北の湖の冬釣り
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
皆で釣りに行きます。
308北の湖の冬釣り
カチヤは元猟師で、〈Langue de chat〉のルリユール、イシュカの徒弟である。
実家はリグハーヴスの街の北にある村にあり、父と兄が猟師をしている。母と姉は裁縫が得意でレース編みを作り、服飾ギルドを通りして王都などに売っている。
兄のアヒムは時々〈Langue de chat〉に顔を出す。先日はカチヤが居なくなった事で実入りが減ったと、父が愚痴を言っていたと呆れていた。父はカチヤが弓も罠も使えると、気付いていなかったらしい。
カチヤはアヒムに弓も罠も習ったのだ。アヒムはカチヤを蔑ろにする両親からそれとなくかばってくれていたが、下手にカチヤに猟の腕があると知られると、実家から出して貰えなくなるだろうと黙っていたらしい。
カチヤは既にイシュカの徒弟として商業ギルドに登録されているし、〈Langue de chat〉は領主も訪れる店である。流石に両親もカチヤを取り戻すのは諦めたようだ。なにしろ、ケットシーが三人いるのだ。呪われる。
季節に関係なく森では猟を、冬には湖で釣りをしていたカチヤは、現在は趣味として休みの日に湖に釣りに行ったりしている。
コボルトと親和性が高いらしく、普段は仲良くなったコボルト達と行く事が多い。一度行けば〈転移〉を使える魔法使いコボルトの二人が居るのであっという間なのだ。
しかし、今回は〈Langue de chat〉の皆で湖に行く計画だ。
「湖には〈黒き森〉と同じで、管理小屋に人がいるんですよ。夏は泳げるし、冬は小魚が釣れるので」
「ほう。昔は管理人なぞ居なかったんだがな」
エンデュミオンが張りのある白い髭を肉球で撫でながら呟く。エンデュミオンの言う昔は何百年前だか解らない。きっとこの辺りも未開の土地だったのではなかろうか。
「今は貸し小屋も何軒か立っているんだよ。泳ぐにも着替える場所が居るし、冬釣りも温まる場所が居るから」
届け物で冬の湖に行った事があるらしいテオも、カチヤの説明に付け加えてくれる。
「店などもありませんし、街からも村からも中途半端に遠いので、殆ど客はいませんけど」
普通の人が行くのなら、自力で馬か馬車で行くか、巡回馬車にのんびり乗って行くしかないのだ。
「湖に名前はあるの?」
「いや、昔から北の湖と呼ばれている。この國の最北にある湖だからな。中途半場に人里に近いから竜は棲んでいない」
孝宏の素朴な質問には、エンデュミオンが答えた。
「魚釣りの道具は借りられるので、暖かい格好をして行けばいいですよ。あと食べ物ですね」
「店がないって言ってたっけ。温かい物を作って〈時空鞄〉に入れて貰おうかな」
孝宏はさっさと立ち上がって台所に行き、鍋を取り出し焜炉に乗せた。手際よく材料を切って鍋に入れ、スープを作り始める。
「貸し小屋を一つ借りようか。カチヤ、予約は出来るのか?」
「出来ますよ、親方。顔馴染みなので、私が書きますね」
雪がない時はピクニックに、冬は釣りにと、定期的に湖にコボルト達と遊びに行っているカチヤは、管理人と毎回顔を合わせている。
「うーむ」
エンデュミオンがリグハーヴス新聞の天気欄を睨む。先見師ホーンの天気予報はほぼ外れがない。雪が吹雪になる程度の誤差なのだが、その位は当日の空を見て自分で判断出来る事だ。
「明日でいいんじゃないか? 晴れ予報だしな」
「じゃあ、明日は休みにして皆で行こうか」
黒森之國の店舗は基本的には陽の日が休みだが、イシュカはたまにこうして皆で出掛けられる日を休みにする。孤児院で育ったイシュカは、一緒に暮らしている〈家族〉をとても大切にしている。後継者として紋の一部を渡したカチヤの事も、家族として扱ってくれているのがとても嬉しい。
