Tsubaki , Training of Knight
◆◇◇
「アンタ最近人質になりすぎじゃない?」
「うぅ、言わないで下さい。自分でもそう思ってるんですから」
人質になっていた少女とは紛うこと無くウチの末っ子の桜だった。
つい最近もこのシチュエーションは見たことがあったわね。
「父さんが知ったら何て言うかしらね」
「確実にお仕置きですね。って、いなくなった人の話をしてもしょうがないじゃないですか!」
「おいっ!てめぇら何言ってやがる!」
それにしてもこの男は本当に隠密するようなヤツっぽくない人ね。
人質の桜の身長に合わせて若干中腰になってるし、なんか騒いでるし……。
段々小者っぽくなってきたわね。
「あんまり騒いでるとこのチビを殺すからな!」
あれ?このパターンは前回もやったような……。
「あっ、そこら辺で止めた方が……」
「この人殺っちゃっていいですか?」
「……手加減しなさい」
そこからは速かった。
あっという間に男は野次馬の向こうへと消えていった。
回りの人達は何が起きたのか理解できていない者が大半でしょうね。
「あっツバ姉、ごめんなさい。飛ばしちゃいました」
「はぁ、いいわ。貴女は自分の仕事を頑張んなさい」
「はいです」
取り敢えず男が飛んでいった方へ野次馬を掻き分けていく。
不自然に空いた空間。恐らくここら辺に落下したのでしょう。
「確か……ここら辺、あら?……逃げられた?」
男がいるはずの落下地点に来てみたが誰もいない。
しかし、新しい血の痕があるからここに落ちたのは間違いないはず。
「誰か黒ずくめの男を見てませんか?」
「あぁ、そいつだったらあっちの方に行ったぞ」
他に証言がないので、取り敢えずこの証言を信じてみることにする。
「ご協力感謝します」
あれから十分位探してみたが、あの男は見付からなかった。
腐っても隠密者ね。最初からそうしていない時点で隠密としては失格だけどね。
でも、流石に見失えば再び見付けるのは難しいわね。
「あっ、ツバキ」
「ん?なんだルナか」
「なんだって何よ」
呼ばれたので振り向くと、最近兄さんに近寄るルナがいた。
「ここら辺で黒ずくめの変なヤツ見なかった?」
「うーん、見てないわ。……それよりキリ何処にいるか知らない?」
また兄さんの所に……。
「さぁ、残念ながら分からないわ。……楓と一緒に図書館にでも行ってるんじゃない?」
「そう。分かったわ。早速探してみる」
「……何だったのかしら一体」
あんなに必死に探しているということは、結構重要な内容なのかしら。
帰ったら兄さんに聞いてみましょ。
それにしても見付からないわね。
一旦諦めようかしら……。
というか、もうなんか面倒臭くなっちゃったわ。
「おーい、嬢ちゃん!」
「あっ、隊長」
「あっ、じゃねぇよ!……あんまり単独行動はしないでほしいぜ」
「すいません。……ティリカもごめんなさい」
「いえ、ツバキさんが無事で良かったです」
ティリカは優しすぎるわね。
こんなにぜぇぜぇ言ってるのに、文句の一つも言わないなんて。
運動は苦手なのでしょうね。
「まぁ、それはもういい。それより追っていたヤツは?」
「……逃げられたわ」
「そうか……まぁ、取り敢えず一旦庁舎に帰って嬢ちゃんに騎士のルールを叩き込むか」
「……お手柔らかに頼むわ」
今回の件を咎められはしたが、そもそも私は騎士のルールを何も聞いていない。
いきなり説明も無いまま巡回に連れていかれ、単独行動したら怒られる。
私は悪人を追っただけだわ。うん、私は悪くない。
庁舎に戻った私は取り敢えず黒ずくめの男の情報を全て隊長であるウォルフに話す。
体格や瞳の色、おおよその年齢に属性等々。
私の分かる限りの事を話した。
「……なるほどな。一応騎士の連中には伝えるが、まだ明確に何かした訳じゃないから指名手配とかは出来ないぞ」
「分かってます」
「それでは、庁舎の中を案内をしましょうか」
「そうだな」
そう言って最初に来たのは朝に来た受付。
受付さんの名前はリーナさん。
ティリカと同い年らしいが、ティリカとは違い巨乳のお姉さんだ。
次に来たのが会議室。ここでは週に一度の定例会議等が行われるらしい。
その次に三番隊員室。ここは所謂学校の職員室の様なもので、机が並び一人一つの机が与えられるみたいね。
騎士はデスクワークもあるらしい。面倒臭い。
隊員室に残っている人に軽く挨拶をしてここを後にする。
他にも色々あるらしいが、最後に訓練所。
ここは文字通り訓練する場所だ。
魔眼持ちは実戦で戦闘する必要は無いらしい、寧ろ貴重な魔眼持ちを失わないためにも戦闘は非推奨なのだ。
