ギルベルトのお福分け
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
ケットシー的お中元。
198ギルベルトのお福分け
何となく台所横のドアが叩かれた気がして、孝宏は「はい?」と返事をした。
一階の台所のドアは裏庭に繋がっている。裏庭はエンデュミオンの許可がないと入れないので、裏から直接こられる人や妖精は限られている。
「ギルベルトだ」
「はーい、今開けるね」
訪れたのは元王様ケットシーのギルベルトだった。孝宏がドアを開けると、そこには立派な大きさをした楕円形のスイカを抱えたギルベルトが居た。
「おはよう、ギル」
「おはよう、ヒロ。ケットシーの里に行ったらスイカが豊作だったらしくて、沢山持たされた。これは皆で食べてくれ」
「スイカも作ってるんだ。有難う、おやつに頂くよ」
ケットシーは森に生っている実りを収穫するが、自分達で畑も作っている。
「これから他の所にも配ってくる。ビーネを送っていくから、アルフォンスにもやろう。ではな」
「有難う、気を付けてね」
〈転移〉していくギルベルトに手を振って見送り、孝宏は台所に戻った。
ビーネは〈針と紡糸〉で預かっている、オレンジ色に見える明るい茶色の幼いケットシーだ。主は領主の息子ヴォルフラムなのだが、仕立屋のマリアンにとても懐いていて、領主館にはほぼ毎日通っているのだ。
ギルベルトの事だから、ビーネを領主館に送った時に、執事のクラウスか直接アルフォンス・リグハーヴス公爵に手渡すのだろう。
(ケットシーからのお中元かな)
ずしりと重いスイカをどうやって冷やそうかと考える。
「孝宏、今ギルベルトが来なかったか?」
「来たよ。里でスイカを沢山貰ったからって、持ってきてくれたんだ」
店から中に入ってきたエンデュミオンに、抱えていたスイカを見せる。鮮やかな緑と黒の縞模様のスイカから、青い匂いがする。採り立てなのだろう。
「どこで冷やそうか」
「温室の泉に浮かべて来るか」
「そうだね、流れていかないし」
孝宏はエンデュミオンと温室に行き、泉にスイカを浮かべた。
実はこの泉はケットシーの里の奥にある〈精霊の泉〉の水を引いているのだが、エンデュミオンが口外していないので、孝宏がヤカンで汲んだり、ラルスが毎日薬草茶を作る為に汲みに来る他は、温室で遊ぶ妖精達の水飲み場になっているだけだったりする。
ちなみに〈精霊の泉〉は、煎じる薬草の効果を高め、水単体でも滋養があるとされ、発見されると領主の名をもって保護保存される場所である。
本来、スイカを冷やす場所ではない筈なのだが、気にしないエンデュミオンと知らない孝宏だった。
「スイカを貰ったの?」
昼食後のおやつに孝宏が温室からスイカを抱えてきたのを見て、イシュカが嬉しそうな顔になった。
「うん、ギルがくれた。ケットシーの里で沢山採れたんだって」
「そろそろ季節だなって、この間言っていたんだ」
イシュカはスイカが好きらしく、夏になると市場で買って来ていた。
「スイカと言うと」と、エンデュミオンがふうと溜め息を吐いた。
「子供の頃上手く食べられなくて、果汁だらけになったものだ。毎回ラルスと一緒にギルベルトに温泉で洗われた」
「まー、毛に付いちゃったら洗うしかないよね。ベタベタになるもん」
沢山水がある場所が苦手なエンデュミオンには、一寸苦い思い出なのだ。
「やっぱりあらかじめルッツ達の服脱いでもらう?」
「汚すからな」
汁気の多い果物を食べる時、エンデュミオン達は服を脱ぐのだ。直ぐに身体を洗えるように。
「どうやって食べる? 汚さないように一口大に切っても良いけど」
「エンデュミオンやヴァルブルガはそっちの方が良いな。ルッツ達は齧りつく方が好きだぞ」
「だよねー」
