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デスげーむのモテあそびかた  作者: ヒキコモリタイナー
デスげーむの始まり方
7/9

モテアソバレヌヒトゲノム

現実とは非情なものである。


今を生きる人類の明日の希望はULIに託されているというのに

あろうことか俺という人間はそれを使うことができないのだ。

それも物理的に。


― EMCSが検知されません。

起動シークエンスを終了します。



「だめでした。」



だめでした。

だめでした。

だめでした。

だめでした。

だめですか、そうですか。



は…






ははっ

ははははははははは、はは、はあ~・・・







はいはいそれで?

今回は一体どこがエラーを吐いているのかな?



あン?


プラグマ表層同期パルスがオーバーショートしてる??


おいおい、クリッパ君よ。


お仕事してないのかな??



やれやれ、これだからポンコツは。




仮想世界モジュールの一つ

アングランドと呼ばれる、所謂VRゲーの一つ。

ULIにてそのゲームにテストログインしようとしたが、

ゲーム機(ULI)付属のコントローラー(EMC)が反応しないならお話にもならんわけで。

ARガイダンスじゃ高説垂れていたが、確認できないんなら耳障りな寝言にすぎんな。


ULI

それは人類を恐怖のドンゾコに陥れた飛来物

通称『アイガス』によってもたらされた外来物質によって作られている。




2627年にさる人物により発見された謎物質は特定の状態になると

相互作用を引き起こす。


とある物質Aとその片割れA´は片方に「ほにゃらら」を

するともう片方も「ほにゃらら」になるといった具合だ。


え?もっと詳しく??


それを話すにはまず発見者の生い立ちから現在に至るまでの自叙伝的な話をすることに

なるのだがそれ面白い?

俺はもう聞きたくない。


まあその物質を使って作られた『共感素子』と呼ばれる物質が今までの情報通信技術から

何からを一新したわけだ。



超パラレル通信技術とそれに対応したインタフェースで処理できる情報量はそれまでの十数万倍にも及び

地下(ヒキコモリ)生活の一層の利便性向上のために、地上(お外)に出て飛来物を回収するというわけのわからない状況にさえなったんだ。


ましてやその物質はセンサとしても優秀であった。

なんかすごそうな技術を駆使して作り上げられたEMCセンサは

脳からの信号を受信し、脳みそに信号を送信できる。


そうして作られたバーチャルリアリティ

それを支えるインタフェース、ULI


が、しかし。


その技術をもってしても脳波を検波できない人間は少なからずいる。


EMCの出力、検波マトリックス

その帯域に当てはまらなかった人間はもれなく理想郷からつまみ出される。



― EMCSが検知されません。

起動シークエンスを終了します。



そりゃそうだ。

ULIは脳波と脊髄反射波から個体情報を識別して、仮想世界にコンバートする。

その素子が受け付けない。

情報として読み込めないのであればそんな世界は望むべくもなく。


世間では適応障害とも呼ばれているそれについてだが該当者は100万人に一人だといわれている。

ちなみに現在の世界人口は3億5千万人ほどだ。

即ち世界に350人ほどしかいない、栄誉ある一人に俺はなったわけだ。

どうした?笑えよ??


実際的には設計段階から俺氏専用設計で開発を行い、

俺氏専用チューニングを施せば可能になるかもしれないのだが。

はたしてそんな面倒くさい事を誰がやってくれるのか?

すでに99.9%の人間に適応可能な完全無欠な設計を敢えて壊して

出来上がるのは専用パイロット設定のワンオフ機


ここ半世紀、お金がほとんど意味をなさない世界と化し、

人々は過去の遺物にすがり、不自由なく生活ができるというのに、

そんな手間のかかることを赤の他人に?


ましてやかつての開発者たちはすでに遠くの世界に召っされており、

完全自律生産のそれらはブラックボックス。

作れと言われても無理でっせ?

拡張現実(AR)でも十分便利な世の中なんだ、こらえてほしいものだ。

あきらめてほかの道で楽しく生きてくれ。


それが嫌ならどうすればいい?

まあせいぜい自分で頑張って作るがよい。

私どもはあちらの世界で首を長くして待っておくとしよう。

ふはははははははは―



え?本当に作っちゃうの??

君は実に馬鹿だなぁ。

人生を無駄な時間に浪費するだなんて。



ええ、作りましたよ?

馬鹿でも結構。


当時の開発資料を漁ること暫く

データをまとめること早々

幾たびも失敗を重ねて永遠・・・




ついに、それが完成した。



EMCS:正常

N/A(DOS mode)


接続状態:安定




苦節十年。

俺としては意外と早く完成した方だと思っていたのだが、

思えばいろいろなことがあったものだ。

もっとも少しズルをすることになるが。


そもそもなぜ俺が、俺自身が自分用にVRデバイスを製作したのか。

ああ、今でも忘れてないさ。



俺を貶めたNoobと、その他有象無象の雑魚ども。


あいつらが俺の居場所を奪ったからだ。


もっとも、決定的となったのはあの一言・・・



「うわっ、雑魚杉内?

