Kiri , Recruitment examination
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「うひゃー。やっぱり近くで見ると更にデカイな」
「ほら、ぼさっとしてないで行くわよ」
魔法学園の様なお城、あっ逆か。お城の様な魔法学園はやはり近くで見ると圧倒されるほどの大きさだった。
学園の正門には警備員がいたが、ルナが側にいたためスルーすることができた。
ルナの護衛だと思われている可能性はないだろう。
なんたって俺は何の武装もしていないからね。
面接や試験があるかは分からないが、筆記具も無ければ履歴書も無い。
前の世界だったら即追い返されるだろう。
「なぁ、ここからあとどれ位かかる?」
門をくぐったはいいが、校舎自体はまだ大分先にある。
学園長室が何処にあるかは知らないが、結構かかりそうな気がする。
「もう直ぐよ」
この世界の時間に関してのもう直ぐや少しは宛にならない。
時計が無い為か、ルーズというかこちらの世界の時間感覚が分からない。
暫く歩いていると、前方からまだ残っていたと思われる女子学生の集団が歩いてくる。
会話に夢中になっているが、その中の一人がルナと一緒にいる俺に気が付く。
「ルナ様?隣の殿方は誰ですか?……もしかして彼氏とか?」
「新しい算術の講師候補よ」
からかいの言葉をものともせず普通に答えるルナ。それでも女子集団はキャーキャーと騒ぎ続ける。
「新しい算術の講師だって?私前の奴嫌いだったからなぁ」
「若いし結構格好良くない?」
「じゃ、これから学園長の所に行くから、またね」
若いのが珍しいのか彼女達の興奮は収まらない。
ルナはそんな彼女達を放置するように離れていく。
俺もルナに置いてかれないように着いていくが、あれはあのままでいいのか?
結局それから二十分程歩いて、漸くお目当ての場所に到着した。
ルナがノックして返事を待ってから入る。俺もそれに続いて中に入る。
中に入った先にいたのは三十代位のダンディなオジサマが第一印象の人だった。
こんな若さでも学園長になれるのか?
「やぁ、君がルーナ様が推薦するキリ君だね?私はここ、セレスティア魔法学園の学園長のアデルバート・ガーライルだ」
「桐柊です。よろしくお願いします」
「じゃあ、早速試験をしようか」
そう言って渡された紙には二十問程度の三桁の足し算引き算と一桁の掛け算割り算が書いてあった。
問題はちゃんと数字で書かれていた。今までも値段などもちゃんと数字で見えていたので、ルナが書いていたのはまだ数字として完成されていない為、縦棒にしか見えなかったのだろう。
この問題を解くのはかなり簡単だが、一画二画の数字で書いたら明らかに画数が足りなくて学園長にバレるだろう。
かといって、この縦棒を書いていくのは面倒臭い。
「……あの、書くと時間がかかるので口答でもいいですか?」
「……ふむ、いいだろう」
許可をもらった俺は、問題用紙を見ながらほぼノータイムで全問解答した。
学園長も答案用紙を見ながらだったが、見てるだけの学園長も途中から追い付かなかったようで、二週するはめになった。
でも確かにあの数字を読み取るのには時間がかかりそうだよな。
「いやはや、素晴らしいね。全問正解であのスピードとは恐れ入るよ」
「ありがとうございます」
「では、次の試験に行こうか」
ん?
「次は演習場で行うから着いてきてくれ」
『おい、どういうことだ?』
『私だって知らないわよ』
『演習場って……俺は魔法なんかまだ使えないぞ』
『兎に角、着いていってみましょ』
俺達は取り敢えず学園長の後を着いて演習場へ向かうことにした。
結局学園長室からは十分程歩いた所に演習場はあった。
この学園がどういったシステムなのかは分からないが、休み時間で移動できるのか?
