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リグハーヴスの竜騎士(前)

ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。

竜騎士に選ばれた騎士のお話。


133リグハーヴスの竜騎士(前)


【騎士団副隊長側仕えギード】


 最終選考に残った者の名前が呼ばれ、その中に自分が居る事にギードは驚いた。

 ギードは騎士だが身体が小さく、内勤で副団長ベンノの側仕えをしている。申請書を出してみたものの、自分が選ばれるとは思ってもみなかった。貼り出された他の名前を見ても、外勤や騎士隊の副隊長だったりする。ギードだけ場違いだった。

 面接会場の小会議室に入ると、テーブルの上に布を被せられた平たい箱が置いてあった。

 部屋の中にはマクシミリアン王とツヴァイク、エンデュミオンと木竜のグリューネヴァルトが居て、合格者達を迎えた。

「今回リグハーヴスで竜騎士に選ばれた者は五人だ。竜騎士とは〈竜に選ばれた者〉だと言う事を肝に命じて欲しい」

 椅子の上に立ったエンデュミオンが、重々しく言うが、声が変声期前の少年だし、頭の上に翡翠色の木竜を載せているので、緊張感に欠ける。

「竜騎士は竜が選ぶから、どの卵に選ばれるかは解らないが、どの竜も素晴らしい存在だと言っておく」

 ギード達はどの属性の竜の卵があるのかを、事前に知らされていなかった。自分が欲しい属性があるのなら、自分で親竜に掛け合って来い、とエンデュミオンから最初に警告されている。

「では箱の端から掌を上向きにして入れて、そのまま目を瞑れ。卵の方が勝手に来る」

(勝手にって、転がるのかな?)

 ドキドキしながら、言われるままにギードは布の被った箱の中に手首まで差し入れ、目を瞑った。しん、と静かになった部屋の中で、コロンコロンと音が聞こえてくる。

(あ……)

 ギードの指先に硬いものが当たり、ころりと掌に乗り上げた。

「良し、目を開けて良いぞ」

 全員が目を開けた所で、グリューネヴァルトが飛んで来て布を持ち上げる。箱の中で、全員の掌に色違いの卵が握られていた。

「では一人ずつこちらに来てくれ。どの卵に選ばれたのか記録するからな」

 騎士達は一人ずつエンデュミオンの前に行き、自分の竜の卵の属性を教えて貰う。

「ギードのは水竜だ。回復系の術が得意な竜だし、水には困らないぞ」

 水竜が居る土地は水が枯れないのだそうだ。治水の恩恵があるらしい。白地に水色のマーブル模様の卵をしていた。

 温めている時に落とさない様に首から掛ける紐付きの巾着袋を貰い、全員で教会キァヒェに移動した。

 竜の力を黒森之國とリグハーヴス公爵領の為に正しく使う、と言う聖約を行うと、キラキラした光が降ってきて驚いた。竜の力を反逆に使うと、竜との契約は反故になると言う。

「自分が正義だと信じ過ぎる者程自分を疑え」と、エンデュミオンが言ったのがやけに印象に残った。

 マクシミリアン王直々に「國の宝である竜を託す」との言葉を賜り、他の騎士達が何の属性の卵だったのかさえ覚えていないギードだった。

 教会から副団長のベンノの待つ副団長室に戻る。

「ただいま戻りました」

「お帰りギード。どうだった?」

 竜騎士の面接は他の騎士達の邪魔が入らない様に行われていたので、結果が出るまで団長も知らないのだ。今頃マクシミリアン達が団長と会っている事だろう。

「水竜の卵を託されました」

「それは素晴らしいね。水は命に関わるものだし、うちは〈治癒〉が出来る団員が少ないから」

「そうですね」

 医務室に〈治癒〉が使える女性騎士が勤務していたのだが、現在産休中なのである。その穴埋めは今のところ無く、彼女の他に魔女ウィッチに習って単純骨折程度を治せるまで〈治癒〉が使えるのは、ベンノとギードだけだったりする。他の団員は切り傷の回復止まりなのだ。副団長室は簡易医務室になる事も多かった。勿論手に負えなければ、直ぐに魔女グレーテルに助けを求めるのだが。

「魔女グレーテルの所に誰か習いに行ってくれると良いんですけどね」

「剣と体術の稽古をしていたい奴等が多いからな……」

 二人で遠い目になってしまう。

「あ、他の人達がどの属性の竜なのか覚えてません」

「良いよ、後で団長が教えてくれるさ」

「一人は騎士隊のラファエル副隊長でしたよ。人狼のゲルトも居ました」

「あちらでも申請を出したんだな。確かに双方に竜騎士が居た方が良いか」

 領主館にはコボルトが二人居るので、〈転移〉も可能ではあるのだが。

「何にせよ、孵るのが楽しみだな」

「はい!」

 ギードと水竜は、後に〈リグハーヴス騎士団の癒し〉と団員達から呼ばれる様になるのだが、それはもう暫く先の話である。



【騎士隊副隊長ラファエル】


「ラファエル、これ書いて」

「書いて」

「何?」

 朝、騎士隊の詰所に入るなり、ラファエルはクヌートとクーデルカに捕まった。テーブルの上にあるのは何かの申請書だったが、それを書けと言うらしい。

「これ、なんだい?」

「良いもの」

「良いもの」

 良く解らないままに、コボルトがやる事なら悪いものではなかろうと書いてやったのだが。

「ラファエル、明日騎士団で面接な。これに場所と時間書いてあるから」

 半月後に隊長のパトリックに面接会場の案内を貰うまで、ラファエルは自分が何にサインしたの知らなかったのだった。

「……何ですか、これ。竜騎士採用の為の面接って」

「この間案内書来ていただろ?」

「ええ、読みましたけど」

 二十代のラファエルは該当してはいたが、希少な竜騎士になるのは難しいし、他の隊員が申請するだろうと放置したのだ。

「クヌートとクーデルカがお前の申請書を持ってきたから、申請しておいたんだ。卵が限られているから今回は無理でも、一次選考に通れば卵が見付かるか、自力で親竜に交渉するかで竜騎士になれるみたいだからな」

