Hiiragi , Second Game 7
◆◆◆
「ちょ、ちょっと弱いってどういうことよ!」
「どういうことってそのまんまの意味だけど?そもそも楓が強そうに見えるか?」
全員が意外そうに見つめる中でルナが慌てた様に聞いてくる。
何時もやる気の無い様な楓が闘えるように見えるのか?
俺には見えんな。
「でも、サクラだって強かったし、ヒイラギ流とかは?後、魔法も!」
「まぁ、桜は自分の闘い方があるし、やる気もあるからな。柊流に関しては楓も一応修めてるっちゃあ修めてるけど今の楓は使えないだろ。魔法は俺等の中じゃ一番上手いかもしれないけど、どちらにしろ魔法は覚えたてだ。今のところ直接的な殺傷能力を持つ魔法は無いからな。最初の窒息を対処されたらあんまり意味無いな」
毒なんかも創れると思うけど、最初の窒息させる魔法を対処されたら意味が無い。
パニックにならずに息を止めれば、一分…いや、三十秒もあれば元を叩けるだろうしな。
今はそんなに範囲も大きく出来ないし、持続時間もあまり長くない。
制御も上手く出来ない今、下手したら審判も巻き込みかねない。
鎌鼬とか竜巻とか創れれば良いけどそれもまだ技術的に無理だ。
ということで、今の楓はかなり弱い。
「レイシーさん、グレンさんとやらはどんな感じの人?」
「グレンは珍しい金属性の使い手だ。それに土属性も使う。後はさっき言ったように魔法を使いながらの接近戦が主だな」
「これを聞くに相手が接近戦が得意なら尚更相性的にも悪いだろ。楓は基本的に動くのが面倒で嫌いだしな」
「それじゃあどうするのよ!」
「どうするって言われても、楓は負けるだろ。楓はな……」
「は?」
「そうだなぁ。ここで一つ楓の昔話をしてあげようか」
◇◆◇
はぁ、面倒臭いなぁ。
にぃにはバッチグーとか言っちゃったけど正直やる気が出ない。
……え?やる気が無いのは何時もの事だろって?
そんな事言わないでよ。
まぁ、事実だけどさ。
『さぁ!いよいよラストバトルです!』
『いよいよですね』
ワアァァァァァ!!
実況の人達も観客の声援も五月蝿い。
早くにぃの所に帰りたい。
早く静かな所で本が読みたい。
昨日と同じ様に相手を窒息させて終わらしちゃおうかな。
ウチの相手は見た目は浅黒いゴリゴリのマッチョマン。
ウチの倍くらいの横幅に一・五倍くらいの身長の大男だ。
とてもじゃないけど魔法を主として闘う人の体格には見えない。
魔法使いの様な杖を持っていないし、これから殴る準備をするかの様に指や首、肩をバキバキ鳴らしている。
うん。この人、完璧に魔法じゃなくて物理で来ようとしてるよね。
「嬢ちゃん、一瞬で終わらないように精々頑張りな」
「……ん」
肩をぐるぐる回しながら声を掛けてくる大男に適当に返事を返す。
「それでは、最終試合……始め!」
昨日と同じ様に窒息させる!
「うぐっ!?」
異変を感じた大男が自分の首元を苦しそうに押さえる。
しかし次の瞬間、ニヤリと笑みを浮かべ声に出して笑う。
「ガハハッ。確かに息が出来んが、これくらいは屁でもないわぁ!少しの間くらい息をせんでも全力で闘える!」
この大男が言う少しの間とはどのくらいだろうか。
一分なのか三分なのか。
五分も全力で動き続けれたら、それはもう化け物だろう。
そんな事を考えている内に大男の鬼の様な笑みと巨大な拳が眼前まで迫っていた。
◆◆◆
「あれは楓達が八歳、俺が九歳の頃かな。楓は今と全く違う、毎日外で遊ぶ元気な女の子だったんだ。まぁ、その頃から本を読むのも好きだったんだけどね」
「あのカエデが?」
「うん。寧ろ俺達を振り切る勢いだったよ」
「信じられないわね」
「だろうな。で、その頃から柊流の練習をしてたんだけど、元気だったけどあまり身体が丈夫じゃなかった楓は椿にも桜にも模擬戦なんかで勝てなかったんだ」
他人の動きを先読みする椿に、他人の技を即吸収する桜。
相性が悪かったと言ったらそれまでだ。
その頃の楓は積極性はあったけど大胆さがなかったから思いきった動きが出来なかったんだよな。
そこは今と同じ様に慎重な性格だったのかもな。
「そんなある日、父親が実の娘の楓に“妹に負けるような雑魚はウチの娘じゃない!”って言いながら殴り飛ばしたんだ」
妹と言っても数十分位の差しか無いけどな。
「……酷いわね」
「楓はショックで心を閉ざした…………と、同時にぶちギレたんだ」
「は?」
「ぶちギレた楓は親父を殴り飛ばしボコボコにした。その後はハッキリ言って親父の方が面倒だったな。娘に負けたと泣きまくり、修行に行くと言って行方不明。親父には五年以上も会ってないな」
あの時は本当に面倒だったな。
一日中ワンワン泣き、次の日になったら“修行の旅に出ます。探さないで下さい”っていう紙だけ残して消えるし。
そういえば結局親父は何処まで修行に行ったのかなぁ。
少し位連絡くれてもいいのに。
「……あの、シリアスな話は?」
「そんな話をするなんて一言も言ってないだろ」
「ちょっといいか?心を閉ざしたのにぶちギレたってなんかおかしくないか?」
「おぉ、良いところに気が付きましたね、レイシーさん。そう、その時に楓にもう一つの人格が生まれたんですよ」
「カエデは二重人格なの?」
「おっ、よく知ってるな」
「アンタ、私をバカにしてるでしょ。……いいから続けなさい」
「その時の楓は親父の攻撃で額を切って流れる自分の赤い血を見て狂った様に笑ったんだよ。目を真っ赤に充血させて……」
「えっ、こわっ。何、そのホラー」
チラッとステージの方を見ると丁度楓がグレン・ボルドーという大男の一撃を喰らい数メートル殴り飛ばされているところだった。
吹っ飛ばされた楓はステージ上を一転二点し少し滑ってから漸く止まる。
ギリギリ場外にはならずに済んだ。
何処を殴られたかはよく見えなかったが、うつ伏せに倒れたままの楓の顔辺りからは出血している様に見える。
『おぉっとぉ!グレン選手の強烈な一撃をまともに喰らった!カエデ選手、もう立てないのか!』
「カエデ!?」
「俺達はその赤く染まり狂った様に笑うもう一つの人格を親しみを込めて“椛”って呼んでる」
ピクリとも動かなかった楓が急に元気に立ち上がり、流血している事を気にすることもなく笑っている。
何時もの無表情な楓とは違い、心の奥底から楽しんでいるような笑顔だった。
『アハッ、アハハハハハハ!やっとボクの出番だね!』




