Kiri , in the Forest
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「……んっ」
深くまで沈んでいた意識が急に浮上してきたかのよいに目が覚めた。
何故こんな所で寝ていたのか全んく記憶にないし、起き上がって辺りを見回してもそこは見覚えの無いし森の中。
しかし先程までいた真っ白な世界にのこともハッキリ覚えている。
夢と思ったがどうやらそれも違うようだ。
もう一度辺りを見回してみるが近くには誰もおらず、其処には俺しかいなかった。
あの謎の声が言っていることが本当の事なら此処は“次の世界”、つまり俺達からすれば異世界ということになるはずだ。
取り敢えず身体に異常がないかを動かして確かめる。
手も足もしっかり両方とも問題なく動くし、両手で顔を触ってみるが欠損している部分はない。
目もちゃんと見えるし、耳も聞こえる。草木の匂いも分かるし、風も感じる事が出来る。
次に服装は部屋でのんびりしていた為に普通のジーパンにTシャツ。
それなのにご丁寧に靴まで履かせてもらっている。
もちろん荷物は何も持っていない。財布もなければスマホも持っていない。
どれもテーブルの上に置きっぱなしだ。
一通り確認を終えた俺は柄にもなく興奮していた。
男なら誰でも一度は夢に見るファンタジーな世界。剣や魔法にドラゴン、考えただけでワクワクしてくる。
取り敢えずこの森から脱出しよう。
とは言え、此処は見ず知らずの森の中。
土地勘も無ければ方向感覚も無い。先を見ても木ばかり。
下手に歩けば迷子になること間違いなし。
かといって此処で助けを待つのも、知り合いがいないこの世界で宛も無ければ可能性も低い。
しかしここで一つの事実に気付く。
「俺、既に迷子じゃん」
絶望した。
「っ、そういえば彼奴らは?」
思い出してみれば妹達もあの真っ白な世界にいたはず。
ならば彼奴も此方に来てる可能性が高い。
近くにいないことから俺と同じく森の中をさまよっているか、別の場所に飛ばされたのか。
もしかしたらそもそも此方の世界に来ていないのかもしれないという最悪のことも有り得る。
……いや、それはない。
あの謎の声は“君達”と言ったからだ。
「椿!楓!桜!」
あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ~!!
心配だ!彼奴等も同じ様に見知らぬ所にいたら生きていけるのか?
桜は一番のしっかりさんだけど、童顔で低身長の見た目完璧小学生だから別の意味で心配だ。
楓はかなり頭は良いけど、生活力が皆無だからな。二日世話しなと死んでしまうレベル。
椿は…………うん、大丈夫だな。寧ろ椿に絡んだ奴が心配だ。
物理的にも精神的にも。見た目が完璧な美少女だから尚更達が悪い。
さて、探しに行くとして何処に行こうか?と言うよりどっちに行こう?
辺り一面、木、木、木。方向感覚なんてあったもんじゃない。
取り敢えず人がいる所に行かなくてはならないだろう。
思考に耽っていると俺の後ろから茂みをかき分けるような音するので、振り返ってみると其処には人一人丸呑みしそうなイノシシがいた。
人一人を簡単に貫きそうな鋭い二対の牙に、人の顔程ありそうな黒く堅そうな蹄。
「流石にこれはちょっと……、ハイスペックなお兄さんでも無理かなぁ……」
イノシシさんはもう突っ込む準備は万端だ、と言わんばかりに右足でその場の地面を数回蹴る。
というか、もう突っ込んできた。
「っやば!?」
急展開過ぎて着いていけず、もう回避するには遅く、少しでもダメージを減らすために腕でガードする。
………………確かにぶつかったはず。
だが、来るであろうはずの衝撃に備えていたのに未だに衝撃は来ない。
衝撃も感じない程吹っ飛ばされたと思いきや、それも違う様だ。
地面に足は着いてるし、寧ろ其処から一歩も動いてない。
それに今もなおイノシシさんの感触はある。
もしかしてコイツ見た目に反して、物凄く弱いんじゃないか?
