Kiri , Mathematics Teacher
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「何故だ?」
昨日は確実に別々に寝たはずなのに、何故か妹達が潜り込んでいる。
態々違う部屋に寝かせた楓までもが一緒に潜り込んでいる。
いつもの様に皆を起こして、下に降りると他のメンバーも皆既に起きていた。
クレアさんが作ってくれた朝食を頂く。思ってみれば一日ぶりの食事だ。
「じゃあ、兄さん。私はフレイアさんとティリカの所に行ってきます」
「おぅ、気を付けてな」
「はい」
椿はフレイアさんと一緒に警備騎士団庁舎に行って、正式に騎士団に入るか決めるようだ。
フレイアさん曰く、魔眼持ちなら試験無しでも入れるらしい。寧ろお金を払ってでも入ってもらいたいくらいらしい。
俺的には性格診断くらいした方がいいと思うけどな。椿だし……。
「お兄ちゃん、桜もお店に行って来ますね」
「おぅ、頑張れよ」
桜も今日は朝からいつもお世話になっているお店に行くらしい。
さて、俺はどうしようか。
ギルドは機能してないから仕事が出来ないし、探しに行くとしてもこの世界にはハローワークなんて無いだろうし、俺自身宛もない。
考えに耽っていると、不意に袖を軽く引っ張られる。
「あれ楓?図書館に行くんじゃないのか?」
「……ん、行く。……歩くの、メンドイ」
これはつまり、図書館までおぶって連れていけと言うことだ。
ここは、自分で行きなさいと厳しく行きたいところだか、俺はやることないし、なんだかんだ言って魔法の事を全く調べれてないのでちょうど良い機会かもしれない。
やることも決まったのでゆっくり紅茶を飲んでから行動することにする。
これはダメルートまっしぐらな気もするが気にしない。
結局ギルドを出たのは朝食を食べ終わってから一時間半以上が過ぎてからだった。
因みミレーナさんはセレーネさんを引きずって奥の部屋に消え、クレアさんは晩御飯の仕込みを始めていた。
レベッカさんは意味もなく受付に座って、いつもの様にニコニコしていた。
楓をおぶって図書館に向うため、ギルド前の路地を歩いていると、路地の出口間際で俺の足元を影が横切る。
何かと上を見ると、綺麗な黒髪を靡かせながら屋根から屋根へと飛び移っている少女が見えた。
というか、椿だった。
いや、何やってんのアイツ?
路地の幅は軽く五メートル以上あるんですけど。これも異世界の影響なのか?
俺は慌てて通りに出て屋根を見ると、如何にも暗殺者や隠密、盗人といった感じの黒ずくめの体格からして男を追っている椿がいた。
「何やってんのアイツ」
唖然としながら見ていると、椿達が走り去った方向とは逆の方向からティリカとウォルフが通りを走ってきた。
「おい、キリ。ツバキの嬢ちゃんを見なかったか?」
「椿ならあっち行ったけど……何やってんの?」
「そんなの後で嬢ちゃんに聞きな」
そう言うとウォルフ達も椿を追って、走り去っていった。
……何だったんだ?
その後は何事もなく図書館に着いたのだが、この状況はなんだ?
何故俺は楓の仕事を手伝っている?
「……にぃ。……早く、やる」
“早く、やる”この言葉が自分で“やる”という意味ならどれ程良かったことか。
楓のこの場合の“やる”は“やれ”ってことだ。
つまり、“早くやれ”と言っているのだ。
そして等の本人は、本来俺の目的の一つでもあった魔法書を読んでいるのだ。
「……あの、楓さん?何で魔法書を読んでるんですか?」
「……皆の、ため」
「いや、俺は自分で読んだ方が楽なんだけど」
「……じゃあ、つぅとさぁの、ため」
「じゃあ、俺は何のため?」
「……ウチの、ため?」
「うん、そうだね」
俺の見返りゼロじゃん。
まぁ、写すのは“魔法の基礎”という本だ。見返りゼロというわけでもないかと、無理やり納得する。
このまま何でも屋でも開くのも良いかもな。
あっ、ダメだわ。何でも屋ってもうほぼギルドじゃん。
あれから何時間が経ったのだろうか。
俺は既に六冊写し終えた。体感時間で四時間以上はやってるぞ。
だとしたら、そろそろお昼の時間だ。
一旦休憩しようと楓に声を掛けようとしたが、楓は既にぐっすり休憩していた。
ちょっとイラッとした。
「あっ、キリ。漸く見つけたわ」
「ん?ルナか。どうした?」
「実はお願いがあって……」
「ん?」
「えっと……学園の講師にならない?」
「は?ちょっ、詳しい説明をしてくれ」
ルナ曰く、なんでも算術の教師が急に辞めてしまったらしい。
本当に急だったらしく、代わり人もいないようだ。
募集もしているようだが、なかなか基準に合う良い人材が来ないらしい。
あと数週間で新学期が始まってしまうため、それまでには何としてでも見つけたいのだと言う。
学園長が色んな学生にも良い人がいないか聞いて回ってるくらいだと言う。
「何で俺?」
「キリって仕事してないんでしょ?」
「ぐはっ」
「暇そうだし。キリって顔に似合わず頭良さそうだし」
「顔は関係ないだろ。お前は俺を苛めて楽しいのか?」
「ん?」
「はぁ、まぁいいや。それより採用基準はどうなってるんだ?年齢とか。俺はまだお前らと同じくらいだろ?」
「特に年齢制限はないみたい。あとは三桁の足し引きが出来て掛け算割り算が出来ればいいみたいだわ」
「……は?」
「やっぱり、キリでも無理か」
「いやいや、逆だ!簡単過ぎる。三桁の掛け算だって余裕で解ける」
「嘘よ。三桁の掛け算なんて学者レベルよ」
俺は今日ほど愕然とした日はないだろう。
「そんな基準だったら俺の国の十歳以上はほとんどが学者だ」
「……そこまで言うなら問題よ。342×568は?」
「194256」
「………………」
「自分が分かんない問題出すなよ」
するとルナは複写用の紙を手に取り、何か書き始める。
縦棒を一本二本と書いていき、五本書いたらその下に四角を書く。
更に五本の横に続けてまた五本書き、今度は下の四角の中に四角を書く。
どうやら、四角一つで五。二重四角で十になるようだ。
これでどうやったら掛け算が解けるのか分からないが、少し様子を見る。
次の五本が貯まったら二重四角の横に新しい四角をと、どんどん繰り返していき、二重四角が十個貯まった瞬間、二重四角の下に三重四角が現れた。
これはまさかとは思うが、永遠にこれを繰り返すつもりか?
答えは十九万以上だぞ。十分やそこらで終わるはずがない。
「ルナストップ!いつまでやる気だ?」
「学者様は二日でヤリキッタワ」
「俺が講師になったら簡単なやり方教えてやるから、まずは講師になる方法を教えてくれ!」
「……そうだったわね。なら学園長の所に行きましょ」
はぁ。漸く話が進むぜ。
楓は寝てるし、書き置きだけ残してして置いてっちまうか。
因みに学園は今日が終業式で、ちょうど二週間後が入学式のようだ。
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