三角形や三日月型に切ったスイカに齧りつくのは、子供の憧れだろう。
サクリサクリとスイカを食べやすい大きさに切り分け、年少組の為の皮付きスイカと、大人組の一口大のスイカをそれぞれ皿に盛る。
「おやつだよー」
「あいっ」
「うー」
「……」
居間でテオに本を読んで貰っていたルッツとシュネーバルとヨナタンが、台所に駆けてくる。準備良く、服を既に脱がせて貰っていた。
「アハトはスイカジュースだよ」
「に!」
スイカを絞り汁を詰めた哺乳瓶の吸い口を孝宏はアハトの口に入れてやる。
膝の上にアハトを座らせてスイカジュースを飲ませながら、孝宏はテーブルを眺める。
子供用の椅子によじ登って座った年少組は、早速皮付きのスイカを取って貰っていた。エンデュミオンとヴァルブルガはフォークで一口大のスイカを刺している。
「にゃんにゃー」
「んっんー」
「……」
ルッツ達は爪の先でスイカの種を、うきうきと楽しそうにほじくり出している。
孝宏は子供の頃を思い出し、懐かしくなった。
「俺も子供の頃、皮付きスイカにしてもらって、スプーンでトンネル掘ったりしたなあ」
「……孝宏」
エンデュミオンにポンと腕を叩かれた。何故かヴァルブルガにまで慈愛に満ちた眼差しを向けられている。
「ん? あっ」
年少組が揃って「トンネル?」ときらきらした顔を孝宏に向けていた。イシュカとテオ、カチヤが「あーあ」と言う表情になっている。
「しまった……」
今まで普通にスイカを食べていたのに、孝宏はトンネルが掘れる事を教えてしまったのだ。
「くっ、知ってしまったからには仕方がない」
悪大官のような台詞を吐いて、孝宏はカトラリーが入っている引き出しに手を伸ばし、スプーンを三本取り出してルッツ達に渡した。もはや渡す以外ない。
「アハト、哺乳瓶持てる?」
「に」
アハトに自分で哺乳瓶を持ってもらい、孝宏は皮付きスイカを一つ取り、スプーンを刺してぐるりと実を回し取る。
「こうすると綺麗に穴が開くんだよ」
「にゃー!」
「うー!」
「……!」
年少組に衝撃が走った。自分達のスイカに向き直り、猛然と穴を開け始める。スプーンを刺すごとにスイカの汁が毛に飛んでいるが気にしない。目の前の楽しい事が優先だ。
「俺、変な事で尊敬されそう」
「あんまり楽しんで食べるって事がないからな」
掘ったスイカを食べて口の回りの毛をピンクにしたシュネーバルの頭を、イシュカが指先で撫でる。
イシュカ自身、余裕のある食事が出来るようになったのは、孝宏達と暮らし始めてからだ。
「うー」
シュネーバルはスイカに開いた穴に前肢を突っ込んで開通宣言をしてから、回りを崩して食べていた。確実に後で風呂だ。
「おいしーねー」
「……」
ルッツもヨナタンも、口の回りや胸の毛をペソペソに濡らしながらスイカを食べている。
「スイカは水分多いから、熱中症予防にも良いんだよ。塩振ったりするのも熱中症予防になるんだ」
「だからなのかな、〈暁の砂漠〉には年中スイカあるんだよね。塩振るのはあんまり好きじゃないんだけど」
指先で種を取ったスイカを、テオがぱくりと口に入れる。
「うん、このスイカ美味しいな」
「ケットシーの里で沢山採れたんだって。知り合いに配るってギルが言ってたよ」
「知り合いって、妖精と契約している人って事?」
「そうなるのかな。ヘア・エッカルトやヘア・アロイスの所にも届けてそうだけど。領主様の所にも配ってくるって言ってたよ」
「領主様にスイカ……」
テオもギルベルトが直接アルフォンス・リグハーヴス公爵にスイカを届ける姿を想像したらしい。ギルベルトならやりかねない。
「これだけ旨ければ文句ないだろう」
エンデュミオンがフォークを一口大のスイカに突き立てる。
「そうなんだけどね」
