〈柱〉の神殿と酒類貯蔵庫
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
アルフォンスへ報告に行きます。
320〈柱〉の神殿と酒類貯蔵庫
リグハーヴスの女神教会の地下にある神殿遺跡の下見を終えたエンデュミオンは、翌日リグハーヴス公爵アルフォンスを訪ねた。
いつものように孝宏が作ったおやつを〈時空鞄〉に入れ、〈転移〉で執務室近くの廊下に出る。執務室に直接出ても良いのだが、今頃は王都に年間税収などの最終報告を送る時期で、自分できちんと決算書類を確認するアルフォンスは忙しい。エンデュミオンが突然現れて、驚いたアルフォンスが書類を汚損したら、クラウスに魔剣ココシュカで物理的にぷちっとされそうで厭だ。現在のエンデュミオンは小さなケットシーなのである。勿論咄嗟に防御壁を張れるが、領主館を壊す訳にもいかない。
生まれ変わったエンデュミオンは、なるべく常識的に生きているつもりなのである。
いつも綺麗に磨き上げられている廊下をとことこ歩く。領主館のメイド達は働き者である。エンデュミオンが懇意にしているのは、キッチンメイドのエルゼだが、彼女も誠実で働き者だ。
領主館のコボルト達によれば、無表情の執事クラウスがどうやらエルゼと交際をしているようなしていないような感じらしい。彼らはエンデュミオンには隠し事をしないので、領主館の噂は結構筒抜けである。何しろ厨房には家事コボルトのノーディカが居るので。
リグハーヴスの領主館は歴代の領主の好みか華美では無いが、ランプの光鉱石が花の形に研磨されていたりしていて、美術的価値が高い。床も寄木細工だし、扉にも彫刻が細かく入れられている。
最近の領主館でドアが細く開けてある部屋は、妖精が中にいる部屋である。領主の執務室がある区域には限られた者しか来ないが、領主館に保護されているコボルト達は別だ。中でも魔法使い兼司書コボルトのアルスは、起きている間は図書室に居ると言っても良い位だ。
今日も図書室のドアが少しだけ開けてあった。
「ふむ」
エンデュミオンはドアを自分の身体の幅だけ開けて、図書室の中に滑り込んだ。ふわっと暖かいのは、湿気を飛ばす為に、暖炉に火を入れているからだろう。リグハーヴスは夏の一時期以外は冬でなくとも肌寒い日が多々ある。
熱鉱石が弱く燃える暖炉の前には、柔らかそうなラグマットが敷かれており、その上でクッションと毛布に埋もれて、南方コボルトのアルスと白虎型キメラのココシュカが寝息を立てていた。
まだ午前中であり、昼寝にしては時間が早い。アルスはまた夜更かししたのだろう。仲間のコボルトに朝御飯を食べさせられた後、図書室に来て寝てしまったに違いない。ココシュカはいつでも寝れる性質なので付き合っているか、執務室にいても主のクラウスが忙しくて構って貰えないので寝ているのだろう。昔は剣の中に納まって宝物庫に居たココシュカだが、最近になって剣の外に出てのんびり過ごしている。主食はクラウスの魔力だが、普通に食事も出来るココシュカは、領主館の料理が美味しいと気付いたのか、三食おやつ付きで食べるようになっていた。贅沢な魔剣である。
エンデュミオンは本棚を歩き回って、背表紙の題名を確認する。
代々のリグハーヴス公爵は文武両道で、飾りではなく実用目的で書籍を集めていたようだ。魔物がまだ地上に残っていた頃の荒野を切り開いて入植したのがこのリグハーヴスであり、幾つもある動植物図鑑が使いこまれているのは、食料となる物を模索したからだろう。
建築学や魔術教本も多い。魔術の本はどちらかというと、領主夫人ロジーナの趣味らしい。
「お、結構古い説話集があるな。く、重い」
