Hiiragi , Surprising Conclusion
◆◆◆
俺は楓の言う通り森の中を北西に直進している。
周りを警戒しながら進んではいるが、思った以上に木や植物が生い茂り前方五十メートルもまともに確認できない。
進むのも一苦労だ。
音も少しの風で周りの草木がガサガサと音を立てるので判断しづらい。
因みに椿と桜とは離れて進んでいる。
(……六人が、二人ずつに、別れた。)
急に耳からと言うよりも直接頭に聞こえてくるかのように楓の声が聞こえてくる。
(……にぃは、前方百メートル。……つぅは、右前方、百五十メートル。……さぁは、左前方、同じく、百五十メートル)
俺は心の中で了解と呟き、近くの木の上に飛び乗る。
そのまま木の上を、さながら忍者の様に飛び移って前進する。
楓の言った通り百メートル程進んだ所で二人の人影を見付けた。
ソイツ等は木に手を当て、何かを語りかけている。
良く見るとソイツ等の耳が長いのが見えた。
これが森人族のエルフか。
まさかとは思うが、木や植物と会話でも出来るというのだろうか。
「どうやらもうすぐ近くまで来てるようだぞ」
「そうか」
そのまさかだったな。
アイツ等が俺に気付く前にサクッと仕留めちゃいますか。
俺は音を立てないように、エルフ達の後ろに静かに飛び降り、鞘に入れたままの刀で思いっきり 殴り付ける。
後頭部を強打され、簡単に気絶する。
もう一人のエルフは相方が倒れたことに気付き後ろを振り向くが、時既に遅し。
俺は鞘の先で鳩尾に一突き。
「わりぃけど眠っててくれ」
この世界では漫画や小説の様なダメージが反映されない結界やダメージを身代わりしてくれる様な石は存在しない。
刀を抜いて斬ってしまえば怪我はするし、最悪死ぬこともあるのだ。
今はまだ刀を抜く必要はない。
抜くのは本選に入ってからでもいいだろう。
取り敢えず俺のターゲットは戦闘不能にしたので、楓から支持があるまでその場で待機する。
◆◇◇
(……にぃは、前方百メートル。……つぅは、右前方、百五十メートル。……さぁは、左前方、同じく、百五十メートル)
「オッケー」
頭の中に直接聞こえるような楓の指示に本人には聞こえてないだろうが声に出して返事をする。
楓の指示通り暫く走っていると、植物越しに青と黄色の魔力の靄がチラチラと見えてくる。
それと私が初めて見る茶色の靄も見えている。
この色は確かティリカが木属性って言っていた気がする。
何をしているのかは分からないが、相手は此処で立ち止まっている。
相手に気付かれないように静かに近より木の影に隠れて様子を見る。
相手の顔がハッキリ見えた所で漸く相手が二人のエルフだということが分かった。
エルフは美形揃いと聞いてたけど確かにイケメンね。
まぁ、兄さんには遠く及ばないけど……。
さて、エルフ達が気付かない内にさっさと仕留めましょうか。
私はバランスボール程の水を二つ創り、かなりの速度をつけてエルフ達にぶつける。
エルフ達はトラックに轢かれたかの様に後方に吹っ飛び気絶する。
まぁ、この世界はトラックは無いんだけどね。
「……呆気ないわね」
一応死んでないかを確認して、楓からの次の指示か来るまで待機する。
「はぁ、早く兄さんと合流したいなぁ……」
◆◆◇
(……さぁは、左前方、同じく、百五十メートル)
「了解です」
聞こえてきたカエ姉の指示に従って森の中を進んでいきます。
思った以上に歩き難い森の中を五十メートル以上進んだ所で、敵さんも同じ様に進んでいた様で見事に遭遇してしまう。
歩くのに集中していたので注意力が散漫していました。
桜は慌てて木の影に隠れましたが、時既に遅し。
やっぱりバレていた様です。
「何してんの?バレバレよ。出てきなさい」
「うぅ……最近桜はダメダメですね」
「変なこと言ってないで早く出てきなさい!」
桜は仕方無く素直に出ていくことにしました。
しかし、木の影から出ても敵さんらしき人影を見つけることは出来ませんでした。
「何処見てんのよ!私達は此処よ」
「……わぁ。ちっちゃくて可愛い」
声のする方をよく見ると三十センチにも満たない緑の服を着た妖精さんが二ひ……二人飛んでいました。
二人とも女の子みたいだけど一人は物凄く口が悪そうです。
まぁ、妖精さんは悪戯好きと言いますからね、口も悪くなっちゃったんですね。
「ちっちゃくて当たり前よ。妖精なんだから。貴女は……小人?」
「!?桜は小人じゃないです!そんなにちっちゃくないよ!」
失礼な妖精さんです!
