〈氷祭〉と聖女
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
再び聖女様がやって来ます。
165〈氷祭〉と聖女
聖女フロレンツィアの毎晩の楽しみは、就寝前の深夜の祈りの後の読書だ。貸し出し期間が終わると、また〈Langue de chat〉から次の本が聖堂の地下にある〈転移陣〉を通して送られてくる。
今読んでいるのは〈月下の剣〉と言う宵闇色の表紙の本の最新刊で、敵の策略により離れ離れになっている騎士ランプレヒトと傭兵イェルクがもう少しで再会しそうだった。
ベッドに入りわくわくしながら、側仕えの修道女エルネスタがケットシーの刺繍をしてくれた栞が挟まっている本の頁を開く。と、そこで寝室の扉が叩かれた。
(これからと言う時に!)
腹立たしいがフロレンツィアは溜め息を吐いて本を閉じた。
「どうぞ」
「お休みの所申し訳ありません、聖女様」
随分と急いでいるのか、やって来た修道女長ザビーネが淡い紫色のガウン姿だった。華美な色でなければ、修道女とはいえガウンの色は問われないのだ。
「どうしました?」
「天体観測所のフェーンから、リグハーヴスに祝福の光が降ったと報告がありました。まだ降り続けています」
「失礼致します。こちらを」
寝台の下りている薄布の間から、エルネスタが両掌に乗る大きさの透明の球体魔石を差し入れてきた。これは、天体観測所にある遠見の魔石で、リグハーヴス地方の物らしい。
「まあ……」
球体魔石の中には、囲壁に囲まれたリグハーヴスの街が映し出されていた。一番外側の囲壁は丘の上の領主館を含めてぐるりと囲んでいるが、囲壁外の村なども含めて藍色の空から銀色の光の粒が降り注いでいた。
「ここまで広範囲となると、一体何をしたのかしら」
月の女神シルヴァーナか、彼女に関わるものに何かをしなければ、こんな事にはなるまい。
リグハーヴスは冒険者も多い領なので、現実的なところもある。〈黒き森〉が近い為、豪商の類いもない。そもそも、月の女神シルヴァーナは多額の寄進をしたとしても、祝福の光を降らせたりしない。
「祝福の光ですから、悪い事ではないでしょう。朝一番にリグハーヴス女神教会の司祭ベネディクトに精霊便を送って下さい」
「承知致しました」
球体魔石をエルネスタに戻し、彼女達が寝室を出ていくのを見送る。
(リグハーヴスですものね……)
真っ先にあの鯖虎柄のケットシーの顔が思い浮かぶ。何かをやるのならば、彼等の様な気がした。
翌日、ベネディクトからの返信には、最近の事として妖精犬風邪が流行した事以外変わった出来事はないと記されていた。
祝福の光が降った以上そんな筈はないのだが、ベネディクトが知らないだけかもしれない。そもそも、一般的な住人は就寝している時間だし、冬場は厳寒期になるリグハーヴスで真夜中に空を見ている者などほぼ皆無だろう。つまり、リグハーヴスで祝福の光を見ている者は居ないのだ。
そう、リグハーヴスでなら災害が起きない限り、住人は騒いだりしない。そう言う風土なのだ。
フロレンツィアの元に「リグハーヴスに女神様が降臨された」との知らせが入ったのは、それから約一週間後の事だった。
ハタハタハタ。
脇腹に感じるくすぐったさでイシュカは目を覚ました。手を伸ばすと芯があるがふわふわした物で叩かれるので、布団の中をそっと覗き込む。
「……」
ヴァルブルガのふかふかの腹毛に抱き付いて、シュネーバルが眠っていた。プスープスーと気持ち良さそうな寝息を立てている。
〈氷祭〉の前夜祭で迷子になり、こっぴどく叱られたシュネーバルだったが、〈Langue de chat〉に帰ってからヴァルブルガは強く怒りすぎたと逆に落ち込んだ。
そこで反省したヴァルブルガは、そんなにふかふかが好きなら今晩は一緒に寝ようとシュネーバルに申し出たのだ。
