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リグハーヴスの竜騎士(中)

ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。

リグハーヴスの竜騎士のお話、その二。


134リグハーヴスの竜騎士(中)


【騎士隊隊員兼専属監視者ゲルト】


 ゲルトはリグハーヴス公爵お抱えの、地図制作者イグナーツのつがいだ。そして監視者でもある。

 〈黒き戦斧〉と言う冒険者パーティーに隷属させられてたとはいえ、地下迷宮ダンジョンから魔石を不正に持ち出した罪があるイグナーツと共に居る為には、その肩書きが必要だった。

 監視者なのでゲルトは通常それ以外の勤務は除外されている。有事となれば勿論駆り出されるだろうが、人狼の力が要る事案は少ない。

 それでも、ゲルトは一日一回は詰所に顔を出す。基本、申し送りは詰所で行われるからだ。

「お早うございます、隊長」

「お早う、ゲルト」

 既に昨夜の分の報告書を広げていたパトリックがゲルトに笑い掛ける。

 パトリックは平原族だが、ゲルトは騎士隊と言う群れの長として、彼を認めていた。

 人狼と言う身体能力を使えばパトリックに勝つのは容易かもしれないが、剣技の巧みさや、いざ戦闘になった時の進退の見極めは、まだ勝てないと思う。

 副隊長のラファエルも、魔法騎士としての力量は王領の近衛に匹敵するだろう。最近はコボルトにも高位魔法を習っているらしいので、他領から引き抜きが来るのではないかと密かに噂されている。

 そんなラファエルはゲルトの少し後で詰所に入ってくるなりコボルト達に捕まって、何か書かされていた。

「ゲルト、これ興味があるなら申請すると良い」

 パトリックがゲルトに紙をくれる。

「竜騎士募集?」

「王宮宝物庫にある竜の卵を放出するんだそうだ。各領大した数はないだろうが、事故や災害が起きた時に、竜騎士がいると助かるからな」

「俺は監視者です」

「そうだが、竜騎士になってはいけない決まりはない。それに幼体化した竜は可愛いらしいぞ。<Langue(ラング) de() chat(シャ)>に木竜が居るのだと、クヌート達が教えてくれた」

<Langue de chat>に竜使いなど居ただろうかと、ゲルトは首を捻ってしまった。

「検討してみろ」とパトリックに言われるまま、募集要項と申請書を持たされ、ゲルトはイグナーツの元に戻ったのだった。


「……ゲルト?」

 深夜、光鉱石のランプの明かりで竜騎士の募集要項を眺めていたら、イグナーツを起こしてしまった。

 気怠げな動きで寝返りを打ち、イグナーツはゲルトの横から紙を覗き込んだ。剥き出しの右肩には、ゲルトを番として受け入れた証である赤い噛み痕がある。

 身体を重ねた後のイグナーツは色気が増す。頬にキスをしてからゲルトは説明した。

「竜騎士の募集があるんだ。申請しないかと隊長に言われた」

「竜騎士ですか。以前、僕は地下迷宮で竜を見た事がありますよ。翼の無い珍しい竜で……あの手帳に描いてあるんですが……っ」

 イグナーツは起き上がり掛けたが裸だと思い出したらしく、慌てて毛布に潜った。代わりにゲルトがベッドから出て、書き物机の上にあった手帳を取ってくる。当然ゲルトも全裸だが、気にしない。

 ゲルトとイグナーツは、今はバスルームのある部屋に移っていて、自炊も出来る台所もある。

「有難うございます」

 手帳を受け取り、ゲルトが毛布の下に入るのを待ち、イグナーツが手帳をパラパラと捲る。

「……ここです」

「本当だ、翼が無い」

 イグナーツのスケッチはかなり詳細に描き込まれていた。その竜は蛇の様にしなやかに長く、しかし四肢があり、頭から背中にかけて鬣がある。

「翼は無いけれど、飛べるんですよ。後で冒険者ギルドの資料室で調べたら、極東竜と言う種類みたいです。倭之國わのくにの竜はこの種類だとか」

「極東竜か。綺麗な竜だな」

「ですよね。僕、属性竜も好きなんですけど」

 他の頁には属性竜のスケッチもある。イグナーツは本当に竜が好きなのだろう。いつもよりも饒舌になっている事からも明らかだ。

「俺が竜騎士になったら、嬉しいか?」

「それは凄く嬉しいですよ。子供の頃説話集を読んで憧れました。でも僕は騎士にはなりませんでしたし……」

「解った。申請出してみる」

 手帳と申請書をイグナーツの手から取り上げ、ベッド脇の小物箪笥に置く。

「ゲルト?」

「イグナーツが憧れた説話集の竜騎士に嫉妬した」

 番の事となると、人狼は少々心が狭くなるのだ。ゲルトは仰向けにイグナーツを押し倒した。イグナーツの鎖骨の間で、チョーカーに付いている聖別された魔道具の飾りが跳ねる。イグナーツをリグハーヴスに縛り付ける魔道具だ。