ここでイノシシさんは負けじと助走を取り直し、またもや突っ込んでくる。
しかし、今度は楽々回避。回避されたイノシシさんはそのまま俺の後ろにあった木に衝突する。
「あっれ~?」
こんな軽いセリフを吐いてはいるが、実際は冷や汗がやばい。
木に衝突したイノシシさんは木を根本からへし折りそのまま直進。
全然弱くないことを実感されること同時に、俺の力が異常にパワーアップしていることを思い知らされた。
これじゃあ本物の“化け物“じゃないか。
俺は異常なステータスを持っていたことから、周りの人に“化け物”だの“怪物”などと言われ、ほとんど友達がいなかった。
そういえば俺達兄妹は異常なステータスを持っていたから皆色んな呼ばれ方をしていたな。
椿はその所業から“魔王”だの“悪魔”だの呼ばれて恐がられてたな。…………その通りだと思う。
楓は無口で何考えてるか分からないから“魔女”と呼ばれ恐れられてたな。…………楓の場合は何を考えてるというか何も考えてないと思う。
桜は“悪魔の妹”ということから“小悪魔”と呼ばれ可愛がられてたな。…………純粋に可愛がられてた。
こんな時だが俺の妹は世界一似てない三つ子だと思う。顔も違えば性格も違う。
同じ所といえば黒髪黒眼の白い肌。兄からの贔屓目で見てもすごい美人さんという所位だ。
同じ美人と言っても皆違う美人さんだ。
椿はスレンダーなモデル体型。身長は165cm位で長い黒髪をたまにポニーテールにするぐらいで普段はそのまま流している。あと目付きは少し鋭いお姉さん系の美人さん。
楓は椿より10cm以上低い150cm位でセミロングの髪を自分では手入れをしないので少しボサボサ。いつも眠たそうな眼をしている儚げ風の美人さん。
最後に桜は椛のさらに10cmぼと低い140cm有るか無いか。いつも童顔の桜に似合うサイドテールにしてる。小動物のようなクリクリした眼の可愛い系の美人さん。
と、走馬灯の様に色々思い出すが、全く持って死ぬ気がしない。
むしろ今なら楽に張り倒せる気がする。
イノシシさんが漸くダッシュで戻ってきた。このまま突進する気だろう。
俺はイノシシさんの突進に合わせ右脚を脚の裏をイノシシさんに見せるように前に出す。
イノシシさんはそのまま俺の右脚に突っ込み、衝突した車の様にベコッとへこんだまま動かなくなってしまった。
「うわぁ~、グロいな。つか、どんな勢いで突っ込んできてんだよ」
イノシシさんをそのまま放置しまた思考に耽る。
「はぁ、これからどうすっかな」
人ではなくイノシシだったため、道を聞けるわけもなく、絶賛迷子中の俺は取り敢えず何かないかと考えるためにジッとしてることにした。
十数分ジッとしているとまたもや後ろからガサガサと茂みをかき分けるような音が聞こえてきた。
「うわっ!何コレ。アンタがやったの?」
出てきたのは俺と同い年位の銀髪の美少女。
性格は何やらキツそうなイメージだが、漸く出会えた人。
「まぁ、俺がやったのかな?」
「何で疑問系?というか、本当にアンタがやったの?アンタ武器持ってないみたいだし、魔法を使ったわけでもなさそうだし」
だってイノシシさんが俺の脚にただ突っ込んで来たようなものだしな。
それより聞き慣れない言葉が出てきたんだが。遂にきたか魔法に武器!
なんとか興奮を抑え冷静にこの世界が異世界だということを改めて実感する。
もう異常を何度も味わってるからな。これで異世界じゃなきゃ逆におかしい。
「顔面蹴り飛ばしてやった」
実際は違うが、ただぶつかっただけなんて言ったら確実に面倒が起こるに決まってる。これでも十分起きそうだが。
「ありえないわ!イノッチは高ランクの魔物なのよ。蹴りで倒すなんて」
このイノシシさんの名前はイノッチというのか。
…………どうなんだろか、その名前は。可愛いイメージしか湧かない。
「それより、どこか近い街に案内してくんない?今、絶賛迷子中で…………」
「それは良いけど、アンタどこの人?見たことない服装だけど……、それに何の装備もしてないし」
この質問は想定済みだ。
彼女は軽そうな部分的な鎧を身に付け、腰には武器であるレイピアが提げられている。
この様な装備をしなくてはならない森で俺は手ぶら。
武器が無ければ防具も無い奴が危険な森の中にいたら怪しすぎる。
「俺は遠い東から来た旅の者だよ。生き別れになった妹を探す旅。長旅になりそうだったから重い物は全部置いてきた。」
「遠い東って此処が殆ど最東端だけど」
な、なんだと。
「し、島国なんだ。かなり閉鎖的だったんだ。」
嘘は吐いてない。まぁ、初めから荷物なんて持ってないし、旅はまだ始まってないけどな。
「ふぅん、大変ね。…………まぁ、いいわ。案内してあげる。私はルナ・ルミナスよ。ルナでいいわ、よろしくね」
「俺はキリ・ヒイラギだ。キリでいい、こちらこそよろしく頼む。」
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