GGで女の子とイチャイチャしよwww」



あのチャットのログは今でも鮮明に思い出せる。


なんたって自分が手出しできないところに逃げられたんだ。

あの時の悔しさと言ったら、チータと蔑まれ、

為す術もなくチームにも敵にもボコにされたあの時よりも衝撃的だったんだ。







我が魂魄、百万回生まれ変わっても怨み晴らす気概を持って、

ついに悲願の成就の日が来た。



ULIの設計を抜本的に見直し

駆動するためのシステムを改修し

そのうえで既存のプログラムに適応させる。

今まで『パラダイム』にアクセスが出来なかった俺が、その扉を開くための専用機。

今、その扉を開ける。


まずはULIを起動するように、そのカプセル状の個体に自分の体を預け・・・







・・・ることはしない!!







なんたって俺専用の個体なんだから、そんじょそこらの汎用品ごときと一緒にしないで貰おうか?

ここからはULIの普通の使い方とは異なるので、参考にされても意味はないので悪しからず。



手順1 サンバイザー上のヘッドギアを被る。

    ~VRならヘッドギアは常識じゃん?


手順2 適当な椅子等で体を預ける。

    ~VRに行くなら体がお留守になるからな。


手順3 手首にコントローラを装着

    ~より正確な操縦をしたいのなら必要。


手順4 ターミナルシステム起動。

    ~いよいよ仮想現実世界、お目見えの時・・・




すると何やら俺の被るサンバイザーには不可思議な風景が浮かび上がり、耳元のスピーカーからは謎の音楽が。

手元のコントローラに反応して風景が変化する。




なるほど、仮想世界はこうなっているんだな?




ところで、よくある創作物では仮想現実にアクセスするときは現実の体は眠っていて

精神だけが別世界で活動している状態で描かれているものが多いけど

俺氏専用機はそんな不出来なものではなくちゃんとサンバイザーを脱げば現実に一戻り!

現実世界で自由に動くことができるので布団の中で粗相をしてしまうこともないぞ!


その代り仮想空間の自分は現実でコントローラ操作でしか動けないけどなっ!




それVRちゃうやんと思われたそこのお方?

俺は自分用にVRデバイスを製作したといったな?