もう許しません!やってしまいます。
「今からお仕置きです」
「ふふん。やれるもんならやってみなさい。返り討ちにしてあげるわ」
桜は近くにあった木に手を当て魔力を籠めます。
すると真っ直ぐ立っていた木の幹から垂直に木が急速に伸び始め妖精さんたちを叩き落としました。
それはもう蝿叩きの様に……。
まぁ、妖精さん達も何が起こったのか分からなくて動けなかった見たいですけどね。
因みに急速に伸びたモノは木の元素から採った炭素なんかを使用して限り無く木に似せたモノです。
流石に植物等の生命を創ることは出来ません。
「うぅっ」
おっと、そうでした。
この子達がまた飛んでしまう前に捕まえてしまいましょう。
桜は地面から微量の鉄を取り、魔力で増殖して形を作ります。
出来たものは鉄製の檻。
勿論妖精さんサイズなので檻というよりは少し大きめの虫籠ですね。
「魔法が解けるまでそこでジッとしてて下さいね」
「出してよぉ~。謝るからぁ~」
「駄目です。これはお仕置きなのです」
「うわぁーん」
「一時間位したら解けるのですよ」
桜は近くにあった蔓を採り籠に結んで肩から掛ける。
後はカエ姉からの指示を待ちますか。
◆◇◆
「……にぃは、前方百メートル。……つぅは、右前方、百五十メートル。……さぁは、左前方、同じく、百五十メートル」
にぃ達に指示を出した後、もう一度索敵を続ける。
ウチの方に接近してくる者は誰もいない。
にぃ達もそろそろ敵と遭遇する。
一つ不思議なのが一つのギルドが開始から全く動いていないということだ。
「おい!お前!」
男の声が聞こえてくる。
ウチのギルドはにぃ以外女だし、にぃは前線に出てる。
敵が接近した様子もないのに男の声がする。
振り向くと十人もの男が此方を見ていた。
「お前等がやったのはズルだ!失格になるのはお前等だ」
あぁ、そうか。
この人達は開始直後にリタイアになった“炎魔の爪痕”か。
まだいたんだ。
言ってることが分からないので無視すことにした。
「おい!無視すんな!……クソッ」
男はそう吐き捨てるとウチ達の魔水晶に向かって炎弾を放つ。
しかし、放った炎は魔水晶に近付くに連れて炎の勢いが弱まっていき、当たる前に消滅してしまう。
まぁ、ただ魔水晶の周りだけ酸素を無くしてるんだけどね。
「何だよこれ!?何をしたんだ!」
そう言って今度はウチに放ってきた。
勿論ウチの周りも同じ様なこと。
いい加減鬱陶しくなってきたので、男が再び炎を出した時に炎の燃焼を手伝ってあげた。
大きくなった炎は見る見る男達の周りに広がり自滅した。
「……はぁ」
にぃ達も終わったみたい。
次は……。
「……にぃ、七百メートル先、敵本拠地。……つぅは…………」
◆◆◆
再び楓の指示に従い敵本拠地に到着。
少し遅れて椿と桜も到着した。
「兄さん」
「一気に方を付けるぞ。一人で一人な」
「はい」
「はいです」
「それより桜、その虫籠何だ?」
「妖精さんです」
「……飼うのかそれ?」
「逃がしますよ」
「そうか。……じゃあ、いくぞ!」
結果、無傷で勝利した。
魔水晶を守るように三角形に陣形を組んでいた敵は、俺達が一斉に一人ずつの正面に出た瞬間「敵襲だ!」と叫んだ。
しかし、三人が三人共自分の目の前の人の事だと思い込んでいたようで、俺達が一斉に時計回りに走り出すと手と目だけで追い掛け、魔法を連射。
そして自分の味方に誤射するという物凄い視野の狭さを見せてくれた。
まぁ、これで上位二つは決まった訳だが……。
「なんだかなぁ……」
『いやぁ凄いですねぇ、ギルド“戦乙女の茶会”。』
『そうですね。あの四人は兄妹でGランクの新人らしいですよ』
『それは凄いですね。……他のメンバーはどうしたのでしょうか?……どれどれ、これはマスターのセレーネさんの視点でしょうか』
『……馬車の中でお茶会してますね』
『あのカップとかは何処から持って来たんですかね』
『まぁ、兎に角後は一位を決めるだけですね』
『おっと、そうでした。状況は十対十。快進撃を見せてくれたギルド“戦乙女の茶会”と未だ動きを見せないギルド“真実の瞳”。一体どちらが勝利するのだろ……』
ドォーンッ!
『……うか?……あれデジャビュ?』
『いえ、三十分程前にもありましたよ。それにしてもこれは……“真実の瞳”の自爆ですね』
『何故ですか?』
『本選の為の戦力温存としか言えませんね』
『成る程。では、これにて第一試合Aブロック終了!!』
ワァァァァァー!!!




