Kaede , in the Room
◇◆◇
「…………………………」
急に意識が覚醒したように目が覚めた。どうやら寝てしまったようだ。
寝た記憶は無いが。
目を擦りながら起き上がり、小さく欠伸をする。ここで初めて周りを確認すると、古めかしい木造の一室。
明らかにウチの部屋じゃない。
ベッドは質素で堅く埃臭い。
大きな木製のフレームに小さい窓ガラス。カーテンはない。
八畳くらいの部屋にベッドとデスク、イスにタンスと最低限必要な物しか置かれていない。
「…………にぃ?…………つぅ?…………さぁ?」
近くにキリもツバキもサクラもいない。
もしかして誘拐されたのか?と、考えてみる。
でも拘束されてないし、ドアにも鍵はない。
「…………にぃ」
もう一度呟いてベッドに戻る。
これからどうしようか?
にぃもいない。つぅもさぁも頼れる人がいないこの状況。
またベッドから立ち上がりドアとは逆の窓の方に向かう。
窓の外を見てもそこは知らない街並み。
高さから見て今いるのは二階の一室だろう。
少し視線を下げると、カラフルな頭にここからでも判る空を飛んでる人。
というか、今前を横切った。
これでもうここが自分が生きていた世界ではないと感じた。
自分でも認識している程あの三人に依存していたウチは、これから生きていく自信がない。
もはや寄生のレベルと自覚している。
元々私は喋るのが苦手でコミュニケーションを取るのが下手だった。
心の中ではこんなにスラスラ喋ることが出来るが声に出すことが苦手だった。
喋るのが苦手になった理由もちゃんとあるし、心の中では喋ることが出来るのも理由がある。
まぁ、今そんな理由はどうでもいいとしてこの先、コミュニケーションが取れないウチがどうやったら知り合いがいないこの場所で生きていけるのか。
無理かも。
寂しくて死にそう。
にぃ、早く助けに来て。
もうこの際、つぅでもさぁでもいいから誰か助けに来て。
…………でもやっぱりにぃがいいな。
色々考えたところでどうしようもないと分かったウチは考えるのを止めた。
つまり、寝た。
「…………んっ」
あれから何時間寝たのだろう。
天井を見る限り状況は変わっていないように思える。
「あっ、目が覚めましたか?」
ベッドの横から女性の声が掛けられる。
ウチしかいないと思っていたから少し驚いてしまった。
身体を起こし、声の主を確認する。
眼鏡を掛けた栗色の髪をした二十歳くらいの美人さんが座っていた。
他に状況が変わっていないか部屋を見渡すと、サイドテーブルの上にまだ湯気の立つスープとパンが置かれていた。
「大丈夫ですか?昨日倒れているのを発見してから一日中眠っていたんですよ」
どうやらウチが一度目を覚ましたのに気が付いていないようだ。
でも、一日中寝ていたのは本当かもしれない。
窓の外を見ると太陽が昨日とほぼ同じ位置にあるのだ。
かなり寝た気はするのでほんの少し寝てただけというのはないと思う。
通りでお腹も減るはずだ。一日の間、飲ます食わすだ。
お腹は鳴ってはいないが、何かくれと叫んでいる気がする。
「あ、あの、本当に大丈夫ですか?」
反応がない私を見てお姉さんがオロオロし始めた。
仕方ないのでウチの最大限のコミュニケーション能力を駆使して答えよう。
「……ん、大丈夫。…………ありがと、ゴハンさん」
「へ?」
おっと、つい目の前にある食事に目を引かれ彼女の事をゴハンさんと言ってしまった。
まぁ、実際に目の前にあるのはご飯じゃなくてパンだけど……。
「私は、ゴハンさんじゃありません!私は、クリムファン・ドーラとです。」
「……クリーム、パン……!?」
「クリムファンです!……クリムと呼んで下さい」
「……ん、分かった」
「はぁ、どうぞ召し上がって下さい」
「……いただき、ます」
お姉さんはウチの視線が食事から離れないのに気付き、勧めてくれる。
スープは味が少し薄味だが、十分美味しかった。
パンは硬めでパサパサして食べづらかった。文句が言える立場じゃないのでスープと一緒に食べた。
一つ文句を言うとしたらクリームパンじゃなかったことだ。
「落ち着きましたか?」
「……ん」
「どうしてあんな場所で倒れてたんですか?」
「……あんな、場所?」
「えぇ、貴女図書館の真ん中で倒れていたんですよ。何か覚えてません?」
「……わかんない」
「……あのお名前は?」
「……楓。……カエデ・ヒイラギ」
「カエデさんですか。私は図書館の司書をしているんですが、入ってきた覚えのない貴女が倒れていたので本当に驚きましたよ。本当に何も覚えてないのですか?」
「……ん」
何も覚えてないというとは嘘だ。
あの夢のこともあるし、ここは恐らく別の世界。
あまり他人にこの事は知られない方がいいだろう。
「……にぃ」
「にぃ?……お兄さんがいるんですか?」
ふと、にぃの事を思い出したので、お姉さんに聞いてみる。
「お兄さんの外見はどんな感じですか?」
「……ウチと、同じ」
「黒い髪ってことですね。うーん。昨日も今日も黒髪の人は来てませんね」
「……そう」
今も尚心配そうに見つめるお姉さんを見ると、膝の上にノートのようなモノを持っていた。
「……それは?」
「これはですね、図書館の管理書みたいなものですよ」
お姉さんはウチが指差したノートを見て言った。
そうだった。ここは図書館だと先程から言っていた。
図書館。何て素晴らしい言葉でしょう。
異世界の本が読み放題ということだ。
「……図書館……行ってみたい」
「本が好きなんですか?」
「……うん。……大好き」
「そうですか。私と一緒ですね。じゃあ行ってみますか?」
「……うん!」
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