ケットシーは非力なのである。エンデュミオンは前肢が届く場所にあった本に、軽量化の魔法をかけて棚から引っ張り出した。そのまま本を浮かせて床に置く。
「どれどれ」
聖書や説話集は教会が発行しているので、貴族用は美しく写本された物だが、庶民向けの物は黒インクで印刷された本だ。だがこの説話集は印刷された本だった。つまりその頃のリグハーヴス公爵は、贅沢する余裕はなかったのだろう。なにしろ冒険者や貧しい庶民も多い開拓団をまとめていたのだ。公爵は王家の血を引く者だが、リグハーヴス公爵はそれを笠に着る性質ではない。足りないところには、身銭を切って与えただろう。
「お、あるある」
目次の頁に〈リグハーヴスのいにしえの神殿〉という項目がある。ぱらぱらと肉球を使って頁をめくる。ページに行きつき、読んで行く。
曰く、古王國時代の神殿跡地が見付かり、月の女神シルヴァーナを祭っていた祭祀の道具が発見されたのが教会建築の始まりのようだ。元々女神シルヴァーナの神殿があったのなら聖なる土地である、という見解で残っていた遺跡の地下室部分を利用して現在の教会を建てたと記されている。やはりこの時にも、地下神殿は見付かっていないようだ。
エンデュミオンは前任者の〈柱〉から直接引き継ぎがあった訳ではないので、遺跡に関しては知識しかない物も多い。そもそも長い事魔法使いの塔にいたのだ。わざわざ当時の王達に教える必要もないと思って黙っていた。だから、いまだに古王國時代の遺跡が埋まっている場所は他にもある気がする。
「地下神殿に関しては、それなりに魔力がないと魔法陣が見えないしなあ。司祭が建築には携わらないだろうし」
聖属性を鍛え上げた聖職者が居たのなら、地下神殿が発見されたかもしれない。しかし当時のリグハーヴスは命懸けで入植しにきているのである。そんな高位の聖職者を派遣する筈がない。
「……たう」
すんすんと寝たままのアルスの鼻が空気の匂いを嗅ぎ始めた。エンデュミオンの気配に気が付いたのだろう。エンデュミオンは本を棚に戻し、アルスとココシュカの元に行った。
「そろそろ起きろ。夜眠れなくなるぞ。おやつを持って来たから、アルフォンス達と食べよう」
「たう」
「ぎゃう」
おやつと聞いて、ぱちりとアルスとココシュカが目を開いた。現金な子達である。
「アルス、夜はきちんと寝ないと身体を壊すとノーディカやヴァルブルガに言われなかったのか? 病気になって苦い薬を飲ませられたらどうする」
「た、たう」
怯えたアルスがふるふると首を左右に振る。折れ耳の右耳がぱたぱたと跳ねた。
「なら他のコボルト達と同じ時間にベッドに入るんだな。明るい時間の方が本を読むのも楽だろう?」
「たうー」
左耳もへにょんと下げ、アルスがこくりと頷いた。苦い薬の方が夜更かしを諦める理由になる模様だ。
「ぎゃうー」
ココシュカが白い翼を広げ、伸びをする。白虎に白い翼が生えているココシュカは一見魔物に見えないが、尻尾が真珠色の鱗のある蛇なので、女性に避けられる傾向にある。普段はコボルト程度の大きさになっているので、幼い顔立ちなのだが。
領主のアルフォンスは昔からココシュカを可愛がっており、アルフォンスの妻のロジーナにもよくおやつを貰っているので、最近ではメイドたちもこのキメラに慣れて来たらしい。そもそもココシュカは魔剣であるが、中身の魔物ココシュカは後方支援型なので好戦的ではないのである。魔剣を振り回すクラウスの方が、余程危険である。
毛布を畳んでから、エンデュミオン達は執務室に向かった。図書室とは目と鼻の先なので、執務室のドアに辿り着く前に、クラウスが既に待っていた。
「いらっしゃいませ、エンデュミオン」
「やあ、クラウス。アルフォンスは忙しいのだろう?」
