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Kiri , in the Inn

 ◆◆◆


「あ~、やっぱり夢じゃなかったか」


 目が覚めるとそこは昨日泊まった宿の一室。

 こんなことを呟てみたが別に夢じゃなければ良かったとは思わない。


 大きな木枠でできた窓から外を見ると日が昇り始めたところだろう。

 しかし外には街の人達が朝靄が掛かるなか、もう既に働き始めているようだった。


 そういえばこの世界には電灯の類いも時計も全く無い。

 だから日の出や日の入りで大まかな時間を決めているのだろうと、一人で納得する。


「顔洗ってさっさと椿を探しに行こう」


 今日の予定を確認しながら身仕度を済ませ忘れ物が無いか確認して部屋を後にする。

 まぁ、忘れ物と言っても俺が今持っているものはお金だけだけどね。

 あぁ~、やっぱり着替えが欲しいな。

 流石に何日も同じ服は着てらんないよな。

 やっぱりギルドに行って仕事を探さなくちゃな。


 さぁて、異世界生活二日目の始まりだ!


「「今日も頑張りますか!」」


「ん?」

「ふぇ?」


「桜!?」

「お兄ちゃん!?」


 何の脈絡もない言葉が被った事に驚きつつも声のした方を見ると、昨日は全く情報の無かった三つ子三姉妹の末っ子、桜がいたのだ。


 俺の一つ下とは思え140cm程の低身長に童顔。更にそれを幼く見させる黒髪のサイドテール。

 これでも15歳。華の女子高生なのだ。


「良かった。無事だったんだね」


「はい。お兄ちゃんも」


「椿と楓は?」


「分からないです。ツバ姉らしき人の目撃情報はあったんですけど………」


「俺も椿の情報は手に入った。大体の居場所も検討が着いている。だけど……」


「よりにもよってカエ姉の情報が皆無です」


「だな。取り敢えず椿を探しに行こう。楓もヤバくなったら自分で動くだろ」


「そうですね。…………あっ、そうだ。お兄ちゃん、桜お昼になったら昨日お世話になったお店に手伝いに行くつもりなのです」


「ん、了解。じゃあお昼になったら別行動だな」


 そういえば昨日隣から聞こえてきた声は確かに桜のだったかもしれない。

 それに、あのシャワーに驚くのはこの世界のシャワーに使い慣れてない人だろう。

 こんな事に気付かないなんて俺も相当疲れてたんだな。


 奇跡的な再会を果たした俺達はゆっくり朝食を採りながら昨日あったことを話し合う。

 朝食代は宿代に入っているらしく、泊まった人は誰でも頂けるようだ。


 ついでだから言うと椿は物凄く目覚めが悪いため、誰かが起こさない限り一日中寝ているのは柊家で当たり前の出来事なのだ。

 だからこんなにもゆっくりしていられるのだ。


「じゃあ椿が起きる前に探しに行こうか。昨日ほとんどの宿に確認をとったから、後は二ヵ所だけだ」


 桜と朝食の時の話の続きをしながら歩くこと二十分。

 残り二つの内の一つに到着し確認したがここにも椿はいなかった。

 ものすごい確率で外してきているが次が最後だと更に歩くこと二十分。




「ツバキ様ですか?いえ、その様な方は御泊まりになっていません。」


「「え゛っ」」


 最後の宿を確認したが椿はここにもいなかった。


「何でだ?」


 いや待てよ。よくよく考えてみれば昨日探してた時に、椿はまだ宿を取っていなかったんじゃないか?

 というかそれしかないだろう。

 こんな簡単なことに気が付かないなんて、浮かれてんのかな俺。


「はぁ、しゃーない。最初から探すぞ桜」


「はいです」





 それから何十分いや、何時間歩いたことだろう?


「あのここに椿という女の子が泊まっていませんか?」


「ツバキ様ですか?えぇ、泊まっていましたよ」


「それって黒髪ロングのちょっと目付きが悪い娘ですか?」


「えぇ、そうです、そうです。」


 宿を最初から探し始めて四軒目。“小鳥の羽休め亭”という宿で漸く椿の泊まった宿に当たったようだ。


 というか宿一軒一軒が二十分程度離れていて宿を回るのも一苦労だった。

 既に太陽は真上付近。もうそろそろお昼になるだろう時間帯になってしまった。


「お兄ちゃんやりましたね!」


「ん、あぁ。そうだな」


「お兄ちゃん?」


 俺は何とも歯切れの悪い返事しか出来なかった。

 受付の恰幅の良いお姉さん?は“泊まっています”ではなく“泊まっていました”と答えたのだ。

 完全なる過去形。大の大人がそうそうこんな間違いはしないだろう。


「あの、もしかしてもう………」


「えぇ、朝早くに出ていかれましたよ」


「「な、何だってー!」」


 一番考えられない事件が起きて俺も桜も変な驚き方をしてしまった気がする。雨でも降らなきゃいいが。


「槍でも降るんでしょうか?」


 こっちはもっと凄い事を心配しているようだ。

 まぁ、毎日起こしに行ってたのが桜だったからな。そう思うのも仕方無いだろう。

 椿の寝起きの悪さを一番知っているのも桜だろう。


「何処に行くか聞いてないですよね?」


「そうですね。ちょっと分からないですね」


「ですよね~」


 まぁ、これで確実に椿が此方の世界のこの街にいることが確定したな。

 椿も何も考えずにこの街を出ていくとは思えないし。

 椿の事はこの際、一旦置いといてもいいでしょう。

 これを本人が直接聞いたら怒り狂うだろうな。

 

 それより楓だな。

 楓の情報に関しては全くというか一切ないのだ。

 何度も言うようだが、楓は自分から行動するということはなかなか無いのだ。

 自分の興味があることなら動くが、他の人がやってくれると思っている内は本当に動かない。

 異世界っていう場所がアイツ、楓にどう映るかだよなぁ。


「あの、もし椿が戻ってきたら伝言をお願いしても良いですか?」


「はい、良いですよ」


「じゃあキリが探しているって。もう一度来るからこの宿に泊まってくれと、伝えて下さい」


「はい。承りました。」


 ついでに宿も取っておこう。

 俺に桜に一応椿と楓の分も取っておこう。


「あと宿の予約で一人部屋を四つ「じゃなくて四人部屋一つ御願いします」」


「ちょっ、桜さん!?」


「はい、一万コルンになります」


 これ聞いたあとに思ったが、一人部屋四つだと払えない可能性があった。

 一人部屋が昨日と同じ一部屋三千コルンだと、四人で一万二千コルン。

 俺の所持金は金貨一枚に銀貨一枚に銅貨五枚。

 つまり一万千五百コルンしかなく足りない。

 と言うことで抵抗はせずに素直に金貨一枚を支払う。


「つーことで、今夜は此処に泊まるからな。また夜にここに集合ってことで」


「はい!じゃあ桜はお店の方に行きますね」


「店の客とかにも聞いてみてくれよ」


「はい。じゃあ行ってきます」


「おぅ、頑張れよ」


 ◆◆◆

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