ヴァルブルガの体毛は細かくて密集しているので、肌触りがとても良いのだ。掌を乗せると指が埋まる位の毛足もある。滑らかでもふもふ、それがヴァルブルガの毛並みだった。
お風呂に入り身体を乾かしたシュネーバルは「シュネー、お休みー」と孝宏に送られてイシュカの部屋へ来た。ドアが開いている時はベッドに登って遊んでいる時もあるので、慣れた様子でベッドカバーの上を歩いて、枕元から掛け布団の下に潜り込んできた。
「はい、お休みシュネーバル」
ヴァルブルガがシュネーバルを抱き寄せる。
「……!」
途端にシュネーバルの顔がぱあっと輝いた。すりすりとヴァルブルガの腹毛に顔を擦り付けうっとりしている。
エンデュミオンは艶々系の毛質でも、腹毛はふかふかしていた筈だが、ヴァルブルガとは感触が異なる。
シュネーバルはそれぞれ堪能しているらしい。何となくヴァルブルガの負けず嫌いさを垣間見た気がするイシュカだった。
昨夜はそのまま明かりを消して寝たのだが、朝までそのままで寝ているとは思わなかった。
きっとシュネーバルは親の温もりの様なものをケットシー達から受け取っているのだろう。
プスープスーと呼吸する度に少し肉付きが良くなり始めたお腹が上下するのが可愛い。
まだ窓の外は暗く、起きる時間には少し早い。
〈氷祭〉は盛況で、座って休める〈Langue de chat〉にも観光客が訪れていた。商業ギルドは他領にも〈氷祭〉の案内を出したらしい。
司祭イージドールの予想通り、エンデュミオンの作った氷像の月の女神シルヴァーナには、どこから話が伝わったのか巡礼者が訪れていた。リグハーヴス女神教会に巡礼に来たついでと言えばついでなのだが、冬の巡礼にしては数が多い。
これではその内聖都にも伝わりそうだ。エンデュミオンが作った物で奇跡ではないのだから、わざわざ確認に来たりはしないだろうが……。
フーン、とシュネーバルが鼻を鳴らしてもぞもぞと動き出した。トイレに行きたくなったのだろう。
「おいで、シュネー」
イシュカは寝惚け眼のシュネーバルを抱き上げて、バスルームへと急ぐのだった。
「聖女様、堂々とされれば宜しいのでは?」
「何を言うのです。皆が楽しんでいる時に〈聖女〉が出ていっては邪魔をしてしまうではありませんか」
「そうですがのう、そのお姿ですから大丈夫でしょうて」
フロレンツィアにエルネスタとユルゲンが取り成す。現在フロレンツィアは一般の修道女が着る紺色の修道服とベールを着ていた。
聖堂の地下からリグハーヴスの魔法使いギルドの〈転移陣〉に〈転移〉し、女神教会まで移動する道中だ。
そもそも聖女フロレンツィアの姿は余り公にはされていない。以前リグハーヴスに来た事があるとはいえ短時間だったので、今も通りすがりの者達に、会釈はされても話し掛けはされなかった。
「騎士団の裏手で〈氷祭〉がされているそうですよ」
人の流れがそちらへと続いている。
「まずは司祭ベネディクトにお話を聞いてみましょう」
「そうですなあ」
楽しげに老司祭ユルゲンが長い眉毛をハの字に下げる。彼はこういったお祭りが好きなのだ。
事前に精霊便を送っていたので、聖堂に隣接している神父達の居住区で司祭ベネディクトが待っていた。
応接室に案内してくれたのは背の高い蜜蝋色の髪の青年だった。その特徴から〈暁の砂漠〉の民だと解る。
「司祭イージドールと申します」
「しゅゔぁるちゅしると!」
軽く頭を下げたイージドールの頭巾のフードから、黒いケットシーがぴょこんと顔を出した。
「えっ!?」
「以前聖女様がいらした時にはリグハーヴスに居なかった子です。あの時よりケットシーもコボルトも増えていますよ」
「いーじゅ」
肩に前肢を掛け、シュヴァルツシルトがイージドールに頬擦りする。とても可愛がられているのだろう。
