せて、ティアナが戻って来る。一寸したおやつ程度なら、ティアナが自分で用意するのだ。
「まず手を拭いて下さいね」
ティアナは先に濡らした布をレオンハルトに渡し、手を拭かせる。アレクシスの前肢はティアナが拭いた。
「殿下、アレク、ミルクに蜂蜜はお入れしますか?」
「あいっ」
「うん」
丁寧な手付きでティアナが、蜂蜜玉をカップに一つずつ入れ、湯気の立つミルクを注ぎ入れる。レオンハルトにはソーサーにスプーンを乗せたが、持ち手が二つあるアレクのカップの方は軽く混ぜて氷の精霊に温度を下げさせた。
「どうぞ。もうすぐお夕飯ですから、お菓子は一つだけですよ」
ティアナはミルクと一緒に、小さなお菓子が一つ乗った小皿を置いた。レオンハルトが小腹が空いた時用に作り置きしてある、干し葡萄の入った細長い貝の形のマドレーヌだ。
ティアナは密かに孝宏のお菓子のレシピを集めていて、こうして作っているのだ。
「今日の恵みに、月の女神シルヴァーナに感謝を」
「きょうのめぐみに!」
食前の祈りを唱え、アレクシスは嬉しそうに手掴みでマドレーヌを持って齧った。ティアナの読み通りだったようだ。レオンハルトはフォークでマドレーヌを食べている。
「おいしー。レオン、おいしいねえ」
「そうだろう。ティアナのおやつはいつも美味しいんだ」
「うふふ、有難うございます」
王宮に仕える女官や侍女は、あまり感情を表に出さないように訓練されるが、元々王妃付きだったティアナは、感情表現が豊かな方だ。彼女は、レオンハルトがしてはいけない事をした時には叱って良いと、王妃から許可を得ている。それはハインリヒもだが、最初の頃は中々難しかった。リグハーヴスに行った時にエンデュミオンに怒られて反省した。
レオンハルトが王になるのならば、甘やかしてばかりではいけない。
レオンハルト自身も思う所があったのか、リグハーヴスから帰ってからは真面目に勉学に励んでいる。最近は根の詰め過ぎではないかと思う程だったので、アレクシスが来た事で息抜きが出来るかもしれない。
「殿下、今日の夕食は陛下とツヴァイクとゼクレス、ローデリヒ殿下とラプンツェルとご一緒だそうですよ。アレクシスに挨拶されるのを楽しみにされておられます」
「アレク、さっき寝ていたからね。竜騎士隊にも挨拶に行かないと」
「りゅう?」
「竜にもだし、竜騎士隊にコボルトの魔女がいるんだよ。アレクの具合が悪くなったら、診て貰うから挨拶しておかないとね」
「あい」
妖精なら妖精の魔女の方が症状を把握しているだろう。竜騎士隊の魔女は、王弟で騎士団長のダーニエルが以前から配置を熱望していたが、この度漸く招く事が叶ったのだ。
王都騎士団にコボルトの叔父にあたる人狼の薬草師がいたのと、エンデュミオンの伝手らしい。
〈異界渡り〉孝宏の遠い親戚の養子だというから、どんなコボルトが来るのかと思ったら、陽気な性格で怪我人や病人を発見するとすぐに捕まえに行くと、学院でハインリヒの同期だった竜騎士が笑っていた。
「アレク、お肉とお魚どっち好き?」
レオンハルトの質問に、アレクシスはミルクのカップから顔を上げる。
「どっちもすき。アロイスのおにくおいしいんだよ。おさかなはね、かわでつるんだよ」
アロイスのお肉、とティアナが呟いて、真っ白いエプロンのポケットに入っていた手帳にメモする。取り寄せる気かもしれない。何故里にいるケットシーが街売りらしい肉を口にしているのかは謎だが、きっとエンデュミオンが絡んでいるに違いない。
「あのね、これあげる」
アレクシスが〈時空鞄〉から、端切れで作られた小袋を取り出した。レオンハルトが受け取り、中を見る。
「魔石?」
小袋の中には、水色の魔石が幾つか入っていた。色が薄いので風の属性魔石らしい。
「アレクがふたごにおしえてもらってつくった、〈しょうへき〉のませきなんだよ」
「〈障壁〉?」
「あぶないときにかべができるの。ぶつりとまほうりょうほうふせげるんだよ。ブローチやペンダントにするといいんだって」
「有難う、アレク!」
レオハルトがお礼を言ってアレクシスを撫でる。
(物理防御と魔法防御を同時に出来る魔石は国宝級だろうな……)
ハインリヒは一寸遠い目になった。レオンハルトの防御が上がるのはいいが、マクシミリアン王に知らせない訳にはいかない。王ですら、常に身に着けているのは解毒の魔石くらいだろう。魔石に魔法陣を刻み込むのは、コボルトが一番巧みなのだが、ハイエルンでのコボルト迫害の影響で、現在では手に入り難いのだ。
リグハーヴスで保護された魔法使いコボルト達は、上位の魔法使いだったらしい。魔法陣魔法をケットシーに伝授しているようだ。
(これは……リグハーヴスの人族にも教えているんだろうな……)
誰でも使える魔法に比べ、コボルトの魔法陣魔法は自分で細かな魔法を組み立てる事が可能だ。以前であれば、ハイエルンにいかねばコボルトの魔法使いに教えを乞えなかったのだが、今やリグハーヴスにもコボルトは生息している。ヴァイツェアにもコボルトがいるが、こちらのコボルトは領主の直轄地で保護されている。
(エンデュミオンだろうなあ)
エンデュミオンは森林族時代、弟子を一人しか持てなかった。エンデュミオン級の大魔法使いが乱立し、王家に反旗を翻されたら堪らないからだ。しかし、今やエンデュミオンはあちこちで見どころのある弟子たちを見付けだしては、魔法を教えている。
そんなエンデュミオンの庇護下にあるコボルト達も、自由に魔法を使っているのだろう。
王族嫌いで有名なエンデュミオンだが、幸いにも現王家にはそれ程の嫌悪を向けてはいない。王に頼まれてすんなりとレオンハルトをケットシーの里に連れて行ったところを見ても。
(ケットシーはどの個体もとんでもないな)
おいしいねえ、おいしいねえと言いながら甘いミルクを舐めるアレクシスは、可愛いだけのケットシーではなかったようだ。
アレクシスの能力の秘匿については、王が決めるだろう。
何はともあれ、これから賑やかになりそうである。
熱血騎士なハインリヒです。レオンハルトに何かあると暑苦しくなりますが、基本は冷静。
アレクを観察して、「ケットシーやっぱとんでもないわー」と思っています。
双子は、ケットシー達とも魔法を教え合っているので、ケットシー達も暇潰しに魔石に魔法陣を刻んでいたりします。
普通のお水が出る魔石や、お湯を沸かせる魔石あたりは、迷い込む冒険者に物々交換で渡す事もあります。