Prologue
◆◆◆
………あれ?ここどこだ?
世界が白い………。
俺は今寝てんのか?
今、自分が立っているのか寝ているのか全く分からない。
まぁ、今の自分の体の形からして座ってるということは無さそうだ。
それどころか体の何処からも圧力を感じないから、もしかしたら浮いているのかも知れない。
床も壁も天井も真っ白過ぎて平衡感覚がない。
そもそも床も壁も天井も無いのかもしれない。
汚れもなければ影もないほど白い。
それにこの部屋、いや空間と呼ぶべきか、まぁ取り敢えずここは変だ。
明かりもないのに辺りが見渡せるほど明るい。
自分が何処まで先を見てるのかも分からない。
体は麻痺したかのように動かないが視線は動かせる。
あそこに俺と同じ様に倒れている?のは、俺の最愛の妹達。
椿と楓と桜だ。
俺と同じ様に何故か動けないだけだと思うがちゃんと生きてるよな?
後ろを向いているので目が開いているのかも判らない。
少し不安になる。
声を出そうにも出ない。別に喉を痛めてるわけでもないし、この空間に空気が無いわけでもない。
なのに声が出ない。
もしかしたら夢なのかも……。
なんて思ってみたり。でも、十中八九それはないと思う。
視界はハッキリしてるし、静かなこの空間で自分の心臓の音もしっかり聞こえている。
何より感触がしっかりある。身に付けている服の肌触りも、そろそろ切ろうかなと思っていた少し長くなった前髪がチクチクとする感じ、それに何と無く暖かいこの空間の空気。
夢にしては何もかもハッキリしすぎている。
それより何で俺達こんなとこにいるんだ?
俺達は日曜日という休日の家でまったりゴロゴロしてたはず。
俺と椿はソファーに座って一緒にテレビを観てたし、やっていた内容も覚えている。
楓も側で本を読んでたはず。
桜は隣のキッチンで昼食に使った食器を洗ってた。
水の流れる音も聞こえてたし、食器がぶつかるカチャカチャという音も聞こえてた。
何よりリビングからでも姿は確認できる位置にいたから間違いない。
『悪く思わないでくれよ。君たち兄妹はあの世界で生きるには狭過ぎるだろうからね』
誰だ?
不意に聞こえてきた男性とも女性とも分からない声。
だからと言ってボイスチェンジャーを使ったような機械音でもない、何故だかそれがどういう声なのか分からない声。
この声が何処から聞こえてきたのかも分からない。
前後左右上下、色んな所から聞こえてくる。
それに…………何を言ってんだコイツ?
『次の世界は君達でも満足出来ると思うよ』
次の世界?
何のことだ?異世界ってことか?
魔王でも討伐しろってか?
『魔王は存在するけど争う必要はないよ』
じゃあ、戦争にでも参加しろってかとか?
『それも違うよ』
じゃあ、俺達は異世界にまで行って何をしろって言うんだよ。
『好きにしたらいいさ。さっきも言ったけど次の世界では君達も満足出来ると思うよ』
確かに俺達兄妹はあの世界は狭すぎた。
大抵の事は人以上いや、プロ以上に出来てしまうハイスペックな俺。
並外れた運動神経に異常な程優れた観察眼に心理眼を持ち、相手の心を読むことさえ出来ると言われている長女、椿。
瞬間記憶能力を持ち、十歳にして十ヶ国語を操り、数々の数学者が敗れていった超難問を解いた天才の次女、楓。
兄同様大抵の事は器用にこなし、家事だけは兄をも越し、三ツ星レストランのシェフの舌をも唸らせるほどの腕をもつ三女、桜。
こんなスペックを持つ俺達兄妹は、出来すぎても疎まれ、出来なければ蔑まされる。
加減を知らなかった幼い頃に噂は広まり、取り返しのつかないことになったこの世界では生きづらかった。
『次の世界でも狭く、つまらなく感じたら今度は僕の所に来るといいよ』
お前の所って何処だよ?
この真っ白な世界のことか?
それに結局お前は誰なんだ?
『その時は歓迎するよ。じゃあ、また会う日まで。それまでは僕を楽しませてくれよ』
ちょっと待ってくれ……聞きたいことがまだ……たくさん……
……やばい……意識が……
◆◆◆