応接室に案内した後でも、イージドールは慣れた手付きでお茶を淹れて配り終えてから、ベネディクトの隣に腰を下ろした。シュヴァルツシルトはするするとフードから下りてきてイージドールの膝に座る。
「リグハーヴスに女神様が降臨したと聖都に連絡があったと聞きましたが」
「ええ。実はその数日前にリグハーヴスに祝福の光が降ったのはご存知ですか?」
それぞれを聖都が把握した日付を確認して、イージドールがシュヴァルツシルトを見下ろした。
「?」
視線に気付いたシュヴァルツシルトがくりっとイージドールを見上げる。
「エンデュミオンを喚んでもらっても良いかな? シュヴァルツ」
「あい! えんでゅみおん!」
ポンッと弾ける音と共に応接室にエンデュミオンが現れた。〈Langue de chat〉のお仕着せを着ているので、仕事中だった様だ。
「どうした? シュヴァルツシルト。ん? フロレンツィアか? 何故ここに?」
「まあ、こっちに座って下さい」
イージドールはベネディクトとの間にエンデュミオンを座らせ、手を付けていなかった自分の湯気の立つカップにたっぷりミルクを注いで差し出す。それを受け取り、エンデュミオンは黄緑色の大きな瞳をぱちぱちと瞬きさせた。
「エンデュミオン、一週間程前にリグハーヴスに深夜、祝福の光が降ったのをご存知ですか?」
「生憎深夜は寝ているぞ。何かあれば起きるが、特にうちの近所では何も……一週間前?」
「何か心当たりが?」
フロレンツィア達が思わず身を乗り出す。
ちゃむ、とミルクティーを一舐めし、エンデュミオンの視線が泳いだ。
「……あれか?」
「あれとは?」
「少し前にリグハーヴスに妖精犬風邪が流行ったんだ。それは知っているか?」
「はい、ブラザー・ベネディクトから聞き及んでおります」
フロレンツィア達は頷いた。
「その時に特効薬のカモミールをケットシーの里のケットシーに集めて貰ったのだ。リグハーヴスの患者に足りなくなりそうだったからな。それをアルフォンスが知って、ケットシー達にお礼がしたいと言ってきてな」
「アルフォンス・リグハーヴス公爵が? 何を贈ったのですか?」
「新年祝賀会で飲んだ物が美味しかったから、金色の林檎ジュースと木の実の飴がけ、花の形の飴細工と果物の砂糖漬けだ。多分、それをケットシーの里に届けた晩じゃないかと思う」
「何故、そうだと?」
「宴会をしたんだろう」
「え、宴会?」
フロレンツィア達は呆気に取られてしまった。
「嬉しい事があればケットシーも宴会をするぞ。既にカモミールを集めてくれた対価は払っていたんだが、アルフォンスはそれとは別に領主としてお礼をしてくれたんだ。それが嬉しかったんだろう」
「それで祝福を?」
「ケットシー達がいるのは〈黒き森〉だが、リグハーヴス領だからな。領主に大切にされれば嬉しいし、祝福位するぞ」
それだけの事だと言って、エンデュミオンはミルクティーを舐めた。ケットシーの祝福はほんの少し幸運を上げる効果がある。細やかなものなのだ。
「もう一つ、女神様が降臨されたと聞いたのですが」
「いや、降臨してないぞ?」
「それエンデュミオンが作った氷像の事じゃないかと思うんですけど」
シュヴァルツシルトにミルクティーを舐めさせながら、イージドールが指摘する。
「氷像?」
「〈氷祭〉にエンデュミオンが作った物です。素晴らしい出来で、皆お祈りしていかれるんです。それが巡礼者にも伝わったらしくて、教会への礼拝の後で氷像の方へも礼拝されておられますね」
ベネディクトが捕捉する。
「あれは普通の氷像じゃないのか? エンデュミオンは普通だと思う」
「直視出来ない位神々しいのは、普通じゃありません」
「えー」
子供っぽく不服そうにエンデュミオンが鼻の頭に皺を寄せる。裁縫等は出来ないらしいのだが、出来る事に関してはやたらと技量が高いのがエンデュミオンだ。
