Hiiragi , Final Game 3
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はぁ、マスターも寝ちゃったし言われた通り、彼女達にお茶でも淹れてあげるか。
俺はクレアさんが朝大量に作って持ってきていた紅茶を、これまたクレアさんが持ってきていたカップに注いでいく。
この紅茶は既に砂糖が入っていて最初から少し甘めの紅茶なのだ。
三人分注ぎ、彼女達の前に差し出すが手を出そうとしない。
「キリ、彼女達に許可してあげなさい。奴隷は勝手に食事に手を出すことは許されないからな」
フレイアさんからそう助言を頂くが、知っているなら最初からやってほしい。
取り敢えず「飲んでいいよ」と奨めるが、やはり手を出そうとしない。
「どうしたんだ?早く飲まないと冷めちゃうぞ」
「……あの、私達はこんな高級な物飲めません。カップも私達が口を付けたら……」
一番年長の女性が太股を擦りながら答える。
年長と言ってもマスター達と同い年くらいだ。
「うーん、そう言われてもなぁ……カップは洗えば済むし、淹れた紅茶も勿体無いなぁ。このまま捨てることになっちゃうなぁ」
最後の方は少し態とらしくなってしまったが、漸く紅茶に手を付けてくれた。
こんなところで強制命令なんてしたくないしね。
彼女達は一口飲む毎に目には涙が浮かび溢れてくる。
俺は先程年長の女性が擦っていた太股の辺りを見る。
彼女達はバスタオルくらいのボロ布を巻いているだけで、その丈は短く座ったら見えてしまいそうだ。
何がとは言わないが……。
まぁ、という訳で丸見えな太股には痣のような火傷のような後がある。
焼き印のようにも見えるそれは、二重の円に真ん中には十字架があり、円と円の間に小文字のアルファベットが入っている。
十字架の左上からS、十字架の天辺にL、右上にA、右下にV、左下にEの文字が入っていた。
左上からグルッと時計回りに読めばslave、奴隷という意味だ。
「十字架とか……神の下に奴隷にするってか?……何様だよ」
『決勝第二試合、二対二は“戦乙女の茶会”ミレーナ・クリアノート選手、カエデ・ヒイラギ選手!“黒龍の息吹”ヤナ・アゼフ選手、エゴール・オットー選手!』
「あら、私ね。カエデちゃんは……」
「今起こしますね。……楓、起きてくれ」
昨日の帰り道からほとんど寝続けている楓を起こすが、中々起きない。
激しく揺すっても身を捩らせるばかりで一向に目を覚まさない。
暫く揺すって漸く目を覚ますが、案の定身体が動かないと言う。
「ミレーナさんどうします?」
「うーん、相手は結構有名なSランク二人で一人じゃ勝てそうに無いし、かと言ってカエデちゃんを守りながら闘うのも厳しいでしょうね」
こういう時にこそマスターの判断が必要そうなのに、その張本人は絶賛爆睡中。
まったく起きる気配がない。
「ふぅ……棄権しましょうか。負けは見えてるし、無駄な怪我を増やすこともないでしょう。それに……まだチャンスはあるかもしれないし……」
ミレーナさんはきっと試合が同点のまま終わり、延長戦へ進むことも考えているのだろう。
確かに昨日も最後に楓が負けていれば延長戦へ進んでいた。
そういうことが絶対に無いとは言いきれないのだ。
「ちょっと言ってくるわ」
そう言ってミレーナさんは控え室を出ていった。
暫くすると審判からの“黒龍の息吹”の不戦勝が告げられる。
観客からは勿論ブーイングの荒らし。
先程の試合とは違うまともな試合が観たかったのだろう。
『えー、“戦乙女の茶会”にハプニングでもあったのでしょうか?この試合は“黒龍の息吹”の不戦勝となりました』
『“戦乙女の茶会”は交代できる要員がいない少数ギルドですからねぇ、誰かが負傷しているのかもしれませんね』
『では、気を取り直して第三試合の一対一の試合を始めます。“戦乙女の茶会”ルナ・ルミナス選手!“黒龍の息吹”ファリナ・エルヴァスティ選手!』
「私の出番ね」
「あれ?ルナ起きてたのか」
今までソファーで寝ていたルナが目を擦りながら立ち上がり、大きく伸びをする。
いきなり立ったら立ちくらみを起こしそうだな。
「今さっきね。……それにしてもまた一人ね」
「大丈夫だって……昨日成功したんだろ?」
「やっぱりキリにはバレてたか……昨日は無我夢中でたまたま成功しただけだから、今日も出来るか分からないけどね」
やっぱり昨日の試合でルナは氷属性の魔法を使えるようになってたのか。
まぁ、気付いたのは俺と視ていれば椿くらいだろうな。
今日出来るか分からないって言うけど、一度使えてしまえば氷属性を取得したことになって、次からは使いやすくなるんじゃないのか?
