バイト
埼玉県の、田舎だったり田舎じゃなかったりな場所の、ちっぽけな駅のすぐ近く。
2分ぐらいに、ファミレスがある。
俺の仕事場だったりするんだ。
高校生の俺が、仕事を始めるのはいつも大体5時ぐらいか。
今日も、駅の階段を駆け下りてそこへ向かうと、来客を伝えるチャイムを聞きながら、そこへ入っていく。
フロアとキッチンに別れている仕事場で、両方できるバイトは俺だけだ。
ちょっとした自慢を今日も胸に秘めながら、控え室にゆっくりと入っていった。
見知ってる顔が何人か。
当たり前か。
鞄を置くと、すぐに着替えを済ました。
仕事が始まるまで残り10分。
スケジュールを確認する。
5分前には部屋を出る。
手洗いに少し時間がかかるからだ。
「あ、今日フロアだ」
声のボリュームを小にして口を開く。
みんなに挨拶をすると、ハンディを取りにいった。
俺の時と同じ、来客を伝えるチャイムと、注文をしたい客の呼び鈴が、同時になる。
だが、俺には関係ない。
今日の俺は料理を運ぶ人だからな。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、出された料理をお盆に乗せる。
料理提供時間をキッチンに伝えると、1-7の席のお客へサラダを運びに行く。
「えっと……」
久しぶりで、料理の名前が思い出せない。
えっと……。
席が近づいてくる。
えっと……。
歩くスピードを抑える。
えっと……。
そうだ。
やっと思い出した名前を口にする。
「お待たせしました。海老アボカドシュリンプサラダです」
言った後で、自分で気づく。
なんだそれわ。
海老アボカド海老サラダって。
海老多すぎだろ。
客が笑いを堪える。
うるさい。黙れ。
何も言ってはいない。
「ごゆっくりどうぞ」
何事もなかったように、それでいて、足速にその場を去った。




