Kiri , in the Library
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ここで桜とは一旦別れ、取り敢えず椿のことや宿のことの心配も無くなったから楓の捜索に集中できるな。
取り敢えずギルドに行こうかな。
街の風景や金が無いので買えないが店の商品を見ながらギルドを目指していると背後から声が掛かった。
「おーい、キリじゃないか?」
この世界で俺の名前を知っている人はかなり数が限られる。
しかも男となると一人しか該当者はいない。
ルナの友達で名前は確か…………
「あぁ、え~と、浮気さんだっけ?」
「浮気じゃねぇよ!!フリンだよ!」
「あぁ、そうそう。不倫さんだったね」
「不倫じゃねぇよ!!フリンだよ!つーか、ジーフリンだ。ジンでいいって言ったろ。どういう覚え方してんだよ」
微妙なイントネーションの違いが気になるらしい。
「ハハハ、ジョーダンダヨ。ジョーダン」
「冗談に聞こえん!」
「で、ジンはどうしたんだこんな所で?今日は学校があるんじゃないのか?ルナは学校に行くって言ってたぞ。」
「あぁ、そうなんだが……今、目が覚めたとこで何故かそこで寝てたんだ」
そこと言って指す指はどう見てもただの路地。
「昨日三人ナンパしたところまでは覚えてるんだけどその後がなぁ」
その後のことも容易に想像が着く。
ジンの頬には未だにくっきりと手の痕が赤く残っているのだから。しかも両頬に。
ビンタで気絶させられたのだろう。
「まぁ、今日はもう学校も間に合わないし、サボるか。ナンパの続きでもするかな」
「が、頑張れよ」
「おぅ、じゃあな!」
ジンがエンドレスに嵌まりそうな気がする。
いや、もう嵌まってるのか。片足どころか両足でドップリと……。
ジンと別れギルドに向かう。
ギルドに入ると昨日のパンツ一丁のオッサンがまだパン一で泣いている。
取り敢えず無視して昨日と同じ受付、レベッカさんに話を聞く。
「昨日言ってた黒髪の女の子、ツバキちゃんだったら朝早くに来たよ~」
「マジっすか?」
「マジっすよ~」
相変わらずニコニコと何とも可愛らしい返答を頂いたが、これ以上新しい情報は無いらしい。
まぁ、元々楓が自分で動くとは思えないけどね。
はぁ、これからどうしようかなぁ。
楓に関しての情報が全く無く、何処からどう捜せばいいか判らない。
取り敢えず歩き回って捜すしかないのか。
ここまでくると本当に楓もこの国にいるのか怪しくなってくる。
最悪の事態を想定しながらトボトボ歩いていると国立図書館という文字が目に入った。
楓は無類の本好きで四六時中本を読んでいる、所謂本の虫というヤツだ。
だが流石に異世界まで来て本の虫をやっているとは思えないが、特に捜す宛も無いので取り敢えず入って見ることにする。
図書館の中は意外に広く、三階分相当の高い天井に二階相当の本棚がずらっと並んでいる。
これを見た瞬間に本来の目的を忘れ、この本を読みたいと思ってしまった。
元々俺も楓程じゃないが本は好きだ。
それが異世界の書なら尚更読んでみたいと思うはずだ。
入って直ぐにこの図書館の受付があり、そこにはここの司書であろう眼鏡を掛けた女性が本を読みながら座っている。
「あの、此処って自由に使って良いんですか?」
「えぇ、良いですよ。ご利用は初めてですか?」
「はい」
「そうですか。では軽く注意事項を説明しますと、まず、館内では静かにすること。飲食厳禁。持ち出し厳禁。個室を利用する場合は申請すること。です」
「貸し出ししてないんですか?」
「そんなことしませんよ。本は貴重ですし、絶対返さない人が出ますから。あっ後、読みたい本の場所が判らない場合は受付を尋ねてみてください。」
基本は異世界でも図書館の利用方法は同じようだな。
色々調べたいことはあるが、先ずはやっぱり……。
「あの、簡単な魔法書ってありますか?」
「もちろん在りますよ。えぇっと、簡単な魔法書というと、これとこれと、これかな」
わざわざ小さい紙に本のタイトルと何処の本棚に入っているかをメモしてくれた。
それよりもこの人は全ての本の内容と場所を覚えているのか?
楓みたいな人だな。
「……あの、これ……。“スライムでも解る生活魔法”って……、スライムが本読むんですか?」
「……読むわけないでしょ」
「“ゴブリンでも解る初級魔法”は?」
「…読むわけないでしょ」
「……じゃあこの“世界の全て”っていう本は?魔法書って感じもしないんですけど」
「タイトルの通りですよ。この世界の全てが解るんですよ。もちろん魔法の概念等も……」
「…………ふぅーん、じゃあこれ借りますね。読む場所って何処ですか?」
「この奥ですね。持ち出さないようにして下さい」
そう言って受付さんは俺の右側の方を指す。
結局俺が借りようとした本は“世界の全て”にした。
スライムやらゴブリンやらはかなり胡散臭すぎて読む気になれなかった。
本は取りに行くためにメモを見ると、F-6と書いてある。
恐らくだがFという本棚の下からか上からかは判らないが、取り敢えず6段目だということだろう。
まぁ、この場合は大抵上からだろう。
俺はFの棚に行き、上を見上げて目当ての本を探す。
上から6段目の右端から順に見ていく。
“聖騎士物語”
“初心者の為の魔法書”
“種族の特徴”
“勇者の旅立ち”
“魔方陣についての研究”
“英雄と神子の十二物語”
“世界の全て”
“セレスティア王国の歴史”……………
おとっと、あったあった。
それにしてもこれはどういう順番で並んでるんだ?
アルファベット順でも、あいうえお順でもない。ジャンル別でもなければ、作者順でもない。
本当にただ適当に並べているのか。
それにしても“初心者の為のの魔法書”なんて俺にうってつけじゃないか?
何でこっちを薦めなかったんだ?
まぁ、折角だから“世界の全て”を読もうと思うけど。
梯子を使い目的の本を手にして俺は読書スペースに向かう。
本は一見するとかなり厚そうに見えるが、実際は製紙技術が低いためか紙の一枚一枚が少し厚いため、本自体も厚くなってしまうのだ。
それにしてもどれだけの蔵書が在るんだ?
本棚の高さもそうだが、数もSまでは確認した。
それだけでも相当な蔵書量だろ。
これは欲しい本を自力で探すのは、かなり難しそうだ。
相当通わない限り受付の人を頼わざるを得ないな。
そういえば、あの受付さん以外にここの職員を見ないが、まさかとは思うが彼女だけということはないよな……。
読書スペースは少し開けた空間に六人掛けテーブルとイスが十組以上。
今は、人が四、五人しかいない。
まぁ、学生も今時間は学校だろうし、休日になれば人もそこそこ増えるんだろうな。
と、読書スペースを見渡しているとスペースの一角に本の山を築いた良く見知った黒髪の少女がいた。
俺が驚きに目を見開いて見ていると、あちらも俺の存在に気付いたのか片手を小さく挙げ、一言。
「……よっ」
「よっ、じゃねぇよ!!」
「静かして下さ~い。」
そこにいたのは紛れもない、今まで一切情報の無かった俺の妹の楓だった。
あまりの事に大声を出してしまい近くにいた他のお客さん怒られる。
「すみません!」
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