「気になるなら氷像を見に連れていって貰うといい。エンデュミオンはそろそろ孝宏の所に戻るぞ」
「御足労有難うございました。後程〈Langue de chat〉に寄っても宜しいですか?」
「好きにするといい。客なら歓迎するぞ。お茶をご馳走さま」
律儀にお茶のお礼を言って、エンデュミオンは帰っていった。
「こう言ってはなんですが、随分ときさくに喚び出しに応じるのですね」
「相手にもよるかと」
妖精と言うものは、幼い同胞を可愛がる。イージドールが喚んでも来てくれただろうが、機嫌良く来て貰う為にシュヴァルツシルトに頼んだのだ。そして応えてくれたお礼にお茶を出した。恐らく、〈暁の砂漠〉の民の方が、妖精の扱いについて熟知しているのではないだろうか。
(まあ、それをいちいち他領に教えたりしないんだけどね)
フロレンツィアもエルネスタもユルゲンもエンデュミオンに気に入られている様だ。シュヴァルツシルトも機嫌が良いので、〈暁の砂漠〉の民であるイージドールに偏見もないらしい。
「では〈氷祭〉をご案内致しましょう。屋台も出ていますから、ご興味がありましたら」
「まあ、それは是非」
ベネディクトの誘いにフロレンツィアは微笑む。リグハーヴスの食事が美味しいのは、前回訪れた時に実感している。
「今時期だとグリューワインが出ておりますかな?」
ユルゲンが節が目立つ手で、杯を呷る仕草をする。
「ええ。とても美味しい物を、領主様が振る舞って下さっていますよ」
月の女神教会に仕える者には、食べ物に対しての制約はない。嗜好品も堕落しない量を程々に、と言う感じだ。その為、酒を嗜む者は夕食時や祭の時には少量を飲む事を許される。
「まあ、凄い」
〈氷祭〉の会場である騎士団の訓練場は、氷像を見に来た客で賑わっていた。昼前の屋台も買い求める客に備えているのか、美味しそうな香りがフロレンツィアの元まで届いていた。
「まずは女神様の氷像をご覧になりますか?」
ベネディクトが先に立って歩く。
「ええ。それにしても、他の氷像も素晴らしいですわね」
「元々は騎士団長ヘア・マインラートの治療の為だったそうですよ。魔力過多だったそうで、それならば氷像を作って魔力を解放すればよいのではないかとヘア・ヒロが提案したそうです」
「まあ……」
今まで魔力過多と言えば空魔石で吸収するか、魔力を溜め込むかのどちらかだった筈だ。暴走すると危険だと、離れ等に住まわされる者もいると言う。
月の女神像は会場の真ん中にある。その像の回りはきらきらと輝いていた。
「何て美しい……光っているのは光の精霊でしょうか?」
「直視出来んわい」
「眩しいです……」
眩しいのは半分は、効果を出している光の精霊の仕業なのだが、氷像自体が確かに美しいのだ。
「エンデュミオンが氷像を作った時からいるんですよ。灯明の代わりにもなってくれています」
「精霊へのお礼は菓子で良いのですよ」
イージドールが修道服のポケットから飴玉の入った硝子瓶を出してフロレンツィア達に見せる。
「精霊に菓子、ですか?」
「妖精でもそうですが、お礼に菓子を渡すと機嫌良く頼み事をしてくれます」
イージドールは〈暁の砂漠〉でティルピッツとレヴィンと暮らしていた経験があるので、それを知っていた。
「きらきらー」
「本当にきらきらだね、シュヴァルツ」
光の精霊はお祈りに来た人達に光の粒を降らせていた。
順番を待ち、フロレンツィア達も氷像の女神に祈りを捧げる。光の精霊が誰彼構わず光を降らせているので、フロレンツィアが祈りを捧げても目立ったりしなかった。彼女が祈ると毎回銀色の光が降り注いでしまうのだ。
「テオフィル」
「イーズ。せ……」
両腕にルッツとシュネーバルを抱いたテオが通りがかり、イージドールが声を掛けた。テオはイージドールとベネディクトが連れているフロレンツィア達を見て開き掛けた口を閉じた。流石に人が多い場所で聖女呼びはまずいと判断したのだろう。