カチヤは湖の管理小屋宛に「明日伺うので貸し小屋を一つお願いします」と手紙に書き、風の精霊に頼んで送ったのだった。
翌日は予想通りに晴れになった。
お店の出窓に〈臨時休業〉の札を置き、暖かい格好をして出掛ける用意をする。
「では行くか」
昔行った湖と場所が変わっていないのなら行けると、エンデュミオンが〈転移〉をしてくれる事になった。エンデュミオンの魔法陣の展開速度は他のケットシーや魔法使いコボルトと比べてもとても速い。しかも杖無しでやるのだから、伝説の大魔法使いと恐れられるのも解らないでもないとカチヤも思う。今は孝宏と餡子のお菓子が好きな、気の良い鯖虎柄のケットシーだけれども。
エンデュミオンは紛う事なく浅い木立に囲まれた北の湖の手前に〈転移〉した。北の湖は林の中にあるのだ。雪原から湖まで、馬車が通れる程の道が続いている。
林の中に入ってしまえば、冷たい風は随分と和らぐ。元々は古い森の一部だった木々は太く背が高い。勿論若く細い木もあちこちにあるのだが、リグハーヴスの木々は大抵どっしりと構えている物が多いのだ。
木工ギルドが管理している森はまた違った趣がある。あれは木材を育てる為の森だからだ。黒森之國ではどの森でも自由に薬草や茸を採取していいが、木工ギルドの管理する森だけは、伐採での危険がある為侵入禁止である。
林に入って道なりに歩いて行けば十分もせずに視界が開けて、空を映す広い湖と岸に並ぶ数棟の小屋が見える。冬の湖は雪を被った黒い木々と、薄い青灰色の空が映った湖で、ひっそりとしている。雪が音も吸収するのか、夏よりも本当に静かだ。
カチヤがヨナタンと一緒に管理小屋のドアを叩く。
「おはようございます。カチヤです」
「おはよう、久し振りだね」
管理小屋のドアを開けたのは、初老の採掘族の男だった。力持ちな採掘族は、管理小屋の仕事をよく引き受けている。
「今日は釣りかい?」
「はい。私が働いているお店の親方達と来ました。道具を貸して貰えますか?」
「いいよ。カチヤは丁寧に使ってくれるからね」
「ヘア・ヨルダンの手入れが良いからですよ。親方、こちらが管理人のヘア・ヨルダンです」
管理小屋の採掘族ヨルダンをカチヤはイシュカ達に紹介した。
「カチヤとヨナタンがいつもお世話になっています。俺はリグハーヴスの街にあるルリユール〈Langue de chat〉の店主です」
ヨルダンは妖精が複数いる事に目を丸くしていたが、そもそもカチヤがコボルトをぞろぞろつれて毎回遊びに来ていたので、驚きはしなかったようだ。
「これが貸し小屋の鍵だよ。小屋は温めてあるからね、いつでも使えるよ」
「有難うございます」
小屋の番号が彫られた木札の付いた鍵を受け取り、道具がしまってある物置小屋に行く。物置小屋といっても、釣り竿の他にシャベルや橇なども置いてあるので、大きくてしっかりとした作りになっている。物置小屋の隣には馬小屋もあり、リグハーヴスの冬の寒さにも耐えられる足の太い馬が馬房から顔を出しているのが見えた。
「小魚用の釣り竿でいいんだね?」
「はい」
小魚用の玩具のように小さな釣竿を人数分出してくれる。木桶も借りて、ヨルダンを先頭に湖へ行く。今日はカチヤ達しかまだ客はいないようで、うっすらと雪の被った氷の上には、鳥が数羽いる位だ。
氷の上を歩き始めてすぐ、赤く塗られた木箱が伏せて置いてあった。その前に細長いベンチも置いてある。
「この箱の下に穴があるんだよ」
ヨルダンは重そうな赤い箱を軽々と持ち上げて避けていく。箱の下には薄く氷が張った丸い穴が開いていた。湖の上には数か所そんな木箱が点在していて、釣り場所になっていた。
