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デスげーむのモテあそびかた  作者: ヒキコモリタイナー
デスげーむの始まり方
6/9

戦場のモテあそびかた

西暦2885年における地球環境の状態は劣悪というより他はない。

2287年には大規模な磁気嵐が発生

2331年にはそれまでの磁気嵐の影響か寒冷化が進み、各国政府は小氷期の突入を表明

以後経済的にも生活環境的にも厳しい状況が続く。


そしてとどめに・・・


― 2323年

某国航空宇宙局の外宇宙探査機による調査結果では高速で太陽系に接近する飛来物を確認

十数年かけて飛来物の大きさ、軌道当を調査した結果、


大きさ、1キロメートルぐらい

最短150年ほどで木星の公転軌道上くらいに到達してしまうと予想。

地球上に落下する確率65.8%とのこと。


決して楽観視できる値ではなかったが、

その頃すでに経済的にも生活環境的にも氷河期真っ最中といった具合であり

今日のことでも精一杯な今を生きる人類にとっては

そんなとってつけたような話と確率論で対応する人間はどこにも存在せず

故に数十年にわたって放置されてきた話が数十年後・・・


― 2442年

無事に木星軌道上を超え、地球を獲物に捕らえてしまった飛来物ちゃんは

なかなか就職氷河期からも地球寒冷化からも立ち直れない第3惑星くんを一途に猛追。


一途な乙女の純情を踏みにじるべく、あの手この手でメテオちゃんに嫌がらせをしてきた地球くんであったが

それでもめげない健気なそいつには手の打ちようがなく

結果としてその重すぎる愛を受け止めてしまうのであった。



結果


― 2471年

無事愛すべきモノの下へたどり着いた飛来物、『アイガス』ちゃんは南半球のとある大陸に着地

地軸を0.7度傾け、舞い上がった煤塵が地球を覆い隠し、環境問題にとどめを刺されたこととなり

それより数百年、生き延びた人類は地下生活を余儀なくされることとなったわけだ。



これから人類は地下帝国を築き、やがて訪れる解放の日を夢見て艱難辛苦を乗り越えていく涙あり感動ありのエピソードがあるのだが

そんな退屈な史実は私はどうでもよく、また覚えてもいないので端折る。


重要なのはこの時代、娯楽に乏しいということだ。




「ヒャッハーッ!汚物は消毒だァー」


コンクリートが打ちっぱなしの、灰色で無機質な部屋の中に一人。

その男は奇声を発しながらキーボードを叩き、マウスを不定期にクリックしていた。

男が見据える画面上には銃を持った一人称の何者かが画面中央の誰かを銃撃していた。

彼がプレイするそれは、所謂FPSと呼ばれるゲームだ。


画面の人物はおそらく火炎放射器に類する銃火器でエネミーを焼き払い、敵の命を狩り、生き残る。

そうやって目の前の障害を乗り越えた数だけ勝ち星が上がり、称賛される。

勝ち上がれない者は丁度今の画面上の人物のように、地面を拝むことしかできない。


「ファアァァァァァァァア?!」


そうやって奇声を上げ、キーボードを叩くも再び動き出すことはない。

彼は死んだ。

敵兵の銃撃により、彼は死んだのだ。


落ち着け、冷静に考えよう。

自らの分身の死を前に、彼は考える。

なぜ死んでしまったのか?と。


競い合うのがゲームであり、戦場であるのなら、

そこに絶対などありはしないのだから死んだのは仕方がない。

ではなぜあの状況で倒されてしまったのか?


決してネタ武器でナメプして死んでしまったわけではない。

残弾が尽き、拝借した武器がああなってしまった以上仕方がない。

上手に立ち回ればいいだけだ。


そもそも戦場とはどういうものか?

