Hiiragi , Second Game 8
◆◆◆
「うそ……あれがカエデなの?」
狂った様に大きな声で笑う椛を見て、ルナだけではなく楓の素を知る人は皆同じ様に驚いている。
俺等も初めはかなり驚いたからなぁ。
きっと心の何処かでずっと劣等している自分ににストレスを感じてたんだろうな。
「いや、あれは椛だよ」
「モミジ……あれがカエデのもう一つの人格」
「そういうこと」
椛という名前は我ながら中々良いネーミングセンスだと思う。
カエデ科の植物が紅く染まる事を紅葉、モミジと呼ぶから、今の状況にピッタリだろう。
赤い自分の血を見て、目を真っ赤に充血させるんだからな。
まぁ、紅葉は“黄葉”と書くこともあるから黄色く染まる事もあるけどな。
「でも、もう一つの人格が出たからってこの状況で勝てるの?」
まぁ、それは尤もな質問だな。
「勝てるかは正直言って分からない……けど、強くはなるよ」
「人格が変わっただけで強くなるのか?」
「うーん、そうですねぇ。じゃあ逆にフレイアさんに質問しますが、人間って通常どの位の力を発揮してると思いますか?」
此方の世界ではこういう考えを知らないんだろうなぁと思いながら質問してみる。
「質問の意図が分からないが……本気を出せばそれが限界で全てだろう?」
「マスターはどう思います?」
「うーん、通常って事は本気を出すより弱いから七割くらい?」
やっぱり知らないよなぁ。
「答えから言ってしまえば、人間は通常で二、三割の力しか発揮してません。残りは脳が身体を守るために勝手にリミッターを掛けています」
「二、三割だと!?」
「はい。まぁ、この世界は死に近い分もうちょっと出てるかもしれませんが……。本気を出しても五割とかその位じゃないですか?人間、百パーセントの力を出せば身体が壊れます。骨折や筋肉断裂等々」
「百パーセントの力を出すことは出来ないのか?」
「百パーセント出てるかは分かりませんが、火事場の馬鹿力とか聞いたことありません?そういう身の危険が迫った時に出る力がありますね」
この世界に火事場の馬鹿力なんて言葉があるかは分からないが、翻訳がなんとかしてくれるだろう。
頑張れ、翻訳!
リミッターを外すこと事態は結構簡単だ。
大声を出すだけでも少しは外れるが百パーセントとなると話は別だ。
本当に身体が壊れかねない。
脳のリミッターを解除すれば廃人や精神崩壊も起こしかねない。
まぁ、その為の二重人格なのかもしれないけど……。
「結局それが何だって言うの?」
「椛は言わば楓の中に心や精神、或いは脳に住む存在だ。その脳に常に住んでいる椛は簡単にリミッターを解除出来る。簡単に言ってしまえば、椛は人外の動きが出来る」
◇◆◇
「アハッ、アハハハハハハ!やっとボクの出番だね!」
久し振りだなぁ、この感じ。
楓は滅多に怪我しないからなぁ。
もっと外で遊びなよ楓。
“嫌だ、面倒臭い”
そう言うと思ったよ。
今は試合中だっけ?相手はあのゴリマッチョさんかな?
“そうだよ。頑張ってね”
了解了解。
「何だコイツ、ぶっ壊れたか?」
「酷いなぁオジサンは。女の子の顔をぶん殴るなんて」
額から垂れてきた血を拭わないで笑いながら舐め取る。
「オジサン、女の子にはもっと優しくしないとモテないよ」
「……お前さっきと同じ嬢ちゃんか?目の色が違うじゃねぇか!」
「もうっ、話もちゃんと聞かないとダメなんだからね!オ・ジ・サ・ン」
「な!?」
オジサンがまばたきした一瞬でオジサンの目の前まで接近して殴り掛かるが紙一重で避けられる。
「わぁ、避けた避けた」
「今、どうやって!?」
「オジサンはボクを楽しませてくれる?」
「化け物め!」
「ひっどぉい!」
折角、満面の笑みで聞いてあげたのに化け物って酷くない?