公爵に「スイカが沢山採れたから分けに来た」と堂々と言えるのは、ギルベルト位だろう。一応、公爵は各領で一番偉い人なのだが、元王様ケットシーのギルベルトも公爵相当として扱われる。
ギルベルト的には「色々世話を掛けているから、美味しいものを食べさせてやろう」程度にしか思ってなさそうだが。
「エンデュミオンもアルフォンスに精霊水の一樽でも持っていくか」
「言っておくけど、その精霊水の出所が温室だって言ったら駄目だからな、エンデュミオン。単位が一樽って言うのも本来おかしいし」
「そうか? ふむ、〈黒き森〉の奥から採取したと言おう」
〈暁の砂漠〉の族長のオアシスで〈精霊の泉〉を管理している一族であるテオに釘を刺され、エンデュミオンが頷く。
リグハーヴス領内でも、〈黒き森〉の奥地の〈精霊の泉〉を管理するような事は、アルフォンス・リグハーヴスはやらないだろう。妖精や精霊の棲み処を荒らしてしまうからだ。
無茶な開拓をしないので、リグハーヴス公爵家は妖精や精霊に好かれている。
「ごちそうさま!」
「はい、皆お風呂行くよー」
年少組がこぞってイシュカとテオとカチヤに、バスルームへと連れていかれる。
「孝宏、エンデュミオンはアルフォンスの所へ精霊水を届けに行ってくる」
「お茶請けに俺のクッキーも持っていく? ヘア・イェレミアスの美味しいお菓子食べ慣れているだろうけど」
「孝宏のクッキーは別腹じゃないかと思うぞ」
「そうかな」
孝宏は蝋紙にクッキーを並べて包み、緑色のリボンを掛けて、エンデュミオンに渡す。エンデュミオンはそれを〈時空鞄〉にしまった。
「では行ってくる」
エンデュミオンはまず温室に〈転移〉し、精霊水を小樽に詰めてこれまた〈時空鞄〉へ納めた。
「よっと」
一跳びでエンデュミオンは領主館に〈転移〉した。
執事のクラウスの近くを選んだのは、一日二回もケットシーの直撃を受けるのはアルフォンスも可哀想かなと配慮してみた結果だ。
クラウスはエンデュミオンが目の前に現れても、表情を変えなかった。彼が元騎士であり、かなり強いのだとエンデュミオンも知っている。姿勢の良い身体のあちこちに暗器を仕込んであるのも、ケットシーの鼻で解る。結論として、クラウスはからかってはいけない性質の人だ。
「やあ、クラウス」
「これは、エンデュミオン。どうなさいました?」
「いつもアルフォンスには迷惑を掛けているからな。精霊水を持ってきたんだ」
「……どうぞ、こちらに」
何故か、一瞬間があった。
クラウスは執務室の近くの廊下にいたので、直ぐにアルフォンスの前に案内されてしまった。受け取ってくれるのなら、クラウスに渡しても良かったのだが。
「御前、エンデュミオンがいらっしゃいました」
「エンデュミオン!? 朝にはギルベルトが来たし、何かあったのか!?」
執務机に向かっていたアルフォンスが、万年筆を握ったまま勢い良く振り返った。
「いや、何も起きていないのだが」
顔を見せただけで災害でも起きたかのような対応をされるのは何故だ。
解せぬ、と思いつつエンデュミオンは応接用のテーブルの上に精霊水の小樽を〈時空鞄〉から出して置いた。
「精霊水を持ってきたんだ。お茶でも淹れて飲むと良い。孝宏のクッキーとラルスの香草茶も置いていく」
ラルスの香草茶は買い置きを〈時空鞄〉に入れておいたものだ。お湯を注ぐと青く抽出される香草豆で、レモン風味の香草と調合してあり飲みやすくなっている逸品だ。夏には涼しげだろう。
「……待て待て、エンデュミオン」
「何だ?」
アルフォンスが執務机に肘をついて額を押さえていた。
「どこの精霊水だ」
「〈黒き森〉に〈精霊の泉〉があるんだ」
「と言う事にしておけと?」
「いや、本当にあるんだ」
支流がエンデュミオンの温室にあるだけで。
「エンデュミオンが精霊水を扱っているとはギルド長達から聞いてはいたが、樽単位で持ってくるとはな」
