敗北と復讐の誓い
ドドドドドドッッ
ビキッ
必殺の技が黄金龍の鱗にヒビを作る。
(オラぁぁああああッ!)
ガスッ
ミストは「完全版永久睡眠」で声が出せないため心の中で叫びながら、そのヒビに向かって「黒い神雷」と赤黒いオーラを纏った魔剣を突き立てる。
ビキビキッ
バリンッ
金炎の鱗のヒビに突き立てられた魔剣は、少しずつヒビを広げていき、とうとう魔剣が鱗を破壊する。
魔剣は勢いそのままに振るわれ、
ザシュッ
『ぐわぁぁああああああッッッ!!!!』
黄金龍の背中に突き刺さる。
自分の鱗が破れる筈がないという絶対の自信を持っていた黄金龍は突然の痛みに凄まじい声で絶叫する。
(まだだ!強奪ッ!)
ミストは右手で魔剣を押し込みながら血が出始めた背中の傷に左手を押し込んで【強欲】の技能【強奪】を敵の能力で最も重要な【太陽之竜王】に発動する。
《【太陽之竜王】の一部の【強奪】に成功しました》
《【太陽竜之鱗】を手に入れました》
(よっしゃッ!)
全てではないが【強奪】は成功したようだ。
ただ黄金龍の鱗が消えてないので、一部の場合は相手の能力は消えないらしい。
『餓鬼がぁぁあああッッ!!!』
能力の一部を奪われたのを聞いた黄金龍が吠える。
次の瞬間、黄金龍の耳に着けられている輪っかが青白く輝き、
ジャラジャラジャラッ
ヒュッ
ヒュッ
空中に【空間収納】の時のような闇が8個現れ、それらから白い鎖がミストに向かって飛び出す。
(なんだ!?こんなスキルはステータスには無かった筈だッ!)
動揺したミストは【単独近距離転移】も回避も間に合わず鎖で縛られる。
すると突然、全身から吹き出していた黒いオーラと黒雷が消え、背中に張り付いていた織晴も元のスライム形態に戻る。
『フハハハハハハハハ、それは私が主より頂いた神具〈聖鎖〉だ。その鎖に縛られた者は如何なるスキルも発動できんぞ!』
黄金龍は得意げに種明かしをする。
(【破壊神降臨】は俺のスキルじゃないぞッ!)
心の中でそう叫びながら消えなかった赤黒いオーラを纏わせた魔剣で鎖を切り裂く。
が、
『何を考えているのかは大体わかるぞ。そのオーラが消えぬのは知っておるよ。鎖はただの時間稼ぎに決まっておろう』
フッ
ドスッ
いつの間にか、黄金龍の目からは怒りや侮りは消えていた。
落ち着いた声でそう言った直後、金色の炎を纏った尻尾が音を置き去りにしてミストに突き刺さる。
ミストは腹に穴を開けられながら吹っ飛んだ。
「ズドンッ」という音が聞こえた後、先ほどまで戦っていた者の気配が完全に無くなったのを感じ、黄金龍は背中の傷が痛む度に「面白そう」などという理由で首を突っ込んだ事を後悔しながら自分のナワバリとなっている場所に帰っていった。
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ズドンッ
「ガッ、ハッッ!!」
ミストは生きていた。
金色の炎を纏った尻尾が飛んできた時、とっさに黄金龍に"防御できずに貫かれた"幻覚を見せ、1億の魔力を使って超圧縮した【雷神化】、【虚飾】と【強欲】の【不完全顕現】、【破壊神降臨】を纏わせた盾のような形の織晴と【太陽竜之鱗】で防御したのだ。
もちろん空中で受けたために勢いそのままに吹っ飛び、やられたフリをする為にも【太陽竜之鱗】で防御するわけにもいかなかったため、生身で叩きつけられ、ミストの体のあちこちの骨にヒビが入っていた。
(ぐぅぅ、少しずつ気配を消さなければッ!)
ミストは黄金龍に完全に死んだと思わせるために少しずつ気配を消していき、完全に気配を消してから再び「完全版永久睡眠」の状態になり、念のために【全幻覚】で腹に穴を開けて死んだフリをする。
しばらくして黄金龍は魔の森の奥に飛んで行った。
その後、ミストは痛む体を引きずって帰路に着いた。
そして今世で初めての敗北を噛み締め、いつかこの痛みの借りを返す事を誓った。
「くっそがッ!この痛みは何十倍にもして返してやるぞ、黄金龍ッ!」
《称号[復讐者]を手に入れました》
《[エリスの加護]を手に入れました》