“椛の笑顔は狂気的で恐いよ”
えぇー!兄ちゃんは”良い笑顔だね“って言ってくれたよ?
“引いてたけどね”
えぇー。
まぁ、いいや。取り敢えずこのオジサンにはカチンときたからお仕置きしなきゃね。
「そんなこと言うオジサンは……うっかり殺しちゃうかも」
“殺したら失格になるから駄目だよ”
あっ、そっかぁ。
あれ?楓、武器これしか持ってないの?
苦無二本だけ?もっと良い武器持ってきてよ!
“重いから嫌だ”
言うと思ったけど桜と同じ様な小太刀くらい持ってきてよね。
“小太刀も結構重いから”
もうっ!そんなこと言ってるから駄目親父に馬鹿にされるんだよ!
“むっ、それは今関係無いでしょ。それより椛は魔法使えるの?”
使えると思うよ。
えっと、こんな感じだっけ?
「“オジサン、気抜いてると刈っちゃうよ”」
ボソッと呟いた声をオジサンの後ろから聞こえるように空気を振動させる。
どうやら成功したようでオジサンは慌てて後ろを振り返る。
後ろに誰もいないことに驚愕しながら、此方に向き直すオジサンを見て、思わず笑みが溢れてしまう。
うーん、面白いけどやっぱり兄ちゃん達の魔法はなんか地味だよねぇ。
ルナルナが使ってたみたいな魔法っぽい魔法が使いたい!
“ルナルナって誰なのさ。……仕方無いよウチ達に此方の魔法は合わないんだから”
うー。やっぱりやってみないと分かんないじゃん。
ルナルナが使ってた魔法は何だっけ?
イメージが重要イメージが重要っと……。
「エアボム」
「ぐぅ」
オジサンの近くの空気が急に膨張し破裂した様な音を出しながら衝撃を生み出した。
身体の大きなオジサンも若干傾く。
「アハッ」
ほらぁ、出来たじゃん。
楓達は頭が堅いんだよ。
“うるさい。早く終わらせちゃいなよ”
はいはい、了解ですよー。
「くそがぁ!アイアンニードル!」
「あれ~?オジサンは接近戦が得意じゃないの?」
オジサンが唱えた魔法と共に鈍く光る鉛色の棘が次々に地面から生えてくる。
足元に違和感を感じた瞬間に一歩後ろに下がって苦無を横に振るう。
「ほいっ、斬鉄けーん……なんちゃって」
“なんちゃってって言いながら苦無で鉄を斬る人なんていないよ”
また足元に違和感を感じたので、今度は目の前の綺麗に平らになってしまった鉄の棘に乗る。
うーん、我ながら綺麗に斬れたな。
これが異世界効果ってやつ?
「ば、化け物!」
「あっ、また言った~!“お仕置きが必要かな?”」
もう一度後ろから声が聞こえるようにしてオジサンが後ろを見た瞬間に目の前に走っていく。
そしてオジサンがまた此方を向いた時。
「最初のお返しだよっ!」
思いっきり顔面のぶん殴ってやった。
オジサンは変な声を出しながら大きな身体を回転させながら場外まで飛んでいき、壁に衝突して漸く止まる。
「いったぁい!手の骨折れたぁ!」
“もうっ、ちゃんと手加減してよ!後で苦しむのウチなんだから!”
手を押さえながら涙目になっているボクを呆然と見ている審判と、いつの間にか静かになっていた会場に首を傾げる。
死んでないと思うけど早く確認して試合を終わらせてほしい。
そんな願いが通じたのか審判が慌ててオジサンの元へ駆け寄る。
オジサンの状態を確認して、急いで救護班を呼び試合終了の合図をする。
「しょ、勝者、カエデ・ヒイラギ選手!」
「イッエーイ!」
殴った手とは反対の左手を高く挙げて観客に向かって大きく振る。
すると静かになっていた会場にまた火が着く。
『決着!!決勝進出はなんと!ダークホースの“戦乙女の茶会”だ!』
『このギルドは予戦から想定外の事をしてきましたが、此処までとは……。決勝が楽しみですね』
さぁて、帰ろっか楓。
“そうだね、椛”