腰にぶら下げていた金属の棒で張っていた氷を割って掻き出すヨルダンの手付きは慣れたものだ。
「ベンチに座って釣るといいよ。膝掛か毛布はあるかね?」
「はい、用意してます」
孝宏が座布団まで持って来ていた。
「小さい子が穴に落っこちないようにな。時々小屋に戻って温まるんだよ」
「はい」
幾つか注意を残し、ヨルダンは危なげない足取りで氷の上を歩いて管理小屋へ戻って行った。
「これ餌っているんだっけ? 実際に釣った事ないんだよね、俺」
孝宏が氷の上に並べられた釣竿の前にしゃがんでいる。
「これは疑似餌がついているので要らないですよ。そのまま使えます」
釣り糸には幾つかの疑似餌と針がついているのだ。糸の先には錘があり、沈むようになっている。
カチヤは釣竿を一本取り、見本を見せる。
「この辺は浅いので、錘が湖の底に付くように糸を垂らして、軽く竿を動かしては止めるのを繰り返すと……」
ぴく、とカチヤの釣り竿にアタリの反応があり、カチヤは糸を巻き上げた。
「こんな風に釣れます」
釣り糸には三匹の小魚が掛かっていた。
「いや、カチヤは玄人だと思うが……」
ぼそりとエンデュミオンが呟いたのが聞こえるが、この湖の魚は普段から猟師に追い回されていないので、すれておらず釣りやすいのだ。
「……」
カチヤの隣でヨナタンも小魚を釣り上げていた。釣り針から小魚を取り、氷水を張った桶の中に放り込む様は手慣れている。
「やってみるか」
皆で近くにある穴に釣り糸を垂らす。水が苦手なエンデュミオンも氷が分厚いのと、ベンチに座って穴から離れているので大丈夫そうだ。シュネーバルはイシュカの膝の上で、一緒に釣竿を持っている。
「うわ、アタリが解らない」
釣りが初めての孝宏はアタリが解らないらしい。こればかりは本人の感覚次第だ。
「一度釣れると解るんですけど」
「ん、来たかな……? あ、釣れた釣れた」
カチヤが見ていると孝宏の引き上げた釣り糸に、小魚が一匹釣れていた。孝宏が嬉しそうに小魚を桶に入れている。エンデュミオンも真顔で釣っているが、ケットシーの前肢で小魚を外すのは難しいのか、釣れると孝宏に取って貰っていた。
「テオ、つれたー」
「お、上手いなルッツ」
テオとルッツも順調に釣っている。この二人に関しては、カチヤは心配していなかった。結構何事もそつなくこなすのである。
「う!」
「今? ……あ、釣れてる。凄いなシュネー」
イシュカとシュネーバルは主にシュネーバルがアタリを判断していた。その二人の隣では、ヴァルブルガが全ての釣り針に小魚を付けた竿を上げていた。意外と釣り師なのかもしれない。
お昼が近付いたので、一旦釣りを止めて貸し小屋に行く。鍵の番号と同じ小屋のドアを開けると、暖かい空気に包まれた。
「はー、暖かいねー」
鼻の頭を赤くした皆で、暖炉に手をかざす。暖炉にはお湯の沸いた鍋が炉台に乗っていたので、綺麗な桶にぬるま湯を作り、手を温めた。
「さて、お昼ご飯作るかな。炉台のお鍋を一寸どいて、小鍋に油を入れて……」
孝宏が鍋で油を温めながら、〈魔法鞄〉から紙袋を取り出す。
「この中に小麦粉と粉チーズとパセリと塩とまぜてあるんだよね。ここに水気を取った魚を入れて振って、揚げる」
油に小魚が入りシュワーと泡立つ。
「茹でた腸詰肉もあるから金串に刺して炙ろうかな」
「それは俺がやるよ」
テオが金串に数個ずつ腸詰肉を刺し、孝宏の隣で熱鉱石で炙り始める。次第に小屋の中に香ばしい香りが充満して来る。
紙を敷いた皿にこんもりと小魚が盛られ、焦げ目の付いた腸詰肉もプシプシと油を滲ませて焼き上がる。
「スープの鍋を出すぞ」
エンデュミオンが〈時空鞄〉から取り出したのは、熱々の赤いスープだった。
「ミネストローネだよ。トマトのスープ。腸詰肉はコッペパンに挟もう」