「切りの良いところで休憩に致します」
「じゃあ待っている」
ドアを開けて待っていてくれたクラウスの足元を通って、執務室にお邪魔する。
執務室では膝に笹かまケットシーのカティンカを乗せたアルフォンスが、書類とにらめっこをしていた。顔色が良いので、無理はしていなさそうだ。
「エンデュミオン」
アルフォンスがエンデュミオンに気付いて手招きする。
「何だ?」
「私宛に〈薬草と飴玉〉に修行に入りたいから紹介してくれと言う、王都の薬草師ギルドから手紙が来ているがどう思う?」
「ふん、どこからか〈蘇生薬〉の噂でも聞きつけたのかもしれんな。ラルスの所にはシュネーバルの兄を修行に入れようと思っている。他にはラルスが自分で選んだ者でないと駄目だ。エンデュミオンも素材を渡すのだからな」
「やはりそうか。ならば断っておく」
アルフォンスはリグハーヴス家の紋章の入った新しい紙を引き出しから取り出し、さらさらと万年筆で返事を書いて既に宛名を書いてあった封筒に納める。垂らした封蝋に指輪の印章を押し付ける動きが手慣れている。
「よし、午前中の仕事は終わりだ」
「おおつかれさま、アルフォンス」
「有難う、カティンカ」
アルフォンスがさぼらないように膝に乗せられているカティンカなのだが、暖かいし可愛いので癒されるらしい。ココシュカでも効果は同じだが、カティンカより飽きやすいので、昼寝のタイミングで午後に良く用いられるとエンデュミオンは知っている。
カティンカを抱いて応接用のソファーに異動して来たアルフォンスの向かいのソファーに、エンデュミオンとココシュカ、アルスも座る。クラウスは簡易台所がある続き部屋にお茶を淹れにいった。
「今日のおやつは苺大福だ」
エンデュミオンは白い蝋紙で一つずつ包まれた苺大福が入った籠を取り出した。今、エンデュミオンの温室は苺が沢山取れるのである。シュネーバルとレイクがせっせと世話をし収穫して来るので、孝宏は冷凍して数日分溜めておいたものをジャムにしている。
「苺ジャムもやろう」
どん、とテーブルに大粒の苺が見える真っ赤なジャムの瓶も載せる。
「苺のジャムはヴォルフラムとビーネが好きなんだよ。これは喜ぶな」
嬉しそうに瓶を持ち上げて顔を綻ばせるアルフォンスはすっかり父親の顔だ。幼馴染のマクシミリアンの庶子を託されたアルフォンスだが、実子としてとても可愛がっている。
「苺大福は孝宏の国のお菓子だな。面白い食感だが、甘すぎなくていいぞ。そのまま一口か二口で食べるのが美味い。今日の恵みに」
クラウスがお茶を運んで来たのを見計らい、エンデュミオンは蝋紙を剥いて苺大福に齧り付いてみせた。餡の甘さと苺の酸味が驚くほど合うのだ。
「たーう」
アルスもむぎゅっと口の中に苺大福を入れて尻尾を振った。すぐにもう一つ取って蝋紙を剥き、ココシュカの口の中に入れてやる。
「うまーっ」
ココシュカの尻尾の蛇もシャーッと鳴いた。衝撃的な味だったようだ。
アルフォンスもカティンカに一つ渡し、自分でも食べる。齧った後、目を丸くする。
「……面白いな。回りの部分は柔らかいのか」
「餅米という穀物の粉で作るものだそうだ」
クラウスの運んで来たのは緑茶だった。良く解らない勘の良さである。
飲み頃に入れられた緑茶を舐め、エンデュミオンは本日の目的を果たす事にした。
「昨日、リグハーヴス女神教会の地下神殿遺跡の調査をしてきたぞ」
「どうだった?」
「あそこは〈柱〉の神殿で、管理者は当代の〈柱〉のエンデュミオンになる。とは言えエンデュミオンは司祭じゃないから、実際の管理はベネディクトとイージドールに任せる。神殿遺跡なんだが、祭っているのは月の女神シルヴァーナだから問題ないだろう」
「宗教施設として使わなければ、大聖堂も聖都も文句はない筈だ」