「クヌートとクーデルカ!?ってあれ、竜騎士の申請書だったんですか!?」

「知らなかったのか?」

「はい」

「他にも面接を受けに行く奴がいるから、気楽に行ってこい」

「……はい」

 パトリックに肩を叩かれ、今後あの二人のコボルトが持ってくる書類には気を付けようと心に誓う。

 翌日、街の中にある騎士団での控え室には、結構な数の騎士達が居た。

(ディルクとリーンハルトは居ないのか。コボルト憑きだからな……)

 竜にも好かれそうだが、辞退したのだろう。

 一人ずつツヴァイクに呼ばれ、面接室に入ったが、面接官が王自身とツヴァイク、エンデュミオンと竜達だとは聞いていなかった。

 何故王が護衛にツヴァイクと光竜だけ連れて、リグハーヴスまで臨席してるのだ。しかもエンデュミオンを膝に載せているしで、訳が解らないうちに面接は終わった。

 コボルトで慣れていると思っていたが、王を椅子代わりにしているケットシーが強烈過ぎた。

 控え室に戻って全員の面接が終わるのを待ち、それから三十分程して最終選考に残った者と、一次選考を通った者との名前が貼り出された。新たな竜の卵が見付かれば、今回一次選考を通った者から優先的に竜騎士への道が開けると注意書きが赤字で記されていた。

 もし、自力で親竜を探して交渉するのならば、方法を教えるので<Langue(ラング) de() chat(シャ)>のエンデュミオンまで問い合わせる事、と追記してある。

 半殺しの目に遭わずに卵を手に入れるやり方があるらしい。但し、一次選考を通った者に限る、とあるので、何かしら条件があるのだろう。

 一次選考通過者に名前が無かったので、落ちたかなと思い何気無く最終選考通過者の紙を見たら、ゲルトの名前の他に自分の名前があった。ラファエルは三回見直した。

 最終選考に残った者が呼ばれ、布を被せられた箱に手を入れさせられる。

(卵が選ぶ……?)

 ラファエルは本物の竜の卵を見た事もないし、この箱の中にどの属性の卵があるかも知らない。

 ころん、と掌の中に転がり込む感触。

 布が捲られたラファエルの手の中には、白地に青色のマーブル模様がある卵が収まっていた。

「この子は風竜だな。速く飛べるし、気配察知に優れているぞ。少し華奢な竜だが、ラファエルなら大丈夫だろう。この子は随分長い間、自分の竜騎士を待っていたから、沢山可愛がってやってくれ」

「解った。クヌートとクーデルカにも遊んで貰うよ」

「それが良い」

 エンデュミオンは肉球で卵を撫で、ラファエルに首から下げる布袋をくれた。

 その後教会で聖約をして、ゲルトと一緒に領主邸に戻ったが、彼は自分のつがいに卵を見せに真っ先に宿舎に行ってしまったので、一人で詰め所に行く。人狼は番が第一なのだ。

「ただいま戻りました」

 首から卵入りの袋を下げたラファエルに、クヌートとクーデルカが子供用の椅子の上に立ち上がる。

「ラファエル、卵!」

「何の竜?」

「風竜だって。ほら、危ないから座って」

「おー、やっぱり竜騎士になったか」

 笑いながらパトリックが台所から出てきた。お茶を淹れようとしていたのだろう。

「ゲルトも卵に選ばれましたよ。僕より色が濃い卵でしたね」

 卵の属性はエンデュミオンが個別に教えてくれたので、他の騎士達の属性は良く聞こえなかったのだ。

「で、イグナーツの所に真っ直ぐ行ったんだろ?」

「はい」

「ゲルトの場合は、イグナーツを守る為に竜騎士になったんだろうしな」

 元々がハイエルン出身のゲルトがリグハーヴスに居続けるのは、番のイグナーツがリグハーヴスから出られないからだ。

 人狼の攻撃力は平原族の遥か上を行く。リグハーヴス公爵は罪人でもあるイグナーツを番として与える代わりに、ゲルトをリグハーヴスに留めているのだ。それが解らないゲルトではないだろうが、イグナーツと居る事の方が、彼にとっては重要らしい。

 人狼から番を奪おうとするならば死を覚悟せよ、と言われる程なのだ。

「クヌート、クーデルカ、この子を可愛がってね」

「うん」

「うん」

 袋の上から卵を撫で、二人のコボルトはブンブンと黒褐色の巻き尻尾を振ったのだった。


竜騎士選抜試験、リグハーヴス編。

ギードとラファエルです。


ラファエル、コボルト二人に知らない内に申請書を出されていました。

エンデュミオンのグリューネヴァルト可愛い→ラファエルは要綱に該当する→ラファエル良い人→竜に選ばれるかも→申請書書いて貰おう!、と言う流れです。

後日それを知ったディルクとリーンハルト、ヨルンが頭を抱えたのは言うまでもありません。


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