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進化する翼レグナ  作者: 影絵企鵝
十三章 化生
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後編

「フフフフ……」

 曇り空の下、ローブの男は立っていた。レグナが兜を割られた時に顕となったものと同じ、あの怪物じみた顔に笑みを浮かべ、ローブの男はじっと地上から自分を見上げる新たな天使を見つめる。

「気づいたか……ならば、再びの成長も望めるか……フフフ」

 ローブの奥の真っ黒な左手を握り締め、男は典史を見下ろす。

「神の計画の日は近い……」

 男はふと遠くを見つめた。そして、歯を剥きだして笑みを浮かべる。

「……ふむ。人間め。原理の力に手を出した罰を受けたか……」


 典史の背後から雷が飛んだ。牛の怪物はその一撃に身体を撃ち抜かれ、硬直してその場に倒れる。典史ははっとして振り返った。そして呆然と呟く。

「おいおい……あれは、何なんだよ……」

 そこに立っていたのは、何にも喩えられない、まさに『怪物』だった。身体は獣のようであるが、その顔の半分、左腕、右足は機械で出来ている。そしてその背中には巨大な機械の翼が生え、腰元には両生類のような尾が伸びている。そして、その体は、全て金属のような光沢を帯びた銀色だった。

「グアアァッ!」

 その怪物は叫ぶと、一気に飛び出す。典史は槍を取り出し、振り返って身構えた。しかし、怪物はいきなり飛び上がり、彼を飛び越えてその後ろ、立ち上がろうとしていた牛の怪物に飛びかかったのだ。そして両手を振り上げると、その爪を振り回して牛の胸の皮を掘り始める。

 牛は唸ると、怪物を払い除けた。典史とそう変わらない身の丈の怪物は、吹っ飛んでビルにその体を打ちつける。しかし怪物は怯まずに立ち上がり、その翼から炎を吹き出して飛び上がる。そしてその角を掴むと、そのまま引きずって怪物を地に倒した。

「ヴヴ……ウォレフ、イーウ!」

 怪物は叫ぶと、再び胸に舞い降りた怪物を今度はその掌で叩き潰す。しかし、怪物は無理矢理その手を払いのけて立ち上がり、その爪で、牙で怪物の皮を引き裂き、引き剥がし、引き千切った。

「……どうなってるんだ。これは……」

 典史は呆然と化物二体が死闘を演じる様を見つめていた。今までこんな事は無かった。ミハエル以外は、怪物が怪物を襲うなどという事は起きたことがなかったそして典史は改めて見つめる。その獣の身体、背中の翼、魚の尾にも見える部分。一瞬の間。そして、典史に衝撃が襲った。

「まさか……」

「アアア……アアアッ!」

 銀の怪物はその爪を振り上げ、筋肉が剥き出しになった牛の怪物の胸に爪を突き刺す。ついに怪物は悲鳴を上げた。

「グアァッ!」

 怪物は雄叫びを上げて胸の筋肉を引き裂き、鮮血を浴びながら剥き出しになった胸骨を叩き割る。牛は暴れると、再び怪物を胸の上から振り落とした。

「ヴアッ」

 牛の怪物は胸から溢れる鮮血を抑えながら、右手で倒れた銀の怪物を殴りつける。怪物は腹にその一撃をもらい、血を吐いた。しかし、その拳を両腕で固めると、牛が拳を引き戻す反動で飛び上がった。そして、心臓が覗くその胸の傷口に、その鋭い爪を突き立てた。

「グアァァッ!」

 銀の怪物は牛の心臓を握り潰すと、そこに埋まった小さなプレートを握り締め、引き剥がした。同時に牛の怪物に払い飛ばされる。

「ウ、ウウウッ!」

 胸を押さえて牛の怪物は呻くような断末魔を上げ、そのまま血に汚れた砂となって崩れ落ちた。


「フン……あの男の意志がまだ残るか……」

 血に塗れた銀の怪物を見つめ、ローブの男は舌打ちをした。しかし、向かい合った天使と怪物を見つめ、再び男は狂気に満ちた笑みを浮かべる。

「さあだが……天使よ、お前はどうする……」


「お前。お前は……」

 典史はランスを取り出し、身を守るように構える。口から血を滴らせ、男は静かに見つめた。そして吼えると、典史に突如襲い掛かる。その強靭な爪を典史はランスでどうにか受け止める。その時、背後から悲鳴にも似た叫びが飛んできた。

