Kiri , in the Kingdom
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俺はルナと握手を交わして、ルナと一緒に歩き出す。
森の中を一キロ程歩いた後、街道に出てまた更に一キロ程歩くらしい。
因みにこの森の名前は“始まりの森”と言うらしい。
なんでもこの国で冒険者になって初めて討伐依頼を受ける人は必ずこの森の討伐依頼なのだとか。
こんな感じで歩いている最中に俺も色々ルナに聞いたが、逆にルナにも色々聞かれた。
俺の常識が通用するはずもなく、常識が皆無の怪しい奴と認定された。
それでも、怪しい奴と思いながらも案内してくれるあたり、かなり良い奴ではある。
「さて、そろそろ着くわよ。見えるでしょあれ?」
森で魔物に襲われる等のイベントもなく、何のハプニングもなく無事に抜け、暫く歩いていると確かに此処からでもうっすらと見える。
うっすらとしか見えない時点でまだ遠くなはずだが、それでも高くそびえ立つ城壁。
正直、距離感が狂いそうだ。
それからまた暫く歩いて門の前に到着した。
大きな門は夜間以外は常に開いているらしい。逆に言えば毎朝晩にこの大きな木でできた門を開閉しているのだ。
この門は吊り上げているだけらしく、毎朝警備兵が何十人か集まってロープを引っ張って開けるようだ。閉まるときはロープを外せばいいだけなので楽だとか。
「お帰りなさいませ、ルナ様!」
元気良く挨拶する門兵に軽く挨拶を返すルナ。
もしかして、兵士に様付けで呼ばれているルナは結構高い身分なんじゃ…………。
「お疲れ様。それで彼の入国手続きしてほしいんだけど……」
「誰ですか彼は?」
「道中で会った人よ。バカだけど悪い人じゃないわ」
「はぁ……」
説明が雑過ぎる!門兵さんも困ってるぞ。
そしてバカは余計だ!更に怪しまれる気がする。
「じゃあ君、こっちに来てこれを記入してくれ。それと入国料銀貨三枚だ」
渡されたのは一枚の紙。入国するのに必要な記入用紙らしい。
でもこの用紙の記入欄には氏名と入国目的しかない。
こんな入国審査で大丈夫か?
と言おうと思ったが、今の俺には確実に書けるのはそれぐらいしかないので、ありがたいので何も言わず、記入用紙を受け取った。
入国目的に妹を捜すためと書いても仕方ないので、取り敢えず観光と記入し、銀貨三枚を添えて門兵さんに出す。
銀貨は先の会話で文無しのということもバレているのであらかじめルナに借りた。
ここでの通貨は下から銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨となるらしい。
通貨の単位はコルン。
色々話しを聞いたところ、相場としては順に十、百、千、一万、十万、百万、一千万コルンとなるそうだ。
まぁ、白金貨は大商人や貴族様以外はそうそう御目にかかれないみたいだか……。
とまぁつまり、入国料は三千コルン。
これが日本円でどのくらいの価値なのかはまだ分からない。
市場でも見れば大体は判るだろう。
因みに銅貨、銀貨、金貨、白金貨は五百円玉位の大きさで、大銅貨、大銀貨、大金貨はこれを一回り大きくした程度の物だ。
あれ?今更気付いたが文字が日本語だった。
そういえば言葉も日本語じゃないか。自動翻訳でもされてるのか?
「あっ、そうだ。今日他に黒髪の女の子が入国しませんでしたか?」
「いや、今日はいなかったはずだが…………」
「そうですか。……ありがとうございます」
「では、ようこそセレスティア王国へ!」
ビシッと姿勢を正し敬礼をする門兵さん。
おぉ、門兵さんかっけぇ!
