Hiiragi , Final Game 2
今回、少々残酷な表現がある部分が在ります。
苦手な方は注意して下さい。
だいぶ抑えたつもりですが御了承ください。
私がボソッと呟いたことはアイツには聞こえなかったようだ。
それにしても何時までもニヤニヤと卑しい。
こんな奴が元婚約者だと思うと……。
「貴方は男としてのプライドはないの?一対一も出来ないなんて」
「プライド?あるに決まっているだろう。だから君を連れ戻しに来たし、実際に今は一対一だろう?コレは所詮道具なんだから」
「貴様は何処まで……」
落ち着け。冷静にならなくちゃ。
それに陛下の前で三等奴隷を出すなんて世間知らずにも程がある。
陛下は奴隷制度を撤廃しようとしているんだから。
「……貴方は立っているのがやっとなその人達を出して勝てると思っているの?」
「勿論だとも!コレは盾であり最大の武器だからな!」
「……もう貴方と話してるのも無駄ね。終わりにしましょ」
その言葉と同時に私はヴァレリに向かって一直線に走り出す。
ヴァレリを囲うように立つ、奴隷達を無視してすり抜ける。
立っているのがやっとな彼等は反応することもなく、ただ立っている。
「終わりよ!“フリーズブレイド”」
ヴァレリの目の前まで来た私は氷の刃を握り締め、直接斬り掛かる。
「“ブラストウィンド”」
「そんな風魔法じゃ、私の刃は止められない!」
「知っているさ。だから私を守るのは風じゃない」
横から猛烈な強風が吹くが、私は構わず氷の刃を降り下ろす。
その時、目の端に影のようなものが映った気がした。
次の瞬間、私が斬っていたのは強風によってよろけながら目の前に入ってきた奴隷の男だった。
肩から鳩尾辺りに掛けて斬り裂いた。
私はなんの罪も無いこの人を斬ってしまった。
“ありがとう”
「あっ……」
私は彼がそんな風に言った気がした。
私は膝をつき倒れている彼を見る。
やつれていて顔色はとても悪いが、漸く呪縛から解放されたお陰か、何処か満足気のような顔にも見える。
三等奴隷は命令以外で死ぬことは許されない。
「ひひっ、これは決闘だから君が斬って盾が壊れたとしても器物破損なんかで訴えたりはしないさ。……でも、旦那様の言うことを聞かない妻にはお仕置きが必要だな。……やれ」
下を向いていた私の影を覆うように大きな影が降りる。
顔を上げるともう一人の男の奴隷が直ぐ傍まで来ていた。
相変わらずその表情には感情が無く、虚ろな眼をしている。
「“ファイア”」
奴隷の男が呟いた魔法。
火属性の底辺の魔法で戦闘に使うような魔法ではなく、生活の為の魔法で料理なんかに使うような火種の魔法だ。
殺傷能力は零に等しいのに何故?
そう思った瞬間、奴隷の男は服の下から出ている紐の様なものに火を着ける。
まさかと思い慌てて離れようとするが時既に遅し。
とてつもない爆発音と共に身体は物凄い衝撃によってステージの端まで飛ばされる。
ステージから落ちなかったのは幸いだ。
「うぐっ」
意識が飛びそうになるのをなんとか繋ぎ止め、フラフラとしながらも立ち上がる。
私の右腕は爆発の所為で袖が吹き飛びボロボロになっていて動かない。
右目も微かにしか見えない。
酷い火傷を負っているのかもしれない。
右足も微妙に麻痺してる。
応急処置として顔半分と右腕を氷の魔法で包む。
こんな魔法は存在しないのである意味新魔法かな。
私は爆発のあった所を見ると男の奴隷は私が斬った奴隷も含め、跡形もなく消し飛んでいた。
残っているのはステージ上に残った焦げ跡と周りに飛び散る血の跡だけだ。
観客からは悲鳴が聞こえる。
そりゃそうだよ、人が吹き飛んだんだからね。
それなのにこの男は笑ってやがる!
