谷底の春
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
引きこもりがちな鍛冶師です。
370谷底の春
カーテンの隙間から薄い光が差し込んでいるのを見て、イェンシュは寝起きの頭で「春だなあ」と思う。
木々の深い谷底にあるこの家は、家の周りの木はある程度伐採しているとはいえ、真冬だと早朝は窓から陽が差さない期間がある。
「今日はこっちに来たのか」
イェンシュの隣ではしっかり掛布団に潜り込んだ南方コボルトのベルンが寝息を立てていた。
ベルンの子供用ベッドは、イェンシュのベッドの隣にくっつけて置いてある。落ちないように柵付きだが、イェンシュのベッド側だけ柵を下げてあるので、ベルンは自由にベッドを移動出来るのだ。
幼児だけあってそれなりの寝相の悪さで転がってきたりもするが、今日は夜中に目を覚まして潜り込んで来たのだろう。
ベルンはイェンシュの元に押しかけて来た家事コボルトである。
以前配達に来たテオが「ベルンには身内がいないのかも」と言ったのが気になり、イェンシュはコボルトの村と合併した谷上にある村に移住した両親に、精霊便を送って調べて貰った。
戻って来た手紙で、ベルンはコボルト狩りで親とはぐれた子供で、村の孤児院に預けられていた事が解った。どうやらイェンシュの両親が移住の挨拶に村の教会に行った時、司祭と話している内容を近くで聞いていたらしい。両親は「独身の息子が谷底の家を継いだ」という話をした覚えがあると言う。
コボルトは自分のスキルを自覚すると、親方を見付けて徒弟に入ったりし始める。家事コボルトの場合は、主を見付けて世話を始める。
家事コボルトのスキルを自覚した時期と、イェンシュが一人暮らしをしていると知った時期が重なり、ベルンはイェンシュの人となりを確かめに数時間かけて、村から谷底までやって来たのだ。
あの時、鍛冶小屋に入っていたイェンシュを待っていたベルンは、待ちくたびれてドアに凭れて寝ていた。知らずにドアを開けて転がってきたベルンに、イェンシュは肝を冷やしたものである。
ただ寝ているだけだと気が付いて、隣の母屋に運んでベッドに寝かせ、イェンシュ自体は汗を流しに風呂に入った。そして風呂から上がった時には、ベルンは台所でお茶を淹れていた。すぐに使えるように、台所のテーブルにティーポットとカップ、お茶の缶を置いていたのはイェンシュだが、慣れた様子で「おちゃどうぞー」と言われるとは思いもしなかった。
その日から、ベルンはここに棲み憑いている。
寝息が止まり、もぞもぞとベルンが起き上がった。くあっと欠伸をする。
「おはよう、ベルン」
「おはよ、イェンシュ」
まだ少し眠そうな顔のベルンを連れて顔を洗いにバスルームに行く。歯を磨き、イェンシュが濡らして絞ってやった手拭いで顔を拭き終わる頃には、ベルンの目も覚める。
イェンシュにブラシで毛を梳かしてもらったベルンは、自分で着替えに一足先に寝室に戻って行く。その間にイェンシュは顔を洗う。
「たまご、たまごー、ベーコンもいっしょにじゅーじゅーやくよー」
少しして、台所からベルンの歌が聞こえてくる。使うものを歌っているので、毎回微妙に内容が違う。
ベルンを追い掛けるように寝室に戻って着替えたイェンシュも台所に行く。
台所では作業台の前で椅子に立ったベルンが、鉄の浅鍋で燻製肉と目玉焼きを焼いていた。
イェンシュの元にベルンが来たと、テオとルッツから聞いたエンデュミオンは、次の配達の時には時間停止付きの〈魔法箱〉と、〈熱〉と〈保温〉、〈冷却〉の魔法陣を刺繍した鍋敷きを寄越して来た。コボルトに人族用の焜炉は危ないから、という理由で。おかげでイェンシュが手伝うのはオーブンへの出し入れ位で、それ以外はベルンが一人で作業出来るようになった。
