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柊兄妹の異世界四重奏  作者: ライトニング
Guild Tournament
33/61

Tsubaki , Tracking

 ◆◇◇


 私が投げ付けた短剣は狙ったヤツの後ろの路地の壁に突き刺さっていた。

 チッ、逃げられたわ。


「ウォルフ隊長、私達大分前からつけられてましたよ」


「何だと!?」


 初めは、ただ行き先が同じだけの一般市民だと思ったのだけど、私達は巡回の為に路地に入ったり通りに出たりと結構複雑な行動をしていたのにも関わらず、ずっと着いてくるヤツがいたのだ。

 ヤツの狙いは何なのかは分からないが、もし私達に害を成すのなら容赦はしないわ。


「隊長!私はヤツを追います」


 私はウォルフ隊長の返事を待たず、ヤツが逃げた路地に向かって走り出す。

 ついでに壁に突き刺さった短剣も回収して、腰の鞘に戻す。

 

「おい!待てよ嬢ちゃん!」


「ツバキさん、深追いは危険です!」


「チッ。ティリカ、俺達も追うぞ」


「はい」


 後ろからウォルフ隊長とティリカの注意の声が聞こえてくるが、ヤツを易々と見逃すわけにもいかない。

 ヤツはどうも私の事だけを観察していた様な気がする。

 ただのストーカーなんてちゃちなもんじゃないと思う。


「……見えた」


 角を曲がったところで数十メートル先に全身黒一色の服を着た覆面のヤツが走っている。

 こんな明るい内から覆面に全身黒一色は逆に目立つだけでしょうに……。

 明らかにプロの仕事とは思えない失敗だ。そもそも、尾行がバレている時点で一流の者じゃないのは確かね。


 走り方、体格からして三十代の男性とみた。

 魔法の力なのかは分からないが、そこそこの速さがある。

 しかし、私もそれに難なく着いていっている。寧ろ私の方が速いくらいだ。

 恐らく着いてきているであろうウォルフ隊長とティリカの姿はもう既に確認出来ない。

 身体が軽くなったのもこの世界に来た影響なのだろうか?


 黒一色の男は入り組んだ路地をどんどん進んでいく。

 私は先程までこういった路地も巡回していた為、ある程度の道は解る。

 そして、ヤツが今曲がった先は確か行き止まりのはずっ!


「“エアステップ”」


 曲がった先は確かに行き止まりだったのだけど、男が唱えた魔法によって三階建ての屋根の上に駆け上がっていく。

 肉眼では見えない何かを踏みしめながら上へと上がっているが、私には男が踏み出す所に緑の靄が床の様に形創られているのが見えた。

 緑の靄。つまり風属性の魔法だ。

 男が速く走れたのも風属性の魔法によるものなのでしょう。


「……まったく、魔法ってのは面倒臭いわね」


 少しの間呆然と立ち尽くす私を男は様子を窺うように見下ろしていた。

 はぁ、本当に魔法ってやつは面倒……いや、面白いわね!


「あんまり嘗めないで欲しいわね!」


「何!?」


 私は呑気に此方を窺っている男に苛立ち、狭い路地の壁を利用して連続して壁ジャンプを繰り返し屋根の上に上がる。


「……お前人間じゃなかったのか?」


「失礼ね。正真正銘のか弱い人間の美少女よ」


「……面白い冗談だ」


 この場合の非人間扱いは化け物扱いではなく、ただの種族確認なのでしょう。

 他の種族、例えば獣人族なんかは普通に出来るのかしら?

 天人族なら翼でちょちょいのちょいで三階建て屋根程度なら上がれるでしょう。

 まぁ、私には見るからに翼なんてモノはありはしないんだけどね。


「それより逃げるのは辞めたのかしら?それとも大人しく捕まってくれるのかしら?」


「……それも面白い冗談だ」


「逃げられるとでも?」


「どうだろうな」


「……ふぅ。……性別、三十代前半の年齢、一七八センチの身長」


「な、何を言って……」


「……骨格、筋肉の付き方、声、瞳の色、走り方、呼吸の仕方、属性、等々。それが今、貴方についての私が持っている情報よ。これだけの情報があれば私なら十分よ」


 ちょっと観察していれば見付けられる特徴。

 一つ一つでは一人の人間を割り出すのは難しいだろうが、それがいくつも集まれば大体絞ることが出来るわ。

 声や走り方も結構特徴が出るもの。それにプラスして私は相手の属性が見える。

 更に珍しい事にこの男は風と火の二属性持ち。これ程分かりやすい特徴は無い。


 もしこの国に住民票の様なものがあれば更に探しやすくなるでしょうね。


「……どうする?」


「……まぁ、逃げるしか無いさ。こっちも仕事なんでな……」


 その言葉と共に袖口から出したナイフで斬り掛かってきた。

 それを紙一重でかわし、右手で腰のショートソードを抜きながら斬りつける。

 しかし、その攻撃はナイフで受け止められるが、空いている左手で後ろ腰の短剣を逆手で握り斬りつける。

 男はそれを後ろに大きく飛び退いてかわす。


「“ブラストウィンド”」


 男が放つ緑色に広がる風属性の魔法。

 それは風が吹き付けるだけの魔法だが、顔を上げていられない程の強風。

 私も咄嗟に顔を両腕で隠す。

 腕の隙間から様子を窺ってみる。


「チッ、逃げたわね。魔法は本当に面倒臭いわ

 」


 風が止み、今度はしっかりと確認する。やはり、男はまた数十メートル先にいるのが見えた。


「隠密なら逃げる前に姿隠しなさいよ」


 そう言って私もまた追い掛け始める。

 走りながら屋根と屋根の五メートル、六メートルはある間を軽く飛んで渡る。


「まったく、異世界様様ね」


 警備騎士団庁舎を越え、私達のギルドの付近を通過する。

 そこから更に数百メートル鬼ごっこは続き、追い付きそうになったところで男は下に降りる。


「ここは……市場?」


 降りてきた場所は生鮮食品や屋台等が並んだ市場の様な場所だった。

 肉や魚、野菜等の生物を扱っている店や焼き鳥や飲み物等を扱っている店と言うよりは屋台の様なモノがズラリと並んでいる。


 そして、ヤツがここに逃げた理由はこの人の多さでしょう。

 買い物客や店員で、ここら一帯は人でごった返している。

 木は森に、人は人混みにという事だろう。


『キャーーッ!!』


 その時、少し先の人混みから女性の叫び声が聞こえてきた。

 タイミング的に考えて、あの黒一色の男が何かしたのだろう。

 何もせず人混みに紛れてしまえば、逃げ切れたかもしれないのに……余計な事をする隠密者だ。

 周囲の目に晒されている時点で隠密とは呼べないけどね。


 私は人混みを掻き分け叫び声の元へ行く。

 どうやら男は女の子を人質に捕ったらしくナイフを突き付け何かを言っている。

 叫び声を挙げたのは女の子ではなく、近くでしゃがみこんでいる女性が挙げたもののようだ。

 それにしても、こんな事をするなら素直に逃げた方がよっぽど良かっただろうに……。

 まぁ、私は騎士団の仕事でもしますか。


「貴方、人質を解放して、もう、降、参し………」


 私はここで漸く人質の女の子の正体を確認することができた。


 ◆◇◇


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