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歴史を書き直す大蛇  作者: Kinra
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4◆突破

  許とファーレンハイトは黒い塗装の艦内白兵戦用アーマー・ヴェノムを駆り、時速80キロで荷物用通路を走っている。ヴェノムは磁気浮上式で、スラスター全開だと時速は440キロにも達する。高速輸送キャリッジの倍のスピードであるが、中尉である二人は普通のメラームの操縦訓練しか受けていないので、実際に440キロで飛ばしても自殺でしかない。それに、荷物用通路には数百メートル毎に横道があるから、防衛部のメラームはいつでも襲ってこれるのだ。


  「アニキ、俺たちは完全に『薬屋』のヤロウにハメられた気がするぜ!」ファーレンハイトの声がプライベート・チャンネルから聞こえる。二人はヴェノムとD-5メインフレームとの接続を切った後、内蔵機能でプライベート通信用の暗号化チャンネルを設置したのだが、所詮は軍の機体だ、いつハックされてもおかしくはない。


  「今更そんなこと言ってどうする」と、許中尉の返事は相変わらず冷たい。


  「もう後には戻れないってのは、俺にもわかるけどさ!隊長のこともハッキリさせなきゃなんねぇし!でも都合が良すぎたんだよ!あのハッカーはなぜ俺たちにオペレーターとメラームを奪う方法を教えた?アーカイヴ室のハードディスクを盗み出して、ヤツにリカバリさせるってのもワケわからねぇよ!データの内容を知りたいのはこっちだってのに――」


  「前を見ろ!」


  二人のヴェノムは左右に緊急回避する。ドゴーンの音と共に、後ろに付いてた3機のヴェノムは、2機と、墜落しながら遠ざかっていく一炬の黒い煙になった。「――散開ッ!」許の一声で、残った4機のヴェノムは両側に離れつつ、攻撃者の位置を特定しようとした。決して難しいことではなかった。なぜかというと、敵に隠れるつもりが一切無かったからだ。緑塗装のメラーム・フレイグランスが5機、一列に並んで正面の道を塞いでいる。


  「俺たちのコレに対抗するためのヤツらしいぜ?」と舌打ちをするファーレンハイト。「『薬屋』のヤロウ、どっちも何機か奪えるようにしてくれればよかったのに」


  「余計な発想が多すぎる!」と垂直スラスターのアクセルを踏み締める許中尉。「奴らに構うな!」


  許のヴェノムはシューッと駆け上り、180度旋回した後、上の隔壁に吸い付いた。が、この行動でも敵の注目を完全には引き寄せられなかった。5機のフレイグランスの中、1機は許を追いかけて反対側の床へ飛び上がり、1機は銃口を上げて彼を狙おうとしたが、残り3機はファーレンハイトとオペレーター2名の機体にロックオンしたまま。


  「くそッ!」と猛加速して、二回目の電磁砲射撃をギリギリ躱したファーレンハイトは、ニュートロン・ブラスター・アレイのロック解除ボタンに思いきり拳を叩きつける。


  「――警告。艦内空間でのニュートロン・ブラスター・アレイの使用は艦の運行に危険を及ぼす虞が――」


  「俺が死ぬのは危険じゃないってのか!」と、ボタンの前に跳ね上がったレバーをぐいっと引くファーレンハイト。「血ィまき散らせええあああああおらおらおらぁぁぁーーーーーーっ!!!!」


  ヴェノムの最強武装であるニュートロン・ブラスターが、4機のフレイグランスへと向かって連射される。正面モニターが閃光で白一面に。ヴェノムのコンセプトは、高威力を以って短時間でターゲットを制圧すること。なので、ニュートロン・ブラスターのような高破壊力兵器を搭載したばかりでなく、十六門も装備した上に、一斉発射可能にしている。母艦全体の安全を脅かすテロリストの対策の為に造られた代物だが、この武器自体に母艦を破損させるリスクを帯びている故、D-5との接続を切って、ウィルスでコントロールを完全に奪っていなかったら、今のファーレンハイト中尉の行動を以ってしても、彼の権限ではロックは解除されなかった。


  「ファーレンハイト、長居は無用だ!性能ではこっちに分が悪い!」許の声がプライベート・チャンネルから聞こえる。ファーレンハイトは上方モニターを見ると、許はまた床から離れていて、空中を飛び回りつつ、2機のフレイグランスの違う方角からのマシンガンによる挟み撃ちを躱している。


  「下からも……?」ファーレンハイトは再び正面モニターを見る。4機のフレイグランスはなんと無傷で、内の1機が下から対空掃射を仕掛けている。「――なにッ!?」驚きと同時に3機のフレイグランスが彼の機体をロックオンしていた。


  「ちいっ!」許は地面に向かってニュートロン・ブラスターを1発撃って、床を炸裂させた。


  我に返ったファーレンハイトは垂直スラスターを作動させ、爆発の煙幕を潜り抜ける。不安のままモニター右下のバックカメラ画面を覗いてみたら案の定、残りのヴェノム2機は電磁砲とマシンガンの集中砲火を受けて消し飛んでいた。


  脱出したヴェノム2機が200キロに加速した後、許中尉はやっと沈黙を破る。「運が良かった……。向こうのオペレーターはまだ、人間である俺らを殺す許可をもらってなかったようだ」


  「次からはこうは行かないよな……」と弱音を吐くファーレンハイト。「ありゃなんだった?ニュートロン・ブラスター・キャンセラー?」


  「考えても無駄だ。水陽門にたどり着けさえすれば、艦内の敵はどうでもよくなる」


  「『薬屋』が約束を守れば、の話だがな。アニキ、あいつって信用できると思う?」


  「少なくとも、今までの奴の計算は精確だった……。3体のオペレーターを犠牲にしなければ、俺ら2人は突破できなかったということもな」


  「ちっ。わぁってるよ、アニキ一人だけだったら囮なんざ必要なかったって。あの3匹は全員、俺のせいで死んだのさ」

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