Kiri , in the Crime Scene
◆◆◆
「楓!」
俺は後ろの光景を見せないように楓を正面から包み込むように抱き締める。
しかし、楓の表情を見る限りそれも遅かったようだ。
そこには一人の、いや一体と言うべきか……人の死体が廊下の壁を背もたれにするようにして爆発があったであろう部屋を向いて床に座っていた。
この死体はひどく焼け爛れ、顔で誰かということが判断出来ないくらいだ。
辛うじて体型から男性ということが判るくらいだ。
俺が楓を庇ったのは楓の能力のせいだ。
楓の能力“瞬間記憶”の能力は文字通り、一瞬でも見たモノを瞬時に記憶してしまう能力だ。
それはこのような悲惨な光景でも、どんなに忘れたい記憶でも一生忘れることは出来ないのだ。
「大丈夫か?」
「……ん」
明らかに無理をしているのが、見て取るように判る。
顔は青ざめ、未だに俺の服を掴んで離そうとしない。
「桜と椿も大丈夫か?」
「……はい」
「…えぇ」
この二人もいつものような元気は無い。
「こりゃ、本当に酷いな」
「爆発したのはこの部屋のようで間違いなさそうですね。ツバキさん、部屋の中を確認してもらえますか?」
「え?あぁ、分かったわ」
流石、異世界の騎士様だ。死体には馴れてるってか。
「えっと、廊下には魔法の痕は無いわね。部屋の中は……赤の、確か初級位のモノが3つあるわね」
「ティリカどうだ?」
「えぇ、ツバキさんの言う通りです。火属性の初級魔法が三回使用された痕跡がありますね」
「じゃあ嬢ちゃんの魔眼は本物ってことか」
マジでか……。椿の病気が実現してしまうとは……。
まぁ、説明を聞く限りじゃ戦闘で役に立つようなモノとは思えないけどな。
でも、ちょっと羨ましいかも……。
「初級じゃあんな爆発を起こすほどの魔法は無いから、実験中の事故か自殺だろうな」
「え?何言ってるんですか隊長さん?これは実験中の事故でもなければ自殺でもないでしよ」
俺はウォルフ隊長が下した結果を真っ向否定する。
「なんだと?」
「じゃあ聞きますけど、何で死体は廊下にあるんですか?この部屋の燃え残った机と椅子の残骸を見て、どこに座っても廊下には吹っ飛ばないでしょ」
「むっ、……それはきっと実験中に異変に気付き、逃げようとして吹っ飛ばされたからじゃないか」
「それはおかしい。死体を見てくださいよ。壁を背もたれにしてドアの方を向いて倒れてるんですよ。逃げてたとしたら俯せになってるんじゃないですか?」
「……確かにそうだ。じゃあ自殺か?」
「それもおかしいですよ。ほらここ見てくださいよ」
そう言って見てもらったのはドアの引っ掛かりの部分。
このドアは結構しっかりした作りになっていてトアノブを回さないとドアが開かないようになっている。
内側のトアノブは熱で若干熔けて歪んでしまっている。
「ほら、このドアの引っ掛かり部分と穴の部分。若干焦げて歪んでるけど壊れてはいないでしょ?もし、爆発で開いたならどちらかが壊れてもおかしくないはず。ってことは誰かがドア開けたってことだ」
「誰かって誰だよ?」
何だよこの人。察しが悪すぎたろ。
ここまでヒントを出せば解るだろ。ティリカは解ったみたいだし。
「この人ですよ、この人」
そう言いながら死体を指差す。
「この人がこの部屋に入るために開けたんですよ」
「じゃあやっぱり自殺じゃないか?自分で開けて爆発したんだろ?」
「はぁ、何で自殺する人が態々ドアを開けるなんていう面倒臭いことするんですか。しかも外から。……誰かに仕掛けられたんですよ。この部屋に入る人が爆発するように……」
「一体誰がそんなことを……」
「それを探すのはアンタ等の仕事でしょうが!」
本当に大丈夫かこの騎士団。
ティリカはまだマシみたいだけど隊長がこんなんじゃなぁ……。
「……はぁ、この部屋に仕掛けを出来る人なんてこの研究室に関係のある人たけでしょ」
「おぉ、そうだな。関係者はこの遺体の身元確認のために呼んである。そろそろ来るんじゃないか」
俺はその関係者とやらが来るまで部屋の中を見て回る。
元は資料の束であったであろうモノも今ではただの燃えカス。他の全てのモノが黒く焼けている。
うわー、レンガでできた暖炉まで黒焦げだよ。
ん?
「椿、魔法が使われた三ヶ所って何処?」
「えっと、その棚と机の上と暖炉の中ですね。……何か分かったんですか兄さん?」
「いや、まだ確証はない。楓、爆発が起きる前にこの建物見えてたよな?」
「……うん」
次はだいぶ顔色の良くなった楓に質問する。
「その時、煙は出てた?」
「……煙?……あ、なるほど。……出て、なかったよ」
「楓も解ったか?」
「……うん」
『教授!?』
『ルーベン教授!?』
『そんな!』
おっ、どうやら役者が揃ったようだな。
「えっと、教授というのは?」
「この研究室室長のルーベン・ファーガスという名で、僕達は教授と呼んでいました」
「この遺体はルーベンさんで間違いないかな?」
「はい、この体型からからして間違いないかと……。な、皆?」
「あぁ、そうだな」
「そうですね」
「そうですか。一応アナタ達のお名前を伺ってもよろしいかな?」
「えっと、僕はティム・ステイシーです」
ティムと名乗った男性は160cm半ばの如何にも優男という感じの男だ。
「俺はドミニク・グロッゾだ」
次に名乗ったのは190cmはあるであろう巨漢で強面。言っちゃ悪いが、研究室に入るような頭の良いキャラには見えない。
「私はフィール・ステイシーです」
最後は女性。この中では一番若そうだ。
ステイシーってことはティム・ステイシーと何か関係が……。
「ティムの妹です」
やはり兄妹だったようだ。
兄妹で同じ師を仰ぐなんて教授と呼ばれる人は、そんなにすごい人なのだろうか?
「あ、あの騎士様。何でルーベン教授はこんなことに……」
「それはですね、今我々も捜査しているとことですが……」
隊長さん、あまり余計なことは言うんじゃないぞ。
「……どうやら火属性の初級魔法による事故のようですな」
隊長~!アンタは俺の話しを聞いてなかったのか?
いや待てよ。隊長さんはこの中に犯人がいると直感して、敢えてそういう風に伝えてるのかも……。
いやでもしかし、あのポンコツだ。
たまたまポンコツを発揮してそう言っただけかもしれない。
どちらにしてもファインプレーだ。ナイスポンコツ!
これで犯人は油断するはずだ!
◆◆◆
ということで、まさかのファンタジー世界に来てまでのミステリー。
魔法ありのミステリー、書いてみたかったんですよねぇ。
こらからどんどん謎を解いていきます。
もちろん後々バトルも入れていきます。
バトルを楽しみにして下さってる皆様はもう少々お待ち下さい。
それにしても今回は桜ちゃんがかなり空気でしたね。
なので次回は桜ちゃんに出番を上げます。




