Kiri , in the Guild
◆◆◆
「王立ギルド、王者の剣ねぇ」
俺たちは無事ギルドの前に到着。
ギルドは周りの建物から浮くこともなく、街並みと同じレンガ造りの四階建て。
中に入るとそこは酒場の様で、木製の机と椅子が並んでび、もう夕方ということもあって酒を飲んでいるオッサンが何人もいて、中は騒然としている。
どうやら右端が受付カウンターのようだ。
カウンターの横には大きな掲示板のような物があり、たくさんの紙が貼ってある。
これが俗に言うクエストボードというものだろう。
因みに反対の左端はバーカウンターやキッチンがあるみたい。
俺は受付に用があるのでもちろん受付に向かう。
途中でまたもや泣いているオッサンがいた。何故かパンツ一丁で……。
「すいません。ギルドに登録したいんですけど」
受付には三人の受付嬢がいて、取り敢えず俺は一番左の常にニコニコしているお姉さんを選んだ。
特に理由はない。
ルナも元々ギルドに用があったので隣のお姉さんと話している。
「登録ですか~?では、こちらに記入と登録料銀貨二枚掛かりま~す」
記入用紙には様々な注意事項があったので、それにザッと目を通して最後に署名すれば良いだけのようだ。
入国審査の時もそうだがチェックが甘い気がする。
ギルドの方針で魔力の量など関係無く、取り敢えず実力主義のようだ。
魔力が無くても強ければ良いということだ。
「一応ギルドの説明をしますね~。ギルドはランク制となっており、下からG~A、そしてSとなりま~す。もちろんアナ タはGからで~す。昇格したい場合は昇格試験を受けて下さ~い。他にも細かい注意事項があるのでこちらをご確認下さ~い」
一枚の紙を渡され内容を確認すると、内容的にはこの記入用紙の注意事項とほぼ同じ事が書いてある。
さて、署名も済んだしあとは、
「ルナさーん!」
「何よ」
隣の受付にいるルナに声を掛ける。
まだ自分の用事が終わってないらしく顔だけ此方に向ける。
「銀貨二枚貸して下さい」
「…………はい」
「サンキュ!はい、受付さん。銀貨二枚と署名」
「は~い、確かに~。それではギルドカードを発行するので少々お待ち下さ~い」
そう言うと受付さんは奥に消えていった。
暇なのでギルドの事を整理しよう。
1.ギルドに不利益な情報は洩らさない。
2.クエストは自分のランク以下しか受けられない。
3.クエストは一度に五つまで受注可能。
4.パーティーを組む際は両者の同意とギルドへの申請が必要。
5.パーティーでクエストを受ける場合はパーティーメンバーの平均ランク以下しか受けられない。
6.クエスト報酬の一割をギルドに納めること。
7.他の人が受注している討伐対象を討伐した際は報酬の六割を受注者に、二割をギルドに納めること。
8.クエスト受注から二週間以内(特例あり)又はクエスト失敗した場合は罰金が課される。
9.月に最低一度はクエストをこなすこと。
10.クエストなどで死亡した場合はギルドは一切責任を取らない。
こんなもんかな。あと他にも細かいのがあるけど、大丈夫だろ?
「キリ・ヒイラギ様~。」
「はい」
「はい、ギルドカードで~す。身分証明にもなるので無くさないで下さいよ~。魔力を籠めると所有者に認識しますので、籠めておいてくださいよ~。因みに再発行には金貨一枚掛かりま~す。」
無駄にハイテクだな。
魔力の籠め方が分からないので後でルナに聞くことにした。
「分かりました。あっ、受付さん」
「レベッカです」
「……レベッカさん。最近、黒髪の少女見ませんでしたか?」
俺の妹達は俺も含め皆黒髪黒眼だ。
皆髪型は違うが黒髪の少女と言えば全員に共通する。
「黒髪の少女ですか~?……そういえば、今日のお昼過ぎに長い黒髪の初めて見る娘がいましたね~」
ビンゴ!黒髪ロングは椿だ。
幸先の良い情報じゃないか。
「どこ行ったか分かります?」
「ごめんなさ~い。そこまではちょっと……」
「そうですか……」
でもこの街にいることが分かっただけでも儲けもんだ。
「でも~、あそこにいる裸のクソなら知ってるかもしれないよ~」
「えっ!?」
今、クソって言ったよね?この受付嬢、クソって言ったよね?
