Hiiragi , Second Game 6
「くぅっ」
私に襲いかかってくる魔法は私の左肩を貫いた…………かの様に見えた。
いや、実際貫くはずだった。
確かに痛いが穴が開くような最悪の事態にはならなかった。
「そこまで!勝者、イリーナ・カリマ選手!」
私の最後の魔法、賭けに成功し魔力は全て使いきってしまった。
それを理解して試合を終了させた審判はなかなかに優秀な人ね。
イリーナさんもびっくりしてるでしょうね。
あの人結構本気だったみたいだから。
「貴女、一体何をしたの?」
「……何の事かしら?」
「何で怪我してないのよ」
「怪我はしたわ。痛かった」
「……私の魔法に何をしたのよ」
「さぁ?」
イリーナさんの質問に惚けてみせる。
新たに氷属性を覚えたなんて言えないわ。
後天的に属性を増やすなんて前代未聞もいいとこよね。
そう。私はあの瞬間、迫り来る鋭い根の先端を切り落とし、成長させない為に凍らせたのだ。
まさか本当に成功するとは思わなかったけど大怪我せずに済んだ。
「あぁ!もうっ、イライラする!この私が魔法に何されたのかも分かんないし、レイシーも何処かに行ったまま帰ってこないし!」
この人はマスターが見つからなくてイライラしてるのね。
等の本人はウチの控え室で馴染んじゃってるけどね。
「貴女達のマスターならウチの控え室でのんびりしてますけど」
「何でよ!?」
何でって聞かれても、私達も知りたいわよ。
「私もそこに行く!案内して!」
そう言ってイリーナさんは倒れている私の右手を引っ張って起こしてくれる。
左手を引っ張らなかったのは彼女なりの気遣いなのかもしれない。
◆◆◆
「レイシー!」
そんな叫び声にも似たような大きな声と共に扉が強く開かれた。
そこには金髪に細長い耳のエルフ。
先程までステージでルナと闘っていたイリーナさんがいた。
その後ろには緊張が完全に解けた顔をしたルナもいた。
「おぉ、イリーナ。お疲れ」
「お疲れ、じゃないわよ!今まで何処に行ってたのよ」
「何処って此処だが」
「そういうことが言いたいんじゃなくて!取り敢えず帰るわよ!」
「えぇー」
と、駄々をこね始めるレイシーさんを見て、本当に子供みたいな人だと思った。
そして、それに手を焼くイリーナさんというサブマスター。
あれ?この光景何処かで……と思いながらチラッとミレーナさんとウチのマスターを見る。
あぁ、そういえばウチもこんなんだったな。
ミレーナさんはミレーナさんでイリーナさんの事を仲間にしてほしそうな目で見てる。
「まぁまぁ、お茶でも如何?」
「え?あ、ありがとう」
クレアさんがこのタイミングで淹れたての紅茶の入ったティーカップを差し出す。
イリーナさんも戸惑いながら受け取り、一口飲むとソファーに座ってミレーナさんと愚痴り始める。
あっ、これ駄目なパターンだ。
と思ったのは俺だけじゃないはず。
『さぁ、どんどん行きましょう!続いては二対二のタッグ戦。“戦乙女の茶会”レベッカ・ドール選手、クレア・ハートフィリア選手!“魔神の加護”ヨルク・エレット選手、ゾルタン・ゲーラー選手!』
選ばれたのはウチのAランクコンビ。
この人達が強いのかは未だに謎。
何時でも礼儀正しくお嬢様の様なクレアさんと、何時でもニコニコしていて何処までもマイペースな女性のレベッカさん。
この二人がそんな戦闘が出来るようなタイプには全く見えない。
「では、行ってきます」
「行ってくるね~」
結果から言うとレベッカさん、クレアさんの完全勝利だった。
試合の内容はというと、なんか凄かった。
というか怖かった。
クレアさんは昨日と同じく千本を持ち、レベッカさんは鞭を持っていた。
試合はまさに針地獄と鞭打ち地獄だった。
相手の選手も段々それを受け入れていっていくのも恐怖だったな。
「ただ今戻りました」
「ただいま~」
『お疲れ様です!』