これらの代金はどうするのかとテオに聞けば、ベルンが世話になるから要らないという。
「その内リグハーヴスに来て、〈針と紡糸〉のギルベルトに会いに行けって言っていましたよ」とテオに言われたのだが、ギルベルトとは誰なのかいまだ不明である。
リグハーヴスとハイエルンの境ぎりぎりに暮らしているイェンシュにとって、リグハーヴスの街は少々遠いのだ。馬で行くにも、一度二時間離れた谷上の村に行って馬を借りなければならない。
普段イェンシュは鍋などの日用品のほか、冒険者用の投げナイフなどを作っている。地下迷宮に潜る冒険者にとっては投げナイフは消耗品だから、武器屋からの注文数は意外と多い。そんな中でもイェンシュは休日をきちんと入れる鍛冶師だった。
「きょうはおやすみー」
歌いながらベルンが温めた皿に燻製肉と目玉焼きを乗せていく。イェンシュは〈魔法箱〉から黒パンを取り出した。今日で食べきってしまう大きさしか残っていない。
「今日はテオ達が来るかな」
パンが無くなる頃、テオとルッツが定期便を届けてくれるのだ。エンデュミオンが〈魔法箱〉をくれたおかげで、パンや野菜などの生鮮食品も悪くなるのを気にしなくても良くなり助かっている。それでもほぼ一週間ごとの定期便を頼むのは、谷底に二人だけで暮らしているので安全確認と、ベルンと友達になったルッツに遊びに来て貰う為である。
「グラナト、シチューはいいかんじ?」
ベルンがオーブンの前で、中に居る火蜥蜴のグラナトに訊いている。
「いいぞ」
オーブンの中からグラナトの返事があったので、イェンシュが鍋掴みをした手でオーブンを開け、中に入れていた茶色い壺を取り出す。
健啖家の両親が置いて行った調理用の壺は、どう考えても三人家族用では無かったなと、今になってイェンシュは思うのだが、これしかないのでベルンは何の疑問も抱かずに煮込み料理を作っている。
グラナトに一晩弱火でじっくり煮込んで貰ったのは、雪の下に活けておいた最後のキャベツと、哀愁豚のバラ肉、戻した乾燥豆、湯剥きしたトマトなどを入れたシチューだ。
「よいしょ」
壺を〈保温〉の鍋敷きの上に置く。蓋を開けると、酸味が柔らかくなったトマトと刻んだセロリの香りが広がる。
「美味そうな匂いだな」
オーブンから出て来たグラナトが、ぺたぺたとテーブルに上がって来る。
グラナトは火蜥蜴としては大きい部類だ。寝そべると、ベルンと変わらない体長がある。柘榴石のような赤い体色をしているが、オーブンの外に居る時は身体の温度を下げているので暗い色味になる。
縁の高い皿にシチューを盛りつけ、黒パンを切る。グラナトとベルンのパンは食べやすい大きさに切る。
「今日の恵みに。月の女神シルヴァーナに感謝を」
「きょうのめぐみに!」
「今日の恵みに」
それぞれ食前の祈りを唱える。
「うわ、凄いなこれ」
哀愁豚のバラ肉は下茹でを数度繰り返してから煮込んだ分、脂は抜けているがとろとろになっている。脂身と肉がスプーンでほろりとほぐれる柔らかさだ。ざっくりと櫛形に切られたキャベツも同様の柔らかさだ。
「うむ、美味い」
グラナトも一口大に切った黒パンをシチューにつけ、口に入れている。ぴたんぴたんと機嫌が良さそうにテーブルを太い尾で叩いている。
「おいしいねえ」
子供用の椅子に座っているベルンも、尻尾を盛んに振っている。この子供用の椅子も、テオに頼んで注文した物だったりする。
一人の時は結構適当に食べていた食事も、ベルンが来てからはきちんと食べるようになった。ベルンがまだ幼児だと知ってからは特に。
ゆっくり食事を摂って、後片付けをした後にお茶を飲む。仕事をする日はイェンシュとグラナトは鍛冶小屋に行くが、本日は休みなのでそのまま三人でのんびりだ。
