チーター
この世界は私にとってはゲームのようなものである。
どういうわけか、死んだら私はゲームに転移?した初日に戻るし
周りの連中は私と違い、繰り返している事実などつゆ知らず
取り込まれた直後のままでこの世界を生きている。
よって私が人との関わりを持たず、、ひっそり暮らしておけば
この世界の情勢は、大よそ私が記憶しているとおりに進んでいく。
それにより、私以外のプレイヤーなど最早NPCと大差ないようなものと思っている。
しかしプレイヤーたちにはこの世界では取り込まれた時点で、
それまでそのプレイヤーがゲームで行っていたことに基づいてか
ある特典が与えられる。
ある人間はゲームで愛用していた武器だったり、魔法だったり。
生産の人間は工具等
まあゲームで所持していたアイテムのうち、愛用していたもののどれかが与えられている
あと身に纏っていた防具とかステータスとかをそのままに。
それらがこのゲームの世界に取り込まれた人間の共通の特徴だ。
・・・いい加減ゲームだの異世界だのという表現がまどろっこしくなってきたな。
そうそう、この異世界の元となったゲームというのは『God's garden』というタイトルで
当時は最早説明不要とまで言われるほど一般に普及していたVR技術が用いられていた。
要は五感で体感できる超リアルで、すげぇヤツだ。
が、わりかし多くの制限がある。
ゲームの醍醐味として違う自分になれることが挙げられる。
物語のカッコイイ主人公になってかわいいお姫様を救うのに相応しい
都合の良い容姿を持っていて、
現実では目も当てられない奇抜な衣装だってスタイリッシュに身に纏えてしまう。
自分に都合の良い身なり、容姿にすることでモチベーションが上がる。
自分とは気が付かれないのだから、クラスのかわいいA子ちゃんにだって自由に手が出せる。
妻には内緒で会社の同僚のB子ちゃんにだって堂々と浮気できる。
現実では気に食わないやつにだって余裕で
現実では出来ないアレが簡単に
他人に容易になりすませる世界に魅力を持つ人間はいるかもしれないが、
きっと恐怖を持つ人間のほうが大勢いるだろう。
だからこの時代では、容姿は愚か、体格すら容易に変更が出来ない。
キャラクターエディットだとか選択性のキャラだとかは存在しないのだ。
かつては自由に変更できていた時代もあった。
それらは唯、懸念はされても社会問題が発生するレベルで騒がれてはいなかっただけだったのだ。
なのでその時代、ゲームでは凄腕の忍者だったとある75歳は
ベランダから飛び降りて姿を消したのだ。
現実では所謂ニートだった35歳独身は
ゲームの世界に篭ったきり帰らぬ人となったのだ。
だがしかし、ゲームの中はもっと混沌としていた。
ところでベルギーの画家、ルネ•マグリットの絵画には「葡萄の収穫月」と呼ばれるものがある。
彼の絵の中には幾人かのスーツ姿の男性が描き表わされている。
しかし彼らは皆同じ顔をして窓の外で此方を向いている。
その絵画は大衆化していく世の中で、画一化されていく人々を風刺しているといわれている。
彼の生きていた時代から時は流れた。
目覚しい社会発展の中で人々の生き方には多様性が生まれたが、
同時に共通した生活規範が求められた。
現在の社会常識を逸脱しないように。
人の成長においては世俗を生きていくための当然性が求められ
結果として先人の生き方を模倣し、手を加え改良し、確実性が高められ。
ひいては生産性を求められている。
ゲームはそれらがより顕著に追及されている。
効率的な経験値稼ぎ
DPS
レコードタイム
キルレシオ
極振り
厳選
and more
他人との差別化を図るために
自己満足の追求
達成感
着地点の迷走
惰性
あるいは他人との差を作らないために
考えなしの進行で失敗しないために
効率化
合理化
よって符号化
この育成方法なら最大火力が出る。
生産の成功率が上がる。
生存率が
回避率が
こうすると最大で
コレが一番で
カッコイイ容姿は何番で身長は、体格は
声はコレがいいだろう。
こっちのほうがカッコイイ
こっちのほうがカワイイ
結果としてかつてあるゲームでは同じ容姿の人物が
同じ装いの人間が街に溢れ帰っていた。
同じ顔の人物たちは、やはり同じ目的でゲームを進めていた。
何かトラブルが発生してもやはり同じ特徴の人物が同じ特徴の人物とトラブルを起こしていた。
同じ人物を違う人間たらしめていたのは最早自身に与えられていた名前だけだった。
が、それも暫くして同じようなものが溢れかえっていた。
名前を呼ぶと同じ顔、同じ格好、同じ声質の人間が同時に振り返りこちらを見ている。
それを見ている君も同じ顔をしている。
― おめでとう
君がなりたかった人物はすぐ隣にいるのだ。
― おめでとう
君たちはきっと運命の赤い糸で結ばれているのだ。
― おめでとう
違いのない世界で君たちは世界平和の意味を知るだろう。
彼の画家は何を描画していたのかは彼のみぞ知るところであるが
この光景をみて彼があの絵画を描き表わしていたのかは彼にも分からなかっただろう。
話が長くなったがゲームの中は他者になりすませられる環境である。
ここまで現実化してしまった世界は最早現実ではなかろうか?