切れ目を入れた細長いパンに孝宏が腸詰肉を挟み込む。ミネストローネは持って来た木製のスープボウルにたっぷりと注ぐ。
「今日の恵みに。月の女神シルヴァーナに感謝を」
「きょうのめぐみに!」
「頂きます」
それぞれ食前の祈りを唱え、昼食となる。
「スープ温まるー」
「腸詰肉ぱりぱり。やっばり直火で焼くと違うね」
「おしゃかな、おいちー」
「味ちゃんと付いてる? あ、大丈夫だね」
「季節の味だよね、これ」
皆で会話をしながらする食事は楽しい。実家ではカチヤは食事の最中の会話には参加していなかった。
孝宏が綺麗に揚がった小魚を口に入れて言った。
「カチヤって、腕のいい猟師だよね。必ずお魚釣って来るし、獲りすぎないし」
「今は趣味なので……」
売る為に釣っていないので、コボルト達と食べる分だけ釣れれば帰って来るのだ。最近はケットシーの里の小川にも行っている。
「釣って来た魚を美味しく料理してくれるのはヒロですし」
「俺は釣れないから、料理するんだよ」
川魚は釣れる気がしないと孝宏が笑う。
「ケットシーは結構皆釣りが出来るんじゃないの? お魚食べてるよね」
「エンデュミオンは初めて釣りをしたがな」
水が苦手なエンデュミオンは、果物採取には行っても魚釣りには参加してこなかったようだ。ヴァルブルガがやたらと釣っていたのは、ケットシーの里でも釣っていたからだろう。凝り性なので、上達するまでやっていたに違いない。
「おしゃかな、しゅねーばる、もっとほしい」
「はい」
イシュカが取ってやった小魚を両前肢で持ってシュネーバルが頭から齧っている。子供用の椅子でも、シュネーバルには大きい物しか無かったので、イシュカの膝の上だ。
「シュネー、後で口の周り拭かないと」
「う?」
ミネストローネで口の周りの白い毛がオレンジ色になっている。
「食べ終わったら少し休憩して、また少し釣ろうか」
「そうだね、今日は暖かいし」
イシュカにテオが頷く。イシュカがカチヤに顔を向けた。
「カチヤ、おやつの時間には冷えて来るかな?」
「はい。大体いつもその位には帰ります」
冬のリグハーヴスは日が傾いて来ると気温が下がる。一の月に比べれば日照時間が伸びているが、夕方まで頑張るには寒いのだ。
食事の後、お茶を飲んで食休みをしてから、カチヤ達は再び釣りをした。午前中と同じ位の量を釣ったところで帰り支度をする。
「これだけあれば、里のケットシーのお土産にもなるかな」
「季節ものだから、おやつ程度あれば満足するだろう」
イシュカが小魚をエンデュミオンが家から持って来た桶に移す。
午前中に釣ったのも全部は食べていないし、保冷庫に保存しておけば何度か食べられる。食堂などに行けば小魚の揚げ物は食べられるのだが、孝宏が作る物とは味が違うのだ。
「ヘア・ヨルダン、そろそろ帰ります」
「そうかい、気を付けてな」
道具を返し、ヨルダンに挨拶をする。
「これお菓子ですけど、お茶の時間にでもどうぞ」
孝宏はパウンドケーキの包みをヨルダンに差し出した。
「こりゃあ有難う。ここじゃ保存がきく干し果物位しか置いてなくてね」
甘い物好きだったらしいヨルダンが、嬉しそうに包みを受け取る。
「また遊びに来ます」
「コボルト達にも宜しくな」
ヨルダンに手を振って、湖岸から林の中に入る。
エンデュミオンが孝宏の腕の中で顎を擦った。
「ふむ、これだけ人気がないと妖精達が遊びに来ても逆に安心なのか」
「私達がピクニックに来ても湖を独占していますね、毎回」
コボルト達と走り回っても、迷惑にはならないのだ。魔法使いコボルトに関しては、害にならない魔法の試し打ちをして遊んでいる。それをヨルダンが面白がって許してくれているのだが。
「妖精と暮らしている者達に教えてもいいかもしれないな」