お茶を飲み終わったグラナトは居間の暖炉の中に入り、熱鉱石と灰を居心地よく整え丸くなる。
イェンシュとベルンは暖炉の前の肘掛け椅子に座り、〈Langue de chat〉から借りている本を読む。
「はい」
「よし、おいで」
ベルンが持って来た若草色の本を受け取り椅子の脇に置いてから、イェンシュはベルンを抱き上げて膝に乗せる。子供に慣れていないイェンシュでも、読み聞かせをしたらベルンは喜ぶだろうとテオに教えられて始めた。
孤児院育ちのベルンは、イェンシュの膝の上を独占して本を読んで貰える時間を、殊の外喜んだ。それからは毎晩寝る前にも、こうして膝に乗せて本を読んでいる。
ベルンのふんわりとした重さと温かさは、イェンシュの癒しだ。和む。柔らかい毛で覆われた後頭部や、細かく動く耳が可愛い。
暫く本を読んでいると、家の外から話し声が聞こえて来た。イェンシュとベルンは二人揃って、耳を動かした。
「テオ達かな?」
「うん」
こんな谷底までやって来る者は、本当に限られるのである。特にまだ雪が残るこの時期は。
テオとルッツはルッツの〈転移〉で一気にここまで来られるからこそ、頻繁に配達に来てくれるのだ。
イェンシュは本に栞を挟んで閉じ、肘掛け椅子の端に置き、ベルンを抱いて立ち上がった。ほぼ同時に玄関のドアがノックされ、「おはよー、はいたつでーす」というルッツの声が聞こえて来た。
掛け金を外してドアを開ける。
「おはよう、ご苦労様」
ドアの前にはルッツを片腕で抱いたテオが立っていた。それと、テオの背後から襟回りにふさふさの真っ白な毛が生えている、大きな黒い顔のケットシーが顔を覗かせていた。テオの腰のあたりに顔があるので、本当に大きなケットシーだ。しかし服を着ているので、誰かと契約しているのは間違いない。
「おうさまだー!」
ベルンがはしゃいだ声を出す。
「王様?」
「ギルベルトは元王様ケットシーなんですよ。今はリグハーヴスの街で暮らしているんです」
テオの説明に、ギルベルトがきらきらと輝く大きな緑色の瞳を細める。
「中々ギルベルトに会いに来ないから、ギルベルトが来た」
「ごめん、自力で行くには遠くてさ」
「構わない。仕事もあるだろうから」
ゆらゆらとギルベルトがふさふさの尻尾を揺らす。
「こんな所で立ち話もなんだから入って」
イェンシュはテオ達を家に招き入れた。元々テオとルッツが来た時は、ゆっくりしてもらうのだ。
テオとルッツが配達して来た荷物を出す間、ベルンはギルベルトの元へ行って抱っこされていた。ギルベルトがベルンの額にキスをする。ほわっとベルンが一瞬銀色に光った気がした。
「種族が違ってもケットシーの王様は特別みたいで、妖精の子供を庇護する習性があるらしいんです」
木箱から牛乳の入った瓶を取り出し、テーブルに並べながらテオが言う。
「街住みで人に憑いた妖精を見付けると、ギルベルトは〈祝福〉をしてくれるんです。それで〈祝福〉した妖精達の状況が解るみたいで。危ない時は助けに来てくれますよ」
「ええっ!?」
「ギルベルトはエンデュミオンの育ての親だから、場合によってはエンデュミオンも来るかもしれませんね。既にここの大体の場所をエンデュミオンも知ってますし」
ギルベルトもエンデュミオンも、街住みの妖精達の場所をほぼ把握しているようだ。
「それからもし怪我や病気になった時には、迷わずにヴァルブルガを喚ぶといいですよ」
「ヴァルブルガ?」
「ケットシーの魔女です。前にもここに来てますよ。三毛のケットシーです」
「ああ、白いコボルトと来てくれたケットシー!」
ベルンが風邪を引いた時にテオが往診に呼んでくれた事がある。すっかり名前を失念していた。
