Sakura , in the Restaurant
◇◇◆
「……ぃ、…………丈…………か?」
誰かの声がきこえる。誰だろう?
男の人の声だ。
でも桜が良く知っているお兄ちゃんの声ではない。
「おぃ、大……夫か?」
あれ?桜いつ寝たっけ?
「おい、大丈夫か?お嬢ちゃん」
「……ん」
外はまだ明るいようだ。
目を瞑っていても少し眩しく感じる位の明るさ。
目を開けると目の前に浅黒い筋骨隆々の裸エプロンのオジサンがいました。
黙って目を閉じることにした。
「あれ?おっかしいな。今、気が付いたと思ったんだけどなぁ」
「バカねぇ。アンタみたいなオッサンが目の前にいたら誰でも気絶するわよ」
確かに気絶しそうになったが気絶はしてない。
このままでいたいが、何時までもこうしているのもしょうがないので声を掛けることにする。
「あ、あの、ここどこですか?」
「あら、気絶してなかったの。ごめんなさいねぇ、ウチの旦那が」
旦那さんでしたか。
「ここは、クルーミルっていうレストランよ。私はタミル」
「俺がミクル。2人でやってる店だからクルーミルってんだ」
ここがレストランの中ということと、店の名前の由来は分かったが、オジサンの名前可愛すぎる。
レストランの中は洋風。窓の外を見てもレンガ造りの洋風。でも、メニューは和風。
そんなレストランだった。
改めて2人を見ると、2人共40代前半くらいの歳で、タミルさんはとても優しそうな女性で、ミクルさんは強面で変態だけど気さくな方のようだ。
「アンタはウチの店の前で倒れてたんだよ。迷子の行き倒れかい?」
「迷子……迷子なのかなぁ」
桜の家の近くに“クルーミル”という外国人が営むレストランはない。
つまり、桜の知らない地域。
周りを見ても、見たことのない建物ばかり。
まるで世界が変わったような……。
「あの、桜が倒れていた時に他に黒髪の人いませんでしたか?」
「いや、そんな人いなかったよ。第一、ここら辺じゃ黒髪は珍しいから見逃すはずないしな」
……黒髪が珍しい?どういうことなの?
ここは日本じゃない?
「ここって日本じゃないんですか?」
「ニホン?聞いたこと無い名前だねぇ」
絶望。
日本を知らない国ってどんな閉鎖的な国なの?
……あれ?……なんで日本じゃないのに日本語を使ってるの?
「だ、大丈夫かい?お嬢ちゃん、顔色が悪いわよ」
「大丈、夫です」
兎に角、情報がほしい。
幸いこの人達は優しそうだから色々聞こう。
「あの、色々聞きたいことがあるんですけど……」
「悪いな嬢ちゃん。今から忙しくなる時間でな」
「じゃ、じゃあ、桜をここで働かせてください!料理は得意です!」
「い、いやぁ、働かせてやりたいのは山々だが、初等部の子を働かせるわけにはねぇ」
「しょ!?桜はこれでも十五歳なんです!」
「わ、悪いな。じゃ、料理出来るか見てやるよ」
ガハハと笑いながら厨房に消えていくミクルさん。望むところです。
それにしても
「ミクルさんはなんで裸なんですか?」
「裸じゃないわよ」
「エプ ロンだけじゃ変わらないですよ」
「違う違う。あの人、薄くて肌色のピチピチ全身タイツ履いてるのよ」
「……あっ、本当だ」
「う、美味い!美味いじゃないか、嬢ちゃん!」
「ありがとうございます。それと桜です」
「これなら即戦力になるな。嬢ちゃん!」
「桜です」
「でも、本当に美味しいわ」
「ありがとうございます」
というわけで、厨房に入った桜たちは料理を一品作ってミクルさんとタミルさんに試食してもらいました。
評価はなかなかいいんじゃないでしょうか。
「嬢ちゃん、これなら働かせてやれるぞ」
「本当ですか?ありがとうございます!それと桜です」
「じゃあサクラちゃんは厨房ね」
「はい!頑張ります!」
「じゃあ、店開けるぞ」
それから一時間。
お客さんもだんだん増えてきて、とても忙しくしています。
タミルさん曰くいつもならこの半分も来ないとか。
「唐揚げ定食一つ!」
「はいよ!」
「オムライスとサラダ一つ!」
「はい!」
ホールから聞こえるタミルさんのオーダー聞き逃さないように気を付けながら料理を作る。
『あの娘可愛くね?ちっちゃくて』
『本当だ。ちっちゃくて可愛いね。サクラちゃんっていうらしいよ』
ちっちゃくないです!
「ドラゴンステーキ定食とライス大盛り一つ!」
「はいよ!」
「日替わりランチ一つ!」
「はい!」
「しょうが焼き定食一つ!」
「おぅ!」
「DXパフェ一つ!」
「はい!」
ん?今聞き捨てならぬメニューがあったような。
ドラゴンステーキって何ですか!?ドラゴンとかファンタジーじゃないですか!
この時、桜はよりいっそう自分の置かれている状況を認識しました。
「DXパフェもう一つ!」
っていうか誰ですか!このめんどくさいパフェを二回も頼む人は!
つ、疲れた。漸く閉店の時間になった。
「お疲れさん。嬢ちゃんのお陰で開店初日以来の売上げだぜ」
「お疲れ様です」
「サクラちゃん疲れたでしょ?」
「はい、特にデラックスパフェ二つがピークでした。」
「あぁ、あの黒髪のお嬢さんね。あの細い体のどこに入るのかしら?」
ん?
「あの、タミルさん?黒髪の人って珍しいんですよね?」
「……………あら?」
「絶対忘れてましたよね!」
「ごめんなさいねぇ。もしかして探してる人だった?」
「どんな人でした?」
「長い黒髪の美人さんよ。ちょっと目付きがキツい感じの」
完璧にツバ姉です。
あの人のデザートに対する食欲はブラックホール並みですからね。
「はぁ、十中八九知り合いです。というか、姉です。でも、この街にいるって分かっただけでも良かったです」
「本当にごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。それより色々教えて欲しいんですけど……」
◇◇◆