だけど自分の身を守るためにも、訓練はしとけと言う。
「嬢ちゃんも訓練してみるか?」
「……そうね。お願いします」
「なら、これを使ってくれ。実戦形式でやろうか」
そう言って投げ寄越したのは刃引きされた訓練用の剣。
隊長と距離を少し取り、剣を構える。
「じゃあ、ティリカ合図を頼む」
「はい。では……始め!」
私は開始の合図と同時に隊長へと突っ込む。
なんの技も無いただの突きを放つが、隊長は少し対応が遅れながらもしっかり捌く。
ここで柊流を使っていたらそれで終わっていたかもしれない。
まぁ、ここで終わらせるつもりがないからただの突きにしたんだけどね。
「っと。……嬢ちゃん、俺はガッカリだぜ。頭の良い嬢ちゃんが、いきなり何の策も無しに突っ込んでくるとはな」
「隊長はアホですか?」
「ア、アホ!?」
「隊長がそう思っていたからこそ突っ込んだんじゃないですか」
「なっ!?……そうか、だったら今度は俺から行かせてもらうぜ!」
その叫びと共に肉薄してきた隊長は隙の少ない連撃を放つ。
五、六回の連撃をすると一回の大振りの攻撃がある。
隊長の振りの小さい連撃でも重くそれなりに速いが、兄さんより確実に弱い。
キンッという金属がぶつかり合う音が暫く響き続ける。
連撃と強攻撃の繰り返しのセットはもう五回以上はやっただろう。
「オラオラァ!守ってばかりじゃ勝てないぜ!」
そろそろ癖も見えてきたわね。
それにしてもこの人性格変わりすぎじゃない?
「それはどうかしらね」
隊長の攻撃は先程の様に五、六回の連撃の後に一回の大振りの一撃を放ってくる。
この強攻撃の中でも左足を外側斜め前に二十センチ程踏み込んだ時、私の左肩から右腰に掛けての大振りの袈裟斬りをしてくる。
隊長の連撃を一、二、三と防いでいく……来た!
左足を斜め前に踏み込んだ。
それを確認した私は同じように右足を踏み込む。
更に隊長が右肩の方へ振り上げるのを見てから私も左肩の方へ振り上げる。
そして袈裟懸けに振り下そうとするが、天辺から少し下がった所で剣と剣が凄まじい金属音を出しながらぶつかる。
剣は両者共に弾かれ仰け反るが、私は思いっきり隊長の腹目掛けて蹴る。
「チッ」
「ぐっ、ゲホッゲホッ。嬢ちゃん、今の態とか?」
「“柊流守式地ノ型 地鏡”です」
この技は相手の技を鏡写しの様に合わせるカウンター技だ。
同じ角度、同じ位置に成る為にちゃんと相手の技を一瞬でも見なければいけない。
そうすると一瞬の遅れが出るが、位置を合わせるために相手よりスピードを上げる。
本来ならそのスピードのお陰で相手の技を弾き飛ばすのだが、今回は身長差と地力の差が出てしまった。
後、私は右利きだしね。
この技は私のずば抜けた観察眼があるからこそ容易に出来る技だと兄さんは言ってくれた。
なので、私は刀のような薄い刃でも合わせる自信がある。
「いやぁ、参った参った。強いな嬢ちゃん。もしかしてキリもこんなに強いのか?」
「当たり前です。バカなんですか?」
「バ、バカ!?俺、一応上司なんだけど……」
「お疲れ様ですツバキさん。お強いですね」
「まぁ、鍛えてるからね」
「そうだなぁ、嬢ちゃんは騎士団の訓練に参加しない方がいいかもな。型が崩れたりしたら勿体無いし。模擬戦位でいいか」
「あと、魔法もお願いします」
「了解。じゃあ、今日はもう解散にするけど……っと、その前にちょっと着いてきてくれ」
そう言われて着いていった先は三番隊員室。
その奥にある三十センチ以上ある大きな石の前まで行く。
すると隊長はそこに置いてあった小さめのピッケルを使って目の前の石を砕く。
その砕かれた小さな欠片を私に投げ渡す。
渡されたのは一見ただの石ころ。三センチ程の灰色で僅かに透明の石だ。
「何これ?」
「魔水晶を見るのは初めてか?それは魔水晶の中でも音魔水晶っていって、魔力を籠めると同じ魔水晶から取れた魔水晶の欠片に音を送ることが出来るんだぜ」
「へぇー、無線機みたいなものね」
「そういうことだ。これは三番隊専用だから無くすなよ」
無線機という言葉が通じるのが不思議に思ったが、また翻訳が無理矢理やってくれたのでしょう。
「一応肌身離さず持っておけよ。緊急召集とかはこれで連絡するから。城壁内だったら何処でも通じるはずだからよ」
「了解です」
「まぁ、魔水晶について詳しく知りたきゃ自分で調べるんだな。おしっ、じゃあ今日は解散!お疲れ!明日も同じ時間に来てくれ。嬢ちゃんは当分俺等と行動だ」
「お疲れ様です」
「あっ、はい。お疲れ様です」
ということで私の初勤務は終わった。
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