後で椿に確認してもらおう。
属性が増えてればルナを取り巻く色も増えていることだろうし。
「きっと出来るさ。それは切り札に取っておけよ。相手は絶対にランク上の強者だ。必ず何処かに油断や隙があるはず。そこを狙うんだぞ」
「分かった。頑張ってみるわ」
俺が助言するとルナは気合いを入れて、何時もの愛用のレイピアを手に取って控え室を出ていく。
「キリ君、今の話ってどういう意味?」
「私も気になるな。ルナの切り札とは何だ?」
「……それは俺の口からは言えませんよ。ルナの切り札ですからね。試合を観てれば使うと思いますよ。……寝始めたばかりで悪いけどマスターも起こしますか……妹の勇姿を観てもらう為にね」
はぁ、落ち着け私。昨日の感覚を思い出せ。
相手は絶対に私の格上だ。
人材が豊富な“黒龍の息吹”が私と同じBランクを出すはすがない。
必ずAランク以上が来るはずだ。
ファリナという名前に聞き覚えが無い。
Sランクにもなれば大抵は有名になる。有名じゃなくても何処かしらで耳にするはずだ。
ということは、彼女はAランク若しくはSランクに成り立て。
「それでは両者が揃いましたので第三試合を始めます。では、試合……開始!」
「貴女Bランクなんですってね」
「……そうだけど何か?」
試合が始まったにも関わらず話し掛けてくるファリナという女性。
歳は二十代半ばだろうか。私と同じくレイピアを提げている。
金髪の縦巻きロール。あの髪型、貴族様には人気だけど私は嫌いなのよね、あの髪型。
「貴女、ギルドの中で一番弱いんじゃなくて?」
「………………」
そんなの自分が一番分かってる。
お姉様達はランク通りの十分な強さがあるし、キリ達は新人だけどランクなんて宛てにならないくらい強い。
キリは未だに本当の実力が分からないし、ツバキには凄い眼がある。カエデは天才的な頭脳にモミジがいる。サクラはとてつもなく器用でちっちゃいくせに何でも出来る。
私がこのギルドで一番弱いなんて知ってる。
でも……。
「私が一番弱いのは知ってる。でも……私自身が弱いなんて思ってない!」
「はっ、雑魚が粋がるんじゃないわよ!Sランクの私に勝てるわけ無いでしょ。貴女の情報も全て此方にあるのよ。Bランクで学生、風と水属性に得意武器はレイピア。他にも身長体重、スリーサイズまで此方にあるわ」
「なっ!?」
おお落ち着け私。
スリーサイズを知られたくらい、たたた大したことないわ。
でもペラペラと喋ってくれたお陰で切り札が有効そうな事が分かったわ。
後はタイミングね。
「ふぅ、お喋りは終わりにしましょ。“ウィンドスラッシュ”」
風の刃を相手に向かって放つ。けど、狙いはファリナじゃなくその足元。
風の刃はステージ上に着弾し砂ぼこりを巻き上げる。
砂ぼこりは相手を包み、視界を零にする。
私はその内に相手の右側に接近し、レイピアで突きを放つ準備をする。
「小賢しい真似を!“ブラストウィンド”」
強風が吹き荒れ、視界は元の状態に戻る。
「視界を晴らしてくれてありがと!」
視界が零になるくらいの砂ぼこりで私もファリナの位置を正確に把握できていなかった。
そう此処までが計画通り。視界を晴らすか砂ぼこりから脱出するか。
それを見てからでも相手より速く行動できる!
狙いを定め、突きを放つ。
「くっ」
私の突きはファリナの脇腹を掠める程度に終わった。
「中々良かったけど、やはりその程度ね。万策尽きたかしら?」
距離を取ったファリナが声を掛けてくる。
此処で一つ、悔しそうな顔でもしておこうかしら。
「次は此方からいくわ!“フレイムアロー”」
「“ウォーターウォール”」
迫り来る炎の矢を水の壁で防ぐ。
それと同時に凄まじい水蒸気が発生し視界を奪う。
これってさっきと同じ……。
しかし私が動かないと見たのか、水蒸気の中から急にレイピアが出現する。
それをなんとか捌くが次々とレイピアの突きが迫り来る。
視界が悪すぎる!
「くっ!“ブラストウィンド”」
「さっきと立場が逆ね」
「そんなこと百も承知よ」
水蒸気が晴れた同時に的確に狙って来るレイピアを弾き、反撃するがかわされてしまい、更に反撃されてしまう。
回避が間に合わず左肩を掠める。
やっぱりレイピアの使い方も相手の方が上手いわね。
「それじゃあもっと面白い魔法を見せてあげる!“シーミスト”」
彼女の魔法と共にステージ上が深い霧の海に飲み込まれた。