現実と酷似しているのに現実と乖離させるとどちらにもデメリットばかり生じえる。
よってそれをプレイする人間も現実と同期させたほうが都合が良い。
そんなわけなのでこの世界の元となったゲーム『God's garden』においても
ほぼ全てのプレイヤーは現実と同一の人物像をしているのだ。
・・・今ほぼ全てといったな。
違う人間もいるのだ、ここにね。
話は変わるが前述の通り、『God's garden』、面倒だ・・・GGでいいか。
GGに生きるプレイヤーたちにはある特典が与えられる
それはゲーム時点においてのキャラクターのステータス、
この世界における身体能力と思っていただいて相違ない。
それとゲーム時に愛用していた武器、道具、魔法などの所持品、知識等。
それらを除いては殆ど現実と変わらぬ、唯の人だ。
私もゲーム時代の特典が与えられているわけだが
ステータスと、道具は手帳であった。
巷ではそれは魔道書と呼ばれるそれにも似ていたが、中身は何も記されていなかった。
それもそのはず、私はゲーム時代に魔道師をやっていたわけでなく、
それどころかGGをまともにプレイした試しも無かったのだ。
さて、ここでひとつ君に大切な話があるんだ。
この問題については君はひとまず冷静な態度をもって、大局的見地から落ち着いて拝聴願いたい。
実は・・・
私は・・・
ああ
そうだ
チーターだ、悪いか。
多くのゲームにおいて不正行為として禁止、処罰の対象になることもある升である。
私的利用ではあるがコレで不正工作を行ってゲームの正常な運営に
支障をきたすような行いはしていないので、どうか通報しないで欲しい。
お願いだ。
まあそもそも異世界化しているので運営もクソもないと思うので
ご自由にやらせていただきますが何か?
つまるところ私に与えられた特典、その手帳についてだが
私がゲーム時代にあれやこれやで「ちちんぷいぷいーっ☆彡」
っと、していたソレがこの世界でも使えるようになる。
みたいな?
あのときのコードを手書きではあるが、その手帳にカキコカキコすると
不思議なことにこの世界でも使えるものがあったのだ。
・・・使えるものがあったと表現したように使えないものも存在する。
そのほか多数制限があるがさておき。
話の腰を折り曲げるが
私にとってはこの世界はゲームのようなものであるという所感をお伝えしたように
事実、私が手帳にチートコードを書き込めば、
このリアルな異世界GGちゃんも従順な子猫ちゃんのように思いのままだ。
なんたってゲームのような挙動を示すのだもの。
そう、ゲームのような挙動を示すのだ。
例えば私が自身のキャラクター情報を改ざんするチートコードを用いれば
改ざんされた情報のほうにこの世界の住人は従うのだ。
つまり私は今どこか遠いところで門番をしているであろうクリス=クラウンさんその人であり
当の本人は存在しない13番目の門番として3つある門の東側辺りを警備しているのだろう。
よって私は今、クリスクラウンさんとして
NPCと同等の存在としてこの世界に認知されている。
つまり、コレが何を意味するのか?
話はまた変わるのだが、私が最初ここに来るまでにドラゴンの襲撃を受けた。
私が負けイベントと証したそれについてだが
そのときに親切なオッサンに厄介ごとを頼まれる代わりに、
命を張って助けていただき、こうして無事生きながらえることが出来た。
だがしかし、その直後にもう一度襲撃を受けた。
実はここに私がこの世界をゲームと証する一つの理由がある。
私にとってはこの世界の仕様に則ったバグ技のようなものであり
この世界にとっては当然の結果として定められた運命なのだろうと憶測しているが
それはこの世界が正常であれば本来ありえない出来事であった。
この世界が正常でない自体は9割9部9厘私のチートのせいである。
よってあの自体も私のチートがもたらした出来事だ。
さて、ではどうやったのか?
先ず私が負けイベントと思っているそれでは、何をどうやってもあのオッサンが死んでしまうのだ。
いや、チートを使えば何とかなると思われるかもしれないが
チートを使っても救出困難なレベルのそれを負けイベントでなくしてなんと呼べばいいのか?
断言しよう。
ゲームでたとえるならあの始まりの日に私に降りかかった出来事は冒頭であり
あの時間、そこに記されているシナリオの通りに物事が進んでしまう。
あのオッサンが死ぬまでに手紙を回収することが、この世界のシナリオの最初の分岐点であり
タイムリミットにオッサンを回収することがドラゴンの役割だ。
それまでの襲撃による災厄の数々はイベントの据え膳に過ぎず
タイムリミットまでにオッサンと行動するだけで終わるありがちなクエストだ。
そのタイムリミットにドラゴンがオッサンを回収した時点でオッサンが死ぬ。
なんならオッサンが死ぬためにあのドラゴンが襲撃するといってもいい。
なんという理不尽。
オッサンのせいで私も何度殺されかけたことか。
オッサンゆるすまじ。
まあオッサンの悪口はさておき2回目の襲撃の理由についてだが
私はあの瞬間入れ替えていた。
なにを?