「あ、じーちゃん!」
ただし、ルッツはユルゲンに前肢を振ったが。
「久し振りだの、ルッツ坊や。隣の子は何と言う名かのう」
「シュネーバルだよ」
「ほうほう、白いコボルトか」
ユルゲンはルッツとシュネーバルの頭を撫でた。紅茶色の瞳を細め、シュネーバルが尻尾を振る。
「昔の書物に白いコボルトが聖都の女神教会に召し上げられた話があったがのう、儂は初めて見たのう」
「存じませんでしたわ。この子はまだ子供ですわね」
「シュヴァルツシルトと同じ位だそうです。エンデュミオンとヴァルブルガが育てるのを楽しみにしているので、どんな子に育つのか解りませんけど。な? シュネー」
「……!」
しゅっとシュネーバルが右前肢を挙げた。
「……テオフィル、それ本当かい?」
顔色を変えたイージドールに、テオは肩を竦める。
「だってそもそもシュネーバルは独立妖精だから、やりたい事しかやらないよ」
「それで親代わりにエンデュミオンとヴァルブルガか」
「孝宏とイシュカも親だと思っているんじゃないかな」
ぶんぶんとシュネーバルの尻尾が振られる。喋るより雄弁だ。
フロレンツィアが額を押さえた。
「何だかヘア・ヒロに聞かねばならない事が出来ましたわ……」
「シュネーバルが来たのは偶然なんですけどね」
テオは笑ってルッツとシュネーバルを抱き直す。にゃーと声を上げ、二人がテオの外套にしがみついた。
「折角いらしたんですから、〈氷祭〉を楽しまれるのが良いですよ。それじゃ俺達は〈Langue de chat〉に帰ります」
「もう帰るのかい?」
「朝から来て奥にある氷の滑り台で遊んでたんだよ。この子達にお昼ご飯食べさせなきゃ」
「ごはーん」
「……」
ぐぅーとルッツとシュネーバルのお腹が鳴る。
「それじゃあ」
軽く会釈をしてテオがフロレンツィアに背を向け、訓練場の人混みを危なげ無く抜けていく。
「ブラザー・イージドール、彼は……」
「僕の甥で、テオフィル・モルゲンロートと言えば察して頂けますか?」
「……ええ」
モルゲンロートと名乗れるのは、族長の継承権がある者だ。イシュカがヴァイツェア公爵の長男だと言うのも、フロレンツィアは伝え聞いていた。
「まるで彼を守るかの様に、人も妖精も集うのですね」
「それが月の女神シルヴァーナの思し召しなのでしょう」
ベネディクトが女神の氷像に向かい祈りを捧げる。きらきらと彼の頭上に銀色の光が舞い降りた。
「さあ、冷えて参りましたな。あちらの屋台で温まりましょうぞ」
ユルゲンが息を白く煙らせながら、明るい声を出した。
「ユルゲンはグリューワインが飲みたいのでしょう。仕方がありませんね」
「だってお祭は久し振りではありませんか。何があるんでしょう」
「エルネスタまで」
普段は聖都に籠りきりの彼等が外に出る機会は少ない。はしゃいでしまうのは仕方のない事だった。
ベネディクトとイージドールは顔を見合せて微笑み、ゆっくりと三人の後に続いた。美味しい物が食べられそうだと気付いたシュヴァルツシルトも、「ごはーん」とイージドールの肩を肉球でぺしぺし叩いた。
屋台を楽しんだフロレンツィア達は〈Langue de chat〉で更に孝宏達とシュネーバルや本について話し込み、すっかり陽が暮れた頃になってからエンデュミオンが領主館まで送っていくのだった。
孝宏と聖女様は普通にお友達です。
今回やらかしたのはアルフォンスとケットシーの里のケットシー達です。
ヴァルブルガは実は負けず嫌い……。この時から、エンデュミオンとヴァルブルガの双方と一緒に眠る権利を得たシュネーバルです。メインが孝宏とエンデュミオンのベッドで、時々イシュカとヴァルブルガのベッドにお泊りします。