「ひひっ、これで決められると思ったんだけどなぁ」
「……もう我慢できないわ」
「ひひっ、怒ったかい?でも、君がいけないんだぞ。私の言うことを聞かないから」
「えぇ、怒ったわ。腸が煮えくり返る程に!でも何故かしらね?これ程怒り狂っているはずなのに、心がどんどん冷めていくのは……」
「それでも此方には残弾が後三つもある。どうするかな?」
血が沸騰しそうな程なのに心だけがどんどん冷めていく。
どんどん冷めて凍り付きそうね。
私はこんなに冷たい女じゃないと思ってたんだけどなぁ。
……本当に凍り付きそう。
そういえばキリ君が言ってたっけ、火は温度を奪っても消えるって。
「“アイスエイジ”」
私を中心にステージが凍り、空気も凍ってくる。
その範囲はステージを越えて観客席の手前までに及んでいく。
薄着だった奴隷達は寒さで今度こそ完全に動けなくなり、ヴァレリもブルブルと震えて動けなくなっている。
「な、何なんだこれは!?おいっ、奴隷共!早く爆発しろ!」
奴隷の女性達は命令に逆らえず火を着けるが、降りてくる冷気によって消されてしまう。
「ごめんね。ちょっとの間寒いけど直ぐ終わらせるから」
「おい、何してる。早くしろ!」
「無駄よ。彼女達は命令に逆らっている訳じゃない。実行しても成功しないだけよ」
私は一歩一歩近付いていく。
「や、止めろ」
「この娘達はもっと酷い目に合ってきた」
氷の刃を再び創り握り締める。
「く、来るな」
「彼女達もそう言ってきたはずよ」
ヴァレリの目の前で立ち止まり、氷の刃を振り上げる。
「わ、悪かった、許せ!」
「それは命令?でも、残念。私は貴方の奴隷じゃないの……許さないわ!」
私は氷の刃を降り下ろす。
「うわぁぁぁぁ!!」
私は怒り狂っていた。
でも心は嫌な程冷めていて冷静だった。
もしただ怒り狂っていたなら、確実にコイツを殺していただろう。
だが、冷静だったお陰でコイツの頭上で氷の刃を寸止め、ヴァレリはだらしなく失禁して白目を剥きながら気絶した。
こんな奴、殺す価値もない。
「しょ、勝者……セレーネ・ルミナス!」
審判や奴隷達に悪いことをしたなと思いながら魔法を解く。
魔法で創られた氷達は徐々に消えていき、周りの温度も上がってくる。
ヴァレリも氷が全て無くなった頃には気が付いたようだ。
「勝者は敗者に命令を」
「そうね……コイツの所有するモノ全ての放棄」
「なっ!?」
「勿論、資産や奴隷、妻達や自身の姓も……」
「何だと!?貴様はバレンティア家を潰したいのか!」
「そんな事思ってないわ。貴方を本当に愛していた妻がいたとしたら申し訳ないけど、貴方は家督をまだ継いで無いようだし、放棄したところで弟さんが拾うでしょ。資産だって貴方自身が保有するものなんてたかが知れてるわ。そもそも貴方が持っていた資産には全く興味がないの。……じゃあね」
「くそっ」
「それと、この娘達は私が貰ってくから」
「それでは決闘の誓約に従い、ヴァレリ・フォン・バレンティアは此度よりヴァレリとなり資産の放棄を命ずる!」
その声を聞きながら、私は奴隷の女性達を連れてステージを後にする。
◆◆◆
「マスター恐いですね」
「いや、私もセレーネがこれ程怒り狂うのを見たことがない」
「私もよ」
マスターの魔法で凍り付いた窓から入る冷気に身を震わせる。
今は魔法も解かれて、窓の氷も溶けてきている。
それにしても、とんだ屑野郎だったな。
楓達が寝ていて本当に良かった。
「ただいまっ」
ブスッとした不機嫌そうな声でマスターが帰ってくる。
後ろにヴァレリの奴隷を連れて。
「マスター、何連れてきちゃってんの!?」
ミレーナさんによく分からない薬草を塗られ、包帯を巻かれているマスターを見て言う。
「いいのよ。アイツには決闘で全てを放棄させてきたから。主のいない三等奴隷がフラフラしてたら殺されちゃうわ」
マスター達は決闘してたのか。
それでこの彼女達を……。
「家督なんかも全て放棄させてきたから今度こそ完璧に婚約破棄さ」
口調が戻りつつあるマスターにホッとしつつ、少し耳を疑う。
「マスターの婚約が破棄ってことは王女様も……」
「あっ、そうね。クリスちゃんも婚約破棄だね。めでたしめでたしじゃん」
確かにそうかも知れないけど……まぁ、いいか。
「じゃ、私魔力使いすぎて疲れたから寝るね。後よろしく。後キリ君、その娘達に温かい飲み物あげておいて」
「え?あ、はい」
「よろしく~」
そう言ってマスターはソファーに横になった。
だいぶ疲れていたのだろう。
もう寝息が聞こえてくる。
「お疲れ様です、マスター」




