Sakura , in the Inn
◇◇◆
結論から言うとここはやっぱり地球ではありませんでした。
知らない国、知らない食べ物、知らない習慣、知らない組織。そして、知らない自分。
目が覚めてからずっと感じていた自分が自分じゃないような感覚。
体が軽いような、パワーが溢れるというか……。
兎に角自分が身体が自分ものじゃないみたいに動く。
そんな感じです。
正直不安だらけだけど希望もあります。
きっとお兄ちゃんやお姉ちゃん達もこっちに来てるはず。
またみんな一緒になれば怖いものなしです。……多分。
「サクラちゃん、はいこれ今日のお給料。本当はウチにも泊めてあげたいんだけどね。泊められる場所が無くてね。今日はこの先の直ぐそこにある宿に泊まるといいわ」
「あ、ありがとうございます」
渡された硬貨は二枚。しかも大銀貨です。
お店のメニューを見て大体の相場は把握しているつもりです。この大銀貨二枚は約二万円。
貰いすぎのような気がするが文無しの桜にとってはありがたいので、ご厚意に甘えることにする。
「嬢ちゃん、今日の残り物だけど食っていきな」
「わっ、ありがとうございます!美味しそっ……」
出された料理は、プレートの上に乗ったエビフライ二本と小さめのハンバーグ、小さな山になったチキンライスとサラダ。どう見てもお子様ランチです。
……まぁ出されたから食べますけど、桜はお子様じゃありません!
「……くっ、美味しいです」
「ガハハッ、そいつぁ良かった。」
悔しいですけど美味しいです。
こんな格好なのに……。いいえ、人を見た目で判断してはいけませんね。
「なぁ、嬢ちゃん。良ければ明日からもここで働かないか?」
「それは……」
「いや、無理にとは言わねぇよ。好きなときに来てくれればいいからよ。元々ウチは二人でやってんだ。今さらシフトなんてないからな」
「……分かりました。では、明日のお昼頃にまた来ますね」
「おぉ、そうかい。じゃあ、明日も楽しみに待ってるよ」
「サクラちゃんまた明日」
「はい、お休みなさいです」
すっかり暗くなってしまった通りを歩いていく。
タミルさんが教えてくれた宿は直ぐ近くにあると言っていた。突き当たりを右に曲がればあると言っていた。
先ほどまで沢山の人で賑わっていたこの通りもほとんど人がいない。
街灯が無いためか通りも真っ暗で歩きづらい。
建物の中から微かに漏れる蝋燭の光らしきものだけが頼りです。
でも、桜は暗くても怖くないです。ほんの少し怖いですけど怖くないです。
『フハハハハハハッ』
『ギャーーー!!』
ビクッ
やっぱり怖いです。物凄く怖いです。
何なんですか。この異世界恐ろしすぎです。
タミルさんは嘘つきです。
直ぐそこと言いながら、あの謎の高笑いと断末魔が聞こえてから十五分程歩いて漸く宿“猫の尻尾亭”に着きました。
異世界の人と価値観というか時間感覚の違いを垣間見ました。
その後、宿を取るのにも少し一悶着ありましたが、どうせ桜の背が低いせいですよ。
三○二号室と言われ、三階まで昇る。
部屋に入ると最低限必要な物しか置いていない質素な部屋。
今日は本当に疲れました。
ベッドに横になると疲れのせいか直ぐに眠気がやってきて、ウトウトし始めてしまった。
…………ハッ。何分位寝てしまったのでしょうか。
寝てしまう前にシャワーを浴びましょう。
部屋に鍵が掛かっていることを確認し、裸になりシャワーを浴びる。
「うひゃあ」
つ、冷たい。
このシャワー全然温かくならない。
さっさと浴びて出ましょう。
「うぅ。寒い」
身体の水気を拭き取り、直ぐに服を着る。
今日はもう寝てしまいましょう。
明日は早く起きて午前中はお兄ちゃん達を捜して、午後はクルーミルに行って仕事を手伝いましょう…………。
今日は朝からとても良いことがありました。
なんと偶然にもお兄ちゃんと再会することが出来たのです。
いえ、これはもう偶然なんかじゃありませんね。
愛です。きっと愛の力です。
その後はお兄ちゃんと一緒に朝食を取り、ツバ姉の情報を頼りに宿屋巡りをしました。
無事にツバ姉の泊まった宿に行き着きましたが、桜はここでお仕事の方に行かなければいけません。
約束ですからね。
寂しいですが、今夜ここで落ち合うことになっています。
これで桜はルンルン気分で仕事に向かうことが出来ます。
「へい、そこの可愛い娘。一緒に遊ばない?」
異世界でもこういう人はいるんですね。
異世界はロリコンが多いんでしょうか?
……って桜はロリじゃないです!
でも一応どんな人なのか見てみましょうか。
「……………………」
「君どこの娘?見たことないね」
「……………………」
確認しなければ良かったです。
どう見ても小学校もまだ卒業していないような子供。
初めてのナンパが子供なんて……。
上がりっぱなしのテンションも駄々下がりです。
「桜はこれでも十五歳です!」
気持ちを切り替えてお仕事に行くです。
「こんにちは~」
「あら、サクラちゃんこんにちは」
「おぅ、嬢ちゃん。今日も忙しくなるから頼むぜ」
「はい」
今日も昨日と同じように厨房に入り、注文を次々とこなしていく。
もうお昼ということもあり、既に結構な忙しさです。
『いらっしゃいませ!……』
タミルさんの元気な挨拶が聞こえる。もう次のお客様が入ったようです。
『サクラちゃーん!昨日の黒髪のお嬢さんが来たわよ」
タミルさんがバタバタと厨房になだれ込む。
って、昨日のお嬢さんってツバ姉!?
「いいよ、嬢ちゃん。行ってきな」
「ありがとうございます」
ミクルさんが忙しいにも関わらず厨房から外れる許可をくれた。
桜は急いで手を洗い、エプロンで手を拭きながら入り口に向かう。
「ツバ姉!」
「あら、やっぱり桜じゃない」
ツバ姉の感動が薄いのはいつもの事です。
「今日、お兄ちゃんとツバ姉が泊まってた宿に行ったんですけど、もう起きていなかったのでビックリでしたよ」
「……桜、貴女もう兄さんと会ったの?」
「ひぃ。さ、桜も今日の朝ぐ、偶然に」
ツバ姉の殺気に似たようなモノが。
「そう。……チッ、私が一番じゃなかったか」
「今日はそこに泊まることになっているので夜には会えますよ」
「そう」
「それで桜は今、仕事中なので少し待っててもらえますか?」
「いいわよ。元々パフェ食べに来たんだし」
「やっぱり昨日、二杯も頼んだのツバ姉だったんですね」
「そっか、桜が作ってたんなら美味しいのも当たり前ね」
「はぁ、じゃあそこのカウンター席で待っていて下さい。パフェ持っていきますから」
「よろしく~」
今日はピークを過ぎて落ち着いたら上がらせてもらおう。
ツバ姉ほっとくと、どっかにフラフラ行きそうだし。
「戻りました」
「いいのかい?嬢ちゃん」
「はい。今は仕事に集中です。その代わりピークが過ぎたら今日は上がっていいですか?」
「おぅ、いいぞ。嬢ちゃんは自由にやっていいって言ったろ」
「ありがとうございます!」
ミクルさんの優しさに感謝です。
残り時間を精一杯頑張ろう。
取り敢えずパフェを作ってしまいましょう。
◇◇◆