「皆さんどうしたんですか?」
「変ですね~」
貴女達が怖いなんて口が裂けても言えない。
『此処までの試合状況は二対二の同点!この後一体どうなるのでしょうか!』
『どちらかが先に二勝して試合を決するのか。はたまた三対三で延長戦までもつれ込むのか。見処ですねぇ』
『そうですね。では、三対三の試合を行います。“戦乙女の茶会”セレーネ・ルミナス選手、ミレーナ・クリアハート選手、フレイア・スカーレット選手!対して“魔神の加護”カミラ・ベーメル選手、ドリス・クーノ選手、ギブソン・ダウン選手!』
「うわぁ~、何このメンバー。相手に勝たせる気無いよね?」
「レイシーさん、そちらのメンバーはどんな感じですか?」
「いやぁ、アイツ等も十分な実力者だよ。全員Aランクだし。……ただ、流石に今回は運が悪いとしか言えないな」
レイシーさんは椿の質問にマスター達がまだ居るにも関わらず答えてくれる。
それだけ結果は見えているという事だろうか。
でも、等の本人達のマスター達は興奮してきて話を聞いていない。
「やったぁ!遂に私の出番!初だよの初!」
「ふっ、漸く私の出番か。身体が鈍ってしまってるかもな」
「私もやらなきゃ駄目なの?」
「当たり前だよミレーナ!常に全力疾走だ!」
疾走してどうするよ。
というかテンション高いなぁ。
あの何時もクールなフレイアさんも落ち着きなく剣をカシャカシャと抜いたり戻したりを繰り返している。
相手が死なないか不安になってきたよ。
そして結果は予想通りと言うべきか、圧勝だった。
帰ってきた本人達はかなり不満げだった。
マスターは一瞬で相手を氷付け、ミレーナさんは一瞬で風を使って場外に、フレイアは雷の様に一瞬で接近し斬り伏せる。
つまり、一瞬で試合が終わった。
本当に相手選手は運が悪かった。
「つまんなかった」
マスターの呟きとそれに同意するかの様に腕を組ながらウンウンと頷くフレイアさん。
一応、つまらなかった相手のマスターとサブマスターがいるのだからそういうことは控えてもらいたい。
後で問題になっても困るしね。
「全くもってその通りだな。軟弱すぎる。これは鍛え直しが必要か?」
「そうね。それがいいわ」
と思ったが、そうでもない様だ。
『さぁ、いよいよ最後の試合です!このまま“戦乙女の茶会”が勝利してしまうのか。それとも“魔神の加護”が意地を見せて延長戦までもつれ込むのか。運命の一試合です!』
『ドキドキしますね』
『そうですね。さぁ、最後の選手を発表します!“戦乙女の茶会”カエデ・ヒイラギ選手!対するは“魔神の加護”グレン・ボルドー選手!』
グレン・ボルドー。何処かで聞いたような。
「楓、行けるか?」
「……バッチ、グー」
「よし、頑張れよ」
「……ん」
何時も通りの楓を手短く見送った後にレイシーさんにグレン・ボルドーの事について質問してみる。
「グレンかい?グレンはウチのナンバースリーだよ」
ナンバースリー!?
っていうことは此処にいるレイシーさんとイリーナさんの次に強いという事か!?
「あの、グレン・ボルドーって名前、何処かで聞いたような気がするんですけど」
「ん?あぁ、それなら奴の父親の事だろう。奴の父親はグラン・ボルドー。“武神の加護”のマスターのいけすかない爺さんの事だろ」
「な!?何でそんな人が対抗している“魔神の加護”に!?」
「簡単な話さ。ただ単にグレンが魔法の方が好きだっただけさ」
そんな簡単な話で済ませていいのか?
スパイという可能性だって十分に考えられるはずだけどな。
「それにグレンの闘い方は面白いぞ。元々、武術を仕込まれてた所為か魔法で強化しながら物理で殴るんだ」
ケラケラと笑いながら話すレイシーさんだが、それって結局武術も好きなんじゃないか?
「それより、あの娘もお義兄さんの妹なんでしょ?強い?」
「楓か?」
「そうそう」
「楓はめちゃくちゃ弱いぞ」
『え?』




