電光石火
ズズッ
「これが何か分かるか?」
ミストが【空間収納】から柄に青白い玉のはめ込まれた聖銀の剣(鞘なし)を取り出して尋ねる。
「知るわけないだろ」
「まぁ、そりゃそうか」
何の脈絡も無かった為に反応が素っ気ないな。
だが、これを聞いたら黙っていられまい!
「聞いて驚け!これはお前の孫にあたるペルセウスの宝珠から作った宝具だ!」
「……だから?」
無関心、若干イラついてる風にも見える。
魂はペルセウスの祖父にあたる筈なのに孫が死んだ事なんかなんかどうでもいいようだ。
怒るなり動揺なりすると思ったのに……。
そういやクロノスって、父親を斬ったり、母親を裏切ったり、姉とヤったり、子供を丸呑みにしたりしてたな。
……孫なんかどうでもいいに決まってるか。
「……俺が速くなるだけだ。
雷神化!破邪之英雄、完全顕現!」
パリィイ
ボワッ
神雷がミストの全身を包み込み、右手の「破邪の王剣」から聖なる光が溢れ出ると同時に「破邪の王剣」に触れている部分から白い鎧に包まれていく。
ズズッ
次第に隣接しだした雷と光は混じっていき、ミストは青白い神雷の下に白い鎧を身に纏った姿になる。
〈破邪之英雄の宝珠〉を手に入れた時からミストが考えていた、風・音・雷・光の4つの加速に関わる属性を複数使った、どれもが光速を超えるであろう調和的な技。
その名もーー
「電光石火ッ!!!」
バリリィィイイッッ
叫ぶと共に激しい音を立てて玄野に急接近するミスト。
玄野の左目に自身の右手が剣ごと宙を舞う映像が映る。
「ーーってことは右かッ!」
玄野は即座に熟練度万越えの【身体強化】による全身全霊の一撃を何も無い風にしか見えない右隣に打ち込む。
キィィイイインッッ
強烈な金属同士のぶつかり合う音が響き渡る。
これだけ凄まじい音ならば耳の良い者なら気づくだろう、そう計算して玄野は打ち込んだのかもしれない。
だが、ミストの「全幻覚 幻聴」の応用によってアルーバル・ファステバルの軍の誰もそれに気づく事ができない。
戦闘中であれば幻覚による違和感を感じた者もいただろうが、自陣で休んでいる為にそれすらも叶わない。
ギリギリッ
つばぜり合いの中、左目で見ている自分の陣に変化が無いのを見て、打つ手なしと考えた玄野は目の前の強敵を倒した後にどうするか深刻に考え始める。
「戦闘中に考え事か。……なるほど、たしかに【傲慢】だ」
ミストがそう言った直後、ミストが剣を引き、玄野が感じていた抵抗が消えて剣がミストの方に向かうも、剣の軌道が横へねじ曲がり、それと同時に現れた金色の壁によって的外れな方向に振り抜かれる。
「くっ!」
「死拳!」
ドンッ
すかさずミストが放った左拳が玄野の腹に突き刺さる。
【神力】を持っていない玄野はこれで死んだかに見えたが、
「"早送り"があれば当然"巻き戻し"もある!」
ザシュッ
そう言いながら玄野が振り上げた剣によってミストの右脇腹から左頭頂部までが両断される。
ミストの足は力を失い、地面に倒れる。
「結局何者だったんだ?」
玄野がミストの死体を見下ろしながらそう言った直後、
《【傲慢】が【虚飾】に吸収されました》
《【虚飾】が【虚飾之王】に進化しました》
シュゥゥウウウ
ミストの死体が端から霧になっていき、完全に消える。
その直後、後方からの声が玄野の鼓膜を震わす。
「そういえばそっちは何も知らないか。……名乗ろうか?」
ネタバレは次話!