「ほら、行くわよキリ」
「おぅ」
門を抜けるとそこは中世ヨーロッパな感じの街並み。
レンガ造りの建物に、石畳で綺麗に舗装された道。
馬車が走っていて当然のように車は無い。寧ろこの状況で車が走っていた方が驚くだろう。
それにしても、科学や技術が発展していないであろうこの世界でも建物の造り方や舗装はとても綺麗だ。
「どの時代、どの世界でも職人はスゴいねぇ」
「ん?何か言った」
「いや、何でもないよ」
目の前は大通りで商店街の様に店が並び、大勢の人で賑わっている。
赤、青、緑。金、銀に白などカラフルな頭髪に日本人離れした顔立ち。黒髪は珍しいと思ったが、こう見るとちらほら黒髪の人を見かける
ネコミミにイヌミミ。鱗が付いている人に翼が生えている人。ちっちゃいオッサン。
ふと空を見上げると普通に飛んでる人も大勢いる。
改めてファンタジー世界だと思うと同時に門意味無くね、とも思ってしまった。
「なぁ、情報ってどこに集まりやすい?」
「うーん、情報屋っていうのもあるけど、キリお金無いしギルドの方が良いかもね」
「ギルドねぇ。……じゃあそこに案内してくれるか?」
「いいよ。ちょうど行くとこだったし」
引き続きルナと一緒に人を避けながら大通りを歩いていく。
横目で店の商品をチラッと見ると、見慣れた食材や、そうでない見たこともない食材が並んでいた。
こんな事でも異世界に来たんだなと実感する。
虹色に光る果物ってどんな味がするんだろう?形はリンゴっぽいけど……。
ピンクのバナナも気になるし、精肉店にあったドラゴンの肉や今日俺が倒したイノッチの肉等も気になった。
ドラゴンの肉って旨いのか?トカゲだろあれ。
まぁ、イノッチは美味しそうだよね。猪だし。
その後も興奮気味にキョロキョロして目新しいものを探しながら歩いている。
武器屋に防具屋、魔法書店等々。
俺の興味を引くには十分過ぎるものたくさんある。
引かれるモノを目にする度にあっちにフラフラ、こっちにフラフラしてたらルナに怒られた。
怒られた後も懲りずにキョロキョロしながら歩いていると、一際目に付く存在がいた。
赤い髪をツンツンに尖らせた俺と同い年位の少年が立ち尽くしたまま泣いていたのだ。
「あれ?ジン何やってん……何で泣いてんの?」
どうやら知り合いだった様だ。
ただの知り合いではなさそうだけど、友人だとして同級生とかだろう。
雰囲気的に見て。
「……おぉ、……ルナか。何か、知らない、綺麗な、女の子に、いきなり、舌打ちされて、気持ち悪い、って言われたぁ!しかも2回!」
「何それ?アンタ何かしたんじゃない?」
「まだ何もやってない!」
「…………まだ?」
…………すごい置いてきぼりだ。
とても気まずい。
堪らずルナに声を掛けた。
「ルナ」
「あっ、ごめんキリ」
「誰だコイツ?」
「ん?彼はキリ・ヒイラギ。さっき知り合ってギルドに案内してるとこ」
「へぇ。俺はジーフリン・ドール。ジンでいいぜ。よろしくなキリ!」
「あぁ、よろしく」
ニコニコと人懐っこい犬の様に握手を求めてくる。
泣いたり笑ったり忙しい奴だな。そして馴れ馴れしい。
別に厭ではないが……。
「さーて、さっきの続きでもするかな。じゃあな、キリ!」
そんな言葉と共にジンは人混みの中に消えていった。嵐の様な奴だった。
それにしても
「さっきの続きってなんだ?」
「ナンパよナンパ。休みの日はいつもやってることよ。日が暮れるまで永遠とね。さ、あんなヤツほっといてさっさと行きましょ」
アホなのかアイツは……。 まだしてないってのも間違いじゃなかったみたいだな。
というか、泣かされたのにまだやるのか。
アホなのかと言うよりアホなんだな。
というか、ルナは本当に友人なのか?
そして俺達は静かにギルドに向かって再び歩き出した。
そこからは何の会話も無かった。
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