「白いコボルトはシュネーバルですね。ヴァルブルガは喚べば往診してくれますから。重症になってから喚ぶとちょっぴり怖いから、酷くなる前に往診して貰った方が良いですよ。ベルンはコボルトだから妖精犬風邪にかかるかもしれないですし。ご存知でしょうけど、カモミールティーやカモミールを含む飴で予防出来るから、毎日摂取させてくださいね。今回も持って来てますけど、飴が改良されたみたいでより美味しくなってますよ」
「ああ」
ベルンを引き取る時にも妖精犬風邪の注意は受けた。谷底で暮らすベルンが妖精犬風邪に罹患しても、周囲への拡散はないだろうが幼児なので重症化しやすいのだそうだ。そして妖精犬風邪は人狼にも感染する。
二時間かけて谷上の村の診療所に行く事を考えれば、ヴァルブルガの召喚権は非常に有難い。
「あと……四肢欠損するような大怪我の時はエンデュミオンも喚ぶといいかな」
独り言のように、テオが呟く。
「は?」
「大魔法使いだから、何とかしてくれますから」
「何とかなる……のか?」
「秘密ですけどね」
何とかなるらしい。
イェンシュとテオが荷物を片付けている間、ベルンとルッツ、ギルベルトは暖炉の前でグラナトとお喋りをしていたようだ。
「新鮮な牛乳と卵が来たから、パンケーキでも焼くか」
イェンシュは母親に教えられているので、それなりには料理が出来る。
テオと二人で小振りのパンケーキを沢山焼いて大皿に積み上げ、バターやジャム、蜂蜜、メープルシロップ、クリームの容器を出す。
「テーブル要るかな?」
テオが何処からともなく、折り畳み式のローテーブルを取り出して暖炉の前に置く。
今のは確実に〈魔法鞄〉では無かった気がする。人族で〈時空鞄〉が使えるのはとても珍しい筈だ。だが、そもそも折り畳みのテーブルを持ち歩く者自体珍しい。
「ベルン、おちゃいれる!」
テーブルにパンケーキの皿や取り皿を並べている間に、ベルンが台所に来てお茶を淹れ始める。
「お喋りしてていいんだぞ?」
「ベルンのおちゃのんでもらうの」
「そっか」
ベルンが濃くならないように、抽出された紅茶を温めた別のティーポットに移し入れ、イェンシュが運ぶ。
「わあ、凄いな」
山盛りのパンケーキに、ギルベルトの目が輝く。
「甘くないものも良ければ、生ハムもあるぞ」
何故か生ハムの塊をテオが取り出す。イェンシュの買い物ついでに肉屋で買ったらしい。イェンシュの方の荷物にも、生ハムが入っていた。テオの生ハムの方が塊が大きいのは、〈Langue de chat〉の家族が多いからだろう。
「生ハムも少し欲しい」
「皿出して」
よく切れるナイフで、テオが薄く削いだ生ハムを、ギルベルトの皿に数枚乗せる。
「あい」
「はい」
すかさずルッツとベルンも皿を出す。結局テオは全員の皿に生ハムを乗せた。グラナトの皿には一口大にしたパンケーキに、生ハムやジャムをそれぞれ乗せてカナッペのようにする。
きゃっきゃと楽しそうにパンケーキを食べる妖精達を眺めながら、テオがイェンシュに言う。
「もしリグハーヴスの街に出掛けたいなら、俺達が配達に来た時に合わせたらどうですか? 街まで一緒に〈転移〉すればいいですよ」
「宿が都合良く開いているかな。まあ教会の宿泊所でもいいんだけど」
教会にある宿泊所には、気持ち程度の寄付と朝のミサへの参加で泊めて貰える。
「イシュカに頼めば〈Langue de chat〉に泊めてもらえますよ。はい、これ」
「ん?」
テオがイェンシュに三つ折りされた紙を渡して来る。それは黒と青と赤の三色刷りされた、案内状だった。大きめに赤で書かれた文字をイェンシュが読み上げる。
「リグハーヴスの地下神殿遺跡?」
