Tsubaki , in the Crime Scene
◆◇◇
ごうごうと炎が噴き出す建物も騎士団の魔法によってすっかり消火され、夕方なのに昼間のように明るかった通りも暗闇が戻ってきた。
未だに騎士団によって周辺を封鎖されているにも関わらず、私は事件の現場に向かう。
きっとあそこに兄さんがいるはず!
野次馬を掻き分け封鎖のために張られたロープの乗り越える。
「そこの君!今ここま完全封鎖している。関係者以外は立ち入り禁止だ!」
チッ。面倒なのに絡まれた。(注;騎士団の正常な対応です。)
「彼女は通してもいいですよ」
と、そこへ救いの手が差し伸べられた。
「こんばんは、ツバキさん。お昼ぶりですね」
そう。助けてくれたのは、今日のお昼に遭遇した同士、ティリカだった。
隣には相方だと思われる無精髭を生やしたダンディーなオジサマ。
やっぱり近くで見ても犯罪臭が……。
「おいおいティリカ、こんな嬢ちゃん入れていいのか?」
「えぇ、彼女は今日のお昼に偶然バッタリ出会った魔眼持ちです」
「魔眼持ちに偶然会うもんじゃないけどな……」
苦笑いのオジサマを放置してティリカは勝手に話を進めてきます。
なんでも経験を積むために私も現場に入って捜査の協力をしろとかなんとか……。
あれ?これって遠巻きに騎士団に勧誘されてる?外堀から埋められてる?
「お~い、椿!」
「ちょっ、君達!」
騎士団の制止を気にも止めずロープを乗り越えてくる兄さん。
「って、兄さん!?何故後ろから?」
「何言ってんだお前」
この事件に兄さんは関係無かったのか……。
じゃあ、これ以上ここにいる必要はありませんね。
って、楓もいるじゃない。
あれ?ってことは私が最後?
私の愛が足りない?
「兄さん!チューしましょう!」
「はぁ!?本当に何言ってんだ!」
「愛を確認しましょう」
「ちょっ、止めっ、何だコイツ、力強っ」
私は口を突き出し兄さんに迫るが、頭を押さえ付けられ、動くことが出来ない。
「あの、ここ事件現場なんですが……」
ハッ!
ティリカの声と共に意識を取り戻す。
一刻も早く、この面倒な場所から遠ざからなければ……。でも既に、兄さんがこの場所に興味を持ちまくっている。
「ツバキさんこちらの方達は?」
「兄と妹達です」
「そうですか。お兄さん初めまして、ティリカ・ハートフィリアです」
「あっ、どうも。桐 柊です。こっちが次女の楓と三女の桜です」
「……よろ」
「よろしくお願いいたします。……あのティリカさんっておいくつですか?」
「二十一です」
二十一!?
桜とそんなに変わらない身長なのに……童顔だし。
「桜さんは?」
「十五です……」
「「同士よ」」
熱い抱擁を交わす二人。
子供同士の戯れに見えなくもないこの状況。
そんなこと言ったらマジギレされるので言わないが……。
「テ、ティリカ、そっちの男性は?」
離れたいのについつい気になってしまうことがあると話が進んでしまう。
辺りは完全に日が沈み、真っ暗になってきた。
しかし、周りにいた騎士団の人達が次々に松明に火を灯していく。
人の顔が確認できるくらい明るくなったが、野次馬は既に興味を無くしたのか一人もいなくなっていた。
「彼は私の相方のウォルフ・ドーベルです」
「ウォルフだ。一応、警備騎士団三番隊隊長をやっている。それより嬢ちゃんは本当に魔眼持ちなのか?」
「えっ、なに。椿また発病したのか?」
ウォルフと名乗るオジサマと兄さんが一度にこちらを見る。
桜には説明したので何とも思ってないようだが、楓まで興味を持ったようにこちらを見つめる。
桜が今、兄さんと楓に説明してくれているようだ。
「えぇ、恐らく持っているでしょう。なんなら現場を見せれば判ることでしょ?」
「まぁ、ティリカがそう言うなら……」
ティリカは隊長とやらより地位が上なのだろうか?
「あの、俺も見てみたいんですけど」
「お兄さんもですか?」
「あれ?俺ちゃんと名乗ったよね」
「え?、っていうか私は行きたくないんだけど」
何で私は行くことが決定してるのかしら?
ものすごく行きたくないんですけど……。厄介事の臭いがプンプンするわ。
「しょうがないですね。今回だけですよ」
「ちょっ、ティリカいいのか?嬢ちゃんは兎も角坊主達は一般人だぞ!」
「えぇ、本当にしょうがなくです。恐らくお兄さんが来てくれなければツバキさんも来る気ないでしょうから」
あら、良く分かってるじゃない。
『完全鎮火確認完了!安全も確認!』
「どうやら確認が終わったようですね」
「しゃぁねぇ。しっかり着いてこいよ!」
「了解」
私は行きたくないんだけどなぁ。まぁ、兄さんが行くんだったら行くけどさ。
本当に気が乗らない。
私達は消化の終わった建物の中に入っていく。
どうやら大きな被害があったのはとある一室とその周辺のみで他は所々煤けていたりいているが大きく破損したりとかはしていなかった。
二階に上がると煤けている箇所が多くなり、三階の爆発のあった階に上るとほとんどが焼け落ち、爆発の衝撃で崩れ落ちている壁もある。
「うわぁ、こりゃひでぇな。この建物はもう取り壊しか?」
「そうかもしれませんね」
「そういやぁ、ここって元々何の建物だったんだ?普通の住宅が大爆発なんてしないよな?」
「ここは元々研究室だったみたいですよ。何の研究かは知りませんが……」
先頭を歩くティリカとウォルフの会話が聞こえる。
兄さんもその会話に耳を傾けているようだった。
ティリカも確認していると思うが、今のところ魔法の反応は無い。
会話を聞く限りじゃ、何かの研究の実験が失敗したのが有力かもしれない。
「これは!?」
「ひどいですね」
「キャァ!?」
「うっ」
「楓!」
「………………」
急に慌ただしくなる。
ウォルフとティリカは明らかに顔色が悪くなり、桜は目を瞑り小さく悲鳴を挙げる。
楓はいつも眠たそうな目を見開き口元を手で覆い小さく呻く。兄さんもそれを見た瞬間に楓を体で包む。
私は私で何も言葉が出てこなかった。
それほどに私達は悲惨で残酷な光景を目の当たりにしたのだ。
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