「だって瓶だとすぐになくなるだろう。腐るものじゃないし」
「王都でこれが幾らで取り引きされているか知っているのか?」
アルフォンスの問いに、エンデュミオンは鼻を鳴らした。
「ふん。精霊水は金儲けする物ではない。必要な者が必要なだけ使えば良いのだ。大体、ギルベルトが持ってきたスイカだって、精霊水で育てられているのだぞ」
「何!?」
「ケットシーの里で常飲しているのが精霊水なんだ。スイカは滋養に良いから食べろ。ギルベルトの事だから、ここの皆に足りるだけ置いていったんだろう?」
きっと何玉も置いていったに違いないと言えば、その通りだった。
「ああ。全くお前達は常識外れな事ばかりするな」
「いや、本人は常識があると思っているのだ」
「それは何処の常識だ……」
胸を張ったエンデュミオンは、ますますアルフォンスを悩ませただけだった。
「そう言えば、大工のクルトに北方コボルトのメテオールが憑いたのは聞いたか?」
「同行した魔法使いヨルンがハイエルンに連絡している。商業ギルドと木工ギルドからも報告を受けているぞ」
「なら良い。グラッフェンの家族だから気になっただけだ。その内クヌートとクーデルカが遊びに連れてくるんじゃないか?」
領主館の中庭は、南方コボルト兄弟のクヌートとクーデルカの遊び場になっているのだ。
「いつでも遊びに来ると良い。クヌートとクーデルカはヴォルフラムとビーネとも遊んでいるようだしな」
「うむ、伝えておく。……疲れているようだな、アルフォンス」
多少なりとも迷惑を掛けている自覚はあるエンデュミオンである。
今日のアルフォンスは豊かな銀髪にいつもより張りがないし、紫色の目の下にうっすらと隈があった。美男子なのに勿体無い。
アルフォンスは手入れされた指先で目頭を揉んだ。
「昨日まで王都で領主会議があってな。リグハーヴスに比べて王都は暑くて良く眠れなかったのだ。その疲れがまだ残っていてな」
もしかしてギルベルトは寝室に突撃したのだろうか。まさかそんな事はないと思うのだが。
「クラウス、アルフォンスに精霊水で香草茶を淹れてやってくれ。薬草茶程ではないが効果が上がるから。それから、アルフォンスとクラウスはスープを作れるか?」
アルフォンスとクラウスは顔を見合わせた。
「私達は学院の騎士科に行ったから、野営料理程度なら出来るが」
「じゃあ大丈夫だな」
「何がだ?」
「近いうちに温泉に連れていってやろう。ケットシーと混浴だがな」
「はあ!?」
「リグハーヴス公爵家は妖精に好かれているから呪われないぞ。日取りが決まったら知らせる。ではな」
ポンッと音を立てて、エンデュミオンは〈転移〉した。
後にはエンデュミオンが置いていったお土産が、テーブルの上にあるばかりだ。
「……クラウス」
「はい、御前」
「温泉って何処のだ?」
「ケットシーと混浴と言っていましたね。もしかするとケットシーの里かもしれません。エンデュミオンの温室から行けますから」
「少しばかり私の信用度が上がったと言う事なのか?」
「恐らくは」
エンデュミオンは温室を作った時、大魔法使いフィリーネに視察をさせた。
アルフォンスは温室の季節と広さがおかしい事と、温室の奥がケットシーの里に繋がっている事は聞いていた。それもエンデュミオンではなく、ギルベルトが繋げてしまったのだと。
エンデュミオンは温室のある裏庭へ入れる者を限定したので、例え領主であるアルフォンスでも勝手に入れない。
ケットシー達の大切な里に招かれるのは、自分達の害にならない者だと認められたからに他ならない。
エンデュミオンは元森林族の大魔法使いだ。人と言うものを知っている分、時間を掛けてアルフォンスと言う人間を見極めていったのだろう。
