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Tsubaki , in the Guild

 ◆◇◇


 歩き始めて3歩、何となく目線を上げると…………。


「王立ギルドねぇ。…………いきなり当たりかしら?」


 目を細めニヤっと笑みを浮かべる。

 ニヤニヤが止まらないわ。どんな面白いことが待っているのかしら?

 特に迷うことなくギルドに踏み入る。


「ビンゴね」


 そこはまさに酒場。昼間にも関わらず、オッサンが酒を飲んでいる。

 そうだ。ギルド登録っていうのも定番よね。あっ、でも入会費で銀貨3枚って書いてある。

 今は残念だけど諦めましょう。


 っ!?…………おかしいわ。

 ここからカウンターまで30mくらいはあるわ。

 それなのにあんな小さな文字読めるはずないわ。

 視力がかなり上がっている?

 ファンタジーじゃよくあることなのかしら?


「なぁ、嬢ちゃん。暇ならオレの相手してくれないか?」


 不意に横から声が掛かり、思考が停止しる。

 ふぅ、今日はよく絡まれる日ね。

 仕方なく声のする方向を向くと、そこには髭面の中年のオッサンがいた。

 顔は赤く、足元はフラつき、酒臭い。

 明らかに泥酔状態だ。


「なぁなぁ、相手してくれよぉ」


「…………………………」


 周りを見るが助けてくれそうな人はいない。

 そこで一つのテーブルの上に目がいく。

 トランプだ。こっちの世界にもあるんだ。


「なぁってば」


「そうねぇ…………いいわ。相手してあげる」


「ホントか!」


「但し賭けをしましょ?」


「賭だとぉ?」


「えぇ、あそこにあるトランプでポーカー一回勝負」


「賭ける物は?」


「アナタが勝った私を自由にしていいわ」


「自由?」


「えぇ、自由よ。…………何をしようがね…………」


 グヘヘッと下品な笑い声をあげるオッサンに対して、私もニヤっと笑みがこぼれる。


「但し私が勝ったらアナタの身包みを全て戴くわ」


「…………いいだろう。ルールは?」


「チェンジ一回の降りは無し、ポーカー一回勝負よ」


 こんなのはポーカーじゃない。ただの運ゲーだ。


「……それだけか?」


「えぇ」


「オーケーだ」


 私とオッサンはトランプがあるテーブルに着き、トランプを一回ずつ気が済むまでシャッフルする。

 すぐ側にいたギャラリーのオッサン二号にカードを配ってもらい、ゲームスタート。

 オッサンはカード二枚捨て、二枚引く。


「悪いな嬢ちゃん。このゲームオレの勝ちのようだぜ」


(この勝負、元々勝負になってないんだぜ嬢ちゃん。ルールに穴がありすぎる。イカサマはダメなんてルールは無いからな。…………恨むんだったら自分の愚かさを恨むんだな)


 今の私はこのオッサンが何を考えているか手に取るように分かる。

 これ程に思考を読めやすい奴はいないだろう。

 私はカードを五枚捨て、五枚引く。


「グヘヘッ。どうやら運が悪かったみたいだな。オレの勝ちだぁ!!」


 バンっとテーブルにカードを叩きつける。

 カードはダイヤの二、三、四、五、六だ。

 つまり、ストレートフラッシュ。


「…………はぁ、確かに運が悪いわ。こんな所で一生分の運を使った気分だわ」


 これは演技だ。


「何を…………」


「あっ、でも悪いと思ってるんなら良い運は残ってるかも…………。よしっ、そういうことにしましょ」


 これも。


「言って……」


 パサッとカードを落とすようにテーブルに広げる。

 私が出したカードはスペードの十、J、Q、K、A。


 つまり

「ロイヤルストレートフラッシュだと!!」

 そういうことだ。


「ロイヤルストレートフラッシュなんてこんなの確実にイカ「イカサマはダメなんてルールは無い。でしょ?」」


「なっ!?」


 ニコッとルール確認。

 先程とは一転、一瞬で絶望の顔へと変化する。

 酔いで紅くなっていた顔がみるみる蒼へと変わっていく。


(ハメられた。コイツ最初から分かってて)


「じゃあ、約束通り」


「ま、待て、今のは無しだ!もう一回だ」


「一回勝負のはずだけど…………まぁ、いいわ。今度はイカサマ無しのルール追加でやりましょうか?」


 結局その後七回やってあげたが全勝。

 完膚無きまでに叩きのめしてやった。

 もちろんバレないようにイカサマを使っている。

 でなければ七戦七勝なんて降り無しのルールではほぼ無理だろう。

 それでも疑わないこのオッサンは賭け事には向いてないだろう。


「もういいかしら?」


「チッ、分かったよ」


 オッサンはお金が入っているであろう袋をテーブルの上に出す。

 パンパンに膨れ上がった袋。

 十分過ぎるほどのお金が入っているんでしょうね。でも…………


「あら?何か勘違いしている様ね。私は身包み全てと言ったはずよ」


「なっ、服まで取るっていうのか?」


「えぇ、言葉通りの意味よ。簡単でしょ?」


 チッと、舌打ちをして渋々服を脱いでいく。

 初めに腰に付けていた装飾も何もない普通の短刀をテーブルの上に置き、上から順番に脱いでいく。

 パ ンツに手を掛けたところで


「パンツはいいわ。アナタみたいな髭面の小さい汚物なんて見せないでくれる。吐き気がするわ」


「ぐっ」


「アナタ結構金持ってるのね。…………誰か火持ってないかしら?この服臭いから燃やすわ」


「ちょっ、燃やすなら何で剥いだし!?も、燃やすなら返せぇ!」


「…………………………」


 何か後ろで騒いでるが、オールスルーで服に点火。

 服に酒がこぼれていたようで、思ったより勢いよく燃えている。

 放置していると危ないレベルで…………。


「…………………………」


「…………………………」


「ふぅ。これ要らないから返すわ」


 燃えている物体を指差して言う。


「ふぅ。じゃねーよ!オレも要らねえよ!」


「ごちゃごちゃウルサいわねぇ。パン一が何言ってんのよ」


「うぐっ」


「それに恥ずかしくないの?オレの勝ちだぁ!!とか吼えときながら惨敗って…………プークスクス」


 私は口元を手で抑え笑う。そりゃあもう盛大に。


「それに昼間から酒なんか飲んで、しっかり働けよクソニート!クソの方がまだ肥料になって役立ってるわ」


 この世界でニートとという言葉が通用するか分からなかったがニュアンスで通じたようだ。

 周りのギャラリーや席で酒を飲んでいるオッサン共が皆沈んでいく。

 そして遂にオッサンが我慢の限界を超えたのかプルプル震えてきた。


「う、うおぉーん。覚えてろよぉ」


「は?」


 オッサンはなんと泣き出してしまった。

 逃げ帰ることもせずその場で捨て台詞を吐き捨てた。


 …………これは、私が出ていかなければならないのか?

 はぁ、もう帰ろう。

 私は黙ってこの場から消えることにした。

 …………あれ?私何しに来たんだっけ?


「登録も兄さんの情報も忘れたぁ。…………もう今日はいいや。明日から本気出す」


 ◆◇◇

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