「女神教会の地下に最近発見されたんですよ。水晶窟で綺麗なので、ベルンが喜ぶと思いますよ」
「……なるほど」
辺鄙な谷底に住んでいるので、ベルンをどこにも連れて行ってやれていない。雪のない時に、近くの川で魚釣りをする位だ。
畑仕事が始まると、水やりしなければならないから、本格的に作物が実る前が旅行のチャンスかもしれない。
「頼む時は精霊便で知らせるよ」
「はい」
にっこりとテオが頷く。
街に行くついでに、街住みの妖精達とベルンを会わせてもいいだろう。コボルトも何人かいると聞いている。両親と一緒に暮らしているコボルト夫妻の子供も、リグハーヴス女神教会で見習いとして暮らしているのでお礼に行かなければ。
たっぷりお喋りをして、お昼寝の時間の前にテオ達は帰って行った。
「あわわ、ぶくぶくー」
お昼をたっぷり食べたので軽めの夕食の後、イェンシュはベルンと風呂に入った。ベルンが水面の泡を掬って遊んでいるのが年相応の子供らしく、一寸安心する。
来た当初、ベルンは余り入浴を好まなかった。身体の小さなベルンは孤児院での入浴が楽しくなかったらしい。人族用の風呂では、落ち着かなかったのだろう。そもそも芋洗い状態での入浴だったのだろうし。
イェンシュと一緒に入れば、膝の上でゆっくりお湯に浸かれるし、身体も洗って貰えると解り、今ではベルンは毎晩の入浴を楽しみにしている。
入浴後はカモミールティーにミルクと蜂蜜を少し入れた物をベルンと飲む。人狼なので、イェンシュも一緒に妖精犬風邪予防だ。
「イェンシュ、これよんで」
ベルンは寝る前には大抵説話集を持って来る。
説話集は版ごとに収録されている説話が異なる。どうやら、ベルンが教会で読んで貰っていた物と、イェンシュの家に何冊かある説話集では版が違っていたようだ。毎晩、興味津々で説話集を持って来る。
「えーと何処まで読んだっけな」
ぱらぱらと栞のある頁まで移動する。
「〈柱〉の神殿のお話か」
その〈柱〉の神殿は、水晶で出来ていたと言う──と始まるお話は、イェンシュも子供の頃から親に読んで貰っていた説話だ。
(ん? 何か、聞いたような……)
水晶で出来ている神殿の話を。案内状も貰った。間違いなくあれの事だ。
「リグハーヴスの地下神殿遺跡か!」
「イェンシュ?」
思わず声を上げたイェンシュに、膝の上のベルンが不思議そうに見上げて来た。
「ベルン、この説話に出て来る場所が、リグハーヴスの街にあるみたいだぞ。畑の作業が始まる前に一緒に見に行って来ようか」
「いく!」
ぱあっとベルンの顔が輝く。
「じゃあどんな場所だったのか、説話集を読もうな」
「うんっ」
ぶんぶんとベルンの尻尾がせわしなく左右に揺れる。可愛い。
今は急ぎの納品が必要な仕事は来ていないから、数日間街へ出掛ける日程はすぐに作れる。〈魔法鞄〉を持っているから、荷物もかさばらない。
どうせ街へ行くのなら、妖精の服を仕立てる仕立屋があるとテオが言っていたし、ベルンの服を仕立てて貰おう。他にも街での用事は色々とあるだろう。きちんと紙に書き出そう。
(よし)
まずはベルンに説話集を読む為集中しなければ。イェンシュは柔らかな毛で覆われたベルンの後頭部を一撫でし、静かに説話集を朗読し始めた。
谷底に住むイェンシュとベルン。地味に友人はテオとルッツ位です。
テオとルッツは〈針と紡糸〉の前を歩いていてギルベルトに捕まり、一緒に来ています。
エンデュミオンが四肢欠損を再生出来るのを、知っている人もなるべく秘密にしています。
蘇生薬の出所がエンデュミオンとラルスなのも、秘密です。基本的にはヴァルブルガとエンデュミオンの許可があって使用する感じです。
現在ラルス製以外の蘇生薬は、地下迷宮のドロップ品になります。こちらはかなりの高値で取引されています。