演習場はコロッセオの様な円形闘技場で、結構な広さがある。
そしてその中心に俺と学園長は向かい合うようにして立っていた。
因みにルナは少し離れた所でこちらの様子を見ている。
「さて、次の試験だが、君の実力試験をしたいと思う。生徒に嘗められないためにはある程度の実力が必要だからね」
「あの、俺魔法がまだ使えないんですけど……」
「む、そうかい。……では、武器や武術での戦闘は?」
「それだったらそれなりに」
「じゃあ、あそこに武器庫があるから好きなものを選ぶといい」
学園長が指差す先には確かに倉庫の様なものがある。
中に入ってみると様々な武器が揃えられている。
剣や槍、短剣や斧や弓など様々なジャンルの武器がある。
剣でもショートソードやロングソード、バスターソードがあり、槍も投擲用の短槍もあれば、ハルバードなんかもある。
そして、全てに共通して言えることが刃引きされているということだ。
「これでいっか」
俺が選んだのは普通のショートソード。
本当は刀がよかったが、そんなものは置いてないのでこれで我慢する。
「それでいいのかい?」
「はい。学園長は武器使わないんですか?」
「私はいいさ。魔法使うからね」
うわっ、なんかセコいなこの人。
俺が魔法使えないっていうのに……。
「君、今セコいって思ったね?こ、これはちゃんとした理由があるんだ。生徒だって魔法を使う可能性はあるというね」
言い訳っぽいが一理ある。
「で?これから何するんですか?」
「もちろん、私と模擬戦をするんだよ。ルールはそうだなぁ……開始から十分経っても立っていたら合格だ」
「攻撃するのは?」
「もちろんいいよ。そうだ、私をダウンさせても合格にしよう」
なるほど、十分間耐えきるかワンダウンとるかだな。シンプルで解りやすい。
「じゃあ、始めようか。ルーナ様、合図をお願いします」
「分かりました。……では、試合開始!」
「十分以内に君を倒すつもりだから、いかせてもらうよ。“ファイアーボール”」
合図と同時に学園長が魔法を撃ってきた。
いつぞやのチンピラが使ってきたファイアーボールより二回りくらい大きい。
これは単純に魔力の差なのか練度や想像力の差なのか……。
ルール上学園長は攻めなければならない。そして俺は基本守りに撤した方が無難だが、敵もそう思っている内が逆に攻めどころだ。
取り敢えず迫ってくる火の玉をなんとかしなきゃな。
「“柊流攻式雨ノ型 逆雨 ”」
腰に添えてあるショートソードを逆手で握り、下から上に居合いの要領で切り裂く。
この技の名前の由来は文字通り、雨が地から天へと逆に降ることから付けられている。
まぁ、降る雨は赤いけどね。
そして、所詮は火の玉。確かに熱いが凄まじい剣速に耐えられずに二つに割れる。
学園長も本気じゃないみたいだしな。
「ちょっ、何それ!?聞いてないよ!?」
「それなりに出来るって言ったじゃないですか」
「いや、それなりってレベルじゃないよね!?魔法を斬るとか聞いたこと無いんだけど!?てか、そんなので斬り掛かられたら刃引きの意味無いよね!?」
「じゃあ、次は攻めますね」
「ちょっ、“フレイムショットガン”」
先程より小さい火の玉が拡散して向かって来る。
今度は物量で攻めてくるようだね。
というか、この世界にもショットガンとかあんのかな?それとも翻訳が都合がいいように勝手に翻訳してるのかな?
「“柊流守式地ノ型 地走 ”」
俺は剣を順手に持ち換え、走り出す。
“地走”は簡単に言ってしまえば縮地法と呼ばれるものだ。
縮地とは元々仙術の類いのもので瞬間移動のようなものだが、もちろん俺はそんな魔法的な事は出来ないので、武術的な瞬時に相手の懐に潜り込む技だ。
ただ、身体を地面に極限まで近付けて走るという独特は方法だが……。
「なっ!?何処に?」
「いつまで探してるんです?」
俺は学園長の前で身体を起こし、剣を振り上げる。
学園長は俺が目の前に現れた事に驚いたが、振り上げた剣を見て頭上で腕をクロスさせる。
よく見ると腕には石の様な物が纏わり付いている。
俺はそのまま降り下ろすと同時に、指を器用に使ってまた逆手に持ち換える。
そのまま学園長を素通りし、地面に突き刺す。
そして、衝撃に備えて硬直している学園長の腕を取り、背負い投げの要領で投げ飛ばす。
「“柊流攻式雨ノ型 雨落 ”」
「ぐはっ」
「はい、ワンダウーン」
学園長は何が起こったか分からず、受け身もまともに取れずに苦しそうだ。
「げほっげほっ……いや、完敗だよ」
「学園長の油断と慢心ですけどね」
「そうだね、気を付けるよ。……では、キリ・ヒイラギ君。君をセレスティア魔法学園の算術講師として採用する」
「ありがとうございます」
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