あ れ は 嘘 だ 。







おっと、そんなに気を悪くしないでくれ。

正確にはVRデバイスの製作中といった具合だ。

センサよりプログラムの方が先に完成してしまったので、

別でそれをロールアウトしてみることにしたんだ。


じゃあ具体的に今何をしているかというと仮想現実(VR)拡張現実(AR)化した。

仮想現実の状況を拡張現実で再現しているだけであって、


ぶっちゃけ、俺はまだ仮想現実にダイブできていない。



俺はほかの人が仮想現実として

幽体離脱状態で他所の世界でイチャコラしているところに


昔流行ったロボット物の主人公よろしく、コックピットのような設備の椅子に座って

エミュレートされた人間を巨大ロボを操るがごとく、レバーをガチャガチャ動かして操縦している。



最早やってることが別物になっている。



いや、俺だって仮想現実空間で、異世界のような世界で自由に自分の体を動かして

異世界生活を満喫したいのだが、

肝心な俺の脳波を拾うセンサがなかなか思うように出来上がらないんだな。


とりあえずどういう処なのかと写真かなんかで簡易的に覗きたいのに

実際にアクセスしてこの目に焼き付けるしかないという不親切っぷり。



それもこれも仮想現実空間がULIでしか直接行けれない設計なのが災いしている。

外部アクセスしようにも脳波パターンの素体情報か複雑すぎて

欲しい情報のコンバートが容易ではないという。

それこそ人間一人をエミュレートして、各情報信号を手前でコンパイルするぐらいじゃないと。



なので実際にやってみた。

過去の研究データと実際に稼働しているULIのEMC信号を直接引っ張って、

それらをああでもないこーでもないと解析をかけて。


基本パターンを確立して各人間の行動、精神状態における脳の活動情報を模倣して。


それをULIが一介の人間と判断できるように、

それでいて外部コントローラーでその人物を操作できるようにして。


そうして出来た俺氏専用インタフェースは

自分ではない別人をコントローラーで操作できるようにして

そのうえでVRインターフェースであるULIに読み込ませるという、

何とも荒っぽいやり方が用いられている。



これによって直接自分がアクセスしなくても、誰だって拡張現実として仮想現実が楽しめる


ついでに副産物として仮想現実空間で顔バレを気にしなくてよくなる。




そうそう、後者についてだが

今現在、仮想現実空間では現実の、実際の人物のパーソナル情報をそのままに

仮想現実空間にコンバートしているんだ。


それは仮想空間での違法行為等、何らかの処罰の対象となった際に

その人物を紐づけする目的であるのもそうであるし


実際の人物と異なった容姿、体格、性別にしてしまうと

中長期的に実際の人物の健康状態、精神状態に多大なる影響を及ぼすかららしい。



なので現在の仮想現実空間は美形だらけでも、美声だらけでもない、

オカマだらけでもオナベだらけでもない、ごく当たり前の世界となっている。



だが俺にはそんなことは関係ない。

俳優だろうが女優だろうがピザ男だろうがピザ女だろうが関係なく

立派な役者に仕立て上げることができる。



別人に成りすますことができない現在の仮想世界。

性別の判定には脳波を

体格、容姿の判定にはULIのカプセル内部に取り付けられてたセンサーを

肉声は声帯を模写して

運動能力は脳波を、そして脊髄信号を


さまざまな要素でその人物を定義づけ

同一人物を別世界にて複製する。



だが俺はエミュレートで起動しているのでエミュ側を少しいじってやれば関係ない。


脳波をそれぞれの性別の基本パターンにし

容姿、体格はディジタルデータをセンサに中継し偽装して

音声は声帯ごと再現して

その人物がそこに存在しているかのように偽装し、デバイスに認識させる。


俺はそいつがそいつが見てきた情報を周辺機器で置き換えて、仮想世界の状況を再現して

そいつを操って擬似的に仮想世界を体験する。




さて、それではどの仮想世界に行ってみようか?

FPSはいい加減飽きたな。

勝ちすぎてチーター扱いされたし。

面倒な連中を相手にするために実際にチートにも手を染めた。


研究と同じぐらいの間、ゲームにも熱中していたが、

ゲームの世界でも俺の居場所は作れなかった。


もっともそのこと自体は大して気にしてはいない。

俺自身一人が気楽だと思っているが、いかんせん敵が多すぎた。

FPSは止めるにしても次また何あるかもわからない。

最低限保険は用意しておきたい。


となるとやはり『GG』か?

俺を貶めたNoobが今も健在かはわからないが、ソースコードもある。

観測装置も出来上がったし、不正に手を染めることに今更忌避感はない。

要はバレなきゃいいんだよ、バレナキャナ・・・




それは異世界系、世界最高レベルの表現率ともされているGod's garden


大よそ18世紀ごろの地球に、魔法という法則を追加して再現された世界。

ありがちなファンタジー物だけに人気も高い。



プレイヤースキルばかり要求されるFPSとは違い、別世界をその人物になりきって

社会の一員としてその世界を再現するその物語だと俺には分が悪い。


今更ゲームで協力して何かをするなんて、

ましてやマジモンのロールプレイングだからな。


そこはULIで完璧に再現された異世界

そこを生活拠点として、自身を世界に取り込んだ人間はマジで『生きている』つもりでいる。

最早ゲームではないのだ。


が、やはり俺には関係のない話だ。

元よりまともにプレイするつもりはない。



作りこまれた人物をもとに

性別を偽り

名前を偽り

年齢も、経歴も、人物像も

何もかもを嘘で塗り固めて




「うわっ、雑魚杉内?

GGで女の子とイチャイチャしよwww」



そんなありもしない幻想を破壊するために、

俺は今日から、この世界を、異世界をもてあそぶ!



そうして俺は俺専用デバイスからオペレーションを進め

VRワールドのGod's gardenを起動。


別世界に招かれチュートリアルを進め始めた直後―




「は?システムダウン??」



突如としてあちら側からの通信が途絶え、

俺の専用デバイスには何の情報も入力されなくなっていた。


始めは外部アクセスしたことで何らかのエラーが生じてULIが停止

またはULIの統括システム『パラダイム』の制御からはじかれたせいだとも思い

再起動もしないのでとりあえず放置してARゲーで遊んでいたのだが、どうやら違うらしい。


何やら『パラダイム』自体が何の応答もしなくなってしまったらしい。

そして恐ろしいことに、その時ULIで仮想世界にアクセスしていた2億人ばかりの人間は

ULIで眠りについたままらしい。



一体その時アクセスしていた人間は今どうなってしまったのか?

残された1億人と少しの人間は大いに動揺した。


以来、その日の事件は集団喪失とも呼ばれるようになるのだが、

この時ばかりは俺がアクセスできない人間であったことを感謝するね。

ただ気になるのは俺が稼働しはじめていた仮想人間情報。


あれ、どうなったんだろうな?

作られた人間に人格は宿るのか、実に興味深い話だね。


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