というか、あの一番関わりたくない奴に声掛けなきゃいけないのか。
「あ、ありがとうございました。レベッカさん。」
「は~い。」
はぁ、行くしかないか。
「キリちょっといい?」
「うん?どうした?」
「はい、これ」
ルナに手渡されたのは小さな袋だった。中を確認すると銀貨が八枚と大銀貨が五枚だった。
「お金じゃないか。なんだよこれ?」
「実はあのイノッチ私が受けていたクエストだったのよね。さっき一応報酬貰ったんだけど、倒したのキリだしやっぱり報酬はキリが貰った方が良いと思って……」
「ふぅ~ん。……いいよ、全部ルナにあげる。今日のお礼と借金返済ということで。元々ルナのターゲット倒した俺が悪いんだし」
というかいつ証明部位を採ったんだ?
俺と会ってからそんな時間もそんな素振りもなかったのに……。
「キリ……」
まぁ、まだ登録する前とはいえ、それがギルドのルールだ。
ギルドの規則では二割が俺の元に来るはずだが、今日ルナに借りた分くらいにはなると良いな。
本来はギルドに二割納めなくてはだが、揉めずに解決出来るのだからそこは見逃してもらおう。
「……あっ、やっぱり今日宿代だけ頂戴」
「……………………」
「……………………」
「…………はい」
「…………ありがとうございます」
結局大銀貨一枚と銀貨五枚を貰った。
…………俺って超ダセェ
気を取り直しオッサンのとこ行くかと覚悟を決める。
「あの、すいません」
「グスッ…………グスッ…………」
「黒髪の少女知りませんか?」
「ビクッ…………ガクブルガクブル」
黒髪の少女という単語で異常な反応を見せるオッサン。
何となく予想は出来るが、仕方ないので隣のオッサンに聞いてみる。
「あの、この人どうしたんですか?」
「あぁ、コイツ?コイツはお昼過ぎに来た綺麗な黒髪の女の子に絡んだんだけど、あれはどっちが絡まれたのか分からなかったな」
「そんなにひどかったんですか?」
ルナよ、聞かない方が良いぞ。
後悔することになるぞ。
「あぁ、ひどいなんてもんじゃないぞ。カードゲームという名の一方的殺戮と容赦なき罵倒、そして素晴らしい手際の良さで身包み剥いで帰っていきやがった」
「うん、間違いなく妹の椿だ。」
「「アンタの妹は鬼か!悪魔か!魔王か!」」
おぉ!見事なまでの異世界共通認識。
異世界でも通用するのか。
「どこ行くか聞いてない?」
「いや、何せ俺もガクブルだったからなぁ」
あぁ、オッサンが遠い目をしてる。
そして思い出したのか微かに震えているぞオッサン。
「イヤ、待てよ。宿を探すとか言ってたかも」
「本当か!?オッサン!」
「オ、オッサ!?………あぁ、確か」
「サンキュ!はい、これ情報料」
俺は机の上に多いのか少ないのか分からないが礼儀として銀貨一枚置いてルナを連れてギルドを出ようとするが、如何にもな奴ら二人、ハゲとデブが絡んできた。
「ヘイヘイ兄ちゃんよぉ。俺にも金くれよ」
「ついでにそこの女もな。ゲヘヘ」
「うっさい!絡むなら入った時にしろ!」
右手でハゲを左手でデブの頭を掴み 、思いっきり床に叩きつけると、床を貫通して体の半分近くまで埋まった。
そして何事もなかった様に出口に向かう。
「…………………………」
「行くぞルナ。あっ、レベッカさん、床の修理代どうすればいい?」
「そのブタどもから取っておくからいいわよ~」
「…………………………」
「ありがとうございます。では」
「またのお越しを~」
「…………………………」
「どうした?さっきから黙り込んで」
「おかしいでしょ!何なのよあの力は?アンタも十分鬼じゃない!物理的に!」
「そうか?」
「そうよ!というか、生き別れの妹はもう見つかったの?」
「う~ん、見つかったと言えば見つかったし、見つかってないと言えば見つかってないな」
まだ、椿の情報しかないしな。
どちらかといえば楓が見つかってほしかった。
明後日位にはくたばってそうだからな。
「確かにまだ何処かの宿にいるかもしれないっていう情報だけたからねぇ。すごい鬼畜っていうことも知ったけど…………」
「いやいや、違うって。それもそうだけど、あれ?言ってなかったっけ?妹は三つ子だから三人いるよって」
「…………は?はぁぁぁぁ!?(ヤバいって。あんなのがあと二人もいたら、この街滅びちゃうよ)」
「なぁ、この街の宿案内してくんないか?」
「え、えぇ、いいわよ。(放置したら危険だ)じゃあ、こっちから行きましょ」
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