「地下神殿は巨大な水晶窟なんだ。物凄く大きいシルヴァーナ像や滝があってな、他にも見所があるからそこに行くように順路を作ってみた」
「ん?」
アルフォンスが怪訝が顔になった。
「エンデュミオンは管理者だから、地下神殿の改造が出来るんだ。埋めておくのも勿体無いから、観光資源として使おうと思う。それほど高くない入場料を取って、土産物を売るんだ。こういう奴だな」
エンデュミオンは〈時空鞄〉からヴァルブルガが試作品として作った、端がうっすらと緑色の淡い乳白色の水晶を白い飾り結びで編み込んだ物を取り出した。繊細に編まれた糸の間から水晶が見える。
「ぶら下げられるようになっているから、釦に留めたり、持ち物に付けても良い。長年地下神殿にあったから、聖属性付きだ」
「どこから取って来た」
「踏んだら危ない場所にいっぱい転がっていたから集めたんだ。売れると教会孤児院が潤う。子供達に栄養のある食事を食べさせられる」
〈柱〉の神殿なので、本来なら現在の教会は関与させる必要はないが、エンデュミオンが現存している間は有効に使わせて貰う。
「他でもない〈柱〉の神殿だから、リグハーヴス公爵家に一枚噛ませろと言う気はないが……私に手伝える事はあるのか?」
もぐもぐと苺大福をじっくり咀嚼しているカティンカにお茶のカップを取ってやりながら、アルフォンスが溜め息混じりに言う。
「寄進代わりに地下神殿への入口の建物を作ってほしい。実は本来の入口は教会の地下書庫にあるんだ。しかしそこから観光客を出入りさせる訳にはいかない事情があってな。専用の出入り口を教会の外に開けるから、夜間入口を施錠出来る建物が欲しい。それほど大きくなくて良いんだ。出入り口と入場料を受け取る受付とお土産売り場を作る程度で。防犯の魔法陣はエンデュミオンとギルベルトで付与するから」
「どこの要塞レベルの魔法陣だ!?」
「地底湖が聖水なんだ」
「は?」
「地底湖がすべて聖水なんだ。聖水も小瓶に入れて売ろうと思っているが、アルフォンスはどう思う? 値段は司祭の聖別する聖水と同じ値段にするぞ。教会より安くすると問題になるだろう?」
アルフォンスが額を押さえた。何故かさっきより顔色が悪い。
「それはそうだが、気の使い方がずれているぞ。陛下に報告をしなければならない案件だ」
「近いうちに司教フォンゼルがリグハーヴスに来るらしいぞ」
「司教は司教、陛下は陛下だ。春の領主会議がもうすぐだと言うのに」
「じゃあ、エンデュミオンが報告書を書いておくから、それをマクシミリアンに持って行ってくれ。先に下見がしたいのなら、イージドールに頼めば中に入れるぞ」
「なぜ司祭イージドール?」
「地下書庫からの扉の鍵を持っているのがイージドールなんだ。エンデュミオンの魔力を充填したから今はエンデュミオンも開けられるが。魔法陣にベネディクトとイージドールの魔力も入っているから、あの二人は別格なんだ」
地下神殿の管理補助的な人員として登録されている状態だったりする。
「しかしリグハーヴス家にも旨味が無い訳ではないぞ、アルフォンス」
「ほう?」
「水晶窟は領主館近くまで伸びているんだ。その一部を領主館と転移陣で繋げてやれる」
「脱出路にでもしろと?」
「水晶窟を脱出路にする位なら、うちの裏庭と繋げた方が安全だぞ。あそこは低温だから貯蔵庫になる。酒類の管理に使える。聖属性の水晶窟だから、変な物があっても浄化するだろうし」
「酒類の貯蔵庫に水晶窟?」
「下さい」
アルフォンスに被せ気味に答えたのはクラウスだった。貴族や準貴族の家で酒類を管理するのは執事の仕事である。酒類は暖かい場所に置くと傷みが早いので、季節によって氷や水の魔石を使って温度管理をするのは大変なのである。巨大な保冷箱は相当に高価だからだ。