「クラウス、お茶を──エンデュミオンが持ってきてくれた物を淹れてくれ」
「はい。ヘア・ヒロの焼き菓子もお付けしましょう」
「頼む」
アルフォンスは執務机の椅子から立ち上がり、ソファーにどさりと腰を落とした。だらしがないが、クッションを枕に横になる。
普段涼しいリグハーヴスに暮らすアルフォンスには、王都の夏は暑すぎた。身体のだるさが抜けきらない。
「御前、ここでお休みになっては風邪を召されます」
「うん……」
クラウスの声に緩慢な動作で起き上がる。
「精霊水で香草茶を淹れました」
いつの間にかテーブルの上にあった小樽がなくなっていた。クラウスが奥に運んだらしい。
そっとテーブルの上に、白地に青い染め付けの茶碗が置かれた。持ち手のない倭之國からの輸入品だ。揃いの陶器の皿の上に乗っていて、皿の端には色の濃いクッキーが二枚添えられていた。
「何の味だ?」
「さあ、何でございましょう」
クッキーは一枚がオレンジ色が強く、もう一枚は濃い茶色で白っぽい筋が幾つも見える。
かしりと歯を立ててみると、オレンジ色のはチーズ味だった。塩味がおつまみにもなりそうだ。
青い色の香草茶は微かに豆の風味と、レモンの味と香りもする。小皿で出されたレモンジャムを足すと、香草茶の色が赤紫色に変わる不思議なお茶でもある。
もう一つの茶色いクッキーは、アーモンドの薄切りがぎっしり練り込まれたココア味だった。甘く、ほろ苦い。
ほう、とアルフォンスは息を吐いた。茶碗を持つ掌から温もりが伝わってきて心地よい。小さく欠伸が漏れる。
「御前、少しお休みになられたら如何ですか? 決裁は先程の物で全部です」
「そうか。ならば少し寝室へ行く。今なら寝られそうだ」
「お支度致しましょう」
アルフォンスの寝支度を整え寝室から出たクラウスは、胸元から黒い革表紙の手帳を取り出した。アルフォンスの食事や服装についての備忘録としている物だ。
万年筆でエンデュミオンが持ってきた物を記し、トンとペン先で紙面を叩く。
「精霊水と香草茶を継続して入手出来れば良いのだが……」
アルフォンスは不眠ぎみなのだ。現王妃の実兄であり、王の庶子の養父として、王都では気を抜けない。
リグハーヴス領内に、〈異界渡り〉と元大魔法使いと元王様ケットシーが揃っている事もあり、他領からのやっかみもない訳ではない。
〈暁の砂漠〉族長とヴァイツェア公爵とは、継承者がリグハーヴスに居る事もあり、友好的な付き合いを約束している。
そしてどうやら、ケットシー達はアルフォンスを認めたらしい。
妖精犬風邪が流行った折りの、薬草収集のお礼も加味されていそうだ。
妖精は害意を決して忘れないが、好意も忘れないのだ。
「さて、どうしようか」
エンデュミオンがくれたのは、処方の要る薬草茶ではなく、誰でも買える香草茶だった。
香草茶は〈薬草と飴玉〉に頼めば調合して貰えるからよしとして、精霊水だ。流石に〈黒き森〉の奥まで汲みにはいけない。
「必要ならくれるのか……?」
独り言ち、クラウスは手帳をぱたりと閉じたのだった。
一応、エンデュミオンもギルベルトも、アルフォンスに世話掛けてると思っているんです。
なんやかんややらかした後、王都で説明してくれているのはアルフォンスなので。
(喚びだされても良いけど、呪うよ?って感じになるだろうと、アルフォンスは思っています)
ギルベルトは結構な数のスイカを貰って来ていました。
エッカルトは鍛冶屋さん。アロイスは肉屋さん。両方採掘族のひと。
カール(パン屋)、クルト(家具大工)、クレスツェンツ(杖職人)、ベネディクトとイージドール(司祭)、スヴェンとザシャ(召喚師)、オイゲン(靴屋)、クヌートとクーデルカ辺りには直接持って行っているかと思われます。
教会と領主館には人数が多いので、沢山置いて行ったに違いありません。




