Kiri , to Surprise
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「それで?私に会わせたい人って誰なのよ?」
「ん?それは着いてからのお楽しみってことで」
「……はぁ」
あの後図書館を後にし、俺はルナを連れてギルドへの道を歩いている。
もちろん楓は俺の背中にいる。
日は落ち始めているが、綺麗なオレンジの夕日が辺りを照らしそれほど暗くなってはいない。
ギルド前の路地に入ると流石に薄暗くなってきている。
足元に気を付けながら暫く歩きと、昨日も見た宿屋の看板が見えてくる。
あの看板はもう外しちゃえばいいのに……。
「……宿屋?こんなとこに宿屋なんてあったのね」
「何だ、ルナもやっぱり知らなかったか」
「えぇ、全く知らなかったわ。……まさか会ってほしい人ってここ?」
「あぁ、そうだ」
どうやら俺が足を止めたことにより勘づいたようだ。
「じゃあ、ちょっと此処で待っててくれ」
「……分かったわ」
返事を聞いた俺はルナをそこに待機させてギルドの中に入る。
中には相変わらずニコニコとした笑顔で受付に座っているレベッカさんと厨房で慌ただしく動いているクレアさんがいた。
マスターがいないかと入り口の前で立ち止まっていると後ろの入口が開く。
「あら?兄さんも今帰りですか?」
「ん?あぁ、俺もたった今な。おっ、桜も一緒か?」
「お兄ちゃん、ただいまです」
俺のすぐ後に帰ってきた椿と、そのすぐ後ろからひょこっと顔を覗かせる桜の姿があった。
俺達のすぐ後ろを歩いてたんじゃないかという程のタイミングだ。
「おぅ、お帰り」
「桜とはそこで会ったんですよ。それよりルナがそこにいるんですけど」
「あぁ、マスターに会ってもらおうかとね」
まぁ、入口のすぐ傍に立たせておけばルナには気付くよな。
それにしてもマスターはいないのかな?
取り敢えずレベッカさんに聞けばいっか、挨拶がてら。
「ただいまです、レベッカさん」
「おかえり~」
「マスターはいますか?」
「奥の部屋にいるよ~」
「入っても大丈夫ですかね?」
「いいと思うよ~」
相変わらずレベッカさんとの会話は何だか気の抜ける会話だな。
「じゃあ、行ってみますね」
「その必要はない!」
奥の部屋に通じる通路の前に両腕を腰に当ててどや顔をしているマスターがいた。
後ろにはサブマスターのミレーナさんが疲弊しきった顔で立っていた。
朝から奥の部屋に籠っていたのに元気なマスターと同じく朝から部屋に籠っていたミレーナさん。
明らかにミレーナさんに仕事を丸投げしたのが目に浮かぶ。
「それで?私に何の用だい?」
「あぁ、マスターに会ってほしい人がいるんですけど……」
「何だ、結婚するのか?」
「アンタは俺の母ちゃんか!」
急なマスターのボケについ突っ込んでしまった。
しかもアンタとか言っちゃったし……。
あっ、でもなんかうけてるっぽい。
めっちゃ爆笑してる。
「いやぁ、ナイスツッコミだよキリ君」
「あの、話進めていいですか?」
「おぉ、そうだったね。連れてきてるんだろ?」
「はい」
俺は一旦外に出てルナに声を掛ける。
寒いんだから早くしろと文句を言われたが、素直に中に入ってくれる。
ルナを連れてマスターの前に戻って紹介する。
「えっと、この人なんですけど……」
「ルナ!?」
「お姉様!?」
やっぱりか。
「お姉様!今まで何処に言ってたんですか!」
「いやぁ、何処って言われても……ミレーナにお世話になってたんだけど」
「ミレーナさん!?」
ミレーナさんの名前を聞いた瞬間、バッとミレーナさんの顔を見る。
どうやらミレーナさんの顔が分かるってことは面識があるっぽいな。
「久しぶりねルナちゃん」
「お久しぶりです、ミレーナさん。……じゃなくて、何でお姉様の事を教えてくれなかったんですか!」