ロケーションに有利不利、使用火器の得手不得手、仲間の練度、リアルタイムに移り変わる状況

さまざまな運が絡み合うが、それらを見越し、適応し、排斥できる者こそ強者。


決して考えなしに特攻を仕掛け、ただ銃を撃ち尽くし、突き進むことしか考えていない者に明日は来ない。

決して自軍の陣地で籠城し、敵が首を差し出すのを待ちわび、頂くことしか考えていない者に明日は来ない。


だから彼も死して尚考えるのだ。

原因を分析し、対策を立て、活用する。

彼はそうして戦歴を積み上げて来た。

彼の戦歴はその研鑽の賜物ともいえる。


そこに今、ひとつ泥を投げられた。


また死んだ。

対応を考え、実行しようといた矢先、戦場に息を吹き返しリベンジを果たすべく第一歩。

無情にも何もできず、彼は死んだ。


そしてその瞬間、彼は原因を理解した。

戦場の理屈を無視して、それは壁の向こう側から放たれた一発の弾丸。

敵の存在を確認もせず、障害物を無視して、ただ結果だけを残す不条理な一射


あなたは壁の向こう側にいるかもしれない人間の人数と位置取りがわかるだろうか?

そもそもその壁の向こう側には人がいるのだろうか?

正解者には一点差し上げます。


もちろん普通ならわかるはずがない。

チートだ。

それを理解した瞬間、彼は至って冷静に隣のディスプレイに顔を映した。


何やら胡乱げな文字列にカーソルを写し、何事かを打ち込むと再び元の画面に顔を映した。


戦場は見晴らしの良い広場に代わっていた。

それまで建物が乱立した市街風景は殺風景というよりも地面も天井も壁も何もない空間に代わっていた。

ただ何もない空間を幾人かの人物が駆け回っていた。


画面の人物はまたしても殺された。

(リスポーン)を待たずして立ち上がった。


一瞬で画面が切り替わる。

画面は一人の兵士が狙撃銃を明後日の方向に向けている場面になっていた。

彼は背中からブスリとナイフを突き立てる。

数秒ほどして(リスポーン)った当該狙撃手の背後に一瞬で回り込む


何もする時間を与えないように。


不正な手段で勝ち星を上げられないように。


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


突如として先ほどまでの一人称の画面が切り替わる。

おそらくルームリーダーに退場させられたのだろう。

そんなことは関係ない。

ショートカットキーをポン

戦場(ルーム)に復帰

戦場の洗浄を開始


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


あ、逃げた。

けど無駄無駄、粘着質だからね。

どこまでもついていくよん♪


たぶん先ほどとは違う戦場(ルーム)

さっきの壁抜け芋砂チートちゃんを補足


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


あ?ごめんなさい??

おいおい、俺たちはチートを使った技術を競い合ってるだけだろう?

あ、逃げた。

おい、待てよ。

え?ついてこないで?

