Kaede , in the Library
◇◆◇
「ほら、ここが図書館よ」
「……ほぁ~」
そこは夢の国のようだった。
背の高い本棚にびっしりと入った本。
これならウチの夢だった本の山に埋もれることが出来るかもしれない。
「ここは色んな本がありますよ。童話に魔法書、研究書に図鑑。何でもありますよ」
「ほぉ~。……どれ、読んでも?」
「えぇ、もちろん」
私は取り敢えず一番近くの本棚の手元の高さの端の本を取った。
タイトルは見てない。
どうせ全部読むつもりだし、何でもいい。
「……………………」
ウチは手に取った本を一ページを一秒程度で読み続けていく。
タイトルは“魔法の属性について”という本。
内容は魔法にはどういう属性があってどういう特徴があるかという研究書だった。
「カエデさん貴女もしかして……」
二分程度で読み切り次の本に手を伸ばす。
ウチでもいつもはこんな読み方はしない。
いつもは一ページずつ、一文字ずつしっかり読んでいく。
でも今は気になる本が多すぎて次が早く読みたいのだ。
こんなことが出来るのも私の一種の能力のお陰。
一度見たモノを二度と忘れない瞬間記憶能力。
この能力を使って本の一ページをカメラの写真の様に撮して記録しておくのだ。
二冊目の本も読み終わり次の本に手を伸ばそうとしたとき
「カエデさん!」
「……ん?」
「貴女もしかして瞬間記憶の能力を持っていませんか?」
「……ん。……持ってる。……貴女も?」
「えぇ。私のは中途半端で本の事しか記憶出来ないんですけどね。……で、相談なんですけどカエデさん文字って書けます?」
「…………たぶん」
一応本の内容は何故か日本語なので日本語でいいなら書けるはず。
まぁ、英語でも中国語でも何でもいいけどね。
「じゃあ、筆写師の仕事をやりませんか?」
「……筆写師?」
「はい。この世界では本は貴重ですからね。本を丸々一冊複製するのにかなりの時間が掛かるんですよ。でもカエデさんなら一度見れば本を一々めくる必要がないですから早くできるかなと思いまして……」
「……むぅ」
「一冊だいたい大銀貨五枚ですよ」
今のウチにはそれがどれくらいの価値なのかが判らない。
でもまぁ、本を読みながら仕事が出来るのならウチの天職なのかもしれない。
「……ん、やる」
「本当ですか!?じゃあ今、紙とペンを持ってきますね。それまで本を読んでていいですよ」
バタバタと走っていくお姉さんを見送りながらウチは次の本に手を伸ばす。
コミュ障のウチが職を手に入れたのはラッキーだった。
それから三冊を読んだ辺りになってお姉さんが大量の紙と羽ペンを持ってきた。
羽ペン使えるかな?
「製本は私がやるので書いた紙は一ヶ所に纏めて置いといて下さい」
「…ん」
そう言って近くのテーブルの上に大量の紙とペンとインクを置く。
「書いてほしいものがある時は直接言うから、ない時は好きなの書いてもいいし、書かなくてもいいですよ」
「……ん、わかった」
「取り敢えず今日はこの本」
そう言ってお姉さんが出した本は“魔法の基礎”という三十ページ程の本。
ウチは早速それを読み始める。
「この本を取り敢えず二週間で五十冊程書いて下さい」
「……え?」
「二週間で五十冊程書いて下さい。学園生の教科書なんですけど筆写師の方が一人倒れてしまいましてね。入学式まで時間が無いんですよ」
二週間で五十冊。こちらの一週間が向こうと同じかは判らないが、同じだとしたら一週間で二十五冊。一日に三、五冊。
ページにして一日百ページ超え。
「……筆写師、……辞めます」
「えぇ!?頑張って下さいよ!本当にピンチなんですから」
「……うぅ」
渋々ペンを取り紙に“魔法の基礎”の内容を写し始める。
「そうそう、頑張って下さいね。では、私も仕事に戻るので、何かあったら受付に来て下さい」
そう言ってお姉さんはさっさとどっかに言ってしまった。
あの鬼畜め。
幸い一ページ辺りの文字数が少ないのでなんとかなるかもしれない。
文句を言ってもしょうがないので黙々と手を動かす。
あれから一時間程経っただろうか。
なんと一時間で三十ページを書き終えることが出来た。
良かった。文字数が少なかったお陰であと二時間位で終わるぞ。
一息着こうと背伸びをしようと顔を上げるとウチを見ながら固まっている少年がいた。
というかにぃだった。
挨拶しなければ。
「……よっ」
「よっ、じゃねぇよ!!」
「静かにして下さ~い」
「すみません!」
どうやら挨拶を間違えたようだ。
怒られてペコペコしてるにぃ可愛い。
「楓、お前なぁ。心配したんだぞ。つーか異世界に来てまで本の虫になるなよ」
「……ちがう。……仕事中」
「楓が、仕事…だと」
にぃはウチが働いてることにひどく驚いているようだ。
まぁウチ自信も前の世界からしたら考えられないけどね。
「そうですよ。カエデさんは筆写師としての仕事中です。……おっきな声がしたから来てみればやっぱりカエデさんのお兄さんだったんですね」
「あぁ、受付の……」
「クリムファン・ドーラです。クリムと呼んで下さい」
「俺はコイツの兄の桐です。妹がお世話になりました」
「いえいえ、こちらも助かってますから」
「……………………」
二人が話し込み始めたのでウチは、仕事に戻ることにする。
というかお姉さんは仕事をほったらかしにしといていいのかな。
あれからまた一時間は経ったんじゃないだろうか。もう一冊も完成した。
二人はまだ話しているようなのでいい加減声を書けることにする。
「……にぃ」
「ん?あぁ、ごめん楓。つい話し込んじまった」
「……ん。……にぃ、つぅと、さぁは?」
「そうだった。桜はもう見つかったんだ。椿もそろそろ見つかると思う。クリムさん今日はコイツ連れて帰っていいですか?」
「えぇ、いいですよ。カエデさんが締め切りを守ってくれれば」
「……むぅ」
ヤバくなったらにぃに手伝わせよう。
「じゃあ、帰るか。クリムさんお世話になりました」
「はい。カエデさん道具はそのままでいいですよ。……あっ、もう二冊も出来たんですね?……はい、これは薄めの本なので一冊大銀貨二枚だから四枚です。」
即払いとは有難い。ウチ文無しだからね。
なんかにぃが微妙な顔してる。
もしかしてウチ騙されてる?相場はもっと高いとか。でもそれだったらにぃが言うはず……。
「帰るか」
「……ん」
「カエデさんはいつでも来て下さいね」
お金を受け取ったウチたちは図書館を後にする。
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