この会話を聞く限りじゃ、ルナの姉ちゃんのマスターが消えてからルナはミレーナさんとは会ったことがあるみたいだな。
久しぶりってことはそんな頻繁に会うような仲でも無さそうだけど……。
「セレーネがルナちゃんには言うなって言うから仕方なく……」
「じゃあ、お姉様!何で家を出ていったんですか!」
「そんなのお父様の遣り方が気に入らないからよ。私を政略結婚させるためだけの道具としか見てなかったんだから」
「それなら!何で私も連れていってくれなかったのですか!私だって……あの家には、未練なんて……無いのに……」
ルナは感情が爆発してしまったかのように、とうとう泣き出してしまった。
俺もこれは予想外だったが、マスター達も予想外の事だったようで、マスターとミレーナさんは困ったようにお互いを見合わせる。
「ルナ、泣かないで……」
「……お姉様は此処に住んでるんですか?」
「え?そ、そうだけど……」
「なら私も此処に住みます」
「えぇ!?ちょ、ちょっと待って。それってルナも家出するってこと?家の相続とかどうすんのさ!?」
「そんなの知りません。いっそのこと潰れてしまえばいいんです。それが嫌ならお父様が適当な女を捕まえて孕ませればいいんですよ」
ルナが予想以上に暴走してぶっ飛んできてるぞ。
というかルナ達の母親はどうしたのだろうか。
さっきからお父様は駄目な話は聞くが、母親の話が一切出てこない。
ルナも家には未練が無いなんて言ってるし、母親はもしかしたらもう……。
「学園はどうするのさ?」
「此処からでも問題なく通えます」
「親の呼び出しとかあったらどうするの?」
「お姉様が保護者として来て下さい」
「ぐぬぬ。……はぁ、分かったよ。ルナの好きにすればいいよ。家にいても私と同じ様な目に遭いそうだし……。荷物はどうするの?」
「そうですねぇ。取り敢えず今日は一旦帰ります。明日の朝、日が昇る前にまた来ます」
そう言ってさっさと帰っていこうとするルナだが、俺だけにこっそりと帰り際に一言残していった。
『ありがとう、キリ。お姉様に会わせてくれて感謝してるわ』
全く素直じゃないんだから。
そんなこっそりじゃなくて、堂々と言えばいいのに。
まぁ、ルナらしいっちゃルナらしいか。
ルナがいなくなり何時もの静けさを取り戻したギルド。
何時ものと言って俺達も昨日来たばかりだから、何時もがどの程度なのかは知らないけどな。
「まったく面倒臭いことをしてくれたね、キリ君?」
マスターが急に少し低めのトーンで言ってくるが、顔の頬は弛みきり、何処と無く嬉しそうだ。
それにはミレーナさんも気が付いたようで、違った意味でミレーナさんもニヤニヤしている。
「言うことが違うんじゃないの?セレーネ?」
「うぅ……ルナを連れてきてくれてありがとうキリ君」
若干悔しそうな顔で言ってくるが、結局のところマスターはルナのお姉ちゃんで似た者同士ってことだな。
なかなか素直になれないところとか。
あっ、そうだ。俺の本題はもう一つあったんだった。
「マスター、ルナは確認の為だけに連れてきただけで本来の目的はギルドに入ってもらおうかと思ってたんですけど」
「ルナがギルドに……」
「ギルド設立条件達成」
「ということは……」
「「正式にギルドが設立出来る!?」」
マスターとミレーナさんはお互いに顔を見合わせて大喜びしている。
実際はルナの口からギルドに入るとは聞いていないが、この様子ならこのギルドに入ることは間違いないだろう。
「これなら、アレに間に合うわね」
「そうね。じゃあ、今から書類を作ってさっさと申請しなくちゃ」
ん?アレって何だ?
「マスター、アレって何ですか?」
「アレはアレよ。セレスティア王国最強ギルド決定戦」
最強ギルド決定戦!?
何だかまた面倒臭そうな事が……。
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