じゃあ逃げ切ってみせろよ、チーター。


彼は執拗に追跡する。

何が彼をそこまで掻き立てるのかは誰もわからない。

ただ言えることはその獲物はゲーム中ずっと付きまとわれるということだろう。


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


― ブスリ…


あ、落ちたな。


そうして討つべき敵を失った彼はチートコマンドを終了させ、

また何時もの戦場に復帰する。


適当にルームを探ること暫く

入出して早々。




「ああ、飽きた。」



彼はそうぼやく。

そのゲームは1年余りで累積プレイ時間、通算2000時間突破といった具合であった。

所謂ジャンキーとも呼べるほどに、ガッツリのめり込んでいたのだが、ここにきてそれまで支えていた活力が尽きたのだ。

画面上で棒立ちになったしまった彼はまたしても死亡。

敵の砲撃をくらい無残に死亡。

それに気を留め、立ち上がるだけの気力が死亡。


報告します。

本日、兵士が一名、殉職しました。


そうやって画面の相棒が死に絶える様を眺めていると。



====== 警告 ======

不正アクセスを検知しました。

クライアントを強制終了します。

===============


彼の画面には斯様な文言がポップされ

アプリケーションプロセスは強制終了される。


とはいえそれはいつものことなので彼はそれ以上何も言わず

ただマウスとキーボードからそっと手を放すのだった。


アンインストール・ウィザードを立ち上げ、もう帰ることのない戦場にさようなら。

プログラムファイルを漁り、削除されていないマスクデータをデリート。


何もない空虚な日常にただいま。

お帰りなさい、空っぽな自分。



先ほど述べられたように西暦2885年における地球上においては、

大よそ刺激と呼べるものにかけている。


いやさ

地上に出れば世紀末的な大地と魅力あふれる奇怪生物であふれているけども。

仮想に行けばまだ知らぬ近未来か異世界がお出迎えしてくれるけども。


前者においてはかつて誰も経験したことのないであろうスリリングなアウトドア

かつての文明の影もない救いのない現実。


後者においては人類が陰険な穴倉で生み出した完璧な理想郷。

かつての文明すらしのぐ、理想を詰め込んだ逃避の世界。


君はドアを開けて何もない危険に満ちた世界で暮らす選択と

ULIを使って危険のない、快適に作られた仮想の世界で暮らす選択が与えられている。

素敵な時代だろ?


もっとも俺には理想郷で暮らす資格が与えられていないらしいが。


彼は部屋の一角にある珍妙な装置に目を向ける。


ULI


かつて人類を破滅に導いた落下物より生み出した理想郷への扉。

それを使えばだれもがこの退屈なアングラから抜け出して各々が目指す楽しげな世界へ足を運ぶことができる。


かつての地球を模した空間へ行くもよし。

あるいはかつて何事もなく発展していれば実現したかもしれない近未来か

古代で暮らす人間もいる。

際物で海の中とかも。

宇宙にだって行けちゃう。

異世界にだって。


そう、もはや今の人類はこの時代を生きてはいないのだ。


地下生活で生活基盤を固めてしまった人類にとっては

今となっては何が起こるかわからない外の世界には目もむけず

自らが作り出した理想郷の中で快適な生活を約束されている。


手順は簡単。


ULI(所謂VRインターフェースだが)に体を預けて意識は仮想現実の世界へドボン。


君は自分の興味があるいくつかの世界から好きな世界を選び、暮らす権利が与えられている。

だが選んだら最後、違う世界へ移動、変更することは困難を極めるだろう。

手続きが面倒くさいからね。

もちろんできないとは言わないよ。

我々には平等に理想を生きる権利が与えられてるからね。

多少の融通は利かせて上げるのも務めだろう。

ただ手続きは面倒くさいけどね。

シャングリラはよく考えて掴み取るんだ。


まあ君たちの場合はそう心配することはないだろう。

なにせU.L.Iは務めを果たした人間、

つまり穴倉で雇用を終えた人間だけが使える機器だ。

仮想である以上、それを支える現実の生産活動も必要だからね。

もっともそれらは長い地下生活でほとんど自動化されているから

仕事なんてほとんど機材の保守、点検だけだろうけどね。

そういった雇用を終えてくる間に、

大概の人物は自らの進む道を見つけていくものさ。


穴倉に残るものもいれば

地上へ出て開拓を始める者もいる。

もちろん君たちのように新しい世界に足を運び入れる者も多い。

我々の生きる道は各々だけが掴み取れる。自分だけのモノだ。

思うがままに生きるといい。


そう、生きるだけなら自由だ。

なにせ食事なら自動生産されているからとりあえず死にはしないだろう。

睡眠なら暇すぎていくらでもできる。

あとは生きがいだけさ。


ただ君たちがどんな未来を選び、どう生きていくかは自由だが

君がその世界を選んだ以上、君はその世界のルールに従ってもらう。

自らが切り開いた理想への扉を手ずから否定するなんて虫が良すぎるだろう?

我々は君の選択を否定しない。

だが選んだ以上、君はその道を歩んでいくしかないのさ。


なに、そんな大したものでもないさ。

柵だらけの世界でも好きなものなら楽しいものだよ。


ULIは貴方のライフスタイルを支えるアシスタント。

ずっとその世界を満喫するもよし。

現実との暮らしを両立させるもよし。


栄養管理もしてくれる万能ロボだからそれこそ死ぬまで入っておくのも自由だ。

カプセルの中で君はただ眠っているだけでいい。

それこそ一部ではかつて存在したゲームで登場するシステムに揶揄してコフィンシステムとも呼ばれているぐらいだ。


ULIは貴方の理想を全力でサポートします。

さて、行きたい世界は決まったかい?


ようこそ、アングランドへ!

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