Hiiragi , First Game 2
◆◆◆
「ただいま戻りました」
「おぉ~、お帰り。クレアもツバキちゃんも良くやったねぇ」
「ありがとうございます」
「二人共、後はゆっくり休んでくれ」
「はい」
マスターにお誉めの言葉を頂いた椿はソファに座っている此方へ来る。
「兄さん、どうでしたか?」
「おぅ、凄かったよ」
「ありがとうございます。……あの、これどう思います?」
そう言って服が裂けている胸元を見えてくる。
これに何の意図があるのか分からないが、椿達がこういった訳の分からない行動をするのは良くあることで慣れている。
確かに今回は今までに無い特殊なシチュエーションだが、決して妹達に欲情したりはしない。多分。
「……早く着替えてきなさい」
「兄さんの馬鹿。私の無い乳が嫌いなのね!」
「おまっ、何叫んでんだ!」
周りを見ると控え室にいる全員が此方を冷たい目で見ていた。
椿め、態とやりやがったな。
一つ言っておくとお前は楓と桜よりはある。
『続きまして一対一の試合を行います!“戦乙女の茶会”サクラ・ヒイラギ選手!“獣王の雄叫び”バウエン選手!』
おっ、今度は桜の番か。
それにしてもやっぱり名字が無い奴もいるんだな。
「ではお兄ちゃん、行ってきます」
「気を付けて頑張れよ」
「サクラちゃん頑張ってねぇ」
「はいです」
桜が出ていくのを見届けるとソファに座ったまま窓の外を観る。
この窓は控え室の観戦用の窓で、此処からだとステージが良く見える。
暫くすると桜がステージに上がり、相手の選手も上がってくる。
相手は見た感じ犬か狼の獣人で、身長は一八〇センチ位はありそうだ。
桜が余計に小さく見えてしまう。
相手を観察していると試合が始まった様で両者共に動き出す。
「ねぇ、サクラは闘えるの?とてもじゃないけどそんな風には見えないんだけど……」
試合を見ているとルナが心配そうに聞いてくる。
まぁ、確かに知らない人はそう見えるだろうな。
小さくて可愛らしいし、何時も料理なんかをしている娘だからな。
「大丈夫だ。桜は闘い方はやり難いからな。ルナも勝てるか分かんないぞ」
「え?どういうこと?」
「そうだなぁ。俺達兄妹は勉強や運動、兎に角何でも他人の数倍は出来るんだが……」
「何それ自慢?」
俺も言ってて自分でそう思った。
「まぁ、最後まで聞けって……。でだな、そんな俺は周りから化け物とか呼ばれてた訳よ。椿の事は知ってると思うけど……」
「……あ~あ」
ルナも何か思い当たる事があるようだ。
というか俺と初めてギルドに行った時の事だろうな。
「それで、桜は周りから小悪魔なんて可愛がられていたけど、一部の奴からは“劣化妹”なんて呼ばれてたんだよ。何でだと思う?」
「それは……キリの妹だからじゃないの?」
「まぁ、それもあるだろうけど、桜は何でも劣化するんだ……トップクラス奴から若干な」
「何でもトップクラスから!?」
「そう。桜は末っ子だったからな、常に上の奴等ばかり見てたんだ。そんな中で闘うにはどうすればいいと思う?」
「……真似をする」
「そういうこと。でも桜は見ての通りあの恵まれない身体だ。どうしても体格差や力で劣化してしまうんだ」
「でも、それじゃあ……」
「勝てない?そう、盗んだ技じゃ当然本人には対処法を知られていて決定打にはならない。桜も当然そう考えた。……真似を成功した奴は次にどうすると思う?」
「……どうするの?」
「アレンジを加えるのさ」
「アレンジ?」
「そう。料理なんかと同じ。本を見て真似して作って美味しく出来たら次は何かを加えて美味しくしてみようと思うだろ?初めの時点で美味しくなかったら何を加えても基本美味しくはならないからな」
本格的に変えるわけじゃないからな。
調味料を付け足す程度だ。
そんな変化でも慣れたものには対応し難いからな。
「成る程」
「それに今までのモノが消える訳じゃ無いんだ。桜のレパートリーは豊富だぜ」
◇◇◆
「それでは第三試合、始め!」
お兄ちゃんや皆に迷惑を掛けないように頑張りましょう。
相手は大きなワンちゃん。
右手に抜き身の剣を持っている。
桜は小太刀二本。
腰の後ろに右手と左手で一本ずつ抜けるように差している。
今は右手の一本だけを抜いている。
「嬢ちゃんは闘えんのかぁ?小ちぇなぁ、豆粒見てぇだぁ」