「やめて! やめて!」

 振り返ると、獣化したミハエルに背負われた倫香がいた。その目は真っ赤に充血し、今も涙が絶えず流れ続けている。脇から頭突きを食らって典史はミハエル達の方へ跳ね飛ばされた。

「くそっ……」

 典史は何とか起き上がり、銀の化け物を見つめる。ミハエルに下ろされると、倫香はその場に崩れ落ちて号泣する。

「典史……どうしよう。どうしよう……」

「神原殿。あれは衛士殿だ。衛士殿なのだ!」

 二人を一瞥すると、典史は街路樹を使って再び緑の鎧を纏い、怪物を縛り付けた。

「分かってる。大方、制御に失敗しちまったんだろ」

「どうしよう……典史、衛くんを、衛くんを助けて……」

 もがく怪物の目が赤く光る。典史は茨に必死に力を込め、怪物を押さえつける。

「つっても……どうすればいい。狙いは俺だ。人を襲ったりはしないだろうが……」

「ともかく押さえこむしかあるまい。手に掛けねばならないにしても……衛士殿に汚名は背負わせられまい」

 その時、乾いた音と共に、怪物の銀色の身体に銃弾が突き刺さる。見れば機動隊が必死にライフルを怪物に向かって撃ちこんでいる。

「援護だ! 援護しろ!」

 倫香は目を見開き、思わず飛び出した。

「やめて! 衛くんを傷つけないで!」

「何ッ?」

 倫香の悲痛な叫びに機動隊は戸惑い引き金を引く手を止める。典史も振り向くと、全力で叫んだ。

「援護はいらない! 控えてくれ!」

「ホワイト……?」

 一瞬集中が途切れ、怪物は茨を振り払って典史に襲い掛かる。下から突き上げられて典史は倒れる。そしてその鎧を怪物は激しく爪で引っ掻く。割れはしないが、僅かに傷が付けられていく。

「衛士! お前は本当に怪物に負けちまったのかよ!」

 典史は怪物を跳ね除けると、逆に彼を押さえこみ、その機械の顔を睨みつけて叫ぶ。その時怪物は左の目を見開き、苦しみもがいた。その反応に典史ははっとなる。

「抗え! 抗えよ! ……まだお前の魂はそこにあるんだろ! ……気に食わねえけど、あの荒俣みてえに、獣の魂に勝ってお前を取り戻せよ!」

 その胸を拳で叩き、典史は必死で叫ぶ。怪物はさらに呻いて身を震わせたが、すぐに典史を押し退けその太い足で踏みつけた。全身金属で出来たその重みには耐え切れず、典史は目を見開く。

「がっ! あ……うう……」

「神原殿!」

 そこへミハエルが飛びかかり、典史を踏みつける怪物を突き飛ばした。典史は震えながら起き上がり、怪物を睨みつける。

「衛士殿! 戦うのです! あなたの身体に巣食わんとする獣の魂と! そして勝つのです! あなたなら……私が主の衛士殿ならそれが出来るはずです!」

 ミハエルは必死に怪物に向かって呼びかける。しかし、怪物は咆哮で答えた。

「ヴヴヴッ!」

 怪物は再び翼の噴射口から炎を上げて飛び上がり、急降下からの飛び蹴りを放つ。巨大な盾を取り出した典史はミハエルと共にその一撃を受け止める。典史はその盾ごと怪物を地面に投げつけ、叫んだ。

「衛士!」

 右手を天に突き上げ、光のプレートを取り出す。典史は再びケルビムに身を変える。起き上がった怪物に向かって、典史は剣を向ける。

「そこにお前がいるなら、安心しろ! ……腕づくでも、お前は止めてやる!」






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