「どの位の大きさがあればいいんだ?」
「そうですね……」
クラウスが胸元から手帳を取り出し確認した後、紙片に書いたものをエンデュミオンに渡す。
「解った。貯蔵庫を作ったら転移陣を描きにまた来る」
「宜しくお願いします」
用事が済んだクラウスはお茶のお代わりを淹れに行ってしまった。アルフォンスそっちのけだが、管理するのはクラウスなので、アルフォンスは何も言わずにカティンカにお茶を飲ませていた。
「たうたう」
「アルスも地下神殿を見たいか? 通路に柵を作ってから知らせようと思っていたんだ。視界を遮らないコボルト用の低い柵を作って、なるべく早く知らせるから皆で来るといい」
「たーうー」
ぶんぶんアルスが尻尾を振る。アルスからクヌートとクーデルカに伝わるだろうから、招待するとあらかじめ伝えておく方がいいだろう。でないと、あの二人なら直接やって来る。
「ココシュカは?」
「聖属性の場所だからなあ、一寸むずむずするかもしれないな。クラウスと一緒なら平気だろう」
「うん!」
クラウスはココシュカ以外の剣を持てないので、常に一緒である。アルフォンスに付いてクラウスが地下神殿にくれば、ココシュカも観光出来るだろう。
「そうだ、これが観光通路にする場所の地図とスケッチだ」
エンデュミオンは持って来ていた地図の写しと、イシュカがスケッチを描いた帳面を〈時空鞄〉から取り出した。
「それを先に出そうか、エンデュミオン」
「すまん、忘れていた」
アルフォンス達が地図とスケッチを見ている間に、エンデュミオンはマクシミリアンへの報告書を書いた。手っ取り早くいつ頃の遺跡なのかと、〈柱〉の神殿なので管理者はエンデュミオンである事、宗教施設としては使わず観光施設にして入場料の用途は孤児院に使うと明記する。水晶のお守りの販売や、地底湖は聖水だが教会と同じ値段で瓶詰にする事と、管理補助はベネディクトとイージドールなのも忘れずに書いておく。
「イシュカが描いたスケッチもマクシミリアンに見せるといい」
「では借りるよ」
イシュカは絵が上手いので、鉛筆と色鉛筆で彩色した地下神殿のスケッチはそれだけで見ごたえがあった。
エンデュミオンはお茶をすっかり舐めたカップをテーブルに戻した。
「通路に柵を付けたらコボルト達を呼ぶから、アルフォンス達も一緒に下見に来るといい」
「解った。待っているよ」
「ではな」
挨拶をして、エンデュミオンは〈転移〉で〈Langue de chat〉へ戻る。
クヌートとクーデルカに知られたら、確実に「まだ? まだ地下神殿行けない?」と聞きにくるに違いない。あの双子は特に好奇心旺盛なのだ。
地下神殿に連れて行っても、通路から落ちないか見ておく必要がある。是非、引率のカチヤとテオ、イージドールの参加を願いたい。そろそろテオとルッツは〈暁の砂漠〉から戻って来る頃だ。
転生しても何かと忙しい。王家はどうでもいいが昔よりはましだから、世話になっている分位はアルフォンスを手伝ってやるつもりだ。
「ただいま、孝宏」
「お帰り、エンデュミオン」
エンデュミオンは孝宏と平穏に暮らせれば、それで充分幸せだ。
本人は常識的に生きているつもりのエンデュミオンです。
アルフォンスの事は結構気に入っているので、報告書を書いて渡すくらいの気遣いはします。
でもマクシミリアンの所まで行くのは面倒臭いという。
コボルト達は無垢な瞳でおねだりして来るので、無下に断れないのです。
大量のコボルトが居る時には、カチヤ先生の引率が必要です。
大きな保冷庫はエンデュミオンならほいほい作れますが、通常は魔法使いにとても高額な謝礼を払わなければいけません。