私 の・・・存 在 を !
まあ厳密に言えば私の纏っていたローブについて改ざんしていたわけだが。
とにかく私が纏っていたローブ、これは2回目の襲撃の時点では
この世界では死んだはずのオッサンとして存在していた。
ドラゴンはタイムリミットになるとオッサンをお迎えに来る、よく出来た保護者さんだ。
回収したはずのオッサンが変わり身だったと知るとあわてて迎えに来る凄い親馬鹿。
あるいはオッサンの存在が憎くて仕方が無いサイコさん。
きっと世界の果てまで迎えに来てくれるだろう。
かわいそうなオッサン・・・
が、私にとってはそんなことはどうでもよくて、体よく手紙を押し付ける名目と
この町への超特急便を手配しただけに過ぎないわけだが
GGにおいてはオッサンは死に、ドラゴンに回収される運命にあるわけである。
話は紆余曲折の道のりを二転三転流転しておりまして
最早もとの道筋は見えなくなっておりますが
強引に話を纏めます。
この様な事態を受け、私はGGという世界を『ゲームのようだ』
と3つの理由により評させていただいております。
― ひとつ 死なない、死んだら最初からやり直し。
コレのためにこの世界の将来起こりうる出来事は推測でき
ゆえにゲームのように予備知識を使った効率的な人生設計が出来る。
よってほかの人間が異世界、デスゲームと評するこの世界は
私にとっては「死ねないです、このゲーム」といった具合であり
縮めて「死ねないデスゲーム」と呼んでいる訳。
― ふたつ ゲームのような不正工作が行える。
私がゲーム時代に行っていた内容に倣ってか
異世界になったいまでもチートが使える手帳が与えられている。
その力に伴ったバグとしか思えないこの世界の異常が確認できる。
チート、バグ、ゲーム的な出来事の数々。
だがこんなものは序の序の口だ
今まで長々と、語っている本人すら道を見失ってしまいそうな道程を
紆余曲折して語っていたわけだが、
それらはこの発表をするまでの通過点に過ぎない。
私がこの世界がゲームのようだと評する最大の理由
発表しよう。
みっつ・・・
すまん、少し待ってくれ
緊急事態なんだ。
あ、いえ、結構です。
あはは、お構いなくー
大丈夫ですよー
ほんとほんと。
ちょ、何をする?!止めるんだ、
落ち着け、冷静に話し合おう、話せば皆分かり合え、やめっ
ああ、そんなところを触らないでくれ。お願いだ。
ああ、なんてコトを、神様、信じられない。
糞ッ、おまえなんかこうして
ああ違うんです!
ごめんなさい
悪気は無かったんです
だからゆるして
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ああはい?それで何の話でしたっけ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
私にとってはここがゲームのようで
私はチーターで
あああ、ゆるして下さい。
悪気は無かったんです。
堪忍、堪忍してつかんさい。
決してウォールハックでリスキルして顔真っ赤になった連中を煽って遊んでたわけではないんです
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
違うんです。
だから決して加速して回り込んでからバックスタブでKKして遊んでたわけでも
AAで芋ほりしてたわけでもないんです。
FFして蹴られても蘇ったりしてないですし、
もちろん多重起動してNoobを煽ったりなんかしたこともないデス。
本当なんでゲス。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
そもそも私がチートをしていたのはVRで面割れするのが嫌だったからであり
決して直結どもを煽って遊んでやろうとか考えてたわけじゃないんです。
本当です、本当。
だからその凶悪な道具であの狭く、恐ろしい部屋に監禁しようとするのをやめて貰えませんか?
「だめよ、次はコレを着てもらうんだから!」
「いいえ、彼女はきっと私が選んだものを着てくれるわ。」
「信じられない!なぜ貴方たちは制服の魅力が理解できないの?」
ああ、やめて!
怖い
怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖いよパトラッシュ
ああ、何でこんなことになってしまったんだろう。
私は自分が着る服を買いにきただけなのに。
そうだ、私が着れる服はレディース物になるのだから、
決して女性物エリアで物色してもやましいことは何も無いのに。
ああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
神様、お許しを。
フィッティングルームでは心なしかげっそりとした表情の少女が、あちら側から此方を見ている。
なんだ、ケンカか?あん??
彼女も私も不機嫌そうだ。
ああ、どうしてこうなった・・・
私はあのときの屈辱を忘れない。
あのときのTKが死体撃ちしながら
「うわっ、雑魚杉内?
GGで女の子とイチャイチャしよwww」
なんて言ってこなければVRで難航不落とされる性別変更のチートなど作らなかったのに。
チートでキャラクリして思いっきり釣り上げて貢がせた挙句にPKして煽ってやる計画だったのに。
逆引きしてユーザー情報特定してGGで煽る算段がついた矢先にこの仕打ち。
ゆるせん。
絶対に私はヤツを許さん。
なぜならヤツが私を侮辱しなければ今頃GGで死ねないデスゲームすることも無ければ
ましてや女の子の格好で生きていくことになどなるはずも無かったのだから。