「僕、何処にも行きませんけど」

「うん。知ってる」

 細い腰を引き寄せ深く身を沈める。繋がっていると安心する。尻尾をパタパタと振ると、イグナーツは甘い吐息を漏らして笑った。

「機嫌、治りました?」

「うん。治った」

 心配性の人狼の機嫌を治すには、番が一番なのだった。


 申請書を出してから半月後、ゲルトはパトリックに教えられるまま面接会場である騎士団に来ていた。

 リグハーヴスで人狼の騎士はゲルトだけなので、チラチラと視線を感じる。

 ゲルトとしては戻るまで宿舎の部屋に閉じ込める形になったイグナーツが心配なのだが、生憎とそれは表情に出ていない。

「次はゲルト」

 名前を呼ばれ、面接室に入る。まず最初に目に付いたのは、翡翠色の竜を頭に載せているエンデュミオンだった。

(クヌートとクーデルカが<Langue de chat>に木竜が居ると言っていたと聞いたな)

 エンデュミオンにくっ付いているのなら、彼の竜なのだろう。

 次に漸くエンデュミオンが椅子代わりにしているのが、マクシミリアン王だと気付いた。しかし、現在のところゲルトの家族としての群れはイグナーツだけだし、それを包む群れの長はパトリックなので、マクシミリアンは〈王〉と言う個体でしかない。ちなみに領主のアルフォンス・リグハーヴスも〈領主〉と言う個体だ。

 最終的に黒森之國と言う群れの長はこの〈王〉であるマクシミリアンなのだが、直接かかわり合いにならないので、ゲルトとしては興味がない。

 マクシミリアンとツヴァイクからの質問に淡々と答え、ゲルトは面接室を出た。

 竜騎士に申請した理由が、イグナーツが竜と竜騎士が好きだからと正直に答えたら、エンデュミオンとツヴァイクが吹き出していた。

 何故だ。

 そして、そんな面接状況だったにも関わらず、ゲルトは最終選考に残ったのだった。

 中央に卵が寄せられて布を被せられた箱に手を入れ暫し。ゲルトの掌に転がり込んできたのは、白地に藍色のマーブル模様の卵だった。

「この子は極東竜だ。翼の無い竜で、天候を操るとも言われている。大抵の属性が使える子だな。この子も長い間宝物庫に居たから、まずは甘えさせてやってくれ。ゲルトとイグナーツなら安心だな」

 首に掛ける紐付きの袋をくれ、エンデュミオンは嬉しそうに言った。

 エンデュミオンも竜が好きなのだろう。昔の、最も竜も竜騎士も多かった頃を知っているのだから。

「袋の中に育て方や、卵が孵ってから竜に食べさせる物を書いた紙が入っているから。何かあったらエンデュミオンに聞きに来い」

「解った。有難う(ダンケ)

 新たな竜騎士達と教会キァヒェ行って聖約した後、騎士隊副隊長のラファエルと一緒に領主館まで戻ったが、先にイグナーツに卵を見せたかったので、一言断ってから宿舎に戻った。

 外側からしか開かない鍵を開け部屋に入ると、甘い香りに包まれる。

「お帰りなさい」

 イグナーツは台所でお菓子を作っていたらしく、使い終わった木べらやボウルを洗っていた。濡れた手を手拭いで拭いて、ゲルトの頬にキスをする。

「イグナーツ、卵」

「わあ、竜騎士になったんですね。藍色ですか?」

「極東竜の卵だとエンデュミオンが」

「楽しみですね。卵が冷えちゃいますから、もうしまって下さい」

 ゲルトは袋に卵を戻し、騎士服の中に入れた。剣帯やベルトがあるので、丁度腹の所で引っ掛かる。

「卵、大きくなるんですよね?」

「そうみたいだ。エンデュミオンの頭に乗っていたのが幼体化なら、あの位にはなるのかな」

 両手でエンデュミオンの木竜の大きさを示し、イグナーツに教える。袋の中に入っていた紙にも、その辺りの事が書いてあった。

 ゲルトは半ば非常勤みたいなものなので良いが、他の騎士は少し勤務内容を考えなければいけないだろう。

お茶(シュヴァルツテー)を飲みますか?」

「うん。一休みして隊長に卵を見せに行く」

 焜炉に薬缶を掛けに行くイグナーツに、ゆらゆらと尻尾が勝手に動く。

(そうか)

 イグナーツとの間に子供は出来ないのだから、この竜を可愛がれば良いのだと、ゲルトは今更ながら気が付いた。

 エンデュミオンは端からイグナーツとゲルトで、竜を育てると思っていたのではないか。多分、そういった関わり方でも良いのだ。

「イグナーツ」

「はい、何ですか?」

 ならばまず、最初にする事は決まっている。

「竜の名前は何にしようか。二人で決めよう」



リグハーヴス竜騎士選抜試験、ゲルト編。

ゲルト、イグナーツの事しか考えていませんので、じゃあ行ってみるかという感じです。

ゲルトとイグナーツ、子育て感覚で竜を育てます。

竜達の名前は、追々出て来ます。

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