「…………闘えます」
「ハァッ、そうかいそうかい。そいつぁ楽しみだなぁ!」
その言葉と同時にワンちゃんが此方に接近してくる。
ワンちゃんは剣を桜の心臓を目掛けて突き出す。
それを左足を引いてかわすが、ワンちゃんはそのまま袈裟斬りをしてきます。
それも少し後ろに引いてかわすが、狙いは元々違った様で小太刀を弾かれてしまいました。
弾いた所から今度は逆袈裟斬りをしてきます。
咄嗟に左の小太刀を逆手で抜きなんとか防ぐ事ができました。
「ハァッ、良く防いだじゃねぇかぁ。ちゃんと闘えるじゃねぇか嬢ちゃん。今度はそっちから来なぁ」
お言葉に甘えます……。
左手の小太刀を右手に持ち変えてワンちゃんに突きを放ちます。
勿論、心臓を目掛けて。
ワンちゃんは桜と同じ様に避けたので、そこから右手の剣目掛けて下ろします。
「くっ、このガキがぁ!」
力の差か弾く事は叶いませんが、構わず逆袈裟斬り。
これは簡単に持っていた剣で防がれてしまう。
桜はバックステップで一度距離を取ります。
「なんのつもりだぁ!」
この叫びに構わずまた接近し心臓を目掛けて突きを放つ。
「同じ技が何度も通用すると思うなよぉ!それにこれは俺の技だろうがぁ!」
先程と同じ様に武器に目掛けて下ろし、武器を弾けないまま逆袈裟斬りを放つ。
ワンちゃんも防ごうと剣を持ち上げる。
「だから同じ技が通用す……がぁ!?」
桜は逆袈裟斬りと同時に、先程距離を取った時に回収した元右の小太刀を左手で持ち突きを放ちました。
桜の突きはワンちゃんの右脇腹に刺さり、呻きながらも怒りに任せて剣を降り下ろしてきます。
桜はまた距離を取ることで避けると同時に、体勢を立て直します。
ワンちゃんが脇腹を抑えながら睨んできます。
「このクソガキがぁ!」
「ワンちゃん、この技の名前は何ですか?桜が“改”を付けて貰ってあげます」
「俺は狼だぁ!」
ワンちゃんは怒りに任せて剣を振り上げながら走ってきます。
桜は右の小太刀を順手で、左の小太刀を逆手で握り、両方共左腰に添える。
「死ねぇ!クソガキィ!」
ワンちゃんが降り下ろすのと同時に、右の小太刀を身体を半回転させながら振り抜く。
ガキンと金属と金属がぶつかり合う鋭い音が鳴り響く。
ワンちゃんは脇腹の怪我の所為か桜でも簡単に弾き返せた。
桜は無防備になったワンちゃんを逆手で持った左の小太刀で下から上へ切り裂く。
「“柊流攻式雨ノ型 逆雨・改 ”」
「ガアアアァァァ!!」
紅い雫が天に昇り、落ちてきます。
「……勝者、サクラ・ヒイラギ!」
鳴り止まない歓声と五月蝿い実況の中を駆け足でステージを降ります。
視界の端には担架で運ばれていくワンちゃんが見えましたが、気にせず控え室に戻ります。
「ただいまです」
「おかえりぃ、サクラちゃん」
「随分荒れてたわね桜」
「だってあのワンちゃん、桜の事“豆粒”って言うですよ」
「……あぁ、そう」
『さぁ、これが最後の試合になってしまうのでしょうか!続いての試合は二対二のタッグ戦です。“戦乙女の茶会”レベッカ・ドール選手、カエデ・ヒイラギ選手!“獣王の雄叫び”ラヴィ・レット選手、ラグ・オードッグ選手!』
「おっ、今度は楓か。柊家は全員出場か。頑張れよ楓」
「……ん、行ってくる」
◇◆◇
「カエデちゃん、ど~する~?」
「……ウチが、やる」
「カエデちゃん~、一人でやるの~?」
「……ん」
こんな時でもニコニコしてるレベッカ。
ウチも良く他人に何考えてるか分からないと言われてるけど、この人はウチでも何を考えてるか分からない人。
ウチの苦手なタイプだ。
「じゃあ~、お願いするね~」
「……ん」
向こうからウサ耳とタヌキ耳の女性と男の子が上ってきた。
「それでは第四試合、始め!」
「行くわよラグ!」
「はい!ラヴィさ……ぐぅ!?」
「く、苦し……」
一分程経つと相手二人が倒れる。
「………………しょ、勝者、“戦乙女の茶会”!」
『おぉっと、一体何があったというのか!?』
『全く検討もつきません』
「何したの~?」
「……酸素、消した」
「さんそ~?」
「……空気の、成分」
「ふぅ~ん」
『と、というこは四対〇で“戦乙女の茶会”のストレート勝ちだぁ!第一回戦、“戦乙女の茶会”の勝利!』
『いやぁ、ここはダークホースですねぇ』
ウチ達は静かにステージを後にした……。