「確かに穴場ですよね。あそこで網を使った漁は出来ないので、漁師は殆ど来ないんです」
漁師でも釣竿以外は禁じられているのだ。その為、魚がいるのに人気がない。カチヤが実家にいた時も自家用の魚を釣っていたのだ。
「あー、家まで持たなかった」
苦笑するテオの腕の中でルッツが寝ていた。
「ルッツは寝たか」
「シュネーも寝たよ」
イシュカが首から提げたスリングの中から、寝息が聞こえている。時間的にお昼寝の時間だ。
「では帰るか。ルッツ達に風邪を引かせてはいかんな」
エンデュミオンが鼻を鳴らし、皆の足元に銀色の転移陣が広がる。あっという間に帰宅できるのは、移動の疲労がなくて楽だ。
「ルッツ達がお昼寝から起きたら、ケットシーの里に行く? 小魚揚げておくから」
「きゅっきゅー」
「お留守番してくれてたグリューネヴァルトとミヒェルにもあげるよ」
孝宏がグリューネヴァルトの首筋を撫でる。木竜だが結構なんでも食べるのだ。
「そうだな、皆で交代で温泉に入って帰って来ようか。孝宏、マヌエルとシュトラールの分も揚げてくれ」
「勿論」
孝宏が壁のフックに自分とエンデュミオンの外套を引っ掛ける。
「カチヤも手伝ってくれる?」
「はい」
カチヤも外套を脱いで、孝宏の隣のフックに掛けた。
イシュカとテオはシュネーバルとルッツの外套を脱がせ、起こさないように座布団の上に寝かせ毛布で包んでいる。
ヴァルブルガとヨナタンは自分で外套を脱ぎ、とことことバスルームに向かって歩いて行った。手を洗いに行ったのだろう。
台所では孝宏が手を洗い、エンデュミオンが出した桶から小魚を取り出しながら、『しゃっこい!』と言っている。恐らく孝宏の国の言葉で冷たいと言う意味だろう。かなり黒森之國語を覚えてきた孝宏だが、一寸した呟きはやはり母国語なのだ。
いきなり知らない國に来て苦労していると思うのに、孝宏は荒む事もなく生きている。
どうやら元々そういう、何処かに行きやすい家系らしい。だから半ば諦めた部分があるのだろう。
「國によっては監禁されるらしいから、自由度高い黒森之國は言葉以外は不自由ないかな」と以前言っていた。おまけに、エンデュミオンが通訳出来るので助かる、と笑っていたので強いと思う。
「カチヤ、小麦粉出してくれる?」
「はい」
戸棚から、カチヤは小麦粉の入った容器を取り出す。孝宏は小魚の水気を布巾で取っていた。
「チーズ、おろしますか?」
「うん、お願い」
「エンデュミオンだと、肉球までおろしそうでな……」
「エンデュミオンは、保冷庫からパセリ出してくれない?」
「うん」
魔法は細やかに使うエンデュミオンだが、余り器用ではないのだ。幼馴染のラルスに「飴しか作るな」と叱られていた。規格外の物を作りだすかららしい。
孝宏もイシュカもテオも、話を聞けば色々と苦労を重ねていた。でも揃って口にするのは「今が良いから」なのだ。
だからカチヤもそう思う事にしている。イシュカの徒弟になって、北方コボルトの可愛いヨナタンが憑いた。同居人もリグハーヴスの街で会う人々も良い人達だ。もう滅多に実家に居た頃を思い出したりはしない。
今が良いから、幸せなのだ。
元猟師のカチヤ、実は結構稼いでいました(カチヤにお金は入って来ないけど)。
元猟師なので意外と隠密スキルとか持っているかもしれないです。
お肉の解体とかも出来るんですよ。カチヤは出来る子なのです。
カチヤはヨナタン以外のコボルトとも仲良しなので、ぞろぞろと一緒に湖に遊びに行っていたりします。ヨルダンはカチヤとコボルトが遊んでいるのを見守ってくれています。
ルッツとシュネーバルは時間が来るとお昼寝体勢に入ってしまう傾向にあります。抱っこされている状態だと、危険地帯以外ではほぼ寝ます。腹時計も結構正確。